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第2章 司のあわただしい二週間
第61話 サービスショット?
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※
「全員散開! ヘイト状況が変わった! 何か来るよ!」
ヘイトに敏感な羊が叫ぶと全員空中に散らばる。黒い霧は大蛇の体から離れ黒雲となり、白い柱が天と地を一瞬に結ぶ。雷鳴が劈き、氷に覆われた地を砕いた。コールタールの様な雹が降り注ぐ。負けじと騒々しさを増す花々のけたたましさ。
そんな暗く荒れ狂う外界を他所に歓喜の歌が、天上の音楽が司の高らかに脳内で響き渡り、体からエネルギーが渦巻いて突き抜ける。雹に雷音が心地よい万雷の拍手の様に感じられている。ぐちゃぐやの喚きすら心地よい。
(嵐は好きだ。まやかしや半端なものはここで振り落とされるといい)
夢の中では蘇生で発情はしないが気分が相当にハイになるようで、アッパー系の薬でもキめたかのようにふふふと笑っている。普段から螺子が何本か抜けているのに今はそれに輪をかけてぶっ飛んでいる。踊らずにはいられないリズムが司を動かし、そしてこの状況もっと面白くならないかなー? どうやったら面白くなるかなー? と微笑みながらサティヤを庇いつつ情報を入力、勝利より楽しさを優先する結論を下す。何をすれば解決か分からない為、今回は考えられる手段を兎に角使う方針でいたのが大きい。
元よりこの戦闘は化け物を倒す事を目的とはしておらず、弱らせた後に止めを刺すことなく、まだ分からない解決方法を探すことを最優先目標に設定してある。今回は届かなかったとしてもその糸口を探す、だからこれはただの試行で、目標にたどり着くまでのルートをより楽しいものにしようとハイな頭は考えた。
現状宝冠の大蛇は羊の言った通り本能的なヘイトによる即時の判断と、脅威度から攻撃対象を決めるような冷静さの両方を見せ始め、サティヤはターゲットからほぼ外れるようになった。
今は羊の提案した作戦から羊の背に鳥が乗り、鳥砲台付き羊回避盾を実行中だ。羊はショートテレポもバリアも使え、当社比耐久があるので易々とは死なない。雨が降り出してから鳥による浄火の翼の威力が少し落ちている。雷撃は散発的に発生し、当たればサティヤは一撃だろう。
「はあっ!!」
「羽ガトリングー!」
サティヤは双剣で花が焼かれガードの空いた場所を切り刻む。サティヤも複数属性の魔術を使用できるが、霧が剥がれた分防御力は落ちているとはいえ今回は大蛇の魔術耐性が高すぎる為魔術攻撃はほぼ諦め、魔力を身体と武器の強化に回している。
鳥は回避も魔力管理も羊にまかせ支援を十全に受けながら、火力枠だけどタゲをもらっていい! とまた調子に乗って翼を振って白く輝く羽を飛ばしまくっている。
魔力量に純度、操作力、申し分無い。ほぼ常に体のどこかしらの花を浄火の炎で焼かれては茂らせる事の繰り返しと流血は確実に蛇の体力と魔力を少しずつ奪っていく。
黒い雹に打たれても、ホーリーヴェールと加護、聖なる魔法少女衣装の守りによって状態異常は発生していない。
司は不満だった。個々人の回避能力に依存しているこの状況が。安定して削れてはいるが、ボスは体力が減れば発狂したり大技を使うのがお約束。タゲはねから状況が一気に崩れる可能性も、火力不足で競り負ける可能性もある。物理火力が欲しいがそれに関してはあまり役に立てない。飛行しないのであれば遠距離から一方的に魔術攻撃するのはどうかという提案は、逃げ回ると向こうも飛ぶようになるからあまり距離は取らない方がいいという事で却下されている。
