145 / 180
殴り込み編
災厄、来たる
しおりを挟む145-①
リョエンは大賢者ウィスドムのもとを訪れていた。ウィスドムの見た災厄の光景を分析し、対策を立てるためである。
「これは術士殿、いかがなされた?」
「ウィスドム様にお話を伺いたく参上致しました」
「ほう?」
「ウィスドム様は『大賢者の予言は必ず当たる』とおっしゃっていましたね?」
「いかにも……古くはおよそ300年前の魔王軍の侵攻に始まり、215年前の大地震、108年前のタンセード・マンナ火山の噴火など……他にも大小合わせれば数えきれぬほどの予言を代々の大賢者は行ってきました。そしてそれらの災厄は全て実際に起きておりまする……」
「なるほど、それではウィスドム様の見たという災厄の光景をお教え願います」
「……邪悪なる者がこのカライ・ミツナに襲来し殺戮の限りを尽くす。そして救世主殿はその者と闘い、退けるが……敵の凶刃の前に、救世主殿は命を落とす事となる……」
「なるほど……敵の数は?」
「儂が見た限りでは……敵は一人……おそらく女じゃな」
てっきり魔王軍の軍勢が押し寄せて来るものと考えていたリョエンは意外に思った。
「女……? それもたった一人ですか?」
「はい、ですが……途轍もなく凶悪で狂暴で残忍です」
「今の内にカライ・ミツナから皆を逃がすわけにはいかないのでしょうか?」
「この森の外は魔王軍がひしめいておる。奴らは魔王軍への参加要請を無視し続け、僅かながらも人間とも交流のある我が一族を蔑み、敵視しておる……血と戦いを好む野蛮な奴らじゃ、奴らに捕まれば、我が一族は男女長幼の区別無く暴威に晒されるであろう、それに災厄がいつ来るかは分からぬ……」
「時期を見誤れば、かなりの長期間に渡って、カライ・ミツナの民に無用の生活苦を強いる事になると?」
「いかにも。それ故に、一族を預かる身としては慎重にならざるを得ません」
「……心中お察し致します」
リョエンとウィスドムは分析を続けた。
145-②
一方その頃、来たるべき災厄に備えて、エルフの兵士達に混じって鍛錬を続ける武光を眺めながら、ナジミは溜め息を吐いていた。
ナジミの視線の先では、武光とエルフの男達が上半身裸で走り込みをしている。
武光を始めとする男達は皆、墨を使い、まるで味付け海苔みたいな極太の眉毛と、胸に七つの黒丸を書き込んでいた。
武光が『俺の国でめちゃくちゃ有名な世紀末の救世主にあやかって』と……冗談で自分の顔と胸に描いた落書きを、エルフの男達が、『そいつはスゲェ!!』『俺も俺も!!』と真似し始めて……いつしか男達はエルフの軍勢というより、もはやケ◯シロウ軍団と化していた……目つきも若干劇画調である。
そしてケ◯シロウ軍団は、これまた武光が教えた『愛をとりもどす歌』を訓練歌として、歌いながら練兵場の周囲をぐるぐると走り続けている。
武光達はしばらく走り込みを続けていたが、しばらくして先頭を走っていた隊長のセリオウスが、片手を上げて『止まれ』の指示を出した。
「よし……今日の訓練はここまでにしよう、解散!!」
セリオウスの指示で皆が解散したのを見計らって、ナジミは武光のもとへ行き、弁当を手渡した。
「お疲れ様です武光様、お弁当持って来ました!!」
「おう!!」
二人は近くの岩に腰掛けると、弁当の包みを開いた。包みの中には武光が作り方を教えた、異世界の《コメっぽい穀物》で作った《おにぎり的なもの》が入っていた。普通のおにぎりと歪なおにぎりである。
「どうです、コレ? 私と姫様で作ったんですよ」
「ははーん、こっちの不恰好な方がミトの作った奴やろ?」
「ふふ……はい。姫様は『ヒマでヒマで仕方がないから』とか『気まぐれ』とか言ってましたけど、ものすっっっっっごく一生懸命握ってましたよ」
「全く、可愛らしいとこあるやんけ。どれどれ…………塩っぱぁぁぁぁぁッッッッッ!?」
「だ、大丈夫ですか武光様!? きっと私が『疲れた身体には塩が良い』って言ったから……」
「は……はは、アイツらしいなぁ」
……食べ物を粗末にするのはよくない、それにせっかくミトが作ってくれたのだ。
武光は、もはや嫌がらせレベルで塩が効いているおにぎりを無理矢理口に放り込み、水で流し込むと、口直しにと、普通のおにぎりを手に取った。
「…………甘ぁぁぁぁぁッッッッッ!?」
「嘘っ!? も、もしかして私……お砂糖とお塩間違えちゃってます……?」
「うん、おもっくそ間違ってるわ。お前なぁ……味見くらいしろやー」
「うう、ごめんなさい……」
「ま、まぁ……おはぎと思えば…………うん、無理やな!! はぁ……全く、お前らしいわ」
「えへへ……」
「褒めてへんからな!?」
その後、武光とナジミは顔を見合わせてクスクスと笑い合っていたが、不意にナジミが真剣な顔になった。
「武光様……無理しているでしょう?」
「いやいやいやいや、全然平気やって!!」
「ウソですね、武光様ってば、怖い時ほど無理して笑うんですもん」
「ははは……バレてたか……正直、怖くてたまらんけど、お前が子供達が危険な目に遭うとか言うからやな……このワル巫女めー」
「誰がワル巫女ですかっ!! 私はきっかけを少し早めただけです。だって……私が言わなくても、武光様はきっと逃げませんし」
「いや、普通に逃げるって……めっちゃ怖いし」
「いいえ、武光様は逃げません!! もし逃げたとしても……最終的には必ず戻って来ます!!」
「お前なぁ……何を根拠に……」
頭を抱える武光の問いに、ナジミはとびっきりの笑顔で答えた。
「ふふん、そんなの決まってるじゃないですか。武光様が……私が見込んだ勇者様だからです!!」
「えー? それはどうかなぁー!? 見込まれた言うたかて……お前の目は、塩と砂糖の瓶を間違えるくらい、へっぽこやしなぁー」
「もー!! イジワル言わないで下さいよー!! 安心して下さい、例えどんなに酷い傷を負ったとしても……私が武光様を治療します、絶対に死なせたりなんかしませんから!!」
ナジミは真っ直ぐな視線を武光に向けた。そして、それを受け止めた武光は力強く頷いた。
「そっか……せやな!! 俺には……お前がおるし、イットーや魔っつん、それにミトや先生達もおるしな!! よぉぉぉぉぉしっ!!」
武光は両腕を高々と上げると、天に向かって叫んだ。
「魔王でも死神でもどんとこいやーーーーー!!」
“ドォォォォォン!!”
何かが空から落ちて来た。武光達のすぐ近くに落ちたそれが、地面を揺らし、砂煙を巻き上げる。
「なっ、何や……!?」
「お望み通り……来てやったわよ?」
「お、お前は……!!」
「久しぶりね、唐観武光!! さぁ……聞いて怯えろっっっ!! 見て竦めっっっ!!」
ヨミが あらわれた!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる