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第2章 司のあわただしい二週間
第54話 異世界コミュニケーション(頭突き)
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メインのおかわりを断るとお口に会いませんでしたかと心配そうに尋ねられた。
「いいえ、とても美味しかったです。僕ももう6生ですし、そんなに食べなくても大丈夫なんです。夕食をご馳走になった上泊めていただけるなんて、本当にありがとうございます」
緊張ですっかり頭から飛んでいたお礼をデザートが出た段階でようやく口に出した。デザートは香りの良い春茶葉のシフォンでホイップもベリーのソースも絶品でした。全体的にシンプルな味付けで大変口に合った。
「え、6生って・・・」
「サティヤ。失礼いたしました」
6生だと言うとサティヤさんは目を丸くした。言いかけていたのをシオンさんが止める。悲しいことにザーカさんが珍しいと言っていたのは真実なのだろう。そこまで驚かなくていいのに。僕はどっちの特徴も薄いタイプの両性だ。それの表す事実はとてもひどい。勝手に余計な情報を強制的に乗せてくるのは誰の設計だ。
もしかして年齢を言うのはアウトだったのか。年をアピールする気は無いが、隠す事でも無いのにね・・・
そして話の内容が変わる。
「ボク、勘違いして蹴ったり酷い事言ってごめんなさい」
フォークを置いてサティヤさんが申し訳なさそうに眉と耳を下げてそう切り出す。大きな目が瞬きすると眩しい。あんまりこっち見ないでいいから。
「もういいですよ。別にそこまで気にしてません」
「よかった」
ほっと息を吐く姿に実は緊張してたのかなと思う。その後は取り留めのない話をし、夕食は終了した。シオンさんの縁を切るつもりで無いなら、たまには生きてるだけでも連絡してあげてくださいという言葉が小骨みたいに引っかかった。
食後サティヤさんに今晩泊めてもらえる二階の客室を案内される。ベッドもやはり大きい。神殿の僕の部屋に置いてあったサイズくらい。種族も背丈も遺伝とか無いから、大は小を兼ねるで行っているのだろう。
「お風呂いつ入ります?」
「そうですね、何時でもいいならすぐ使わせてもらっていいですか?」
とりあえず綺麗になってゆっくりしたかった。お風呂場まで案内してもらうとやっぱりここも結構広い、僕の家のと同じくらいか。使用人はさっくり断って、一人で入らせてくださいと本気のお願い。他人に触られるのは遠慮する。何もしないで待機してもらうにしても、自分の行動の終了を傍で待たれるとかそれが仕事だと言われても嫌だ。
一応使い方とかを聞いておく。脱衣所にすごく着心地の良さそうなバスローブが準備してある。着るべきなんだろうか。僕なら自分で用意した物蹴られて手持ち品着られたら気に入らなかったのかと思ってしまうし、ここはご厚意に甘えておこう。
▽
広いベッドで端から端までごろんごろん。水の柔らかさも質もラクリマの水には及ばなかったと失礼な事を考える。毎日あって当たり前だと有難みも減るし、こうやって外に飛び出して正解だったのかもしれない。
ソープ類は無香料だったから風呂上りにオークモスの香水。土と森林、湿度を感じる渋い香り。魔力ポーション一気飲み。あー生き返る。じっとしているとまだお腹がなんだか凝ってるような感じがする。どれだけダメージ負ってるんだ。
凪いだと言っても表面だけ。その下はドロドロと温度は上昇。台風でも作る気かやめてくれ。タグの画面を開いて紅茶の事やワインの事を調べる。紅茶の分類はイタリアワインのラベルかと突っ込みたくなるほどOTLよりも複雑だった。ワインが特産品だと言っていたからその情報から現在地はすぐ分かった。前トトさんに飲ませてもらった軽めの赤もこの地方の物だったらしい。
・・・こういう繋がりが見つかると少しほっとする。この世界に少しずつでも近づけている、そう思える。
アルフリートさん宛にメールを出そうと思って開くも、何を書いていいか分からなかったから一言だけ明日帰りますと送って、すぐに画面を閉じた。
「入っていいですかー?」
ノックの音とサティヤさんの声。どうぞと言うとこちら基準で7歳くらい、現実だと十代中頃の女の子がパタパタと入ってきた。暗い気持ちはもふってればどっか行くだろう。ベッドの上で正座待機。わきわきと動く手が自分ながら正直すぎて泣ける。
兎の獣人はベッドに腰かけ、僕を見ると眉を顰める。
「どうしました?」
「ねぇ、名前本当に教えてくれないんですか? ボクにだけでいいですから」
「えぇ・・・あの名前でいいじゃないですか」
使わないなら付けた意味が無いぞ。少女は肩を落とし、長い溜息を吐く。
「あの名前、父さんの名前なんです」
「そうなんですか。戯れって言ってましたし、深い意味は無いとばかり」
「他人を死んだ番の名前で呼ぶなんて、気持ち悪くない?」
「え」
「人だけじゃなくて、人形とか、咲いた花とか、すぐにそう呼ぶんだ」
「・・・それは、大事な人がいなくなった傷がまだ癒えていないんじゃないんですか?」
「そんなの分かってる。でももう父さんが死んで50年も経つんだよ。朝に夕に生の輝きを失った魂核に口づけて、ボクが新しい番、ううん、恋人でもいいから作ったらって言っても聞きやしない」
「・・・・」
「子供にも番にも先立たれて、ボクしかいなくなって。ボクにも番が見つかればいいって言うのにこうして父さんの名前を付けて邪魔するんだ。もう意味わかんない」
そういって少女は抱きしめる勢いで僕をベッドに押し倒した。
「あ、僕よりも胸ちいさい! 可愛い!」
「ちょっ・・何してるんですか・・・?」
「揉んでるんですよ?」
もにゅもにゅとただの板を触る年若き少女。ばさばさとした緑の睫毛に縁どられた目が不思議そうにこちらを向く。どうしよう言葉が通じない。
「あ・・っ!」
「一緒に気持ちよくなりましょうねー。今生で両性を相手にした事があまり無いので、上手じゃないと思いますけど、助けてくれたお礼ですし頑張ります!」
細い指が小さな突起をバスローブ越しにくりくりとつまむ。漏れた声に反射的に手のひらで口を覆った。
「声我慢しない方が気持ち良くないですか?」
「んんんっ! ちぇ、チェンジ!!」
僕がやりたいのはもふもふであって! 用があるのは兎の方で!!
「え、え、もしかして母さんと?! 確かに母さんの方が経験豊富ですけど、それならせめて3人で・・」
「違います! 僕は兎がいいんです!」
食い気味に言葉を遮る。ぞっと血の気が引く。何恐ろしい事を言うのだ、このうさ耳は!
「あ、そうでしたか。獣態の方が興奮するんですね」
「そうだけど、違うー!!」
「どっちなんですか・・・?」
「本当に、純粋に、兎を撫でたいだけなんですー!」
「え?! 本気ですか? 兎獣人ですよ? 縁起物ですよ?!」
「縁起でセックスしてたまるかーーーー!!!」
起き上がる勢いで頭突きし、押しのけて逃走。素早く玄関まで行くも、家のお外は見回りの兵士のいる閑静な高級住宅街。開いて飛び出す勇気が出ない。着いた所は転移門では無かったので、別に施設がどこかにはある筈なのだが場所は知らない。
ただの不幸な誤解で逃げ出すのも大人気ない、しかし客室に戻る気も起きない。仕方なく最初に通された応接室に行った。頭を冷やそう。
▽
シオンさんが座っていたカウチの方にだらーんと寝そべり、ローブの前を解いて豹の姿を取る。
欠伸しつつ伸び。器用に袖から腕を抜いた。光の無い暗い部屋には、大きな窓から街灯の明かりがぼんやり差し込んでいる。この姿なら視力を強化せずとも十分な光量。
タグを開くとアルフリートさんから返事が来ていた。恐る恐る読むと、話したいことがある。家で待っていると書いてあった。別れ話とかかもしれないな。傲慢でも理不尽でも、僕が一人になりたいって言った時に求める返事はハイだけだ。
アルフリートさんが考えて決めた事なら受け入れよう。一瞬の煌めきがあっただけいいだろう。尊い記憶になる。脱いだバスローブに頭を擦り付ける。
ぷらんぷらん、一人で尻尾遊び。両手で捕まえて、かじ・・ろうとした所でバっとあの光景が蘇る。
僕の尻尾の先、コレで、ぐちゅぐちゅって、総毛立つ、これは恐怖なのか、悲しみなのか、嘆きなのか、期待なのか。奥で燻る肉体の欲と、それをいけない事だとする今までの常識から生み出される葛藤に眩暈がする。
きっと、この世界に相応しい価値観を示してと思った代償がこの苦しみなのだろう。
ぬるい暗闇の中で、上も下も右も左も分からなくて、出口を見失って出たくても出れなくなっていた。
殻の中で腐りかけた雛は、もう外から強引に壊してもらうしか生き延びる術が無かった。利用したのは僕の方。
そして生まれたひ弱な生き物は、誰よりも生まれた世界の現実とこの世界の現実が繋がる事を恐れている。
これは自分で選んだもの。必要なもの。だから、まだ大丈夫。正しさや正当化の為の贄にされサンドバッグになる痛みより、形無き化け物から気晴らしの為の悪意を投げつけられる苦しみより、数億倍マシ。
僕の尻尾。ぶちの失せたの紫色の尻尾。模様が無いならそれこそただの猫みたい。くねくねと踊って過去なんか知らん顔。遊ばないの? と誘ってる。
自分の手で自分を慰めた事くらいある。でも手を恥ずかしいって思ったりしない。それなら尻尾も自分の一部で同じなんじゃないのか、何が違うのか。
違う。同じ。どこが? 区別する必要あるの?
結局尻尾はぽとんと床に落ちて、するすると気ままに動いていた。
「どうやらサティヤがまた失礼な事をしてしまったようで」
ふっと夜に相応しい明るさの光が部屋に灯って、上向きのランプが壁に浮かび上がる。
きぃっと扉の音。シオンさんの足取りに迷いは無い。ここの家主が、僕が夕方座っていた椅子に腰かけた。
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