回復も羊鳥組は稀に攻撃をもらうが自己回復で間に合っていて、サティヤと豹はタゲられる事が少ない。プロテク・ヘイスト等の付与を飛ばしてるだけでタゲは来ない、暇。ぶっちゃけ今のお仕事第一は羊の魔力交換で魔力を提供するただの回復ポーション。しかもこの夢の世界、魔力上限が現実よりかなり増える。鳥から教えてもらった必殺技も試したいのにまだゴーサインが出ない、面白くない。
「羊さーん、どんな感じ?」
「良い感じですよ! 鳥さんは魔力足りてます?」
「ばっちりー!」
石化麻痺光線は念のためバリアを張りながら回避。タンクの羊は鳥に向かうヘイトのお零れを集めている。その角は負の感情で白から灰色へ、徐々に黒く染まっていく。銀の鎖がシャララと揺れる。羊の必殺技は自分に向かう負の感情を溜める事で発動できる。普段の戦闘であれば一戦で集まる事などまず無い。今回は回避盾をしている事と、思いの他この大蛇の吐き出すヘイトが大きかったようだ。
「サティヤさん!」
「ぐ、くそ! はなせっ!!」
長く伸びたしなった枝がサティヤの足を絡めとり抱き寄せる。
『お前なんていなければよかったのに』
『くすくす・・・弱虫』
『あははっ! 本当に取柄見た目だけだねぇ!』
白い炎が梔子を燃やす。醜い悲鳴を上げぼろぼろと散っていく花弁に枝葉。一瞬の間に注ぎ込まれる悪口雑言。
硬直したままのサティヤの腰を掴み、付与を強めに皆に掛け、司は蛇から距離を取る。
「サティヤさん大丈夫?」
「ごめんなさい・・・もう慣れたと、思ったんですけど。大丈夫です、すぐ戻れます」
「サティヤさん、ちょっとやりたい事があるんです。協力してください」
「はい?」
キッと顔を上げ蛇を見たサティヤを大丈夫だと判断し、司は腰から手を放す。そして前に回り、がしっとサティヤの両手首を両手で握り、さっきの思いつきをにこにこしながら話し出した。
「やっぱり、こういう時は全員で戦った方楽しいと思いません? 大丈夫、サティヤさんにはできます」
「ええ??」
魔力をサティヤに循環、精神音を渡す。返事は光に満ちた突き抜ける青、ちりばめられた胸いっぱいの花。
『いけますいけます。神様の保証付き』
『意味不明ですよ。なにすればいいんですか?』
『この人呼んでくださいよ。僕経由で』
『うわっ・・・なんでこんな事できるんですか・・・』
イメージも名前も、ここなら伝わる。呼ぶ事、を繋げる。開いて明け渡す。
『足りないなら僕の使ってください』
『・・・遠慮なく使います』
何でできるってボクは分かるんだ。本当に分からない。ぼやきながら二人は目を閉じる。
最初から繋がっていた、導かれるままに場所をのぼり、伝って、サティヤはそれを引き寄せた。
バタンと開いた音のする方に揃って目を向けると、とてもとても古めかしい木の扉の間にアルフリートが召喚されていた。・・・お揃いの魔法少女スタイルで。
※
青いロングマントがはためき、同色のミニスカートが煽られ下から黒いパンツがちらり。清楚な白と青のセーラーは古典的な魅力がある。しかし足元は軍装にあるまじき白のピンヒールブーツ。
「ぶっほおっ!」
「アルフリートさん!」
司は飛び上がってアルフリートに抱き着いた。あー夢で逢えたらってロマンチックですねーととても呑気で戦闘中とは思えない。普段の司ならまずしない。だがここは夢の中で、しかも異常な程の幸福感に満たされている。
サティヤは・・・空中で腹を抱え突っ伏し、苦しそうにげふ、ごほとびくびくしている。しばらく使い物にならないだろう。
「夢・・明晰夢か」
「そうです。夢なんです。来てくれて嬉しいです。その魔法少女コスプレすっごく似合ってますよ!」
「お前は何だ、その恰好は。浮気、いや夢か、ならいい。コスプレ? なんの――夢なら・・・覚めてくれ・・・いや、覚めるな・・・」
抱きつかれながら自分の姿を確認し魂の抜けたような表情をするアルフリートに、脱いでもまた自動復活しますからねーと追い打ち。今の司は本当に似合っていると思っている。きっと素面でもコレはアリと言っている事だろう。
「何故私はこんな目に遭うのだ? 前生か? 前生の行いが悪かったのか?」
「僕たちがこんな目に遭っているのはあの大蛇の所為です! 一緒に退治しましょう! あ、でも止めは刺しちゃいけない決まりです。ミッションは弱らせて捕獲です」
「そうか、あの蛇の所為か・・・!」
「そうです。全部そうです」
そういって司を押しやり吶喊するアルフリートの背にバフを最大限掛ける。白い光が幾筋か吸い寄せられ消える。怒声と全力の殴り。蛇の悲鳴が世界に広がった。
「・・・酷い責任転嫁を見た」
「関連が一ミクロンでもあれば責任の分散と転嫁はどこまでも可能です。敵武装勢力に対抗する為にこちらも武装したら、その武力を配備した原因は相手に有ると言っても嘘ではないでしょう」
司はこの世界ではハイヒールが風俗関係の衣装というのは承知していた。そんな衣装を着せたのだ、頭がハッピーセット状態でも誹りを受ける可能性も理解していたので、原因を全力で敵におっかぶせた。
※
「この悪魔が!!」
アルフリートは蛇の下顎を蹴り上げる。鈍い音が数発続き、よろめく大蛇。罵倒も浴びせられるほどアルフリートの攻撃は苛烈になっていく。今こそ好機! とアルフリートに合わせ花を燃やす鳥。指示を無視した暴走があったが一度麻痺と石化をもらい、司に回復されてからは不満そうではあったが落ち着きを取り戻した。
大蛇も闖入者も最初は大いに戸惑っていたようであったが、与えられるダメージが無視できない物だと理解してからはヘイトスキルの影響もありタゲはアルフリートに固定された。雹雨は弱まってきたが依然として落雷が続く。黒いボールのような爆発物が突然死角に出現するようになったため油断はできない。
身の丈以上の大剣を盾にも使い、軽々と振り回すアルフリートが参戦してからは総合火力も高まり状況は安定した。鳥は花を焼く事を中心に動いている。サティヤはアルフリートを見ては唇を引き結んでいた。司はそうそう、これこれと盾と火力と回復と補助の揃ったPTにご満悦だ。
「必殺技いっていいーー?!」
「全員命大事に! どうなるか分からないからね! アルフリートさんもタンクは一時ストップで!」
羊は叫ぶ。周囲を歪めるほど真っ暗に重々しかった角がふっと真珠の色を取り戻す。
「僕に寄越した分、お返しするね」
大蛇が大声を張り上げてのたうつ。転げまわり、頭を横にしてそれをがつんがつんと地面に打ち付ける。自分の尻尾で頭を繰り返しぶつ。潰れた花の花びらは無残に散って、黒い水面に白を漂わせる。
『もう、こんなもの捨ててしまいたい。だめだ、大事な物だ』
『守りたい、いらない』
大蛇は暴れながら支離滅裂な言葉を細く上げる。黒い口の中を晒し喚いている。
羊の必殺技は溜め込んだ負の感情の凝縮を敵にお返しして理性を剥ぐ物だ。大体は理性を失いその時にターゲットにしている相手しか見えなくなる。その間はどれだけ火力が攻撃してもタゲが剥がれないため一斉に攻撃を仕掛けるチャンスを作ることができる。この場合は魔獣相手では無かったのでどのケースにも該当しなかった。
「鳥さん、あの宝冠壊せます?」
「司ー、新技! やっぱりPTなら連携、必殺と言えば合体技だよね!!」
羊の言葉を聞き、るるるると歌い鳥が司の頭にとまる。司は収納の肥やしになっていた例の杖を召喚する。中央のエリクサー結晶を囲む流線のアイアン。絡む寄生植物。司は種を千切り一つは自分の首に、もう一つを鳥の首に付ける。くるくるとそれらは魔力を糧に蔓を這わし葉を茂らせ、頭上に青紫の花を一輪咲かせる。司が変身するように夢の中では動物も変身する。寄生植物も媒介も無くても良いが、あった方が繋がりは深まり易い。
「まえみえなーい。葉っぱも邪魔ー」
「鳥の時は邪魔だよね・・・」
「じゃあ一丁いきますか! 融合変身!」
かちゃりと鳥が杖に飛び乗ると、杖と鳥が白く輝き溶け合って一つの球になる。両手でそっと触れると右手が白い輝きに包まれ白と青紫の弽が装備された。卵は半分に割れ、殻は首に下がるストラと和風の神官服に、中から小さな鳥が羽ばたき、それが弽と同じ配色の2mを超えるの長弓と一本の矢になった。目の前に横たわった翼を広げたような弓と真白の矢を取り、弦に矢筈をかける。引き方は鳥が示してくれる。
自然な高さに捧げ持つ。白いストラが場を清め、足元に広い魔法陣が出現する。七色の光の帯がくるくると周囲を好き勝手にめぐる。加護が縁を結び、柔らかく輝く霊鳥の緑の翼が腰から一対顕現した。
目の前の光では無く引くことに集中、引き分ける。帯は弓に束ねられ、矢は光そのものになった。
充溢。ひと時を永遠と思えるほどの一致と、すぐ先にある離れ。
黒い海から生まれた黒い影が鎖になり大蛇の動きを縛る。豹の必殺技だ。数秒しか持たない。
鳥が導くままに矢を放つ。七つの光を纏い、従え、矢は至る。重き宝冠を打ち砕く事象。光が白く弾け、白い炎は体表を舐め、黒く染まった地を清める。力強い息吹きが何処までも飛んでいく矢の幻想を羽と共に追い、吹き抜ける後に散らばった緑の羽が植物となり、新たにこの地を祝福する。
ヘッドショット。輝かしき物は光に溶けた。
※
霧は失せ、天の階が差す。司の手の中にあったはずの幻は消えていた。白き弓も神聖な衣も弽も戻っていき、杖のみがあった。
射られた大蛇は動かずに地に伏せている。鳥はどこだと探すと蛇の傍ら一部が砕けて地に落ちた宝冠の中にいた。
「嘴罅入っちゃった」
「本体そっちかい!」
「全員散開! ヘイト状況が変わった! 何か来るよ!」
ヘイトに敏感な羊が叫ぶと全員空中に散らばる。黒い霧は大蛇の体から離れ黒雲となり、白い柱が天と地を一瞬に結ぶ。雷鳴が劈き、氷に覆われた地を砕いた。コールタールの様な雹が降り注ぐ。負けじと騒々しさを増す花々のけたたましさ。
そんな暗く荒れ狂う外界を他所に歓喜の歌が、天上の音楽が司の高らかに脳内で響き渡り、体からエネルギーが渦巻いて突き抜ける。雹に雷音が心地よい万雷の拍手の様に感じられている。ぐちゃぐやの喚きすら心地よい。
(嵐は好きだ。まやかしや半端なものはここで振り落とされるといい)
夢の中では蘇生で発情はしないが気分が相当にハイになるようで、アッパー系の薬でもキめたかのようにふふふと笑っている。普段から螺子が何本か抜けているのに今はそれに輪をかけてぶっ飛んでいる。踊らずにはいられないリズムが司を動かし、そしてこの状況もっと面白くならないかなー? どうやったら面白くなるかなー? と微笑みながらサティヤを庇いつつ情報を入力、勝利より楽しさを優先する結論を下す。何をすれば解決か分からない為、今回は考えられる手段を兎に角使う方針でいたのが大きい。
元よりこの戦闘は化け物を倒す事を目的とはしておらず、弱らせた後に止めを刺すことなく、まだ分からない解決方法を探すことを最優先目標に設定してある。今回は届かなかったとしてもその糸口を探す、だからこれはただの試行で、目標にたどり着くまでのルートをより楽しいものにしようとハイな頭は考えた。
現状宝冠の大蛇は羊の言った通り本能的なヘイトによる即時の判断と、脅威度から攻撃対象を決めるような冷静さの両方を見せ始め、サティヤはターゲットからほぼ外れるようになった。
今は羊の提案した作戦から羊の背に鳥が乗り、鳥砲台付き羊回避盾を実行中だ。羊はショートテレポもバリアも使え、当社比耐久があるので易々とは死なない。雨が降り出してから鳥による浄火の翼の威力が少し落ちている。雷撃は散発的に発生し、当たればサティヤは一撃だろう。
