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殴り込み編
妖姫、暴露する
しおりを挟む148-①
ミトはヨミを見て驚きの声を上げた。
「あ、貴女は……ジューン・サンプにいた妖禽族!!」
「あっ、出たなー!! イノシシ仮面!!」
「誰がイノシシ仮面よっ!?」
「コイツが……大賢者様の言っていた『邪悪なる者』なのか……!?」
「あっ、そうだ。ねぇ……そこの丸眼鏡のおじさん、貴方がリョエン=ボウシン?」
「……そうだ」
それを聞いたヨミは、 “よっしゃっ” と小さくガッツポーズを取った。
ミトとリョエンが駆けつけた事で、形勢は自分に不利となったはずだが、ヨミは動揺するどころかニヤリと笑った。
「な、何がおかしいねん!?」
武光の問いに、ヨミは涼しげに答えた。
「フフフ……私は魔王様直々にあんた達を捕らえるように言われてるのよねー。一か所に集まってくれて、探す手間が省けたと思ってさ」
「はぁ!? ま、魔王が直々に……!?」
「おーおー、ビビってるねー!! いいよー、もっと恐れ慄いて行こー!!」
「あ……アホ抜かせ!! 何で魔王軍の総大将が俺らみたいなちっぽけな傭兵団をつけ狙うねん!?」
「何でって……あんた達今、魔王軍での懸賞首……第一位よ?」
「……はぁぁぁっ!?」
「あんた達を捕らえれば、『魔王様から莫大な恩賞を賜われる!!』って、みんな血眼でアンタ達を狙ってるんだから」
「嘘やん……な、何かの間違いやろ!!」
「私もそう思うんだけどねー、“白銀の死神” ロイ=デストとか、 “光の勇者” リヴァル=シューエンとか……アンタみたいなカスより遥かに強い奴らがゴロゴロいるのにねぇ?」
「な、何でやねん…………あっ」
武光はミトの方を向いた。
「お、お前かーーーーー!!」
「はぁ!?」
「それしか考えられへん、魔王軍にお前が王女って知られてしもたんやーーーーー!!」
「……えっ!? イノシシ仮面って王女なの!?」
ヨミのリアクションに武光は戸惑った。
「……え? 知らんかっ……た?」
「うん、まだ誰も知らないんじゃないかな。ここに来る前に、魔王城でいろんな奴の思考を読んだけど、そんな事思ってる奴一人もいなかったし」
武光は首を捻った。ミトの存在が懸賞首第一位の理由でないとすれば、いったい何が魔王に付け狙われる原因なのか皆目見当もつかない。魔王のアホはダーツとかあみだくじで懸賞首の順位を決めているとでも言うのか。
「ま、アンタ達が懸賞首第一位の理由なんてどうでもいいわ。私はアンタ達を捕らえて魔王様の前に引きずり出すだけよ!!」
ヨミが漆黒の翼と九本の尻尾を広げて、再び武光に襲いかかる。
「させないわ!!」
「行かせるものか!!」
左右から迫るミトとリョエンをそれぞれ二本ずつの尻尾で迎撃し、残りの五本で武光に攻撃をしかける。武光達を殺したくてウズウズしているヨミだったが、夫から『生かしたまま連れて来い』と言われている。しかたない、瀕死の重傷で勘弁してやるか。
ヨミは残忍な笑みを浮かべ、攻撃を仕掛けた……だが!!
「避けた!?」
武光は五本の尻尾による攻撃を易々と躱した。
以前、火神ニーバングに身体を乗っ取られて、白銀の死神ロイ=デストと無理矢理死闘を繰り広げさせられた時に得た、人間の限界を遥かに超えた動体視力で、周りの動きがめちゃくちゃゆっくりに見える後遺症……もとい、特殊能力、《超ウルトラハイパーグレート動体視力スペシャル》のおかげである。
……しかしながら、この能力には致命的な弱点があった。
普段の生活と感覚が違いすぎて、長く使い続けると気分が悪くなって、悪酔いした時のように “オェッ” となってしまうのだ。
武光はカライ・ミツナに来てから、密かに特訓をしていた。時にはゲ◯まみれになりながら必死に特訓していたのだが、それでも持続可能な時間は当初の30秒から1分ちょいに延びただけだ。
闘いの真っ最中に “オェッ” となったりしようものなら、かなりの危険に晒される。
「う……うおおおおおおおおおおおお……」
武光は再び魔穿鉄剣を左手で抜き放つと、イットー・リョーダンと魔穿鉄剣の二刀流で、迫り来るヨミの尻尾を、狂ったように斬りつけまくった。とにかく時間がない、一気に勝負を決めるのだ!!
「おおおおおぉぉぉぉぉっ…………オェッ!!」
(アカン、ミスった!! 実戦の緊張で、全然維持出来んかった!!)
武光は後方に勢い良く跳んでヨミから離れた。自分に迫っていた五本の尻尾はなんとか全て切り落とす事に成功していた為、追撃こそ無かったものの、酷い目眩に襲われた。
武光は真っ直ぐ立っていられなくなり、イットー・リョーダンを杖代わりに、片膝を地に着いてしまった。視界がゆらゆらと揺れている。
この状態から立ち直るのには数分を要するが、敵はそれを待ってはくれない。
武光の上手く定まらない視線の先では、尻尾でミトとリョエンを弾き飛ばしたヨミが、血走った目をこちらに向けていた。
「よ、よくも……お前ぇぇぇぇぇっっっ!!」
残った四本の尻尾を振りかざしてヨミが迫る!!
「くっ!!」
「危ない!!」
“どんっっっ!!”
駆け寄ってきていたナジミが武光を突き飛ばし、間一髪で武光は攻撃を回避する事が出来た。
「はぁ……はぁ……大丈夫ですか、武光様!?」
「す、すまん」
ヨミはナジミに冷酷な視線を向けた。
「アンタさぁ……何でそっちの味方するわけ?」
(は? そら仲間なんやから味方するに決まってるやろ?)
ナジミに対するヨミの意味不明な発言に疑問符が浮かびまくる武光だったが、それを読み取ったヨミはニヤリと笑うと再び視線をナジミに向けた。
「あっれぇー? もしかして……コイツらに教えてないの?」
ヨミの問いに対し、ナジミは黙って俯いた。その両肩は雨に打たれた仔犬のように小刻みに震えている。
「さっきから何を言うとんねんお前は!?」
「ウフフ……教えてあげよっか? この女がアンタ達にずっと隠してた衝撃の真実を!! コイツはね……」
「や……やめて!! お願いだから!!」
やめてと言われて、はい分かりましたと引き下がるようなヨミではない、『他人が嫌がる事をすすんでやる』……良い意味にも悪い意味にも解釈出来る言葉だが、ヨミはもちろん後者である。
ほんの一欠片の躊躇も無く、ナジミの懇願を無視してヨミは言い放った。
「コイツはね……この女はね…………魔族なのよ!!」
「あ……ああ……うぅぅ……」
両手で顔を覆って崩折れたナジミを見て、ヨミはほくそ笑んだ。
あースカッとした!! さてと、コイツらの頭の中を見てやるとするか!! ヨミはミトに視線を向けた。
(ナジミさんが魔族!? う……嘘よ!! そんなはずないわ!!)
ウフフ、混乱してる混乱してる。ヨミは今度はリョエンに視線を向けた。
(か、彼女が魔族!? 私達を混乱させる為の罠か……いや、それならばナジミさんのこの反応は一体……)
アハハ、戸惑ってる戸惑ってる。さてと……じゃあ、いよいよ本命に行くとしますか!! あぁ……コイツはどんな深い絶望を見せてくれるんだろう。
絶望に駆られる武光を想像し、ヨミは恍惚の表情を浮かべながらゆっくりと視線を武光に向けた……だが、武光の思考を読んだヨミは苛立たしげに吐き捨てた。
「ちょっと待ちなさいよ……!!」
「あぁん!?」
「(……で?)ってどういう事よ!!」
「は? 何がやねんな?」
戸惑う武光を見てヨミは思った。ああ、そうか。きっと話の内容が衝撃的過ぎて現実を受け入れられていないのか。ヨミはもう一度武光に向かって言った。
「いい? もう一度言うわよ? この女は……魔族なのよ!!」
「あ、うん……で?」
「……いや、だから!! この女は魔族……」
「いや、それはさっき聞いたって!! 何べん同じ事言うねん、しつこい奴っちゃな!! で……さっき言うてた『衝撃の真実』って何やねんな!? こちとらさっきからリアクションするために身構えてんねん、勿体ぶらんとはよ言わんかい!!」
「え……いや、この女が魔族ってのが『衝撃の真実』よ!!」
「…………ハァァァ!? えっ……何やソレ、しょーもな!! お前ホンマしょーもないな!! いくらなんでもしょーもなさ過ぎるやろ、自分何なん、呪われてんの?」
「の、呪われてなんかないわよ!!」
「確か……しょーもない族のしょーもなし子とか言ったな……」
「誰がだ!!」
「言うとくけどなぁ……魔族とかそんなん関係あらへん!! コイツはめっちゃエエ奴や、泣かす奴は許さんっっっ!!」
武光の飾りっ気の欠片もないド直球な言葉に、ナジミは両手で覆っていた顔を上げた。
「た、武光様……っ」
「へっ、前から言おうと思てたんやけどな……お前の泣き顔めっっっちゃくちゃブサイクやねん!! せやから……もう泣くな!!」
「ぶ、ブサ……っ!? こ、こういう時くらい物語の主人公みたく、優しく涙を拭って、格好いい台詞の一つも言ってくれたって良いじゃないですか!?」
それを聞いた武光は悪戯っ子みたいな笑みを見せた。
「悪いな、俺は主役より悪役の……斬られ役歴の方がずっと長いんや!!」
「もうっ……武光様のバカ……ふふっ」
涙を拭い、ナジミは微笑んだ。
「そうそう、その表情その顔。俺はお前のその表情が──」
「えっ? 何です?」
「な……何でもあらへん!! さてと……」
ヨミが『しょーもない話』をしている間に、目眩から立ち直った武光は、再び立ち上がり、ヨミに向かって双剣を構えた。
「ナジミをよくも泣かせてくれたなぁ……!! お前は俺が……シバき倒すっっっ!!」
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