140 / 180
殴り込み編
妖姫、拝謁する
しおりを挟む140-①
大賢者ウィスドムは逃げ出そうとする武光にしがみついていた。
「救世主殿、何卒……何卒我らをお助け下さい!!」
「いや、でも、予言の通りやと俺死ぬんですよね!?」
「そ……それは」
「ごめんなさい俺にはムリっす!! 俺……死ぬのめっちゃ怖いんですぅぅぅぅぅっ!!」
「あー、もう!! いい加減、覚悟を決めなさい!!」
「ひぃーっ!? お離し下さいお代官様!!」
「誰が代官よっ!!」
まるで時代劇で悪代官に手篭めにされそうになる腰元みたいな台詞を吐きながら、半泣きでなおも逃走しようとする武光の取り押さえにミトとリョエンも加わった。
「武光君、落ち着いて。大丈夫、何が起きるのかある程度予測出来るのなら、それを回避する手立てもきっとある!!」
「リョエンさんの言う通りよ、今までだって私達は幾多の困難を乗り越えてきたじゃない!!」
「アホ抜かせーーー!! たとえ何百回、何千回の困難を乗り越えようが…… 一回死んだら死ぬやんけーーー!!」
「ナ……ナジミさん、どうしましょう!!」
取り乱しまくる武光を前に、焦るソフィアはナジミに助けを求めたが、ナジミは涼しい顔だ。
「大丈夫です、私に任せて下さい!!」
ナジミは無い胸をぽんと叩くと、スタスタと武光に歩み寄った。
「武光様」
「な、何や!?」
「……逃げちゃいましょっか?」
「へ……?」
「ソフィア様達に助けてもらっておきながらこんな事言っちゃうのは気が引けますけど、正直言って私は……この里よりも武光様の命の方が大事です」
「ナジミ……」
「さ、逃げましょう……災厄に襲われる子供達は大変気の毒ですが……」
「おまっ……ソレ言うんは卑怯やろ…………ぐぬぬぬぬぬぬ…………ああ、もう!! 分かったって!!」
……どんなに怖くて逃げたくて仕方がなくとも、仲良くなった里の子供達の事を思えば、逃げるとは口が裂けても言わない武光と、それを百も承知のナジミであった。
「おお……それでは、我々を助けて下さるのですな!?」
「……俺なんぞで助けられるかどうか分かりませんけど……やれるだけやってみます……」
それを聞いたナジミはうんうんと頷いた。
「ふふ、流石は武光様!!」
「……俺、お前のそういう強引なとこ嫌いやわー」
「私は武光様のそういう優しいとこ大好きですよ?」
「お前なぁ……もっぺんご神木に挟まれろ!!」
「ひゃーーー!!」
照れ隠しでナジミをヘッドロックに捕らえ、もう片方の手で頭頂部をぐりぐりする武光であった。
140-②
武光達がカライ・ミツナに留まる決心をしてから三週間が経とうとしていたその頃、ジョン・ラ・ダントスの魔王城・謁見の間では、一人の魔族の少女が、魔王シンに跪いていた。
……以前、ジューン・サンプにて武光達と激闘を繰り広げ、蟲葬刑に処されながらも凄まじい執念で地獄の底から這い上がり、パワーアップして戻ってきた妖禽族の第一王女、ヨミである。
恭しく跪くヨミを、シンは壇上に設えられた玉座から見下ろしていた。
「貴様か……狼藉者というのは」
「お……お初にお目にかかります!! 私、妖禽族第一王女……ヨミと申します!! 魔王様……お会い出来て光栄でございます!!」
ヨミは緊張しまくっていた。憧れの魔王シンを前に、その頰はリンゴのように紅潮し、手は震え、口の中はカラカラだった。
「ふん、こうも衛兵を殺されれば、呑気に寝ているわけにもいくまい」
「も、申し訳ございません。魔王様に会わせて下さいとお願いしたのに、聞き入れて下さらなかったものですからつい……」
ヨミの周りには惨殺された兵士達の死体がごろごろと転がっていた。
「それにしても……魔将共が出払ったのを見計らって殴り込んで来るとは……我が首を奪りに来たか?」
「と、とんでもない!! 私はただ魔王様と二人きりでお話ししたくて……」
「ほう?」
「わ……私、魔王様にお仕えしたいんです!! あの……その、妻として……!!」
ヨミはドキドキしながら上目遣いで玉座に座る魔王シンをチラリと見たが、シンは頬杖をついたまま微動だにしなかった……魔王の顔は漆黒の鉄仮面に覆われて表情を窺い知る事は出来ない。
(む……無反応ッッッ!? いやいやいやいや私みたいなめっちゃ強くてとびきり可憐な乙女に迫られて無反応!? そんな馬鹿な……あっ、でも魔王様もお立場上、威厳を保つ為に市井の者達のように軽々しく愛情表現したり浮かれたり出来ないだろうし、それ以前に、もしかしたら照れてるだけかも……絶大なる力を持ち、誰もが恐れ慄く魔王様が恋愛に関しては初心だなんて……くっはーーー!! 何ソレ萌えるっっっ!! ご安心下さい魔王様、魔王様のお気持ち、このヨミならば全て理解して差し上げられます。私のこの……思考を読む能力で!!)
ヨミは シンのこころをよんだ!
しかし シンのこころは
からっぽだった!
(な、何なのこれ……!?)
ヨミが見たのは、喜怒哀楽などの感情や思考が欠片も存在しない、虚無の闇……そんな馬鹿なと、ヨミは思った。
もし万が一、自分にこれっぽっちも興味が無かったとしても『興味がない』という思考や感情が起こるはずなのだ。そんな小さな揺らぎすら存在しない、どこまでも暗く、静かで、深い虚無の闇……このお方の心は一体どうなって──
「おい……貴様」
首筋にひやりとしたものを感じて、ヨミの意識は引き戻された。いつの間にか魔王が目の前に立ち、自分の首筋に剣を当てている。
「死にたいのであれば、最初からそう言え……我が一撃は一振りで千の敵兵を薙ぎ払い、討ち滅ぼす……チリ一つ残さずこの地上から消し去ってやろう」
「あ、あの……その……」
恐怖で言葉が出てこない、ヨミは失禁寸前だった。
「フッ……だが、お前のその能力は役に立つかもしれん。良いだろう……我に仕える事を許す。妃の間にて待て」
「は……はい!! ……って、き……妃っっっ!? よっっっ……しゃあああああああっ!! あぁっ……大変失礼致しました!! それでは魔王様……妃の間でお待ちしておりますっっっ!!」
ヨミは謁見の間を退出すると、妃の間へと向かった。
それにしても……と、ヨミは思い返していた。
魔王様の抱えていた想像を絶する圧倒的な暗黒と静寂……流石は数多の魔族の頂点に立つお方……底が見えない。ますます好きになってしまった。そして私は今日からその魔王の妻なのだ!!
「私は~超絶可愛い~魔王のお妃様~らんらら~ん♪」
“ばーん!!”
小躍りしながら妃の間の前までやってきたヨミは、両開きになっている扉を勢い良く開いた。
「…………は?」
ヨミは固まった。魔王の妻たる自分の部屋に……多種多様な魔族の女達がいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる