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第2章 司のあわただしい二週間
第60話 大蛇の夢
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「いいよ」
「面白そうじゃないか」
「マジカルパワーで問題解決! 五人で戦闘楽しそう!」
「僕も異議はないです」
「まだ説明も終わってないですけど・・・本当にいいんですか? 夢の中で死んじゃうかもしれないんですよ?」
「この子たちと戦闘して夢の中で死んだことくらいあるよ。でも、死んでも起きるだけ、ただの夢だ。サティヤさんの問題は僕の問題でもある。だから協力したい。動機に納得は出来ないだろうけど、本当だよ」
「ありがとう・・・でも、引かないんですか? 夢の中であっても親を殺すなんてあり得ないとか、おかしいとか・・・」
「親の形の幻だ。本物があるなら追い詰められて痛がるサティヤさんの心の方。何で痛がっている人に石ぶつけないといけないのさ。もし向こうが本物だったとしても、僕はサティヤさんの味方。思ったんだけど、なんで倒す事に拘るの? 多分、僕たちが協力して倒してもまた同じ事になる。違う解決を模索しようよ」
「あれ、何で・・・そうしなくちゃいけないって思い込んでたんだろう。思い出した、夢から覚めると他の方法を探すんだ。でもここに来るとすっかり頭から抜け落ちて、そうするしかないって・・・そうだ、そうだよ、繰り返さない、別の道があるんだ。化け物の説明の前に―皆さん、そんな服来てました? ボクも何なんです? この風俗服・・・」
うげぇと顔を顰め、ヒラヒラしてきもい・・・売春はしない主義なんだけどな・・・とサティヤはあぐらをかき、文句を言いながらハイヒールを脱ぎ捨てた。芝生の上に落ちたオレンジ色の靴はふっと消え、また装備された状態で復活し、それをみたサティヤは唖然と足を眺めている。
「おい、鳥さん。これはどういうことだ」
「ある程度破損したり脱いだら元に戻る安全設計! それに魔法戦隊って言ったよ? 夢の世界ならそれに合った衣装の方が攻撃力も防御力も上がるからこれの方が強い!」
司の頭上の鳥は青と黒のツートンのベスト、角ばった共生地の蝶ネクタイをいつの間にか身に着けている。豹はまぁコレもコレでいいかと赤いバラの巻き付いた同色の鎖帷子をふんふん嗅いだ。羊の白い角は銀色の鎖と細かな宝石で装飾がなされ、胴体の羊毛にはパステルカラーで星やハートが描かれている。
司は足と肩が全開の黒いワンピースとウエストまでのマントを着ていた。貧相な尻のボリュームを補う様に別の生地が腰回りの側面と背面を覆っている。コルセットはガーターベルトでロングブーツに繋がれ、平らな面を更に強調。ボンデージだと・・・実用品じゃないなら速攻脱ぐのに、こんな衣装を夢で着る羽目になるとはとこちらも非常に不満そうだ。
二人は気づいていないが全員しっかり化粧も施されている。泣いても濡れても擦っても大丈夫、正しく夢。
輪になってサティヤの話を聞く。今までの変化、共通点、その時に思ったこと。洗い出す、比較する。答えは分からないまま、それでも話し合う。時折動物たちから夢の中での戦闘のアドバイスが飛び出す。そんな事僕も知らなかったよと司が非難し、だって聞かれなかったよ、知りたかったの? と鳥が不思議そうに返事をした。
※
「サティヤ、今日も来たんだね。お友達も一緒なんて初めてだ」
温かな日差しの降り注ぐ庭園。バラにクレマチス、ペチュニアと紫陽花。パーティー会場に置かれている様な大きな円卓が5つ並び、テーブルクロスは光沢のあるアイボリーのベルベットで季節感も現実感も無い。机の上には3段のケーキスタンドと華やかな香りのする紅茶が並べられていた。
出された物を食べると飲まれると前もって注意を受けていた為、席に着きはするが手を付けない。鳥は一度椅子に乗り、そこから更に机に飛び乗った。それを気にも留めず主人は紅茶に口を付ける。その人の白く長い髪は緩く結ばれ、性別をあまり感じさせない所がどことなく司と似ている。
「父さん、いい加減母さんを返して」
「シオンがいいって言ってるんだからいいじゃない」
「これは、母さんの夢だ!」
「サティヤさん、落ち着いて。違う道を探すんでしょう? ――ん? この蛇は?」
肩を叩き、落ち着くように促すと40㎝ほどの黒い蛇がするりと司の太ももの上に登ってきた。ひんやりとしたその蛇は首を首をもたげチロリと赤い舌を出した。ふーっと一回サティヤは息を吐き、また父親と言葉を交わし始めた。今まで一人だった時にはすぐに激昂したり、逆に幼児に返ったように甘えてしまったりと感情が安定しなかったが、押しとどめてくれる人がいるなら違う方法が取れる。
「こんにちはーすごく綺麗な蛇さんですねー。触っていいですか?」
こくりと頷き了承した蛇を司は可愛がる。これの守備範囲は広い。ツチノコだろうが鰐だろうが構わず撫でる。もちろん嫌がる相手にはしない。綺麗、可愛い、気持ちいいと褒めながら機嫌よく蛇を撫で回す。灰色の目は満更ではなさそうだ。
またサティヤの語気が荒くなる。それを羊が近くにすり寄って撫でながら話すといいよと言い、モフに気を取られてはわぁ・・と一気に気が抜けた表情になった。柔らかく気持ちの良い毛皮をもふりながら怒りを維持することは大変難しい。機嫌直してよーと羊にすり寄られた者は大抵すぐ陥落する。アニマルセラピーという物があるが、この羊は行動はセラピーと表現する事はできないほど実はとても凶悪。モフによる受容と共感には依存性があるのだろう・・・。羊は分かってやっている。人畜無害そうな外見ともふに騙されてはいけない。
暇だなーと豹はひょいっと椅子から飛び降り、ガルデニアの方に向かう。撫でろと手に頭を擦り付けているが、こっちは羊と違ってただの気分。そんな豹をその人はおざなりに撫で、それが不満だったのかぺっと手を尻尾で叩き豹はテーブルの下に消えた。
「真面目に話をするのも飽きてきた。・・・出て行ってくれないかな。ここはシオンの世界。現実でもここでも勝手に入ってきた侵入者で抑圧する邪魔者なのはサティヤ、君なんだよ?」
「母さんはそんな事思ってない! この幻め! そんな事を言うお前は父さんなんかじゃない!」
「はぁ・・・受け止められないなら仕方ないか」
どぼどぼとティーポットから注がれる紅茶は何時までも尽きず、カップから溢れた液体はテーブルを赤く染め、滴ったそれは整えられた芝をジュッと音を立てて焦がした。話を続けた事で飛び出してきた言葉はとても受け入れ難いもので、それをサティヤは反射的に否定し、今までとは違う展開に焦りといら立ちのままに机を拳で叩く。ケーキスタンドは倒れ、乗っていたお菓子が散らばった。
散らばったお菓子は炎上。紅茶の赤が広がって、染まった場所から崩れ落ちる。ぼろ、ぼろっと無残に机は形を無くし、植物は萎れ、白い煙と焦げる音と共に黒は拡大していく。陽は反転、空から氷の槍が降り注ぐ。司は蛇を胸元に庇ったが、いつの間にか消えていなくなっていた。全員それを回避し、陣形を整える頃には空は灰色の雲が覆っていた。
ガルデニアが黒い靄に包まれ、それが黒い箱の形になった。箱は宙に浮かび、箱が穴となりそこから黒い大蛇が這い出る。小さきものと睥睨する真っ赤な目の銀の宝冠を被り、体にはガーデニアを巻き付けている。花はけたけた笑ったり、悲鳴を上げたり、言葉とも言えない濁音をまき散らしている。黒い箱は小さく砕け、キラキラとした霧となって蛇を薄く包む。
「うわ・・深層ボスレベル・・・体感だけど」
「前より大きい・・・何で!」
人の幅ほどある太さの尾が振り上げられ、サティヤをめがけて躊躇いも無く振り下ろされた。横に飛びずさって回避したが、それめがけて薙ぐように尾が追う。全員宙に飛び上がり回避したが、執拗に蛇はサティヤに攻撃を加える。目から石化と麻痺を齎す赤い光線が飛ぶ。
その他にも魔術での遠隔攻撃に、近接すれば花からの悪口の精神攻撃と蔓のように見た目以上にしなる枝による巻き付き。絡みつかれればそのまま蛇に巻き付かれて息の根を止められる。黒い霧も魔術攻撃の威力を薄める効果があり、吸うと瘴気に侵され放置すると精神異常を引き起こす。
