Over the Life ~異世界変身冒険奇譚~

鳥羽

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第2章 司のあわただしい二週間

第59話 夢の中へ

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 司は羊に飛びつき、だらしのない顔と声で腹回りのもふもふに顔を埋めて堪能している。されるがままの羊はゆっくりと話しかけた。

 羊「ホームシックは少しは治まりましたか?」
 司「ホームシック・・・言われてみればそうだね」
 羊「人も土地も恋しがるほどの記憶が無いから、残るのは世界くらいしかないでしょう」
 司「だってあの世界のあの時代のあの場所に生を享けた事は僕にとってとても・・・上手く言葉に出来ないけど、とても大事でありがたい事だった。逆に言えばそれくらいだし」

 顔をすりつけたままもそもそ話す仕草は非常に甘えたもので、羊はそれを気にすることも無く話を聞き続ける。その二匹、司の背後からそろりそろり音も無く近づく薄紫の豹が一匹。身を低くし、ひょいひょいと尻尾の先を振って飛び掛かるタイミングを窺い、吐く息と共に飛び掛かった。
 うひゃあと悲鳴を上がり、豹は背中に被さってにやにやとご機嫌に肩口に頬ずりをする。

 豹「僕~処女卒業おめでとう! 次は童貞卒業かな?」
 司「自分だけどもうやだこの豹」

 変身形態の動物たちは司の分身ではあるがそれぞれ性格がかなり異なっていて、羊は基本的に大人しく受容的。この豹はかなり行動的で良く言えば正直で直情、悪く言えば無責任で我儘の気分屋。

 豹「で、で、感想は? 気持ちよかったよねぇ」
 司「同意を求めるな」

 豹は押しのけられると直ぐにどいたかと思ったが、身を捩った司を体を使って器用に芝生の上に倒し、そのままのしかかった。

 豹「もう最高。一回だけヤらせといて関係は継続。一緒にいるのにお預け! 相手を振り回す方法わかってる~!」
 司「別に、そんなつもりでやったんじゃない・・・」

 声は消えるほど小さい。豹は舌なめずりをして恍惚とした表情で溜息を吐いた。

 豹「こういう風に押さえつけられて射貫かれた感覚、まだ覚えてるでしょ? ぎしりと軋む手首と執着にゆがんだ喜びを覚えたでしょ? 最後は切って逃げたけど、後ろからあっついの中に出されて侵されていくのが気持ちよかったねぇ。逃げ回ってばかりの僕が首を噛まれて捕まるのは自分ながら喝采だよ! 
 そうそう、しっぽ遊びも刺激的で良かったなぁ。腹を晒してファックミー上等、正しさとやらで何を守る気? 一人って事は無敵に自由なんだよ。素直になりなって」
 司「コミュニティの常識から著しく逸脱した行為は顰蹙を買うのはどの社会でも同じだ。飽きられたり、呆れられたりしたくない・・・」
 豹「その時は次、次。肉体があるんだから五感を満たして今の悦楽を味わいなよ」
 司「この刹那的快楽主義者め」
 豹「理性も常識も吹っ飛ばして獣の姿でまぐわうのも―いったぁっ!」

 長い尻尾の先に鳥が齧りついている。豹は振りほどこうと尾をばたつかせ地面に叩きつけるが鳥は剝がれない。しばらくそうやっていたが業を煮やしたのか叩きつけた勢いのまま振り上げ、尻尾を鞭のようにしならせて背の上に持ち上がった鳥に噛みついて引きはがした。ペッと吐き捨てられた鳥はきゃっきゃと笑い声をあげる。
 司はずるずると豹の下から抜け出した。

 鳥「遊ぼうよ。人も多いんだしさ! ね、君もそう思うでしょ?」

 鳥は首を傾げ、二回瞬きをした。この鳥も無邪気で正直だが、やりたいことは遊びとゲームに偏っている。話し合っていてもいつのまにか何処かに飛んで行っていたりと一番自由なのがこの鳥だ。

 司´「えーっと・・・皆さんに任せます」
 近くに来ていたもう一人は、困惑顔でそう返す。

 豹「もー。やりたい事とか、話したい事ないの?」
 羊「その為に来たんじゃないのですか?」

 ぎくっと身を強張らせた司´はおずおずと話し始めた。遊ばないのー? と鳥は首を左右に揺らす。

 司´「サティヤさんの事、どう思ってます?」
 司「どうって・・・特に何も」
 司´「特に何もって・・・ほら、好きとか可愛いとか、ヤリたいとか、夜中に襲いに行くつもりだとか、隙があったら攫うつもりだとか」
 司「可愛いなーとは思うよ。モテるって大変だろうなとも。好きか嫌いかは碌に知りもしないし判定不能。性欲は間に合ってます、むしろこれ以上悩ませるな。兎は素晴らしい。まさに神の造形。もふもふパラダイスの偶像(アイドル)になれるクオリティ」

 一度大きく手を空に広げ、手を組み目を閉じる姿は祈りを捧げる敬虔な信者の様だ。法悦に浸っているような顔で考えていることはラビットファーとモチ触感だが・・・。

 暇だったのかそんな司の頭の上に鳥が飛び乗り、アホ毛を抜けない加減でついついと咥えて引っ張った。

 司´「じゃあ、サティヤさんにヤらなくてもいいって言ったのは本心なんですか? 格好つけたいだけじゃないんですか?」

 手を解き司´に向き直る。鳥は不満気に編み込まれた髪を引き出して遊んでいる。

 司「正直なんでもいい。身を慎むのも本人の自由。逆に「ボクは新世界の女神になる!」とか言って恵まれた容姿も評価も神の恩寵すらもフル活用、人類皆兄弟計画を実行して直結しまくり産めよ増やせよハーレム帝国築いても、それが心からやりたい事なら応援する。何よりそれはそれで面白そうだ。千波なら言われなくてもやりかねん。
 誰が何しようが、その世界が本当の自由で満たされればそれで良いよ。カオス大歓迎」

 司´「そこまでは、しないと思います・・・」
 司「サティヤさんの事ばっかりだね」

 ん・・・待てよ、どっかで聞いたようなと司は左上を見つつ顎に手を当てて思案し、目を細めたまま変装姿の司に視線を移した。

 司「・・・サティヤさん?」

 サティヤ「なんでばれるのー!?」

 ※

「侵入者は排除しましょう。賛成される方は挙手をお願いします」
「べっつにいいんじゃない?」
「みんなで遊ぼうよー」
「反対多数により提案は否決ですね」
「自分の夢なのにこのままならなさといったら」
 豹は欠伸混じりにどうでも良さげ。鳥は司の髪を立体的に膨らませ、形をデザインして楽しんでいる。羊は事もなげにあっさりと案を流す。

「夢ってもっとめちゃくちゃで支離滅裂なのは普通じゃないんですか? なんでボクって分かるんですか?」

 サティヤはその場にへたり込み、もー訳わかんない、なんでこんな事にと零しながら芝生をぶちぶち千切る。司は同じようにしゃがみ込み質問を投げかける。どうやら夢の世界では言う事成すことは無茶苦茶ではあるが相手は嘘が吐けなくなるそうで、夢に侵入しては聞きたいことを聞き出していたらしい。

 潜られた方はその事を覚えていない為、多少の気持ち悪さを我慢して情報収取に勤しんでいたようだ。

「情報収集は自衛の為に仕方なく始めました。あとは危険なんですけどよく母さんの夢に潜ってます。あなたは誰なんですか? 中堅以上の冒険者でその体。6生なんて信じられなかった。名前まで隠す。怪しすぎたから確かめたかった。どうして、普通に話ができるんですか? この動物たちはあなたですよね? なんで、こんな身勝手なのに仲良くできるの?」

「僕は司。勝手な神の導きで引き合わされたから教えておくよ。怪しいのはよく分かってるから非難はしない。身勝手で弱虫で、我儘でどうしようもないのも僕の一面で、根本的な部分は同じだなーって思うから。あとの質問の答えは時が来たらいずれ。今はまだ教えられない」

「隠し事されるなんて・・・母さんみたい。ねぇ、教えてくれないのはひとまず諦めますから、一緒に母さんの夢に行ってくれませんか?」

「シオンさんの夢がどうかしたんですか?」

「お願い。ボクと一緒に化け物と戦ってほしい」

 ※

 サティヤは苦し気に事情を説明する。いつの間にか動物たちもその近くに集い、興味津々に話を聞いている。

「最初は父さんと母さんが仲良くしている夢だった。夢でも死んだ父さんに会えるのは楽しかった。でも段々と幸せに際限が無くなっていった。筋が通ってなくても、その時はそれが普通で、幸せな夢を見るほど起きた時の差に落胆して、覚えていない筈の現実の母さんの方がボク以上におかしくなっていった。
 これじゃだめだって、夢の中で母さんを説得しようとしたけど、頑張った・・・頑張ったけど、無理だった。仕方なく父さんを剣で刺して殺した。どうせ夢の中だって」

