霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

文字の大きさ
34 / 328
異世界生活編

33.サディさんからの依頼

しおりを挟む
 夕飯の用意はどうするのか聞いたら、やっぱり煮込みを食べきってしまいたいからってことで今日はなし。まあ、こんなあっちでいうラーメン屋の寸胴みたいな大鍋じゃあね……。とはいえ、サディさんが近所のご高齢のお宅にもおすそ分けしたっていうから作ったときよりはかなり減っている。

 俺はもちろん美味しいからこれが続いても全然構わない。アレンジができたらもっといいのかもしれないけど……。でもさすがに家であんなオシャレな時間かかる料理は作ったことがなかったから今のところ全然思いつかない。しょうがないよね。

「そういえば、イクミくん。畑で言ってた薬草を料理に使うっていうのを今度詳しく教えてほしいの。村の女性が何人か興味を持ってて」
「ええっ!? 俺、別に料理人とかじゃないし詳しくもないんですけど……」
「いいのよ。何かのヒントになれば。今まで私たちは薬草は薬の原料としか見ていなかったの。魔物と戦う人にとって治癒薬や毒消し薬は生命線だもの。だから別の用途なんて考えもしなかったのよ。質が悪かったり薬に使えない弾いたものは肥料の材料になっていたし……」
「んー、それなら無理に変えなくてもいいんじゃ?」

 大事な薬と次の作物のための肥料になっていたなら敢えて料理に使わなくてもいいんじゃないかなって思うんだよね。俺からしたらそこそこ大きな畑に見えたけど、村の人たちみんなをどのくらい賄っているのかはわからないしさ。
 それに、サディさんなら俺なんかに聞かなくてもいろいろできそうじゃないか?

「香辛料が高価なのは聞いてるでしょ? どうしても味が単調になるの。それがイクミくんのニンニクを知って香りや辛味で料理に変化がかなり出て、さらに薬効もあるって聞いたら試さずにはいられないわ。イクミくんの話からしたら本当は香辛料も何らかの効果があるってことよね?」

 香辛料どころか、何にでも栄養はあるよ。ほとんど栄養がないとか言われちゃってるキュウリだってカリウムがあったりするんだから。

「まあ、俺の世界じゃ一応何にでも栄養なんかがあるって認識だったんで。香辛料は……辛味とか香りの他に食べ物を腐らせにくくするのはこっちでも一緒ですかね? それに身体を温めたり食欲増進なんかがあったはず。食材だと……例えばですけど、昨日のパスタに使ったタマネギだったら血液をサラサラにするとか、ニンジンなら緑黄色野菜って分類でβカロテンって栄養素が多いから……なんだっけ粘膜保護とか免疫にいいとか、大なり小なりなんらかの効果はあるっぽいです。でも、俺、こっちの野菜を見分けたりできないし、そもそもそこまで勉強してないし……」
「うんうん、いいのいいの。薬草の効果は私たちが知ってるもの。ただ、私たちは先入観があるからね……一度話を聞いたり目の前で見たら応用しやすくなると思うのよ」

 ははぁ、なるほど。確かに先入観ってのは意外と厄介なもんだ。俺だってあっちの常識をついこっちに出しちゃってるもんな。こっちの常識は魔力が満ちていることがベースになってるから俺には思いもしないことがあるし。
 サディさんってすごく柔軟な人だよなぁ。俺も少し見習おう……。

「わかりました。じゃあ、ジベラは味も香りも俺に馴染みのある感じだったんで、それでちょっと考えてみます。よかったら、他の調味料とか野菜とか果実とか使えるものいろいろ見せてください」

 俺がそう言うとサディさんは両手を合わせて跳ねて喜んでいた。歳は関係ないかもしれないけど可愛い人だと思う。
 それにしても本当に俺の適当料理でいいのかなぁって気はしないでもない。

 サディさんと俺が話をしているのをルイが座って見ていた。そこまで興味深そうにしているわけでもないのに雰囲気はこっちを注目しているんだよな。面倒見がいいクールイケメン……? なんか不思議なんだよ、ルイって。俺からするとチグハグっていうか。でも、気にかけてくれるのは素直に嬉しいから甘えちゃうけどさ。

 とりあえず、サディさんはすぐ出せるものを地下倉庫から持ってきてくれた。魔物肉各種、お酒数種、塩、ビネガー、ブドウ果汁、芋をはじめとする根菜、葉物、ベリー類、カンキツ類、ナッツ類、ハチミツ? この辺が一応ムル村の普通の家庭にあるものみたい。

 今はないけど家畜の卵、ミルクなんかも使えるらしい。家畜って鶏とか山羊みたいなやつらしいんだけどお肉のためにいるんじゃなくて卵とミルクの採取用みたいだ。仔を産めなくなった家畜はお肉になることもあるみたいだけど、魔物肉の方が美味しいから需要がないんだって。

 香辛料なんかも少しはあるけど高価だからやっぱり特別な時用ってことだ。ハチミツもそこまで気軽には使わないっぽい。だけど、ブドウの果汁では足りない甘みを足すのに使うんだそう。
 ブドウも時期があるから収穫後は全部絞ってまずは果汁にする。で、ほとんどがワインになって、甘味料として果汁のまま残しているものがある、と。時間停止箱がある家はそこに果汁を保管するけど、余裕がない家は定期的に火を入れるから煮詰まってくるようだ。やっぱり甘み問題か。
 でも……ちょっと勝手は違うけど応用次第でなんとかなりそう。

 俺はできれば一口ずつ味を知りたいって言って、昨日のルイとサディさんみたいになってた。だって、メニュー考えるからしょうがないよね。魔物肉もムシャーフはある意味高級肉っぽいからもうちょっと普通っぽいやつの味もみたいし……。

「とりあえず、魔物肉の端っこ焼いてみていいですか?」
「もちろんよ! 端と言わず好きなだけ切って使っていいからね」
「味見だけでいいんで……夕飯もあるし」

 俺は肉の色味でなんとなく当たりをつけて4種類くらい焼いて食べてみた。うん、あっちよりはどの肉も美味しい。俺としては豚肉に近いものが欲しかったんだけど、3種類目に食べたやつが近いと思った。予想としてはイノシシみたいなやつが魔化したんじゃないかな。にしても、魔物美味いなぁ、侮れない……。

「そのときは、この肉を使わせてもらいたいです。いいですかね?」
「トゥールフのお肉ね。避けておくわ。他には必要なものがあるかしら? 用意できるかはわからないけど」
「いやいや……手に入りやすいものでやりましょうよ」

 そのとき1回っきりじゃ面白くないもんね。だから俺の調味料も使わない。ここで手に入るものだけで何か考えたいって俺は思ったんだ。イメージはある。ただ、どのくらいそれに近く出来るかがまだわからないから、試しに作ってみたくはあるよね。

「薬に使えなさそうな薬草が出たら、それも今度味見させてください。今回は使わないけど、興味出ちゃって……えへへ」
「イクミくんも私みたいなタイプね」

 サディさんが俺を見て笑う。確かにそうかもしれない。
 好奇心だけはかなりあるから……いつも続かないだけで。

 ああ、それにしても、スマホの電波が入れば応用できそうなレシピたくさん調べるのに。電源が入っても電波は入らないからなぁ。だから俺の記憶にあるしょぼいレシピから応用するしかないんだ。
 でもまあ頼まれごとが料理で良かったかもしれないな。料理は化学って言われたりするけど、俺は理科とか実験って大好きだったから。なんとなくこうしたらいいんじゃないかなってのが予想つくんだよね。とはいえ、盛大に失敗かますときもあるけど……それはご愛嬌ってやつじゃないか?

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

処理中です...