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第2章 司のあわただしい二週間
第18話 ( )
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リビングの食卓とは別にあるソファに座ってグラニータを啄みつついつものポーションを呷る。うーん、苦みって落ち着く。みんな寝間着姿でこういうのをパジャマパーティーって言うんだっけ? よくは知らないけど。トトさんとアルフリートさんにも分けたら好評だった、よかった。材料を聞かれてエリクサーも使っていることを話すと呆れた顔を両方からされた。おいしければいいでしょ?
皆で一緒に寝ようと言われて断ったら、一緒に寝てくれないなら徹夜で仕事してやるという謎の脅しをされた。
「体に悪いですって。やめましょうよ」
「数日くらい不眠不休で動いても死にはしません」
「それはそうですけど・・」
鍛えて転生を重ねるたび基本体は強くなる。絶食も平気になるし、排泄も数日しなくてもよくなる。OTLでは仙人プレイとか言って一切固形物をとらずとうとう空気中から魔力を得始めて、その魔力で生活できるようになったある意味極まっていたプレイヤーもいた。
ぶっちゃけ魔力があれば肉体は維持できる。しかし魔力の源は精神力なのでなんでもかんでも魔力任せでいたら魂を損なうことになる。魂の健やかさが健康の源なのだ。破壊される事はまずあり得無い魂核でも何をしていいという訳では無い。どう言い返そうか考えていたらお見通しだとばかりに寝室に連行された。
▽
「トトさんこれはどういうことでしょう?」
「いやーこうして誰かと寝るのは久しぶりです」
トトさんを真ん中に川の字。ラクリマはピアスの中。部屋の作りは僕の部屋と変わらないが広さが違う。ベッドサイズも僕の部屋の倍くらいあったので三人寝ても余裕がある。余裕はあるのに何故後ろからホールドしてくるのでしょうか。体臭とか大丈夫だよね? 今は石鹸の香しかしないはず。
機嫌よさげに嬉しそうにしているから拒絶できない。いつもの白い目隠しじゃなくて黒いアイマスクをしている。何か違うのかな?
軽く結んでいる髪を玩ばれる。髪を触られるのは割と好きだから放置。長い髪は面倒じゃないですか? という質問にそうですか? と返す。本当は自己の魔力の伝導率を上げる素材としても使えるからある程度長さを確保しているだけです。ちゃんと言っちゃいけないと学習した。
「広いベッドに一人ってさみしくないですか?」
「これくらい広くて何もないとそうかもしれませんね」
僕のアトリエも自宅のベッドも一人で寝るには大きいサイズのベッドに、クッションを沢山積んで囲んで鳥の巣みたいにしている。クッションの覆いに守られている気がして安心できるから。髪を梳かれている内に眠気が来る。抵抗するのも馬鹿らしくなってゆるゆると眠りに引きずり込まれていった。
▽
もふ、もふ、こんな感触のクッション置いてたっけ。んん、コロナは、ちがうな。大きさ的に熊(トム)かな。足を絡めて温もりに沿う。
あったかい。もうちょっとだけ・・
『つかさーおきたー?』
「あれ?」
コロナ?