「はあっ!!」
「羽ガトリングー!」
サティヤは双剣で花が焼かれガードの空いた場所を切り刻む。サティヤも複数属性の魔術を使用できるが、霧が剥がれた分防御力は落ちているとはいえ今回は大蛇の魔術耐性が高すぎる為魔術攻撃はほぼ諦め、魔力を身体と武器の強化に回している。
鳥は回避も魔力管理も羊にまかせ支援を十全に受けながら、火力枠だけどタゲをもらっていい! とまた調子に乗って翼を振って白く輝く羽を飛ばしまくっている。
魔力量に純度、操作力、申し分無い。ほぼ常に体のどこかしらの花を浄火の炎で焼かれては茂らせる事の繰り返しと流血は確実に蛇の体力と魔力を少しずつ奪っていく。
黒い雹に打たれても、ホーリーヴェールと加護、聖なる魔法少女衣装の守りによって状態異常は発生していない。
司は不満だった。個々人の回避能力に依存しているこの状況が。安定して削れてはいるが、ボスは体力が減れば発狂したり大技を使うのがお約束。タゲはねから状況が一気に崩れる可能性も、火力不足で競り負ける可能性もある。物理火力が欲しいがそれに関してはあまり役に立てない。飛行しないのであれば遠距離から一方的に魔術攻撃するのはどうかという提案は、逃げ回ると向こうも飛ぶようになるからあまり距離は取らない方がいいという事で却下されている。
回復も羊鳥組は稀に攻撃をもらうが自己回復で間に合っていて、サティヤと豹はタゲられる事が少ない。プロテク・ヘイスト等の付与を飛ばしてるだけでタゲは来ない、暇。ぶっちゃけ今のお仕事第一は羊の魔力交換で魔力を提供するただの回復ポーション。しかもこの夢の世界、魔力上限が現実よりかなり増える。鳥から教えてもらった必殺技も試したいのにまだゴーサインが出ない、面白くない。
「羊さーん、どんな感じ?」
「良い感じですよ! 鳥さんは魔力足りてます?」
「ばっちりー!」
石化麻痺光線は念のためバリアを張りながら回避。タンクの羊は鳥に向かうヘイトのお零れを集めている。その角は負の感情で白から灰色へ、徐々に黒く染まっていく。銀の鎖がシャララと揺れる。羊の必殺技は自分に向かう負の感情を溜める事で発動できる。普段の戦闘であれば一戦で集まる事などまず無い。今回は回避盾をしている事と、思いの他この大蛇の吐き出すヘイトが大きかったようだ。
「サティヤさん!」
「ぐ、くそ! はなせっ!!」
長く伸びたしなった枝がサティヤの足を絡めとり抱き寄せる。
『お前なんていなければよかったのに』
『くすくす・・・弱虫』
『あははっ! 本当に取柄見た目だけだねぇ!』
白い炎が梔子を燃やす。醜い悲鳴を上げぼろぼろと散っていく花弁に枝葉。一瞬の間に注ぎ込まれる悪口雑言。
硬直したままのサティヤの腰を掴み、付与を強めに皆に掛け、司は蛇から距離を取る。
「サティヤさん大丈夫?」
「ごめんなさい・・・もう慣れたと、思ったんですけど。大丈夫です、すぐ戻れます」
「サティヤさん、ちょっとやりたい事があるんです。協力してください」
「はい?」
キッと顔を上げ蛇を見たサティヤを大丈夫だと判断し、司は腰から手を放す。そして前に回り、がしっとサティヤの両手首を両手で握り、さっきの思いつきをにこにこしながら話し出した。
「やっぱり、こういう時は全員で戦った方楽しいと思いません? 大丈夫、サティヤさんにはできます」
「ええ??」
魔力をサティヤに循環、精神音を渡す。返事は光に満ちた突き抜ける青、ちりばめられた胸いっぱいの花。
『いけますいけます。神様の保証付き』
『意味不明ですよ。なにすればいいんですか?』
『この人呼んでくださいよ。僕経由で』
『うわっ・・・なんでこんな事できるんですか・・・』
イメージも名前も、ここなら伝わる。呼ぶ事、を繋げる。開いて明け渡す。
『足りないなら僕の使ってください』
『・・・遠慮なく使います』
何でできるってボクは分かるんだ。本当に分からない。ぼやきながら二人は目を閉じる。
最初から繋がっていた、導かれるままに場所をのぼり、伝って、サティヤはそれを引き寄せた。
バタンと開いた音のする方に揃って目を向けると、とてもとても古めかしい木の扉の間にアルフリートが召喚されていた。・・・お揃いの魔法少女スタイルで。
※
青いロングマントがはためき、同色のミニスカートが煽られ下から黒いパンツがちらり。清楚な白と青のセーラーは古典的な魅力がある。しかし足元は軍装にあるまじき白のピンヒールブーツ。
「ぶっほおっ!」
「アルフリートさん!」
司は飛び上がってアルフリートに抱き着いた。あー夢で逢えたらってロマンチックですねーととても呑気で戦闘中とは思えない。普段の司ならまずしない。だがここは夢の中で、しかも異常な程の幸福感に満たされている。
サティヤは・・・空中で腹を抱え突っ伏し、苦しそうにげふ、ごほとびくびくしている。しばらく使い物にならないだろう。
「夢・・明晰夢か」
「そうです。夢なんです。来てくれて嬉しいです。その魔法少女コスプレすっごく似合ってますよ!」
「お前は何だ、その恰好は。浮気、いや夢か、ならいい。コスプレ? なんの――夢なら・・・覚めてくれ・・・いや、覚めるな・・・」
抱きつかれながら自分の姿を確認し魂の抜けたような表情をするアルフリートに、脱いでもまた自動復活しますからねーと追い打ち。今の司は本当に似合っていると思っている。きっと素面でもコレはアリと言っている事だろう。
「何故私はこんな目に遭うのだ? 前生か? 前生の行いが悪かったのか?」
「僕たちがこんな目に遭っているのはあの大蛇の所為です! 一緒に退治しましょう! あ、でも止めは刺しちゃいけない決まりです。ミッションは弱らせて捕獲です」
「そうか、あの蛇の所為か・・・!」
「そうです。全部そうです」
そういって司を押しやり吶喊するアルフリートの背にバフを最大限掛ける。白い光が幾筋か吸い寄せられ消える。怒声と全力の殴り。蛇の悲鳴が世界に広がった。
「・・・酷い責任転嫁を見た」
「関連が一ミクロンでもあれば責任の分散と転嫁はどこまでも可能です。敵武装勢力に対抗する為にこちらも武装したら、その武力を配備した原因は相手に有ると言っても嘘ではないでしょう」
司はこの世界ではハイヒールが風俗関係の衣装というのは承知していた。そんな衣装を着せたのだ、頭がハッピーセット状態でも誹りを受ける可能性も理解していたので、原因を全力で敵におっかぶせた。
※
「この悪魔が!!」
アルフリートは蛇の下顎を蹴り上げる。鈍い音が数発続き、よろめく大蛇。罵倒も浴びせられるほどアルフリートの攻撃は苛烈になっていく。今こそ好機! とアルフリートに合わせ花を燃やす鳥。指示を無視した暴走があったが一度麻痺と石化をもらい、司に回復されてからは不満そうではあったが落ち着きを取り戻した。
大蛇も闖入者も最初は大いに戸惑っていたようであったが、与えられるダメージが無視できない物だと理解してからはヘイトスキルの影響もありタゲはアルフリートに固定された。雹雨は弱まってきたが依然として落雷が続く。黒いボールのような爆発物が突然死角に出現するようになったため油断はできない。
身の丈以上の大剣を盾にも使い、軽々と振り回すアルフリートが参戦してからは総合火力も高まり状況は安定した。鳥は花を焼く事を中心に動いている。サティヤはアルフリートを見ては唇を引き結んでいた。司はそうそう、これこれと盾と火力と回復と補助の揃ったPTにご満悦だ。
「必殺技いっていいーー?!」
「全員命大事に! どうなるか分からないからね! アルフリートさんもタンクは一時ストップで!」
羊は叫ぶ。周囲を歪めるほど真っ暗に重々しかった角がふっと真珠の色を取り戻す。
「僕に寄越した分、お返しするね」
大蛇が大声を張り上げてのたうつ。転げまわり、頭を横にしてそれをがつんがつんと地面に打ち付ける。自分の尻尾で頭を繰り返しぶつ。潰れた花の花びらは無残に散って、黒い水面に白を漂わせる。
『もう、こんなもの捨ててしまいたい。だめだ、大事な物だ』
『守りたい、いらない』
大蛇は暴れながら支離滅裂な言葉を細く上げる。黒い口の中を晒し喚いている。
羊の必殺技は溜め込んだ負の感情の凝縮を敵にお返しして理性を剥ぐ物だ。大体は理性を失いその時にターゲットにしている相手しか見えなくなる。その間はどれだけ火力が攻撃してもタゲが剥がれないため一斉に攻撃を仕掛けるチャンスを作ることができる。この場合は魔獣相手では無かったのでどのケースにも該当しなかった。
「鳥さん、あの宝冠壊せます?」
「司ー、新技! やっぱりPTなら連携、必殺と言えば合体技だよね!!」
羊の言葉を聞き、るるるると歌い鳥が司の頭にとまる。司は収納の肥やしになっていた例の杖を召喚する。中央のエリクサー結晶を囲む流線のアイアン。絡む寄生植物。司は種を千切り一つは自分の首に、もう一つを鳥の首に付ける。くるくるとそれらは魔力を糧に蔓を這わし葉を茂らせ、頭上に青紫の花を一輪咲かせる。司が変身するように夢の中では動物も変身する。寄生植物も媒介も無くても良いが、あった方が繋がりは深まり易い。
「まえみえなーい。葉っぱも邪魔ー」
「鳥の時は邪魔だよね・・・」
「じゃあ一丁いきますか! 融合変身!」
かちゃりと鳥が杖に飛び乗ると、杖と鳥が白く輝き溶け合って一つの球になる。両手でそっと触れると右手が白い輝きに包まれ白と青紫の弽が装備された。卵は半分に割れ、殻は首に下がるストラと和風の神官服に、中から小さな鳥が羽ばたき、それが弽と同じ配色の2mを超えるの長弓と一本の矢になった。目の前に横たわった翼を広げたような弓と真白の矢を取り、弦に矢筈をかける。引き方は鳥が示してくれる。
自然な高さに捧げ持つ。白いストラが場を清め、足元に広い魔法陣が出現する。七色の光の帯がくるくると周囲を好き勝手にめぐる。加護が縁を結び、柔らかく輝く霊鳥の緑の翼が腰から一対顕現した。
目の前の光では無く引くことに集中、引き分ける。帯は弓に束ねられ、矢は光そのものになった。
充溢。ひと時を永遠と思えるほどの一致と、すぐ先にある離れ。
黒い海から生まれた黒い影が鎖になり大蛇の動きを縛る。豹の必殺技だ。数秒しか持たない。
鳥が導くままに矢を放つ。七つの光を纏い、従え、矢は至る。重き宝冠を打ち砕く事象。光が白く弾け、白い炎は体表を舐め、黒く染まった地を清める。力強い息吹きが何処までも飛んでいく矢の幻想を羽と共に追い、吹き抜ける後に散らばった緑の羽が植物となり、新たにこの地を祝福する。
ヘッドショット。輝かしき物は光に溶けた。
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霧は失せ、天の階が差す。司の手の中にあったはずの幻は消えていた。白き弓も神聖な衣も弽も戻っていき、杖のみがあった。
射られた大蛇は動かずに地に伏せている。鳥はどこだと探すと蛇の傍ら一部が砕けて地に落ちた宝冠の中にいた。
「嘴罅入っちゃった」
「本体そっちかい!」
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侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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