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殴り込み編
妖姫、拝謁する
しおりを挟む140-①
大賢者ウィスドムは逃げ出そうとする武光にしがみついていた。
「救世主殿、何卒……何卒我らをお助け下さい!!」
「いや、でも、予言の通りやと俺死ぬんですよね!?」
「そ……それは」
「ごめんなさい俺にはムリっす!! 俺……死ぬのめっちゃ怖いんですぅぅぅぅぅっ!!」
「あー、もう!! いい加減、覚悟を決めなさい!!」
「ひぃーっ!? お離し下さいお代官様!!」
「誰が代官よっ!!」
まるで時代劇で悪代官に手篭めにされそうになる腰元みたいな台詞を吐きながら、半泣きでなおも逃走しようとする武光の取り押さえにミトとリョエンも加わった。
「武光君、落ち着いて。大丈夫、何が起きるのかある程度予測出来るのなら、それを回避する手立てもきっとある!!」
「リョエンさんの言う通りよ、今までだって私達は幾多の困難を乗り越えてきたじゃない!!」
「アホ抜かせーーー!! たとえ何百回、何千回の困難を乗り越えようが…… 一回死んだら死ぬやんけーーー!!」
「ナ……ナジミさん、どうしましょう!!」
取り乱しまくる武光を前に、焦るソフィアはナジミに助けを求めたが、ナジミは涼しい顔だ。
「大丈夫です、私に任せて下さい!!」
ナジミは無い胸をぽんと叩くと、スタスタと武光に歩み寄った。
「武光様」
「な、何や!?」
「……逃げちゃいましょっか?」
「へ……?」
「ソフィア様達に助けてもらっておきながらこんな事言っちゃうのは気が引けますけど、正直言って私は……この里よりも武光様の命の方が大事です」
「ナジミ……」
「さ、逃げましょう……災厄に襲われる子供達は大変気の毒ですが……」
「おまっ……ソレ言うんは卑怯やろ…………ぐぬぬぬぬぬぬ…………ああ、もう!! 分かったって!!」
……どんなに怖くて逃げたくて仕方がなくとも、仲良くなった里の子供達の事を思えば、逃げるとは口が裂けても言わない武光と、それを百も承知のナジミであった。
「おお……それでは、我々を助けて下さるのですな!?」
「……俺なんぞで助けられるかどうか分かりませんけど……やれるだけやってみます……」
それを聞いたナジミはうんうんと頷いた。
「ふふ、流石は武光様!!」
「……俺、お前のそういう強引なとこ嫌いやわー」
「私は武光様のそういう優しいとこ大好きですよ?」
「お前なぁ……もっぺんご神木に挟まれろ!!」
「ひゃーーー!!」
照れ隠しでナジミをヘッドロックに捕らえ、もう片方の手で頭頂部をぐりぐりする武光であった。
140-②
武光達がカライ・ミツナに留まる決心をしてから三週間が経とうとしていたその頃、ジョン・ラ・ダントスの魔王城・謁見の間では、一人の魔族の少女が、魔王シンに跪いていた。
……以前、ジューン・サンプにて武光達と激闘を繰り広げ、蟲葬刑に処されながらも凄まじい執念で地獄の底から這い上がり、パワーアップして戻ってきた妖禽族の第一王女、ヨミである。
恭しく跪くヨミを、シンは壇上に設えられた玉座から見下ろしていた。
「貴様か……狼藉者というのは」
「お……お初にお目にかかります!! 私、妖禽族第一王女……ヨミと申します!! 魔王様……お会い出来て光栄でございます!!」
ヨミは緊張しまくっていた。憧れの魔王シンを前に、その頰はリンゴのように紅潮し、手は震え、口の中はカラカラだった。
「ふん、こうも衛兵を殺されれば、呑気に寝ているわけにもいくまい」
「も、申し訳ございません。魔王様に会わせて下さいとお願いしたのに、聞き入れて下さらなかったものですからつい……」
ヨミの周りには惨殺された兵士達の死体がごろごろと転がっていた。
「それにしても……魔将共が出払ったのを見計らって殴り込んで来るとは……我が首を奪りに来たか?」
「と、とんでもない!! 私はただ魔王様と二人きりでお話ししたくて……」
「ほう?」
「わ……私、魔王様にお仕えしたいんです!! あの……その、妻として……!!」
ヨミはドキドキしながら上目遣いで玉座に座る魔王シンをチラリと見たが、シンは頬杖をついたまま微動だにしなかった……魔王の顔は漆黒の鉄仮面に覆われて表情を窺い知る事は出来ない。
(む……無反応ッッッ!? いやいやいやいや私みたいなめっちゃ強くてとびきり可憐な乙女に迫られて無反応!? そんな馬鹿な……あっ、でも魔王様もお立場上、威厳を保つ為に市井の者達のように軽々しく愛情表現したり浮かれたり出来ないだろうし、それ以前に、もしかしたら照れてるだけかも……絶大なる力を持ち、誰もが恐れ慄く魔王様が恋愛に関しては初心だなんて……くっはーーー!! 何ソレ萌えるっっっ!! ご安心下さい魔王様、魔王様のお気持ち、このヨミならば全て理解して差し上げられます。私のこの……思考を読む能力で!!)
ヨミは シンのこころをよんだ!
しかし シンのこころは
からっぽだった!
(な、何なのこれ……!?)
ヨミが見たのは、喜怒哀楽などの感情や思考が欠片も存在しない、虚無の闇……そんな馬鹿なと、ヨミは思った。
もし万が一、自分にこれっぽっちも興味が無かったとしても『興味がない』という思考や感情が起こるはずなのだ。そんな小さな揺らぎすら存在しない、どこまでも暗く、静かで、深い虚無の闇……このお方の心は一体どうなって──
「おい……貴様」
首筋にひやりとしたものを感じて、ヨミの意識は引き戻された。いつの間にか魔王が目の前に立ち、自分の首筋に剣を当てている。
「死にたいのであれば、最初からそう言え……我が一撃は一振りで千の敵兵を薙ぎ払い、討ち滅ぼす……チリ一つ残さずこの地上から消し去ってやろう」
「あ、あの……その……」
恐怖で言葉が出てこない、ヨミは失禁寸前だった。
「フッ……だが、お前のその能力は役に立つかもしれん。良いだろう……我に仕える事を許す。妃の間にて待て」
「は……はい!! ……って、き……妃っっっ!? よっっっ……しゃあああああああっ!! あぁっ……大変失礼致しました!! それでは魔王様……妃の間でお待ちしておりますっっっ!!」
ヨミは謁見の間を退出すると、妃の間へと向かった。
それにしても……と、ヨミは思い返していた。
魔王様の抱えていた想像を絶する圧倒的な暗黒と静寂……流石は数多の魔族の頂点に立つお方……底が見えない。ますます好きになってしまった。そして私は今日からその魔王の妻なのだ!!
「私は~超絶可愛い~魔王のお妃様~らんらら~ん♪」
“ばーん!!”
小躍りしながら妃の間の前までやってきたヨミは、両開きになっている扉を勢い良く開いた。
「…………は?」
ヨミは固まった。魔王の妻たる自分の部屋に……多種多様な魔族の女達がいた。
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