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殴り込み編
大賢者、聖剣の秘密を語る
しおりを挟む139-①
武光一行は大賢者ウィスドムに案内されて、神殿中央に位置する祭壇の間までやってきた。
祭壇の間の中央には、石を削って作られた祭壇が設置されており、祭壇の上には、一抱えもありそうな巨大な水晶が安置されていた。多分あれは、自分の世界で言うところの御神体的なものであろう。武光は、そう見当を付けた。
「こちらへ……」
ウィスドムに案内されて、武光達は祭壇の前に設えられた石の円卓を挟んで大賢者ウィスドムと向かい合った。
「さてと……それでは救世主殿、貴殿らを里に招き入れた理由、ソフィアから聞いておられますかな?」
「は、はい……例の『予言』って奴ですよね……?」
「左様……歴代の大賢者には未来に起こる出来事を見る力が備わっております」
「予知能力って奴ですか……」
「いかにも……とは言っても自分の意思で見たい時を選べる訳ではありませぬ。突然頭の中に、断片的じゃが、未来の光景が映るのです。頭の中に映った出来事がいつ起こるのか……それは儂にも分かりませぬ、一週間先か……あるいは一年先か……」
「えぇ……マジすか」
「我が一族は大賢者が代々受け継ぐ、《予知の力》と《死者の魂と交信する力》で、事前に一族に迫る危機を察知し、過去の大賢者様方のお知恵を借りる事で、幾多の災いを回避して参りました……」
「ほ、ほんなら予言の通りやと……俺死ぬんすか!?」
「言いにくい事ですが……儂は、救世主殿が何者かの凶刃に斃れる様を見てしまいました。そして……歴代の大賢者の予言は一度たりとも外れた事がありませぬ」
「ゔぉえええええーーーーー!!」
それを聞いた武光は恐怖のあまり、めっちゃ嘔吐いた。
〔大丈夫か、武光?〕
武光を心配するイットーを見てウィスドムが呟いた。
「救世主殿の剣……それは《試しの剣》ですな」
「へ? 何すかソレ?」
「救世主殿の剣は遥か昔、魔王シンの討伐を目指す勇者アルトの為に、当時最高の技術を持っていた人間の刀匠と、当時の大賢者様の術によって生み出されたものです。セリオウスの試練を突破してここに来たという事は、救世主殿はその剣であの石門を斬り裂いたという事で間違いありませんな?」
「ええ、まぁ……」
「救世主殿は見事にその剣の真の威力を引き出しておられるようじゃが……その剣が『試しの剣』と呼ばれるのには理由があります」
「理由……?」
「はい、試しの剣はいかなる剣の達人でも真の威力を出せるとは限りませぬ……しかしながら、資質があれば生まれて初めて剣を握る者でも真の威力を引き出す事が出来る……その意味、お分かりになりますかな?」
「うーん……」
武光は考えた。剣の腕が関係ないとしたら……大賢者ウィスドムの言う『資質』とは一体何なのか……?
「ま……まさか!!」
武光は閃いた……ベタ過ぎるが、いかにもな理由を!!
「まさか俺に……伝説的英雄の血が流れていたとはッッッ!!」
「いいえ、儂の能力で調べてみましたが、救世主殿の血族にそのような方はおられませぬ。皆、農民や職人、勤め人など、ごく普通の人生を全うされております」
「そ、そうすか……って、おいジャイナ」
「え?」
「何、笑てんねん!?」
「わ……笑ってないわよ……くふふ」
ミトは否定したが、両肩がプルプルと震えている。ミトが仮面の下で笑っているのを武光は確信した。
しかし、血統でないとしたら……大賢者ウィスドムの言う『資質』とは一体何なのか……?
「そ……そうやったんか!!」
武光は再び閃いた……ありがちだが、もっともな理由を!!
「まさか俺が……伝説的英雄の生まれ変わりだったとはッッッ!!」
「いいえ、救世主殿の前世は…………カナブンです」
「か、カナっ……!? ……ジャイナ!! お前絶対に笑てるやろ!?」
「わ……笑って……ないってば……!! か、カナブン光……くくっ」
「語呂悪っ!! ほんでナジミは何で先生の後ろに隠れとんねん!?」
「虫怖いです……やだ」
「アホかーーー!? 俺は虫ちゃうわっ!! ちょっ、大賢者様!? 俺の前世マジでカナブンなんすか!?」
「はい、前々前世くらいまでなら分かるのですが、カナブンの前がカブトムシで、その前が……フンコロガシです」
「ふひっ!? も……もう無理……アハハハハハ!! か、カブトムシに……ふ、フンコロガシ……ひーっ……お、お腹が……お腹が痛い!!」
「ジャイナ!! お前笑い過ぎやろ!! で、ナジミは何震えてんねん!?」
「だから、虫超怖いんですってば!!」
「ハゲろお前ら!!」
ぷりぷりと怒っている武光をよそに、今度はリョエンがウィスドムに質問した。
「しかし……血統でも生まれ変わりでもないとするならば、武光君の持つ『資質』とは一体何なのです?」
「試しの剣の力を引き出すのに必要な資質……それは、《思いの純度》ですじゃ」
「思いの……純度ぉぅ!?」
答えを聞いて、武光は怪訝な顔をした。
「左様、簡単に言えば《思いの純度》とは……『この剣は良く斬れる剣だ』と、どれだけ強く純粋に思えるかです。想いの純度が高ければ、試しの剣はありとあらゆるものを斬り裂く事が出来まする」
「それでは、強く念じれば、私やジャイナさんやナジミさんでもあの石門を破れるという事なのでしょうか?」
リョエンの問いに対し、ウィスドムは首を横に振った。
「いや、術士殿達はたった今、試しの剣の特性を知ってしまいました。『こういう仕組みだから』という考えが頭の片隅にあっては、強く念じても思いの純度が著しく低下し、威力がガタ落ちしてしまう……」
ウィスドムの言う『思いの純度』というものに対し、武光には思い当たるフシがあった。ショバナンヒ砦で将軍達に呼び出しを食らった時の事だ。
あの時……アーノルド=シュワルツェネッ太こと、王国軍最強、白銀の死神ロイ=デストはイットーで石碑を切断しようとしたが……失敗した。
石碑を前に、シュワルツェネッ太は考えたはずだ。
(この剣が『もし本当に』聖剣ならば、この石碑を容易く両断出来る『はず』だ……)と。
なるほど、ウィスドムの言葉通りならば、あの時のシュワルツェネッ太の思いの純度は著しく低く、イットーの斬れ味は全くと言って良い程発揮されていなかったという事になる……まぁ、その状態であの分厚い石碑に半分まで斬り込みを入れたシュワルツェネッ太もたいがいバケモノじみているが。
そんなシュワルツェネッ太に対し、(イットーやったらこんな石碑くらい余裕で一刀両断出来らぁ!!)と、何の疑いも無く思っていた自分は容易く石碑を両断出来た。
時代劇バカの武光は長年の習慣によって、わざわざ意識するまでもなく、舞台に立った瞬間から、自分が手にしているものが例え本物の刀ではなく、竹光でも、おもちゃの刀でも、はたまた新聞紙を丸めたものであったとしても『自分が手にしている物はアホみたいにめっっっちゃくちゃ良く斬れる刀』という認識が無意識かつ条件反射レベルで働くようになってしまっている。
……それは、時代劇俳優であれば大抵の者が持っている安全意識ではあるのだが、ジャトレーに改修されるまで、刀身に丸太がブッ刺さったままで……冷静かつ一般的かつ常識的に考えて、物を斬るなど絶対に不可能なはずのイットー・リョーダンが色んな物をズバズバ斬れていた理由が、まさか自分の持つ『安全意識』だったとは……
(……どうせならもっとカッコええ理由が良かったなぁ)などと思う平凡な血筋で前世がカナブンの武光だったが、武光が呑気にそんな事を考えている間にもゆっくりと、だが確実に、カライ・ミツナに災厄の足音は忍び寄っていた。
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