152 / 180
殴り込み編
斬られ役、魔王に挑む(前編)
しおりを挟む152-①
武光は こんらんした!
魔王が……魔物共の総大将がたった一人で、何の前触れもなくいきなり殴り込みをかけて来るという、あまりにも意味不明過ぎる事態なのだ、混乱するなという方が無理というものである。
「あ、あれが……魔王!?」
「ナ……ナジミ、おおおお落ちっ、落ちちちちつけけけ!!」
「武光様が落ち着いて下さいっ!!」
「お、おおう……」
武光は自分達から5~6m離れた位置に立っている、漆黒の魔王に恐る恐る問いかけた。
「お……お前が魔王シンかっ……?」
「いかにも、我が名はシン……数多の魔族の頂点に立つ……最強最悪の魔王ぞ!!」
「う……嘘つけ!! ま、魔王軍の総大将がたった一人の護衛も付けずに……」
「笑止……他者に護られねばならぬのは弱者の証……真の強者に護衛など不要!!」
言っている事は無茶苦茶だが、その無茶苦茶さ加減をねじ伏せ、理屈理論をぶっ飛ばして、本能的に『こいつは魔王だ』と確信せざるを得ない圧倒的な威圧感を目の前の敵は放っていた。
「くそったれ……何しに来たんや!?」
「何、大した用事ではない……我が花嫁を迎えに来た。ついでに貴様らも殺す……」
まるで、取って付けたように、さらりと放たれた『ついでにお前らを殺す』宣言に、武光は戦慄した。幾多の戦いをくぐり抜けてきた事で培われた『危険を察知する勘のようなもの』が警告を発し続けている。
あかん……コイツからは逃げられへん!!
理由はない、だが間違いない。
ゆっくりと近付いてくる魔王を前に、武光は思わず叫んだ。
「な……ナジミ!! ひ、人質やっっっ!!」
「えっ!? は……ハイッ!!」
ナジミは咄嗟にヨミを背後から抱き抱えた……が、丸腰である。ナイフの一本でもあれば良かったのだが。
「ええっと……どどど、どうしよう!! な、何か武器を……!!」
慌てたナジミは、すっかり冷めてしまっていた鍋の中から、咄嗟にちくわ(に酷似した異界の練り物)を掴み取り、ヨミの首筋に突き付けた。
「ばっ……おまっ……ちくわて!!」
「だ、だって凶器なんて持ってないんですもん!!」
最悪だ……だがとにかくやるしかない。
「と、止まれ!! それ以上近付いたら、お前の花嫁はちくわの餌食やぞコラァ!!」
……もはや、自分でも何を言っているのか分からない。何やねん、ちくわの餌食って!?
魔王の歩みは止まらない。
「うん……そらそうなるわ!!」
やはりと言うか、当然と言うか、ちくわで魔王は止められない!!
「やるしかあらへん……!! ナジミ、お前は人質を連れて退がれ!!」
「は……ハイ!!」
武光はナジミが退避したのを確認すると、イットー・リョーダンを鞘から抜いた。
「面白い、我に挑もうというのか……」
対する魔王シンも腰に提げた鞘から剣を抜いた。吼える獅子の頭部を模した護拳を備え、柄頭に紅い宝玉がはめ込まれた両刃の直剣である。
「俺は……お前をシバき倒して元の世界に帰る!! 行くぞ、イットー!!」
〔応ッ!!〕
イットー・リョーダンを八双に構え、武光は突撃した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる