154 / 180
殴り込み編
斬られ役、魔王に挑む(後編)
しおりを挟む154-①
全力の一撃を撃って来い!!
武光の無謀な挑発を魔王は嘲笑った。
「フフフ……良かろう、そこまで言うなら全力の一撃を見せてやろう!! 言っておくが、我が一撃は千の敵を薙ぎ払い、滅する事が──」
「ゴチャゴチャ抜かすな!! はよやらんかいアホが!!」
「……後悔するなよ」
刀身に光を帯び始めた魔王の剣を見てイットー・リョーダンは武光に小声で話しかけた。
〔お、おい武光……〕
「大丈夫や、待て……!!」
〔待てって、一体何を……!?〕
イットーの問いに、武光は小声で答えた。
「……清心樹の結界」
〔そ、そうか!!〕
イットーは武光の狙いを理解した。この森に迷い込んでからというもの、ナジミが散々に苦しめられまくった、この森全体を覆う聖なる結界……この結界内で邪悪なる力を使った者は、激しい苦痛に襲われる。
そして、行使された邪悪なる力が強ければ強いほど、その苦痛は激しさを増し、力を行使した者に襲いかかるという。
その苦痛たるや、ナジミ曰く『ヤバ過ぎてヤバいという感想しか出てこない』との事らしい。
邪悪な連中の頂点である魔王がフルパワーで邪悪なる力を行使するのだ。魔王を襲う苦痛は、想像を絶するヤバさのはずだ。
しかし、武光の思惑とは裏腹に、魔王は一向に苦しむ様子を見せない。顔は漆黒の鉄仮面に覆われているので、表情を窺い知る事は出来ないが、苦しんでいる雰囲気は微塵も感じられない。
魔王の剣の刀身が放つ光は、どんどんその輝きを増し、バチバチと青白い稲妻を纏っている。
「あ、あの……魔王……さん?」
「何だ……?」
「どっか痛い所とか、苦しい所とか無いすかねー!?」
「言っておくが、清心樹の結界は……我には効かぬぞ?」
「ば……バレとるぅぅぅーーーーー!? って言うか……『効けへん』って何やねん!! 諦めんなや、お前ならやれるって!! 効けや!!」
「よし……では望み通り、我が全力の一撃を喰らわせてやろう……」
「わーっ!? ちょっ、おまっ、全力出すとか何を大人気無い真似しとんねんコラァァァァァ!?」
「滅びよ……!!」
武光の抗議を無視して、魔王は腰を深く落とし、剣を八双に構えた……明らかに全力の一撃を放とうとしている。
〔た、武光……こ、こうなったらアレしかないぞ!!〕
「何やねんアレって!?」
〔君の中に眠る神々の力を呼び覚ますんだ……魔王の力に対抗するには、それしかない!! 呼び覚ませ、今すぐに!!〕
「今すぐにっ!?」
〔今すぐにっ!!〕
「よ、よっしゃ……目覚めろ、その魂っっっ……はぁぁぁぁぁっっっ…………」
“ぷぅ~”
「アカン、屁こいてもうた!! って言うか、全然覚醒せぇへん!?」
〔何やってるんだよこのバカ!! ちゃんとやれ!!〕
「アホかーっ、こちとら全力でやっとるわー!!」
「オオオオオオオオオオッ!!」
空気を震わすような雄叫びを上げて、魔王が駆け出した。
「ヒィッ!? あ……あわわ……」
〔に、逃げろ武光!!〕
言われるまでもなく、武光は逃げようとした。しかし、迫り来る魔王の強大な威圧感と殺意を前に、武光は恐怖のあまり、身が竦んでイットー・リョーダンを手から取り落とし、一歩も動く事が出来なかった。
「う……うわぁぁぁっ!?」
「武光様っっっ!!」
「ナジミっ!?」
武光を守りたい……その一心でナジミは駆け出した。両手を広げて魔王の前に立ちはだかる。自分がなんかが盾になったところで、魔王の攻撃を防ぐことなんて出来ないかもしれない……それでもやらずにはいられなかった。
「アカン……逃げろ……逃げろーーーっっっ!!」
「武光様は……私が守りますっっっ!!」
迫り来る刃を前に、死を覚悟したナジミはキツく目を閉じた。
しかし、いつまで経っても斬られた感触が襲って来ない。もしかして、痛みを感じる暇もなく死んでしまったのだろうか……?