「起きたか」
「・・・・・」
数瞬の思考停止。状況を把握。
「申し訳ございませんでしたぁ!」
ずざっと後ずさり居住まいを正し、広いベッドの上で勢いよく頭を下げる。脳内に響くコロナの声。犬用ドアも無いし、オートロックでもないから鍵を掛けてきたので出してとうるさい。ドアをぶちやぶらないだけ褒めておこう。
「熊とか、コロナとかと間違えました。ごめんなさい」
「熊?」
「友人です。創造神様に呼んでもらってる同じクランのメンバーです」
「ほう、その熊と間違えたと」
「えぇ、ダンジョン行く時とかはよく一緒に寝てたので」
スライムの千波をクッションに熊(トム)と一緒に羊でおやすみ。皆が得するもふもふパラダイス。盗み見るようにちらっと様子を窺う。昨日のような怒りは見えない。ひとまず安心して頭を上げる。
「とやかく言う気はない。食堂に行くぞ」
さっさと起き上がって何時もの鎧姿を呼び出すアルフリートさん。僕も手早く身繕いをして自室に向かった。
自室のドアを開けた途端コロナ遊んでくる!と飛び出していった。神殿長との話し合いに連れていく可能性が有ったので、すぐ戻ってこれる範囲に居てねと念話で伝える。
コロナを閉じ込めるのは可哀想だし、僕の部屋に自由に出入りできないのはどうするべきか。自分の家なら迷わず犬用扉付けちゃうんだけど。
▽
ビュッフェ形式の食堂は基本セルフサービス。使い終わった食器は業務用であろう収納魔道具に返却。保温機能付魔道具が活用されていてちゃんと味噌汁も温かい。和風も少しは置いてあるが洋食がメイン。周りを見ると、お箸を使っている人もいる。
そこまで食欲も無いし、根菜類の炊き合わせと大根の味噌汁を選び席を探す。
きょろきょろしていたらこっちだとアルフリートさんに席に案内される。ちょっと広めの四人用の机。
対面に座って食べているとトトさんが緑茶を片手にやってきた。
「おはよー司さん。よく眠れた?」
「おはようございます。ええ、ゆっくり眠れました」
神殿長の所へは朝食後連れていってもらえるらしく、何点か注意を聞きながらどんな人か尋ねる。
「泉の神殿長は一言で言うと超武闘派の英雄」
「英雄ですか」
「うん、今のダンジョン型経済の礎を築いた立役者の一人」
ダンジョン型経済黎明の英雄、マルガリータ。転移門の発展と流通の増加、人口移動の激化。それまでのナショナリズムとグローバル経済が変容していく中新しい国際秩序が求められていた。
世界銀行と聖教国は協力し、ダンジョン型経済のモデルケースを作り上げた。まぁその全面的な協力関係も、ダンジョンが儲かる事が分かり後から参入してきた国々により癒着だと非難され、通貨規格統一を期に解消されたそうだ。
「もう悪鬼羅刹という言葉が生ぬるく感じるくらいの武闘派。あの椅子によく座ってるなと思う」
「私ですらあの方の前では赤子の手を捻るより容易く捩じ伏せられるだろうな」
なんと老化が始まっているにも関わらずその力は衰えを知らず、ことあるごとにダンジョン攻略を進言し、自ら先陣を切って誰よりも討伐数を稼いでいるそうです。
その他にも色々注意された。おどおどしない等の幼児に言うような内容から、お金が使えなかった事とかは黙っておくようにという事まで。そんな情けない事言いませんから・・・
コロナは連れて行った方がいいそうなので念話で呼んでおいた。すごく、会いたくないです。
▽
ここから先は付いていけないと、黒い扉の前に案内された。両開きの扉を開けると左側に嵌め殺しの窓が並ぶ廊下が続いている。とてとてとコロナが付いてくる。まっすぐ行くとまた黒い扉。デザインが違うが重々しさには変わりはない。結局三枚目の扉をまたかと開けたら、そこが神殿長の執務室だったらしい。
「ごめんなさい、ノックしてません」
「構やしない。ようこそ、使徒様」
枯れ葉色にくすんだ白が混ざる長い髪。鈍色の瞳はその眼光と相まって日本刀の滑(ぬめ)る輝きを連想させた。空気に重さを感じさせる威容としか表現できない圧倒的な強者の支配力。
英雄マルガリータさんとの初めての顔合わせは、情けない事に僕が視線を向けられただけで立ち竦む所から始まった。
▽
「獲って食ったりはしないよ。まだ横のちびの方がしっかりしてるじゃないか」
『つかさー、大丈夫?』
「あ、コロナ大丈夫だよ」
マルガリータさんは執務用の椅子から立ち上がり、僕から見てローテーブル奥にある黒い3つのパーソナルソファのに一番左に腰かける。
執務室はモノトーンで構成されている。白い壁、黒い家具、高い天井から色とりどりの光が落ちている。見上げると丸みを帯びたステンドグラスには中央に太陽のモチーフと、それを囲む12の神らしき宗教画が描かれていた。
綺麗だな。ステンドグラスと宗教ってどうしてこう相性がいいんだろう。モザイクもいいしシスティーナ礼拝堂とかのフレスコ画もいいけれど、やはり光すら画材にするステンドグラスが一番好き。
打ち捨てられた教会のステンドグラスなんか浪漫が溢れてて、OTLでお気に入りの場所だった。
こんな場面じゃないならお茶でも飲みながらゆっくり鑑賞したいのだけれど。
「ほら、見とれてないでこっち来な」
袖をコロナが噛んで引っ張る。対面に座るのは怖すぎるので斜め向かいのソファに座る。所謂お誕生日席です。何故マルガリータさんがこの席に座ってくれなかったのか。
おかげで距離が近い。反対側の斜め向かいの席だと遠すぎるので妥協。コロナが対面の席に収まる。すごい。僕と同じような三つ編みだけど編み上げてはおらず、軽く結ってあるだけだ。確かに容色は衰えているのだろうが、その眼が強すぎてそれは些細な問題だった。
「使徒様はやめていただけませんか? 必要であればいつでも捨てる覚悟があるので」
「はは! いい心構えだ。大人しそうな面して気位は高いねぇ。じゃあ何て呼べばいい? 私はマルガリータ。ここの神殿長だ」
「初めまして。僕は宝条司です。司と呼んでください。向かいに居る白柴はご存知だと思いますがドラゴンのコロナです。あと、ラクリマ。出てきて」
「ふん、やっと呼んだか」
騎乗サイズのユニコーンがコロナの右横に現れた。半透明の水が光を複雑にを反射する。
「契約精霊のラクリマです。口は悪いですけど誠実な精霊です」
「その白柴がドラゴンってのは本当みたいだね、進化先でもなく全く別の物に変わるなんてそういう種族なのかい?」
「コロナ、そうなの?」
『うーん、よくわかんない』
「わからないって・・そう言えばこっち来てから見ないね、変身する生き物」
「オラクルだっけか。全く別の物への変身を主体とする戦術を使う定型生物なんて聞いたことが無い」
「僕の居た世界と大分違いますね。正直オラクルなんて聞いたことが無いと聞いて驚いてます。マルガリータさんも同じですか?」
「ああ、長く生きてはいるが聞いたことも無いな」
「そうですか・・・」
ここでも情報無しか。
話に真面目に答えてくれるしマルガリータさんは威圧感はすごいけど、悪い人ではなさそうだった。
「よし、じゃあ戦うか」
「文脈がおかしいです。理解できません。純火力とタイマンとか絶対無理です、ごめんなさい」
「殴り合って分かる事があるだろう?」
「僕が何秒持つかくらいしか分からないと思います!」
もうやだ、脳筋族なの? は、脳筋族ならこの返しが使える。
「対戦は無理ですけど、僕は回復支援職なので一緒にダンジョンに行くことなら出来ますよ」
戦闘を避けつつダンジョン誘導。これで勝てる!
「お、ダンジョン攻略が好きかい?」
「ダンジョンとクランハウスとアトリエをぐるぐる回る生活で十分満ち足ります」
「・・・それもどうかと思うよ」
おお、前情報通りダンジョンの話には食いついて来てくれた。
「なら、使徒様じゃ無くなっても私と一緒に行ってもいいと」
「立場とか、ダンジョンにはそんなもの関係ないです」
「言ってくれる!」
あははと豪快に笑いだすマルガリータさん。よかった戦闘は回避できた。
ぎらっとした目が僕を捕まえる。触れれば血が流れるだろう鋭い切っ先を顎に向けられる幻視、戦闘回避できたんじゃ・・・
襟首を掴まれて引き寄せられる。目が合う。睫毛長い。唇に渇いた柔らかな感触。
ぽかんとしていたらぬるりとした物が僕の舌を舐めて行った。
・・・何が起こったし。
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