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勇者編
勇者達、黒竜王に挑む(後編)
しおりを挟む127-①
体力をほとんど使い果たし、もはや剣を構えるどころか、立つ事すらままならないリュウズの視線の先では、黒竜王・ゼンリュウがリヴァル戦士団の三人を追い詰めていた。
圧倒的、まさに圧倒的な戦闘力だった。
戦いが始まっておよそ30分、リヴァルの剣はことごとく躱され、ヴァンプの剛力は捻じ伏せられ、キサンの術も通じない……かつてない強敵を相手にリヴァル達は大苦戦を強いられていた。
「……つ、強い!!」
「ちょっと……ヤバ過ぎですよこれはー」
「二人共、気圧されるな!!」
リヴァルは、ゼンリュウに向かって獅子王鋼牙を構えつつ、キサンに声をかけた。
「キサン……アレは撃てるか!?」
「アレって……」
「ああ、まめ太と戦った時の……レイ・オブ・なんとかだ!!」
「い、一発だけなら……」
それを聞いたリヴァルは、ヴァンプに目配せした。
「よし……行くぞ、ヴァンプ!!」
「……応っ!!」
リヴァルとヴァンプがゼンリュウに向かって突撃した。レイ・オブ・デストラクションの発動には時間がかかる、なんとか時間を稼ぐのだ。
「でやぁぁぁっ!!」
跳躍し、真っ向から斬りかかったリヴァルだったが、ゼンリュウはまたもや超スピードで回避した……だが!!
「そこだっ!!」
「ぬぅ!?」
真っ向斬りを躱されたリヴァルは、空中で素早く身を翻しながら剣を横薙ぎに振るった。光を纏った獅子王鋼牙が、リヴァルの背後を取ろうとしていたゼンリュウを捉えた。
ゼンリュウが両手の爪を交差させ、リヴァルの一撃を防ぐ。
「はあっ……はあっ……ようやく……目が慣れてきたぞ!!」
「ほう……儂の速さを捉えたか……ぬうっ!?」
ヴァンプが一瞬の隙を突き、ゼンリュウの尾を捕まえた。両腕でガッチリと尻尾を抱え込み、空中から引きずり下ろそうと力を込める。
「……ぬぉあああああっっっ!!」
(……この剛力は!?)
ゼンリュウの視界がグルリと回った。ヴァンプが一本背負いの要領で、ゼンリュウを床に叩き付けたのだ。
「……キサンっっっ!!」
「準備完了です!! 二人共……ちゃんと避けて下さいよー!! ……レイ・オブ・デストラクションっっっ!!」
「グオオオオオッッッ!?」
キサンの放った眩い光を放つ極太の光線は、ゼンリュウを飲み込み、ゼンリュウの背後の石壁を粉々に吹き飛ばした。
……光が消え去った後、そこにはうつ伏せに倒れているゼンリュウの姿があった。
倒れ伏すゼンリュウを見て、三人は極度の疲労と、ダメージの蓄積からガクリと膝を着いてしまった。
「はあっ……はあっ……やったぞ!!」
「……とてつもない強敵だった」
「私、もう一歩も動けませんよー」
三人は顔を見合わせ笑い合ったが、次の瞬間……その笑顔は凍り付いた。ゼンリュウが何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
「……全力か? ……今のがお前達の全力なのか? あの程度の攻撃で、この黒竜王・災厄のゼンリュウを倒せるなどと本気で思ったのか!?」
「何て奴だ……!!」
「……化け物め」
「う、嘘でしょー……」
「もう良い……よもやここまで力が衰えていようとは……やはり、今の貴様を倒す事に……何の意味も!! 興味も!! 価値も!! 儂は何一つ見出す事が出来ぬ……!!」
相変わらずリヴァルの事を古の勇者と勘違いしているゼンリュウは、どこか哀しげな目を浮かべると、リヴァル達目掛けて特大の火球を吐き出した。
もはや馬鹿げているレベルの超高温・特大の火球を受け、リヴァル達は凄まじい煙と爆炎に包まれた。
リヴァルたちは ぜんめつした……
かに見えた……だが!!
「……ん?」
荒れ狂う炎の壁の向こう、リヴァルがゆっくりと立ち上がったのだ。
「ほう……まだ立ち上がる力が残って……」
「ウオオオッッッ!!」
炎の壁を突き破り、獣のような咆哮を上げて、リヴァルがゼンリュウに襲いかかる。
「破れかぶれの突撃など!!」
無策!! 無茶!! 無謀!! 何の躊躇も無く一直線に向かって来たリヴァルを引き裂くべく、ゼンリュウは鋭い爪が並ぶ右腕を振り下ろした……が、そこにリヴァルの姿は無──
“ザンッッッ!!”
ゼンリュウは、背中を袈裟懸けに斬りつけられた。
「ぐぬぅっ!?」
馬鹿な、一瞬で儂の背後を取ったと言うのか!? ゼンリュウはすぐさま背後を振りか──
“ズバッッッ!!”
今度は脇腹を斬りつけられた。ゼンリュウは思わず呻き声をあげ…
「どこを見ている……!!」
ゼンリュウが、声のした方を向くと、そこには燃え盛る炎の壁を背に、悠然と立つリヴァルの姿があった。
一瞬で、あそこまで離れた位置に……!?
「……フン!!」
リヴァルの背後の炎の壁から今度はヴァンプが飛び出してきた。ゼンリュウはヴァンプを引き裂くべく突進し、左右の腕を振り下ろしたが、ヴァンプは先程と同じくゼンリュウの両手首を掴んで受け止めると、なんとゼンリュウを一歩、また一歩と押し戻し始めた。
「馬鹿な……なんと言う剛力……ぐわっ!?」
ヴァンプと力比べをしていたゼンリュウの顔面に、炎の壁の向こうから飛来した火炎弾が炸裂した。
「ふふふ……どうですかー? 今度は……完璧な味付けだったでしょー?」
風術で炎を左右に押し分けながらキサンが姿を現した。
キサンの火炎弾を受けて、ゼンリュウは思わず体勢を崩した。先程顔面に受けた火炎弾とは威力がまるで違う。先程の2倍……いや10倍の威力がある。
そして、ゼンリュウが体勢を崩した隙を突いて、ヴァンプがゼンリュウの両腕を自らの両脇に抱え込んだ。
「……ぬぉあああああ!!」
ヴァンプはそのまま自分の倍近くはあろうかというゼンリュウの巨体を投げ捨てた。武光の世界で言うところの《かんぬきスープレックス》である。
「ぐはあああっ!?」
まるで、投石機の攻撃が直撃したかのような凄まじい音を立て、ゼンリュウは背中から床に叩き付けられた。
「こ、黒竜王様ーーーっ!!」
「……騒ぐでない、小僧」
戦いを見守っていたリュウズは思わず叫んだが、リュウズの心配をよそに、仰向けに倒れているゼンリュウは高らかに笑った。
「フハハハハハハ!! そうか……力を取り戻したか、我が宿敵、勇者アルトよ!!」
黒竜王・災厄のゼンリュウは、心底嬉しそうに身体をぶるりと震わせると、歓喜の咆哮をあげ、再び立ち上がった。
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