ナジミは恐る恐る目を開けた。
「ひっ!?」
ナジミは腰を抜かして、ぺたんと尻餅をついてしまった。自分の鼻先数cmで魔王の剣が止まっている……魔王が攻撃を止めたのだ。
突如として攻撃をやめた魔王に対し、ヨミが声を上げた。
「な……何故です!? 何故その裏切り者をお斬りになられないのです!?」
ナジミに対する攻撃を止めた魔王を見て、武光はハッとしたように声を上げた。
「ま、まさか魔王は…………ドジっ子萌えの貧乳フェチ!!」
「……魔王さん……ちょこっとだけなら武光様……斬っても良いですよ? 後で治すので」
「ちょっ、アカンアカンアカン!! 何言うとんねん!?」
「……ふん」
魔王はナジミを斬るどころか剣を引いた。それを見たヨミが叫ぶ。
「どうしたんですか魔王様!? 早くその巫女も人間も斬り捨てて私を助け──」
「黙れ……!!」
魔王のドスが効いた声に、ヨミは肩をビクリと震わせた。魔王は、怯えるヨミを一瞥すると、再びナジミに視線を向けた。
「お前は我が望みを成就させるのに必要だ……共に来てもらおうか……我が花嫁よ」
「…………え?」
……ヨミは魔王の言葉が理解出来なかった。魔王様が迎えに来たという『花嫁』とは、私の事ではなく、あの裏切り者の巫女だと言うのか。
「お、お待ち下さい魔王様……」
「ヨミよ……貴様には武刃団を連れて来るよう命じた筈だ。一体いつまで遊んでいる。この役立たずめ……!!」
「そ……そんな……その裏切り者が魔王様の花嫁なんて……う、嘘ですよね!? 冗談だって言って下さい!!」
ヨミは藁にもすがる思いで魔王の心を読もうとした。きっと何かの間違いだ、何かお考えがあっての事だと……だが、やはり魔王の心を読む事は出来なかった。ヨミが見たのは、前に見たのと同じ、何の思考も感情も存在しない虚無の闇だった。
「まぁ良い……花嫁は既に我が手中に落ちた。貴様のような役立たずなど、もはや不要……」
「そ、そんな……うぅぅ……ぅわああああああああ!!」
ヨミは大号泣したが、魔王はそれを気にも留めずに続ける。
「……野垂れ死にでも何でもするが良──」
「うらぁッッッ!!」
“バキィッ!!”
「ぬうっ!?」
武光の渾身の右ストレートが魔王の顔面に炸裂し、魔王は後退った。
何だ、今の速さと重さは……!? 戸惑う魔王の視線の先では、武光がナジミに駆け寄っていた。
「大丈夫かナジミ!? 怪我してへんか!?」
「は……はい」
「良かった……お前はヨミを連れて下がっとけ!!」
「は……ハイ!!」
「さてと……おい、魔王コラァ!!」
武光は、ナジミとヨミを下がらせ、魔王の方に向き直ると……今まで悪役として何十回と言ってきた台詞を吐いた。
「……人質を助けたかったらこの俺を倒せ……!!」
「何だと……?」
武光は、背後で泣き崩れているヨミを親指で指差した。
「人質を助けたかったら……この俺を倒せッッッ!!」
「フン、そんな役立たずなど、どうなろうと知った事では無い。だが、貴様は殺──」
“ドカッッッ!!”
「ぐうっ!?」
武光のヤクザキックが魔王のボディに炸裂した。魔王が更に二、三歩、後退る。
「ちゃうやろがドアホ……!! コイツはなぁ……ヨミはなぁ……お前の為にたった一人で殴り込んで来て……何倍もの数の敵を相手にたった一人で戦って……捕まってからも、『お前が助けに来てくれる』って信じて、俺の地獄の拷問に必死に耐えとったんやぞ……『生命に代えても取り戻す!!』くらいの台詞は言うたらんかい!! この……アホンダラがぁぁぁっっっ!!」
武光は取り落としていたイットー・リョーダンを拾い上げると、鬼の形相で魔王を “ギロリ” と睨みつけた。
「もう一ぺんだけ言うたる……人質を助けたかったら……この俺を倒せーーーッッッ!!」
「フン……下らぬ!!」
「お前ほどやないけどな!!」
「貴様……!! 何故だ……何故貴様がヨミの肩を持つ? 奴は魔族で……貴様の敵だぞ?」
「敵もへったくれもあるかーーー!! お前の言動が……シンプルにムカつくねん!! お前はガチでシバき倒して泣かした後……全裸で焼き土下座させるっっっ!!」
「ククク……口だけは勇ましいが……足が震えているぞ?」
「あ……アホ抜かせ!! こ、これは……主に下半身を中心とした武者震いじゃーーー!!」
「まぁ良い……貴様を殺し、花嫁は貰い受ける!!」
「や、やれるもんならやってみろや!! この……ゲロカス魔王ーーーっ!!」
絶望的な程の力の差がある魔王を前に、武光がもはや残りっかすみたいな勇気を何とか振り絞って、再びイットー・リョーダンを構えたその時だった。
「魔王様……こんな所におられたのですか!!」
カンケイが あらわれた!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる