【完結】ずっと一緒にいたいから

隅枝 輝羽

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3.花火と温泉と俺の決意(受)

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「典明さん、二泊にしといてよかったですね」 
「どんだけ絶倫なんだよ。今までこんなことなかっただろ……」 
「自分でも驚いてます。だってオレ長年不全気味だったんで」 
「俺はそのお前を知らないから信じられないんだけど」 

 また、桂一郎に後ろ抱きされながら露天風呂に浸かっている──昨日もイチャイチャした部屋についてる露天風呂だ。 

 二人の馴れ初めでもある温泉旅行。俺の記憶のないその馴れ初めに、桂一郎はずいぶんとこだわりがあるようで、花火も温泉も行きたいと大騒ぎだった。 

 社員旅行のときは幹事で大変そうだったもんな……さらには酔った俺を介抱する羽目になって。記憶はあまりないけど、その醜態はあまり思い出したくない。 

「典明さんと付き合ってからは、一度も不全になってないです。典明さんの声だけで勃ちます」 
「いい加減にしろって……」 
「だって本当ですし。つーか、むしろ勃ちすぎて困るっていうか。典明さんと出会うために不全になったのかもっていうか」 
「よくそんなこと恥ずかし気もなく……」 

 でも、そう言われて嬉しくなってしまう俺は単純だ。桂一郎の運命の相手って言われたようなもんなんだからしょうがないよな。 

 恥ずかしくて嬉しくてピクつく口元に力を入れたまま湯に顔をつけ──たのに、すぐ桂一郎に顔を上げさせられてしまった。振り向かされてチュッと優しくキスをされて微笑まれる。 

「本気で思ってますよ?」 
「う……。そしたら、俺も……かもな」 
「なんです?」 
「だから! 俺が一人遊びしてたのは、お前を後ろに受け入れるためだったのかもって! はっず!」 
「嬉しすぎる。死ぬ」 

 お互い真っ赤で、温泉で茹でられたのかと思うくらいだ。 

 でも、アナニーをしてなかったら桂一郎の前で失態も犯さなかっただろうし、そうだったら関係を持ったり付き合ったりなんてなかったはずだ。だから、きっとそうなんじゃないかなって、なるべくしてなったって思いたいっていうか。男相手に本気で泣くほど好きになるなんて思ってなかったからこそなんだけど。 



 俺たちは花火はまた来年にリベンジしようと言って、温泉や料理だけは堪能して旅行を終えた。 

 職場への土産を買うって言う桂一郎に、そういうところやっぱりコミュ強だよなって思った。でも、俺が同じ地域のものを買ったら一緒に行ったって言ってるようなものだから、俺は買わないでいいかなと思って見ていた。 

 そんな俺に、桂一郎は連名にしますかとしれっと聞いてくるんだから意味がわからない。 

「バレるから買わないっていうのになんで……」 
「なんで一緒に行ったのがバレたらだめなんですか?」 
「俺と桂一郎はタイプが違う、だろ?」 

 居心地悪くそう伝えると、土産物店の中だというのに桂一郎はかすめるようなキスをしてくる。あまりの素早さにびっくりしていると、桂一郎はうひひと笑って手に持っていた土産物の精算に行ってしまった。 

「な……なに……?」 

 ◇◇◇ 

 今も俺は桂一郎とこっそり付き合って、会社内では影の薄い先輩として接している。けど、あの社員旅行以来、前よりは人に声をかけられることが増えた気がして、俺はやりにくさを感じてもいた。 
 だって、俺は目立つのは苦手だし、何かを先導するよりはサポートするほうのが向いてる。そっとしておいてほしいのに。 

 それにうっかり桂一郎と呼んでしまいそうになるのも困っていた。でも、桂一郎は会社以外で進藤と言うとすねてしまうようになっていて、俺には本当に難易度が高い技を求めれらているようにしか思えない。 

「あ、榛名さぁん、今度カラオケ行きましょうよぉ」 
「いや……俺は……」 
「はいはーい、ちょっと急用! 榛名先輩、ちょっとマクロツールについて聞きたいことあって時間大丈夫ですか?」 
「進藤くん、休憩時間に仕事の話は……」 
「急用なんだろ? 行くよ。じゃ、失礼します」 

 隣の課の女性二人に会釈をして、そそくさとその場をあとにした。何度も断っているのに、あの人たちは俺を見かけると声をかけてくる。よく知りもしない人とカラオケという密室に行くのも怖いし、そんなところで歌うなんて無理すぎる。 

「桂一郎、助け舟出してくれてありがとう」 
「助け舟じゃないですっ! 妨害です! 社員旅行からかなり経ってるのにまーだオレの典明さんにちょっかいだしてきて!」 
「あ、はは……でも助かったから。えと、今日は」 
「はい、行きますね。待っててください」 

 メッセージのやり取りでだって約束はできるけど、桂一郎はなるべく俺と話そうとしてくる。同じ課だからっていうのもあるんだろうけど、少しでも俺と接点を増やそうとしてくれてるのが桂一郎らしくてくすぐったい。 

 今夜は桂一郎が来る、と思えば午後の仕事も早めに片付けてしまおうという気になる。今日は金曜日だから桂一郎は泊まっていくんだろうと、心がはずんで仕事中だというのに口元が緩んでしまう……マスクがあって良かった。 

 二人の気持ちを確かめあった花火旅行からしばらく経ったけど、相変わらず桂一郎は俺を大事にしてくれるし、俺も前より素直に気持ちを口にするようになった。 
 そのせいか二人きりのときの甘さといったら……そんなことを考えて、いかんいかんと俺は首を振る。まだ仕事中だというのに心が飛んでいきかけてた。 

 定時には終われないかもしれないけど、少しでも早く帰って、今日は手間のそんなにかからない鍋でも作ろうかな──って思っていたのに。 

「ううー、思ったより遅くなった……」 

 俺は定時一時間前に舞い込んだ仕事をなんとかキリのいいところまで終わらせて小走りに退社した。桂一郎はどうやら一足先に帰ったようだったけど、いつも一旦自宅に帰ってから俺の家に来るし、夕飯の買い物も急げば間に合うかななんて思いながら電車を降りる。 



「典明さん」 
「えっ? なんで……」 
「待ち伏せ、しちゃいました」 

 桂一郎は俺の最寄り駅の改札にいた。ふわりと微笑まれて、辺りはもう暗いというのになんだか桂一郎の周りだけ明るく見える。 

「って、帰ってないのか?」 
「今日は帰ってないです。なんとなく、改札出てくる典明さんを見たくって」 
「そ、うなのか。えっと、俺、鍋でも作ろうかなって思ってたんだけど、材料買ってもいい?」 
「わあ、春のお鍋、いいですね。一緒に行きます。何鍋の予定です?」 

 桂一郎と駅の近くのスーパーに並んで入る。別に男二人で買い物したっておかしくないはずなのに、なんでか恥ずかしくてキョドってしまいそうだ。これはさっさと材料を買って帰ったほうがいいかもしれない。 

「オレがカゴを持ちますよ。でも、典明さんが豆乳鍋とか意外でした。結構味が濃いのとか好きでしたよね」 
「あ……う……。今日は優しい味の鍋が食べたくて……」 

 カゴを持ってもらう、なんて。カップルみたいじゃないか! いや、れっきとした恋人同士だけども! 

 確かに俺はキムチ鍋とかすき焼きとかそういうのが結構好きで、そんな話題を会社でもしたことがある気がする。それを覚えてるのもすごいなって思うけど。 
 でも、味が濃いやつって全部その味になっちゃうだろ? まろやかな出汁の効いた豆乳鍋はポン酢でも胡麻ダレでも美味しいし、桂一郎も好きな味で食べられると思ったんだ。 

「もう。もしかして典明さん照れてるんですか?」 
「だって、こんなの……」 
「同棲してるみたい?」 
「う……」 
「慣れてくださいね。予行練習です」 

 どういうことだって聞こうと思ったけど、桂一郎が豚肉と鶏肉どっちにしますか? なんて聞いてくるから聞きそびれた。 

 肉は豚の薄切りにして、時期も若干ずれてやたらと値段の上がった白菜やら、肉厚の長ネギやらいろいろ買って一緒に帰宅する。 
 家で一緒に食事をすることはあっても、こんなふうに歩くのが初めてでなんだかドキドキが止まらない。さっき桂一郎が言った同棲って言葉に意識しすぎているのかもしれないけど。 

 それにしても、桂一郎はなんだか機嫌が良さそうだ。何かいいことでもあったのかもしれないし、うぬぼれたことを言うなら自分とスーパーに行ったからなのかなとか……なんて考えてまた恥ずかしくなってくる。 

 最近の俺はどうかしている。なんでこんなにすべてが桂一郎を中心に回っているんだろう。 

「ただいまー」 
「なんで桂一郎がただいまなんだ」 
「えぇ、いいじゃないですか。オレ、典明さんにおかえりって言われたいです」 
「……おかえり」 

 なんだ、この茶番は。そう思うのに口元は緩む。 
 俺はそそくさと食材を台所に持っていって、着替えもそこそこに鍋の準備を始めた。 

 桂一郎はハンガー貸してくださいと言ってスーツをかけている。もちろんこの家にはちゃんと桂一郎の部屋着が置いてあるから、それに着替えてから俺に声をかけてきた。 

「カセットコンロはないんですか?」 
「ある。でも土鍋で完成させてからそっち持ってくけど」 
「ええー。せっかくだからこっちでグツグツしましょうよ。いつまで離れてるつもりですか」 
「まあいいけど」 

 台所の吊り棚の中からだいぶ使ってなかったカセットコンロを取り出す。予備のカセットガスも未使用のが三本あるから大丈夫だ。それをひょいと取り上げて持っていきますとテーブルに置いて、桂一郎は点火確認をしている。 

 そして、俺は少しだけ火を入れた土鍋を持っていった。 

「こういうのって、出来上がるまでふたりで話してるのもいいじゃないですか。いつの間にか蓋の穴から湯気が出てきて、蓋を開けた瞬間のワッていう楽しみとか」 
「いや、まあ、でも本格的な鍋の季節は少し過ぎたよな」 

 そう言って、とんすいやらタレやらもテーブルに並べる。火が通るまでは缶ビールを開けて、桂一郎とここ最近の頑張りを労った。  

 年度末はそれなりに忙しくて、週末に会えない日もあったし、会っても一緒にただ寝るだけのときもあったんだ。桂一郎は結構我慢してたんじゃないかな。 
 年度始めだって忙しくないわけじゃないけど、うちの課は年度末より全然忙しくない。 

「やっと典明さんとイチャイチャできますね」 
「鍋……」 
「わかってますって! でもこうやってゆっくり話す時間もあまりなかったじゃないですか。会社では顔は見られるけど、典明さんよそよそしいし」 

 唇を突き出して不満を訴える桂一郎に申し訳なくなる。でも、それはうっかり名前呼びしちゃうとかしないように気をつけてるからなんだけどな。
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