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殴り込み編

斬られ役、妖姫と再戦する(前編)

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 146-①

 言ったそばから “どん!!” と来た。 

 突然の襲撃者に対し、武光はイットー・リョーダンのつかに手をかけて身構えた。

「フフフ……復讐しにきてやったわよ!!」
「お、お前は……ヨ」
「ヨシヒコって誰よ!!」
「おおお……おまっ……お前ぇぇぇぇぇっっっ!! 何してくれとんじゃゴラァァァァァ!!」

 思考を読む能力で、武光の出鼻をくじいて動揺を誘おうとしたヨミだったが、突如として怒りの雄叫びをあげた武光に、ヨミは逆に動揺させられた。

「えっ!? ちょっ、何!? 何をそんなに怒ってんのよ!?」
「ボケる前にツッコミ入れんなやコラァァァ!!」
「ふへっ!?」

 ボケ殺しはオオサカの民にとって大罪である。(※個人の感想です)もし身体にサ○ヤ人の血が流れていたら、色々すっ飛ばしていきなり『3』に覚醒しそうなレベルで怒り狂う武光を前に、ヨミは心を読むのも忘れてたじろいだ。

「え? いや、マジで今の何なん!? ボケる前にツッコむとか……ボケ殺しにも程があるやろがっっっ!!」
「いや、だって……」
「だってもキャメルクラッチもあるかい!! 『生き物とボケはむやみに殺したらあかん!!』なんざ、ミジンコとかミドリムシでも分かっとるわっ!! お前最低やな、このウ○コ!!」
「う……わ、分かったわよ……じゃあもう一回やり直しなさいよ」 
「ハァァァ!? やり直せ!? この流れで!? この空気で!? おいおいおいおい、お前どんだけ笑いのセンスないねん……正気かっっっ!?」
「ご、ごめんなさ……って」

 武光のあまりの剣幕に、思わず謝りかけたヨミだったが、(いや、何で私が怒られてんだ!?)という事に気付き、ヨミは言い返そうとした。

「何で私が謝らなきゃならないのよ!? 私はアンタに復讐ふくしゅうしに──」
「今復讐の話なんかしてへんやろがボケェェェッッッ!!」
「は、ハイ!! ごめんなさい!! ……いや、だから、何で私が怒られなきゃならないのよっっっ!!」
「何でやと……? そんなもん決まってるやろが……時間稼ぎじゃあああああああ!!」
「なっ!?」
「ふっふっふ……飛んで火に入る何とやら……者共ッッッ、出合え出合えーーーーーぃ!!」

 悪代官丸出しのセリフを吐いた武光のもとに、騒ぎを聞きつけたケ○シロウ軍団……もとい、エルフの戦士達が駆けつけた。
 駆けつけたセリオウスとヴィゴロウスの兄弟を始めとする戦士達は、全員矢をつがえてヨミをぐるりと包囲した。

「チッ……唐観武光、相変わらず姑息こそくな真似を……!!」
「侵入者め……貴様、一体どうやって惑いの結界を突破した!?」

 矢をつがえたまま、ヨミを問い詰めるセリオウスに対し、ヨミは涼しい顔で答えた。

「そんなの簡単よ、あんた達の心の声が聞こえる方向目掛けて、ひたすら真っ直ぐに突き進んで来ただけよ!!」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるヨミに対し、武光は味方に注意をうながした。

「皆、気を付けろ!! こいつは……とんでもなく凶悪やぞ!!」
「そうそう♪ よく分かってるじゃない?」

 武光の言葉にヨミは頷いた。

「……その上、とんでもなく残忍で!!」
「そうそう♪」
「何か、腐ったドブみたいな匂いがして!!」
「そうそ……えっ?」
「何か、ネッチャネチャのベットベトで!!」
「ちょっ、待っ!?」
「触られるとかゆくなるぞぉぉぉぉぉっ!!」
「やめろ!! ウソを吹き込むな!! ちょっ、引くなエルフ共!!」

 全くもって、やりづらい相手だ。毎回毎回……こちらの心をかき乱してきやがって。ヨミはそう思った。そして、それこそが武光の思惑だった。
 どんな天才だろうと、いかな達人だろうと、あせっていたり、苛立いらだっていたりと、心が動揺してしまっていては、持てる実力を全て出し切る事は出来ない。
 『相手を動揺させ、少しでも自分に有利に』という、なんともカッコ悪いやり方だが、伝説の剣豪、宮本武蔵ですら巌流島の決闘にて、わざと約束の刻限に遅刻し、対戦相手の佐々木小次郎を苛立たせたという逸話が残っている。
 伝説の剣豪ですらそれなのだ。いわんや剣豪でもなんでもない武光をして、である。
 卑怯だなんだと言われようと、自分より強い敵と戦う時は、互いに刃を抜き放ってから『いざ尋常じんじょうに!!』などと言っていては、とてもじゃないが間に合わない。

 自分が相手より弱い以上、互いに刃を抜き放つ前から勝負をしかけねばならないのだ。

「こ……コイツの言ってる事は全部ウソだから!! 私めっちゃいい匂いするし、肌だって極上のきぬみたいにスベスベ──」

 ヨミの動揺を見て取った武光が叫ぶ。

「今や、放てっ!!」

 武光の号令でエルフ達が一斉に矢を放った。四方八方から放たれた矢が、ヨミを襲ったが、ヨミは尻から九本の尻尾を生やし、迫り来る矢を全て叩き落とした。

「ゲェーッ!? き、狐の尻尾やと……それも九本も!?」
「ふふふ……さらなる進化を遂げたこの私に、そんなものが通用すると思……ッッッ!?」

 ヨミは焦った。矢を叩き落とすのに気を取られている隙に、武光が懐に飛び込んできていた。

「でやあああああっっっ!!」
〔でやあああああっっっ!!〕
「くっ!?」

 抜き打ちに放たれたイットー・リョーダンによる水平斬りを、ヨミは後方に跳び退いてかわしたが…

「うおおおおおっっっ!!」
〔ヒャッハァァァァァ!!〕
「うっ!?」

 ヨミが跳び退いたのに合わせて、間髪入れずに武光が更に踏み込む。左逆手ひだりさかてで抜き放たれた魔穿鉄剣による逆袈裟を、ヨミは上半身を反らす事で間一髪回避した。

 ヨミのほおを一筋の汗がつたう。

(コイツ……前に闘った時より格段に強くなってる!?)

 背中に悪魔の翼を生やし、大きく後方に飛び下がって距離を取ったヨミに対し、武光は右手に持ったイットー・リョーダンの切っ先を “ビッ!!” と向けると、声を張り上げた。

「……強くなったんは、お前だけとちゃうぞコラァ!!」
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