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勇者編
勇者達、水竜塞へ向かう
しおりを挟む119-①
四竜塞は、北の地竜塞を始めとして、東の水竜塞、南の風竜塞、西の火竜塞の四つの砦で構成されており、隣り合う砦同士の距離はおよそ二十里(約8km)程で、菱形を描くように築かれている。
地竜塞を陥落させたリヴァル戦士団は、僅か数時間滞在しただけで、即座に地竜塞を出発し、夜の闇に紛れて隣の水竜塞へと向かっていた。
水竜塞までおよそ五里程の地点、塞と塞とを結ぶ軍用道路から少し離れた所にある雑木林……リヴァル達は、そこに身を潜めた。
林の中は背の高い木々に覆われてかなり暗いが、火は焚かない、敵に見つかる恐れがあるからだ。
「よし、ここで敵が動くのを待とう」
リヴァルは少し開けた場所を見つけて腰を下ろした。
「……うむ」
「ふー、やっと一息つけますねー」
「はい」
リヴァルに続いてヴァンプ達も腰を下ろす。しばらくして、ダントがキサンに聞いた。
「しかし、せっかく陥した地竜塞を放棄してしまうなんて……本当に良かったのですか?」
ダントのもっともな疑問にキサンが答える。
「いいんですよー、あれでー。あそこに留まったって、たった四人であの大きな砦を守り抜くなんて無理ですよー……多分」
「多分って……」
ダントは、(いや、普通に考えて無理だろ……)と思ったが、その一方で、(この人達ならあるいは……)とも思った。彼は、リヴァル戦士団の強さを一番近くで見てきた男なのだ。
「うーん、でもやっぱりダメですねー、囲まれて長期戦に持ち込まれたら詰んじゃいます。いかに私達が強くても、人間である以上……お腹も空きますし眠くなっちゃいますからねー」
「な……なるほど」
「それにー……奪われた物は取り返したくなるのが人情ってものです。指揮官が有能な者ならば、明日にでも地竜塞を奪還する為に各砦から兵が出るでしょう。そして、奪還した地竜塞を確保しておく為には、守備兵を置いておかざるを得ません……私の読みが正しければー、今向かっている水竜塞からも多くの兵が出るはずです……」
「なるほど……その隙を突いて、今度は手薄になった水竜塞を攻略するんですね!? それでせっかく奪った地竜塞をそのままにして……」
「ダントさんご名答です-!! ま、ちょっとだけ罠を仕掛けさせてもらいましたけどねー……ふふふ」
ダントは内心、少しビビっていた。普段のキサンはおっとりした穏やかな性格の女性なのだが、戦いの時には、時々これが同一人物なのかと思ってしまうほど、氷のように冷たい目をする事がある。
それにしても……とダントは思う。この人達と旅をして、自分も大分感覚が麻痺している。
普通に考えて、たった四人で竜人族がひしめく砦に殴り込みをかけるなど正気の沙汰ではない。しかしながら、ダントは水竜塞への奇襲を無茶や無謀だとは思えなくなっていた。
目の前の三人は……地竜塞で既にそれをやってのけている。
(つくづく、私も感覚が麻痺しているなあ)
そんなダントにヴァンプが声をかけた。
「……二人共、休める内に休んでおけ。お前ら二人が一番疲労度が高そうだ。見張りは俺とリヴァルで交代してやる」
「分かりました」
「……キサンにイタズラするなよ?」
「し、しませんよ!!」
「……フッ、冗談だ」
ヴァンプは逆に、普段は口数は少なく、険しい顔をしている事が多いが、実は常に周囲に気を配っていて、そして……意外とお茶目な所がある。
「すみません、では……」
「おやすみなさーい」
疲労を回復させるべく、ダントとキサンは眠りについた。
それからしばらくして夜が明け始めた頃……ダントはリヴァルにそっと起こされた。
果たしてキサンの読み通り……地竜塞奪還に向けて、水竜塞の軍勢が動き始めたのだ。
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