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殴り込み編
斬られ役、魔王に挑む(中編)
しおりを挟む153-①
「うおおおおっ!! 神地術……大地の赤い光の巨人ッッッ!!」
武光はジャンプし、魔王の少し手前に “デュアッ!!” と着地した。魔王の眼前で土煙が高々と上がる。魔王の顔の高さまで舞い上がった土煙は、武光の姿を覆い隠した。
“ビュン!!”
魔王から見て右、土煙の壁から何かが飛び出した。魔王はそちらに顔を向けた。
「……囮か!!」
「もらったあああああっ!!」
魔穿鉄剣が飛び出したのと反対側、武光は土煙の煙幕を飛び出し、イットー・リョーダンを袈裟懸けに振り下ろした。
もらった、完全にもらった!! 武光はそう思った。魔王は剣で防ごうとしているが、イットー・リョーダンのアホみたいな斬れ味の前には無意味!! いつもみたいに剣ごと “すん!!” と斬り裂いて──
“ガキンッッッ!!”
「何ぃぃぃっ!?」
イットー・リョーダンの一撃が止められた。が、動揺している暇はない、武光はそのまま鍔迫り合いに移行した。
〔気をつけろ武光!! おそらく魔王の剣は僕と同じだ、『絶対に折れない』という強く純粋な意思を感じる……!!〕
イットー・リョーダンの言葉に魔王が反応した。
「お前ごときと……」
「おわぁっ!? な、なんちゅう馬鹿力や……!!」
「一緒にするなッッッッッ!!」
「うおおおっ!?」
圧倒的な怪力で武光は弾き飛ばされたが、不恰好ながらも着地した武光はニヤリと笑っていた。
「魔王の首……獲ったぞッッッ!!」
魔王の顔を覆う漆黒の仮面、その右眼の覗き穴に雷導針が深々と突き立っている。
マイク・ターミスタでイットー・リョーダンを大改修した際に、リョエンが護拳部に仕込んだ秘密兵器である。武光は弾き飛ばされる寸前に、雷導針を発射していたのだ。ここまで見事にクリーンヒットするとは思っていなかったが。
武光は勝利を確信した……だが!!
「……ふん」
「ふん!? えっ……ふん!?」
魔王は何事もなかったように、雷導針を引き抜き、無造作に投げ捨てると悠々と歩き始めた。
「ちょっ!? おまっ……『ふん』て!? 絶対リアクションおかしいて!! おもっくそ突き刺さってたやん、目に!! グッサァァァッ行ってたやん!? 痩せ我慢すんなやコラァァァ!! って……うわっ!?」
魔王が斬りかかってきた。
「くっ!? は、速い!!」
反撃の隙がまるでない。武光は魔王の鋭い斬撃を捌き、躱すので精一杯だった。
「こ……こんの野郎ぉぉぉぉぉっっっ!!」
武光は特殊能力、《超ウルトラハイパーグレート動体視力スペシャル》を発動した。その超動体視力によって魔王の動きがゆっくりに見え始めた。だが……
「な……!?」
突如として、魔王の姿が武光の視界から消えた。
「ククク……後ろだ……」
「ッ!?」
武光は即座に身体を反転させながら、イットー・リョーダンを水平に振り抜いたが、既にそこには魔王の姿はない。
「遅いな……遅すぎる」
「うっ……」
魔王が真横に立っている。超ウルトラハイパーグレート動体視力スペシャルは確かに発動している。それなのに、魔王の動きが全く捕捉出来ない……武光は悟った。
「お前……今まで遊んで……っ!?」
「フフフ……」
「くっ!?」
武光は前回り受け身を取りながら魔王と距離を取り、垂直に振り下ろされた剣を回避した。
一瞬でも判断が遅れていたら、間違いなく武光は真っ二つに両断されていただろう。
「イットー・リョーダンなんぞに選ばれた事を心の底から後悔させてやろう!!」
それを聞いて、武光は魔王を “キッ!!” と睨みつけた。
「イットーに選ばれた事を後悔させるやと……? ケッ、お前なんぞに出来るかどアホが!!」
武光はゆっくりと立ち上がると、魔王に向けて “ブッ!!” と屁をこいた。
「貴様……!!」
「それにな……言うとくけど、本気出してへんのお前だけとちゃうからな!! 俺はまだ全力の100億万分の1も出してへんし……変身をあと2回も残してんねんぞコラァ!!」
〔お、おい武光!?〕
「ええから!!」
イットーは焦った。自分達よりも圧倒的に強い魔王に挑発なんぞ仕掛けてどうしようと言うのか、今まで誰よりも近くで一緒に戦ってきたのだ、武光が既に全力を振り絞っている事ぐらい、イットーは誰よりも理解している。
しかしながら……武光が強敵相手に啖呵を切る時は、やぶれかぶれのヤケクソになっている時か……何か策がある時だという事もまたイットーは理解している。
……やぶれかぶれの方じゃありませんように!!
武光はイットー・リョーダンの切っ先を魔王へと向けると、荒々しく吼えた。
「お前の全力を見せてみろ……来いやあああああっっっ!!」
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