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第2章 司のあわただしい二週間
第58話 職業神様と密談in他人の家
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日付も変わった深夜、人様のお家の一室で職業神様と密談。愛らしい容姿とは裏腹に語られる内容は非常に重い。ルーツェリーア職業神の要求は魁、僕らがユニーク職と呼ぶ物を正式な職業として登録できるよう手伝って欲しい。望みは分かったが、その内容を詳しく聞かない事には返答は出来ない。
「確認ですけど、人類相手だけですよね? 魔獣も職業持っててそれもお願いしますって言うのなら話を聞く前から断らせていただきますよ?」
『そこまでは望みません。わたしがお願いしたいのは2人。あなたがレイム、サティヤと呼んでいた人間です。全ての魁が職業になってしまうのは逆に良くありません』
「まさかのレイムさんにサティヤさん・・・もしかして仕組みました?」
紅茶に蜂蜜を入れてかき混ぜると赤い色が茶色に濁った。緊張で香りが良く分からない。対面している少年(かみさま)はきちんと膝を揃えて行儀よく何もない宙に座っている。
『サティヤと呼ばれる魁については、あなたの近くに転送したのはわたしです。本当はもっと早く引き合わせたかったのですがあなたの精霊や魁の親がなにかと妨害を』
「聞きたくなかった・・・!」
ダンジョンでサティヤさんが死にかけた直接の原因を作ったのはこの神様。しかし、あの迷惑メールを放置しなければこうはなっていなかったのだろう。シオンさんの方は何をしていたかは不明だが、原因の一端は間違いなく僕。
『レイムと呼ばれる魁については、わたしの敬虔な信徒であったのであなたと仲良くなるお手伝いを少々』
「もっと聞きたくなかった・・・」
頭を抱えるしかない事実。夢でお告げでもしたのかと聞くと、あなたに好意を抱くようにしました・・・って精神操作ですね! 友達できたー! 義務感も混ざってるだろうけどそれでも嬉しいなーと無邪気に喜んでいた頃に帰りたい。チート乙。レイムさんに申し訳が無さすぎる。さっきからの話でレイムさんに伝えるべき内容がヘヴィーすぎて心が折れそう。
他に干渉した人はいないのかという問いには、あなた悪意を抱いた人の意識を他にほんの少し逸らしましたという返事。コロナ騒動の時にそこまで叩かれていなかったのはこの神様のおかげだったらしい。
トトさんやアルフリートさんには個別の干渉はしていないそうだ。アルフリートさんにされてたら・・・泣いて謝り倒して去るしかなかったな。感情だけは本物でも、いつの間にか鋳型にはめ込まれてたら、それは洗脳と変わらない。僕の尊ぶ自由意志とは真逆の忌まわしい物。
『にしてもあの精霊、ラクリマと言いましたか、わたしがせっかくアピールしようとしているのを悉く妨害してくれました』
「・・・まだ、何かしたんですか」
『お薬を作っていましたよね? 効果を高めて、なおかつそのお薬を飲んだら一時的にわたしを称えたくなる効果を追加しようとしたんですけど、まったく干渉できませんできず・・・無駄骨でした』
はぁって溜息ついてる所悪いですけど、それ僕にとっては完全にマイナスの効果ですからね? 水の効果以上の代物が出来たら水売った事にケチが付くし、製作物に変な呪いを勝手に添加しないで下さい。グッジョブラクリマ。
「今後一切、僕への感情や製作物に勝手に干渉しないでください。これを守っていただけないならこの話は無しです」
『何故でしょうか? わたしのした事はあなたの為になったでしょう? 人は悪意を嫌い、好かれたり称賛されたいものなのでしょう?』
「サティヤさんの件は完全にあなたの都合でしょう。悪意は避けたいし、称賛も好意も欲しいのは事実です。でも僕は自分に身の丈以上の好意が募るのは嫌いです。好意から生まれた行動が僕にとって都合の良いものとは限らない。
神の奇跡大盤振る舞いの薬品なんて市場にどんな影響が出るか分からない。今は良くても、いつか僕が背負いきれなくなるものになる可能性が高い。だから、やめてください」
『・・・わかりました』
コミュ力以上の物投げられても取りこぼすだけ。落っこちたモノが決して悪意に転化しないよう随時操作し矯正するとしても、四方見回したら皆が一様に同じ笑顔とかホラーか悪夢なんでお断りします。
『あなたが望んだ相手や事象のみ、というのはどうでしょうか?』
「思考・感情操作に関しては僕がされたら嫌だから許容しません。薬品の効果の操作はちょっと考えさせてください」
『であれば、私から普段お渡しできる事は職業情報の提供や、あなたの望む人材をお教えするくらいしか無くなってしまいます。あなたに好意があるだけで、随分と事が運びやすくなると思うのですが・・・』
神様としては自分の下僕? が人に好かれていた方が事を成す上で非常に都合がいいのかもしれないが、そうしたいなら他を当たってくれ。都合のいい人かどうでもいい人のどちらかになるかを選ばないといけないなら、まだどうでもいい人の方が良い。
創造神様レベルなら諦めもつくが、この職業神様とやらに操作されるのはごめんだ。神様サーチエンジンで欲しい人材情報ゲット、それだけで十分。
「レイムさんは転職士だと知っていますが、サティヤさんはどういったユニーク職なんですか?」
『魁は夢紡ぎ。こちらは余り能力を活かしきれてはいないようです』
プライバシーも何もあったものではないが、とりあえず情報は欲しい。能力の内容は夢を渡ったり開拓したり、繋いだりする能力だそうだ。冒険者として有利な職業だと思えないが、どんなメリットがあるのだろう。
『転職士の行う転職は魂に負荷が少なく、またわたしたちにとって必要な部分への配置が大きくなります。夢紡ぎは・・・本来であれば魁がまず自身の夢を紡いでその能力を開発するのですが、いかんせんそれ以外の使い方をしているようで』
「サティヤさんのそれはどういう事でしょうか?」
『文字通りです。夢紡ぎは夢によって能力を開発・開拓する能力です。どうやら自身では無く他者に、本来の途以外で行使しています』
能力を開発する能力か。細かい話は後でまた聞くとして、魁とやらを職業にする為に何をすべきか聞いておこう。
「ユニーク職が職業として認められる条件って何ですか?」
『あなた方人類であれば、レベルをとりあえず300くらいまで上げていただければ』
「無理! いや、この世界なら可能なのか?」
『その条件を満たして職業に認められた魁は2人だけですね』
「他の方法は無いんでしょうか・・・?」
『ではまず一人子供を作ってください。他に方法もありますが今はこれが確実でしょう』
「まずって事は他にもあるんですね・・・」
いきなりの大事。職業の為に子供作ろうってセクハラか? 倫理的に問題有りじゃないのか? 他の条件など細かく聞いて話を詰める。聞けば聞くほど即断即決は不可能だと判断せざるを得ない。
「レイムさんと相談します!」
判断は保留だ!! 僕としてはオラクルこつこつ増やせればいい程度に考えてたのに。現状取扱注意の情報を知ってしまった。この事がどう転がっていくのか、僕には想像もつかない。
ルーツェリーア職業神様は心で呼んで下さったらすぐに来ますと、どこかで聞いたような科白を残して消えた。
▽
深夜だし寝てるかなと思ったレイムさんに思念通話を飛ばすとすぐに繋がった。細やかな清流は風雅にくるくると紅葉と遊ぶ。
『レイムさんこんばんは。夜分遅くにごめんなさい。職業神様の事で進展がありました。今大丈夫ですか?』
『起きていたので気にしないでください。お聞かせいただけますか?』
『それが・・・できればどこか落ち着いた所で二人で話し合いたいんです。僕今家に居ませんし、思念通話では話しづらい内容で。レイムさんにまず相談しようと思って』
『内密に話し合いがしたいという事でしょうか』
『はい、もしかしたら神殿、いえ聖教国を揺るがしてしまう情報かもしれないです』
『あはは・・・本当に使徒様に巡り合えた事を感謝せねばなりませんね。私がその話を聞く最初の神官になるのでしょう?』
レイムさんかの笑い声は明らかに空元気だ。話してしまったらきっと止まるところまで止まれない流れに飲まれる。知っている、たったそれだけで部外者でいられなくなる。あと数日、いや70時間程度でトムも千波もやってくる。レイムさんにそれを伝え、どうするかは話し合って決める事にした。
今日、明日はアルフリートさんとソックスに時間を割きたいから11日の夜に約束を取り付ける。12日の夜が満月で蘇生関連業務と、翌日13日は蘇生されたついでに転職と相談をしていく人で溢れる為時間が取れないそうだ。
『トトには伝えましたか?』
『あ、まだでした』
明日の朝で良いですよねと言ったら、すぐにしてください、拗ねられますよと言われ、それもそうかとお礼を言って接続を切る。
トトさんに精神音を飛ばすとこちらもすぐに出た。暗闇に蝶。パチパチ爆ぜる篝火はいつもより勢いがある。同じように断りを入れてトトさんにも友達が来る事、職業神様の事で進展があった為レイムさんと相談する事を伝えた。
『レイムさんといい働きすぎじゃないですか?』
『普段はこんなに働いてないから大丈夫!』
『トトさんはこの展開をどこまで見通していたんです?』
『ちょっと人に見えない物が見えるだけで全能じゃない。人の心なんて向き合う相手の指先の動き一つで変わる。神の全てを理解する事能わず。そしてこの世界そのものが神。だから全部は分かりようも無いよ』
トトさんは本当は新しい使徒様の面倒も私が見たかったんですけど! と非常に悔しそうに零す。演技がかった言い方にくすくすと笑ってアルフリートさんがいるから大丈夫ですと答えたら、帰ったらお土産話を聞かせてねと優しい声が響いた。
▽
あっちにこっちに走り回って、アクシデントに誤解とトラブル。おまけに神様からの爆弾が炸裂。緊張しきりの日がようやく一段落。
羊の姿になってブラッシング用の突起の付いた板を取り出し床に立て、大きな突起と小さな突起の並んだ面に体を擦りつけてほぐす。もみくちゃにされたままで寝たくない。腹回りは別のブラシをどんと床に置いてそれにまたぐりぐり。ブラシの生えたボードの反対の面に回って毛を整える。
ティーカップの中の紅茶は両方とも空になっていた。それらも片付け、人に戻り横になって明かりを落とす。真っ暗にならない空間がどうしても人の家だと教えてくる。目を閉じたらあっという間に望んだ暗闇に潜って夢に浮かんだ。
※
小さな小さな白い花が点々と咲く青々とした芝生と、うるさいばかりの夜空が何処までも広がっている。
ここは夢の回廊。OTLでは精〇と時の部屋、ログアウトゾーン、訓練場など様々な言い方をされていたが、現世と夢の狭間と思えばいいだろう。ゲームの最初のキャラクター作成もここで行われていた。ゲーム内では眠る事でこの空間に訪れる事ができていた。
司「この世界にも回廊あったんだー!」
芝生を嬉しそうに駆ける人間が一人。編み込んだ薄紫の髪をたなびかせ、服は神官風のいつもの装備。広い空間はある程度自由にカスタマイズができる。芝生の上には特徴的なオブジェクトが3つ、それぞれの場所に司の変身形態がのびのびと寛いでいた。
豹「あ、僕がやっときた」
豹は一声かけると熊の毛皮の敷物の上で薄汚れたネズミのぬいぐるみを齧り始める。バスバスと穴の開く音は聞こえるが、ぬいぐるみは無傷だ。その周囲には触り心地の良さそうなクッションが散乱している。
鳥「きたー」
鳥はガラスか水晶か、透明な枝で出来た大きな鳥の巣からひょこりと顔を出して司を見つめた。
枝は多色の内包物によって複雑な色合いを呈している。その巣の中はふわふわの綿毛やごつごつした原石に古びた本、ピカピカの骨など一見ガラクタにしか見えない物で溢れかえっている。
羊「いらっしゃい。僕」
羊はどっしりした大きな木の根元で宝石草の花冠をもそもそと食んでいる。食べた先から蕾ができて花が咲き、いつまでも尽きそうに無い。周囲に散る何種類もの花弁は残骸だろうか。木の傍の小さな池には青い睡蓮が咲いている。
司「で、君誰? 僕の変装姿だけど、この世界に来たから増えたの?」
司(仮)「はい、そうなんです!」
便宜上、司´とでもしておこう。こちらは3つのオブジェクトから少し離れた、この世界には不釣り合いな豪奢な椅子に黒いシャツを着た司が居心地が悪そうに身を縮めて座っている。
ここは夢の回廊。魔術を訓練するも良し、自分相手に話し合うも良し、戦うも良し。壊れた先からまた元通り。ただ通り過ぎるも有効活用するも自分次第。
司はモフモフけだまー!! と羊に向かって突進してダイブし、めぇぇーと鳴き声が夜空に散った。自分勝手な動物たちの宴が密やかに始まる。
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