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第1章 無一文から始まる異世界生活
第8話 無一文から始める異世界生活
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久しぶりに感じる宇宙はどこか懐かしくて恐ろしい。どこまでも広がっていく気がするのに、やっぱり自分はここにしかいない。
「ベネル様。お話しましょう」
白い光は変わらずにそこに在った。
▽
「君から逢いたいなんて嬉しいよ、私の世界を楽しんでくれているようで良かった」
「ええ、満喫させていただいてます。ベネル様にお聞きしたい事がいくつかあります。」
「この場所は時間などあってないようなものだ、好きなだけ訊ねると良い」
「以前ここで僕が肉体的な死を迎えたら配慮するとおっしゃっていましたが、具体的にはどうされるおつもりですか?」
「うむ、君の魂核を眷属に回収させ、意識はこちらで保護し、肉体を再生後改めて降ろすつもりだ」
あれをもう一回することになるのは遠慮したいなぁ。
「蘇生にどれくらい時間がかかりますか?」
「いつ死んでも次の満月が1番高い頃に降ろそう。無論君達が聖地と呼んでいる場所に限るが」
「いつどこで死んでもそうですか?」
「何か困ることでも?」
「はい、すぐ蘇生される可能性もあるので、誰も助けてくれそうになかったら助けてください」
ダンジョンでは蘇生があるから回収されたら困る事もありうる。
「ふむ、分かった」
「あとは蘇生してもらった場合のデメリットがあれば教えてもらえますか?」
「デメリットか、そうだな、私が助けた場合一つお願いを聞いてもらおう」
「断ったら?」
「相応の身返り(みかえり)があるだろう。無茶なお願いはしないつもりだが」
「先払いできます?」
「君は面白いことを考えるな」
「今なら断っても問題ないでしょう?」
「まだその時ではない。時期が来たらお願いしよう」
とりあえずべネル様のお願いは先々考えることになりそう。
「称号を元に神々や上位精霊が加護を授けられると女神から聞いたのですが、こちらもそうですか?」
「ああ、おおよそ正しい。皆も楽しんでいる。私の加護も欲しいかい?」
「役者不足ですのでお気持ちだけ頂戴いたします」
「それは残念だ」
そんな恐ろしげな物はノーサンキューです。加護は十分いただいております。
「それと、女神に伝言をお願いします」
「何か要望でも?」
「はい、追加の人材についての要望です。OTLで同じクランに所属していた人物二名をお願いしたいです。
プレイヤーネームは『千波ちなみ』と『トム』です。無理に連れてきたりはしないでください」
千波は愉快犯だしきっと大丈夫なはず。
トムの方はリアルが忙しいから来れなくなると言っていた通り、半引退気味なので来てくれるかどうか不安がある。
「伝えておこう」
さて、この話題以外の話すべき事が終わってしまった。
「これは愚痴になるんですが、ベネル様、貨幣経済ってご存知ですか?」
「それはどんな概念だ?」
「やっぱり・・・」
「ふむ・・・私は私が作り与えた物は分かるが、逆に言えばそれ以外は管轄外だ」
「デスヨネー」
人が価値があると思うことで価値が生まれる幻想ですし。そしてそれそのものより、それを通して得られるであろう物を欲して人はそれを求めます。僕にとっては、社会不適合者ひきこもりが生きていく上での最重要アイテム。
お金を稼げば存在を許された気がして、こんな僕でも生きてて良いんだと思えた。僕の生き方は幻想を食はんで生きているとも言える。
「どうやら形ある物のようだ。物質変換なら訳も無い、どう作り変えれば良いのかな?」
大胆すぎる提案。創造神様作の通貨とか信者が泣いて喜びそうなアイテム。しかし通貨偽造に変わりは無い。
「有り難いお話なのですがお断りさせていただきます」
「何故だ? 君からは私を責める気持ちが伝わってくる」
「確かに非難したい気持ちはあります。考えたんです、あの世界で、自由に生きるってどういうことだろうって」
ベネル様は静かに聞いてくれている。
「僕はとりあえずあの世界でお金を稼ごうと思います。このまま稼ぎ無しだと生きていく自信を無くしそうですし・・・それもありますけど、僕のこと考えてくれる人を心配させないくらいには自立しないと、って。
誰かからもらって、渡して、関わって。自分の成したい事とやりたい事、心が求める事の帰結を探そうと思います」
ベネル様はOver the Lifeの世界を存続させるためのチャンスを与えてくれた。よく似たこの世界で僕は無一文だけど無力じゃない。とても感謝している。僕を選んだ女神にも複雑な心境ではあるが一応感謝の念はある。
「女神が君を選んで良かった。どうだ、終着点に至ったら神の一柱としてこの世界に尽くさないか?」
「あはは、そこまで考えられないです。良いんですか、そんな事言って。これからどうなるかわからないんですよ?」
「言うのは自由だろう?」
「ふふ、ベネル様にはやっぱり敵いませんね」
分かり合える存在では無いと分かっていても、いつだってこの思いだけは本当だ。
▽
めがみが、つかさがぼくを連れていきたいって。
ぴかぴかの光がぼくをかんげいするって。
いろいろ言われたけど、ついたら呼ばれるまで待ちなさいって、自由にしていいって言われた。
いきなり川のなかでびっくりしたけど、たにまから見えた満月がいつもよりきれいだった。
ぼく以外にもいっぱいいて、みんながぼくはだれって言ったからころなっておしえた。
ひさしぶりに高い高い空で遊んだよ! みんなぼくみたいにはやいの!
楽しかったからいつのまにか夜があけて昼になってまた夜になってた。
まだかなーまだ呼ばないの?
日がのぼる。遊ぼうってさそわれたけどそんな気分じゃない。
なんかえらい龍がやってきておまえはなんだっていわれたからころなっておしえたらおこられた。
そんなぷんぷんしてたらけっかん切れちゃうよ?
おまえはにんげんとけいやくしてるのかってきかれたからつかさは大事なひとって答えた。
その大事なにんげんとやらはどこにいるのかってきかれた。
あっちにいるよ、ぴかぴかがよばれるまで待ってなさいって言ったからまってる。自由にしてていいから遊んでたけどあきちゃった。
そしたらかわいそうな目でみられた。ぼくはかわいそうじゃない。
自由にしていいならなんであいにいかないんだ? って言われた。
そうか! いるならぼくが行けばよかったんだ!
ありがとうおじさん!
▽
朝からの授業はトトさんに急用が入ったということで流れ、前倒しで転職窓口を訪ねた。
転職窓口は文字通り人の転職を行う所である。下位から上位へのクラスアップは条件を満たせば自動で行われるので今日は転職ではなく話を聞くことが目的。
初生や転生後最初の職業は何もしなくてもいつの間にか決まっている。転職は魔道具でもできたが高い上使い捨てだった事もあり、神殿でお金を払ってやってもらうことが一般的だった。アドバイスももらえたし。
窓口は神官が多数忙しそうに動き回っている。これでも昨日よりはマシだそうで。アルフリートさんが一人に声をかけるとその職員は慌ただしく奥の扉に走っていった。
パーテーションで区切られた机と椅子の並んだ通路を通り抜け、奥の小部屋に案内されれる。相談用の部屋らしき物がいくつかあり、使用中の札がドアノブに掛かっている所もあった。
「はじめまして、転職長官で司教のレイムと申します。本日は私わたくしが担当させていただきます」
どうやら事前に話が通っていたようで、畏まった挨拶などがなくて安心した。
「はじめまして、レイムさん。今日はよろしくお願いします」
レイムさんはちょっとつり目の気が強そうな人だったが、僕と似たり寄ったりの背格好で多分両性かな。
それぞれ長椅子に机を挟んで座る。アルフリートさんは入り口側の壁際で待機している。スペースは十分あったので座らないかと聞いたら断られた。
「職業に関わることでしたら何でも聞いてください、これでも長いので大体のことはお答えできるかと」
机の上にいくつかの書籍や資料と見たことのない魔道具らしきものが置かれた。
「これ何ですか?」
占い師が使うイメージのある水晶が台座に置かれている。流れからしてOTLでもあった転職可能な職を見たりする魔道具だと思うのだが。
「これは転職ができる職と、可能性のあるもの、その職の特徴や伸びやすい能力、神が示したその職で求められている物が表示できる魔道具です。初めて転職される方はこれとずっとにらめっこされる方も多いんですよ」
やっぱり魔道具はこっちの方が進歩してます。OTLだとゲーム内でもインイターネットに接続できたから、詳しい情報はネット頼りでした。
「血を一滴垂らしてから魔力を流していただけますか?」
「血ですか?」
「唾液でもいいですよ」
魔力による身体機能操作で痛覚を鈍くできるとはいえ完全に消すことはできない。痛いのは嫌なので指を舐めその指を水晶につけた。
水晶は中央で白く瞬く光を放ち、情報を吐き出した。ちょ、なにこれ。
窓が出たところまではタグと同じ。でも情報量が違いすぎる! OTLだと出ても数十だった転職先が大きな画面いっぱいに表示されて終わりが見えない。一日じゃ見終わらないって某ランドじゃないんだから。可能なものと可能性があるものって言っても限度があります。
「驚いてらっしゃいますね。ご自分の可能性というものがどれほどあるか分かってくださいましたか? これだけあるので大体の方は全部を見るという事もほとんどなくて、事前にある程度決めていたり、結局メジャーな職を選ばれる方が多いんですよね」
レイムさんはどことなく物憂げだ。
それはこれだけあれば仕方ないと思います。職業名だけ並んでますけど職業ごとの説明まで読んでたらどれだけ時間があっても足りません。
精霊術師などの魔術系を選んだこともあるが、可能性があると言われても今更物理で殴り殴られる系は御免蒙る。豹形態の物理テクニカルアタッカーで間に合ってます。
オラクルの表示を探す。今下位だから絶対ある、はず。無かったら創造神様に怒鳴り込みに行く所存。
なかったらユニーク職(その人しかなれない特別な職)ってことになってしまう。OTLと同じならではあるが。
あったあった。本当に良かった。
オラクル(ここに追加の詳細も追加しておいたよ☆ 気が利くでしょ?)
適性
魔力
魔術耐久力
変身
神性魔法
聖属性
光属性
緑属性
水属性
※形態により異なる
魔力操作
身体操作
※形態により異なる
神性魔法への適性の高い職から至り、変身スキルを活用し様々な状況に対応できる。憧れを仰ぎ自由な心の赴くまま野を駆け、空を泳ぎ、水中を飛べ。さすればこの道が拓かれる。
見てたよ、聞いたよ! オラクルの事が知りたいならこの私にお任せ♡ みんなの職業神様、×××が協力しちゃう!
「・・・・・・なんか変な文入ってませんか?」
何故☆(ほし)や♡(はーと)が舞っているのだろう。文字化けはさすがに自動変換の適用外らしく読めない。
「変な文ですか?」
窓の向きを変えて3人全員で読める位置に動かす。
「・・・・・・・」
レイムさんは茫然としている。再起動するまで待つ。
「私は神から下賜されたとされる職業正典の内容すべてを覚えています。その中のオラクルにはこの様な記載はありません。この水晶は正典と繋がっており、その内容が表示されるようになっています。
これが本当であれば正典が更新されていることになります。正典はここ数十年更新されていません。貴方がオラクルの事について聞きたがっていることはトトから聞いていますが、本当に職業神様からのご神託であれば一大事です」
これはレイムさんにオラクルの事を悠長に聞ける空気ではない。
「申し訳ございません。すぐに本国に確認を取らなければなりません。職業神様からのご神託がありましたら、すぐに連絡を」
「あーわかりました、今日はありがとうございました」
レイムさんはそそくさと机の上にあったものを収納して去っていった。どうなるのかな、これ。
「アルフリートさん、とりあえず少し早いですけどお昼ご飯にしません?」
「・・・そうだな」
ご飯を食べて、それから街の外に案内してもらおう。
▽
神殿を出て何を食べたい?うーん、そうですねーと呑気に話しながら並んで歩いていた。
“つかさーどこーー??”
「アルフリートさん、変な声聞こえません?」
「特に聞こえないが」
“どこにいるのー? あいたいよー”
やっぱり聞こえる。でも鼓膜を震わす声じゃなくて、思念通話? 思念通話ならまず精神音が飛んでくるはず。トトさんじゃない、アルフリートさんは今ここにいる。じゃあ誰?
ざわっと俄かに街が騒がしさを増す。サイレンが鳴り響く。上空に数名飛び上がる人影が見えた。
空に街を覆う大規模な結界が展開される。
「皆さま、ただいま上空から所有者不明の中型飛龍が急速に接近しているとの情報が入りました。
誘導に従い避難してください。結界は強固です。安心して避難してください。」
女性の落ち着いた声でアナウンスが流れる。
街は騒がしくなったがそれほど混乱はしていない様に見える。
「司、神殿に避難するぞ。安心しろ防衛隊は強い。すぐに撃退されるだろう」
腕をつかまれ引っ張られる。
“ここでしょー? あいにきたよー”
「呼んでる?」
影が近づく。白いその姿は結界に気づいたらしく旋回しながら高度を下げ、結界にずしんと着地した。
「コロナァーーーー??!」
街の外で召喚魔石から呼び出そうと思っていたコロナが、ドラゴンらしからぬ鳴き声を上げながらそこにいた。
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