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殴り込み編

斬られ役、妖姫と再戦する(後編)

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 147-①

 勇ましく『強くなったのはお前だけではない!!』と啖呵たんかを切った武光に対し、ヨミは舌打ちした。

「チッ……人間風情が……調子に乗るなっっっ!! って……おっと!!」

 武光と距離を取ったヨミに対し、エルフ達が再び矢を射掛いかけたが、またしてもヨミは九本の尻尾を駆使して、全ての矢を叩き落とした。

「馬鹿な!?」
「何て奴だ……」
「気を付けろ、セリさん、ヴィゴやん!! コイツは……相手の思考が読める!!」

 武光の『相手の思考が読める』という一言だけで、聡明そうめいなセリオウスは全てを理解した。

 なるほど、敵は自分達が狙っている場所と矢を放つ瞬間を読み取り、そこから逆算して、飛来する矢を叩き落としているという事か……だが、口で言うほど容易たやすい事ではない、武光の言う通り、やはりコイツは只者ではない。

「当たりだよ、頭いいね、エルフのおにーさん♪」

  セリオウスの思考を読み取ったヨミがニコリと笑う。

「みんなビックリするくらい正確に狙った所に矢が飛んで来てるわ、おかげでこっちもやりやすい……よーく訓練されておる、感心感心!! なんちゃって♪」

 やはり……正確無比を誇るエルフの弓術は、かえって命中地点を予測しやすいという事か……ならば!!

 セリオウスは味方に命令を下した。

「皆……弓を右手に持ち替えろ!!」
「あ、兄上!?」
「急げ!!」

 弓術では左手に弓、右手に矢が基本だが、セリオウスはえてそれを逆にさせた。

「よし、 “しっかりと” 狙え……放てっ!!」

 三度、矢が放たれた。 “ひょうっ!!” と風を切りながら数多あまたの矢がヨミに向かって飛翔する。

「……チッ!!」

 ヨミは今度は飛来した矢を叩き落とさずに、横に跳躍して回避した。
 利き腕ではない方の腕で放たれているのだ、弓術を得意とするエルフと言えど、放たれた矢は、本人達の狙いから多少のズレがあったが、それこそがセリオウスの狙いだった。
 矢を放った本人ですら正確な命中地点を予測出来ないのだ、ましてやヨミに逆算など出来ようはずもない。
 そして、流れ矢を警戒して跳躍したヨミが着地しようとしていた先には、ジューン・サンプの時と同様、《斬られ役の勘》で先回りした武光がイットー・リョーダンを頭上に振りかぶって待ち構えていた。

「もらったぁぁぁっっっ!!」
「させるかぁぁぁっっっ!!」

 “ガシィッ!!”

 真っ向から唐竹割りに振り下ろされた一撃を、ヨミはオーガの剛力を用いた真剣白刃取りで防いだ。武光は何とかヨミを斬ろうと、両腕に力を込めたが、ヨミの剛力の前に、武光はそれ以上イットー・リョーダンを動かす事が出来なかった

「くっ……このっ!!」
「アンタの考えてる事なんて、こちとら読心能力でお見通しなのよ!!」
「なら……これでも喰らえっ!! 《妄想・安来節ターボ・ゴールデンっっっ!!》」

 武光は もうそうした!
 しかし ヨミにはきかなかった!

「な、何ぃ!? 俺の《妄想・安来節ターボ・ゴールデン》が効かへん!?」
「そう何度も同じ手は喰わないわ!! それに、アンタ達のせいで地獄を見て来た今の私に……その程度の妄想が通用するか!!」

 武光は苦渋の表情をした。

「くそっ……こうなったら『R18』のセルフレイティング不可避の禁断の妄想、《アンダー・エイティーン・プロヒビション》を使うしか……!!」

 それを聞いて流石さすがのヨミも少し動揺し、ナジミは武光に小石をぶつけた。

「痛っ!? ナジミお前何すんねん!!」
「それは絶対にダメですっっっ!!」
「いや……せやかて、お前この身動きでけへん状況どうすんねん!?」
「そ、それは……」

 その時、森の木の陰から二つの影が飛び出した。

「はぁぁぁっ!!」
「せいっ!!」

 ヨミは、真剣白刃取りを解除し、繰り出された宝剣と機槍による一撃をかわした。

「お前達は……!!」

「待たせたわね、武光!!」
「無事かい、武光君!?」

 ミトが かけつけた!
 リョエンが かけつけた!
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