移動速度も目で追える程度、物理攻撃は噛みつきと巻き付き、尻尾での薙ぎ払いなどとそれ程でもないが、多様な魔術に搦め手と状態異常が特徴の正面から戦いたくない相手だ。
「サティヤさん、支援はするから回避に専念して!」
「分かった!」
サティヤは双剣を召喚し、噛みつきを余裕をもって避ける。ぎりぎりに避けると枝に巻き付かれる恐れがあるからだ。
豹のみが影に潜り、残りは宙に浮かんでいる。PT構成は蘇生の行える司をメインヒーラー、バッファー時々デバフのサブヒーラーが羊。魔術火力とサブバッファー兼ヒーラーが鳥、物理火力と妨害が豹。避けタンクにサティヤ。加護はシオンの夢に訪れる前に付与済みだ。
サティヤは魔術と双剣による物理攻撃の遠近兼ねたアタッカーで、獣人である為魔術の威力は低いが、優れた身体能力と感覚による俊敏な動きと手数で攻めるタイプだった。
プロテク、ヘイスト、マジックアップの光が3つ羊から放たれる。司はリジェネとホーリーヴェールを全員にかける。一人であれば変身しつつ司が全部こなす事が分担しているため余裕をもって行える。サティヤが複数人で挑む事が初めてなのでヘイトの把握が優先される。
サティヤはヘイトスキルが使えない。普通はヘイトという概念がどこまで通用するかで戦術が異なってくるが、メインタンクすらヘイトスキルを使えない状況では、蘇生ができる司が命綱になる。
「黒い霧の所は魔術が通らないので・・・って通ってる?!」
「さくさくっとぉー!」
鳥は上空から輝く羽を飛ばして花を白く燃やして浄化している。司は下手な魔術職より転生回数が多い分強い。白い炎が体中に散り、忌々しそうに蛇はのたうち回る。ガードが空いた部分に豹が攻撃するが、ダメージは雀の涙だ。全体的に火力が不足している。
「鳥さん、そんな事もできたんだ・・・」
「だって司には効かないしー。司も練習すればできるようになるよ。この世界いいねー。もっといろんなことができそう!」
花の燃えた所もしばらくすればまた茂り、防御が復活する。しかし、燃やされる事にいら立ったのかサティヤばかり追っていた蛇は急に矛先を鳥に変え、振り向きざま調子に乗っているそれを丸吞みにした。
「あ」
「鳥さーーーん!!!」
ごくんと丸呑みにした蛇はビクビクと体を痙攣させ、うなだれてうぇっと・・・土鍋を吐き戻した。どうやら鳥は死んでしまった様だ。さっそくの一乙に司は溜息を隠そうともしない。
「発情したらお前のせいだからな! って僕じゃないか・・・」
空しくなりながら蘇生の白い雨を呼び土鍋に浴びせると、中からパカっと鳥が復活し、土鍋は消えた。
「ふっかーつ! ごめんごめん、調子に乗っちゃった」
「豹と連携して攻撃できそうな場所優先でお願い。じっくりでいいから」
蘇生ペナルティは夢世界にはないらしい。心底ほっとした司は気を取り直してバフを付け直し指示をする。羊から鳥にマジックアップは飛んでこなかった。様子を見つつ付与するのだろう。加護は起きている時と同じで死んでも消えていなかった。
何故土鍋を鳥だと判断できたのか。動物たちも司の一部でやっぱり引きこもりの性質を持っている。鳥は土鍋、豹はトラベルケース、羊は二枚貝。出そうとすると反撃に遭うため、放っておくのが一番。どんな心の中だろうと、一人の時間が欲しいという主張はまんま司だ。
戦闘が再開した。最初のように一気にダメージを与えない限り、メインターゲットはサティヤから外れない。連携はほぼ全員司のためスムーズだ。地面は氷で覆われ、雷撃が這う。炎が一線し、サティヤは上に逃れる。赤い光線を打つ間は余り動かない。即座に頭を羽で焼き、回避したサティヤは双剣で蛇の後頭部に一撃入れ離脱。死亡しない事を第一に、じりじり傷が増えダメージが蓄積されていく。
そうして攻撃され続けた蛇は全員が脅威だと認識した。
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