 芝生を握る拳は白く、カタカタと小刻みに震えている。

「母さんはそれから暫くは、突然思い出し笑いをしたり、どこか遠くぼんやりと夢を見ているような表情をしなくなった。ああ、これでよかったんだってその時は思った。でも、また前と同じ様な顔をし始めた。だからまた夢に潜った。そしたら、前よりもっとひどい事になってしまってた・・・」

 涙がぽたぽた地面に落ち、ぐすぐすと鼻をすすってサティヤは司の姿のまま泣き出した。それを見た羊は徐に立ち上がりサティヤの斜め前に座った。

「多少汚れた所で直ぐに元に戻ります。そんな硬い袖じゃなくて、こっちの方がふわもこですよ」
「現実でも夢中でもふったでしょ? 夢の中でも甘えていいよ」
「ありがとう・・・」

 羊にしがみ付いて泣き続けるうちに司の形の被膜が溶け、内側からサティヤが現れた。・・・何故か魔法少女スタイルで。オレンジが基調でパニエで膨らんだスカートの裾から花柄のレースが覗いている。全体的にフリルが過剰。バックリボンは裾よりも長く、司はこれ踏んだらコケるだろと無粋な事を思う。

「戦闘で遊ぶなら魔法戦隊ー!」と鳥がぴぃぴぃ司の頭の上で歌う様に囀る。司のオタク趣味を如実に反映している。このデザインも某魔法少女とゲーム等がミックスしたものだ。うちの鳥が申し訳ございませんと司が小声で謝るが、当のサティヤは気づいてもいない。

 落ち着くまでの間手持ち無沙汰になった司は、鳥と豹と言葉遊びを始めた。

「できるなら 24時間 寝ていたい はい、鳥さん」
「夢は幻実 現世も夢 はい、豹さん」

 5・7・5に別の誰かが7・7で返す。下の句に入ったワードをまた使い新しい上の句を作る。しりとりと川柳が混ざったような、字余り字足らず、季語も必要としない他愛もない遊び。

「現世の 渡るかの人 追いすがる はい、司」
「指届かずも 多生の縁 はい、鳥さん」

「縁繋ぎ 皆も一緒に 遊ぼうよ はい、豹さん」
「コスプレエッチで 理解を深め はい、司」

「隙あらばエロワード突っ込むの止めない? ありのまま 理解を超えた 露出狂」
「下らないのがいいんじゃないか。 付いてたんだね ちいさい粗品ww あ、鳥さんごめーん」

 ぷ、くくく・・・とくぐもった声が羊の方から聞こえる。

「もう・・・泣かせてくれる気あるんですか」

 人が悩んでるのに、この人たちなんなのと、しゃっくりで引くつく腹を抱えてサティヤは泣きながらひぃひぃ笑った。

 ※

「殺したはずの父さんは、夢にまた出てきた。その胸にはボクが刺した剣が突き刺さって、血がだらだら流れてるのに、まるで何も刺さってない様にそれは動いてた。夢の中の母さんはそれをおかしいとも思わない。
 刺し殺した事で最初の頃のようにもうそれを夢だとはっきり認識できるようになっていた。そして抵抗しない父さんをまた殺した。次は崖に突き落として。そして暫くの間また母さんは正気に戻る。それを何回も繰り返した」

 しかし、サティヤのやってきたことは全部裏目に出て、状況は少しずつ悪くなっていった。もう一人ではどうする事もできないほどに。

 崖から突き落とされ、骨が突き出てあらぬ方向に曲がった体。それを愛おしそうに抱きしめ、父の名前を甘く呼ぶ母の姿。刺され、砕かれ人の姿からどんどん離れていった幻影はとうとうシオンを丸のみにした。それから、サティヤの化け物との孤独な闘いが始まった。

 サティヤは戦闘経験もある冒険者だ。最初は一人でも勝てる化け物だった。しかし、勝って暗闇から救い出した筈のシオンはまた時間がたてば夢の中で化け物に飲まれている。サティヤも戦闘に慣れ強くなっていったがそれ以上に化け物も強化されていき、とうとうサティヤの方が夢の中で殺されてしまうほどに育ってしまった。その日の目覚めは最悪だったと憎々し気に言う。

 潜られたシオンは夢の中の事などはっきり覚えていない。ただ幸せな夢だとしか感じていなかった。

「一人じゃもう勝てない。でも5人居ればきっと勝てる。だから・・・ボクと母さんを助けて・・・」
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