霧の向こう ~ 水の低きに就くが如し ~

隅枝 輝羽

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異世界生活編

32.筋力トレーニング……。

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 俺が家の裏の広場をそっと覗くと、二人はすぐ気づいて動きを止めた。気配ですぐ気づかれちゃうんだなぁ。しかも、本当に準備運動程度の遊びだったのか息も切れてなきゃ汗もかいてない。あの動きでなんでなんだよ……。

「待たせてごめんね」
「全然。もう大丈夫なのか?」
「うん。なんかだいぶスッキリした感じがするよ」

 俺を見下ろしていたルイは真剣な表情から少し緩んだ表情になった。なんでかルイには見抜かれちゃうから今後も誤魔化しても無駄そうだよね。

 とりあえず、筋力トレーニングはあっちとあまり変わらない俺でも知ってるメニューを示された。つまり、腕立て、腹筋、懸垂、スクワット的なやつね。そんでもって、俺の今の状態を知りたいからってまずは回数とか決められずにやってみることになった。よほど俺が走り込みで動けなくなって倒れたのを気にしているみたい……ごめん。

 俺はやってみせたけど、ほんとダメダメだった……腕立て18回、腹筋43回、懸垂2回、スクワット39回。
 けどこれ限界。よっわ! 俺、クソ雑魚!! 特に懸垂、なにあれ全然あがらない。2回とか言ったけどオマケで2回カウントだし……。

 てことで、まずはそのできる回数を元に、短いインターバルを置いて3セットずつってのが決められた……3セットもできるのかなぁ。

「あのさ……懸垂だけは不安しかない……」
「じゃ、重りを引いてみるか」
「引く?」
「イクミはまだ自分の体重を持ち上げるのもキツいってことだから、それよりも軽い重量にして背筋を使って引いて持ち上げる」

 俺にはよくわかってなかったんだけど、大きな木の枝になにやら滑車のようなものを取り付けてロープを引っ掛けてジムで見るようなのを即席で用意してくれた。これでも重いけど、自分の身体を持ち上げるよりは回数できそうだ。

 こっちの小さい子なんかは大きな木にくくってあるロープを登ったりするのが遊びだったりするから俺みたいに懸垂ほとんどできないなんて子はいないっぽいよ。女の子でもできるらしい。俺は小学生の頃でも雲梯や登り棒は苦手だった……みんな、尊敬。

 他のメニューは負荷なしってことで腕立て15回・腹筋40回・スクワット30回を淡々とやっていくんだけど、もともとが自分のギリの回数に近いから、2セット目の終わり頃はヒィヒィしながらなんとかその回数に到達って感じで、3セット目に至っては……できないのもあった。

 腕立てとか、手を着いてプランク状態を保つのもブルブルで死ぬって思った。腕立てのちゃんとしたフォームをとろうとすると腹筋もあんなに使うんだな。知らないことばっかりだ。
 なんていうか、筋トレメニューは一応『腕』『腹』『背中』『尻脚』みたいになってるのに全部が連動してるっていうかさ……。だから、どれかを限界までやると他もしんどくなる。今まで運動してこなかったのが悔やまれるよ。

「……29、はぁはぁ……うっぎぃぃぃ………………30!」

 スクワットとかもう少し余裕かと思ったのに、自分の予想を裏切って最後の方めっちゃキツかった。生まれたての子鹿がここに!!

 なんか、筋肉に意識を集中して一定スピードをなんとか維持して同じ動作を繰り返すってツラいもんだね。山を歩いているときは景色が変わったり自分でスピードを変えられたりっていうのがあってしんどさを感じなかったし、ブラブラ歩いてるときって自分が楽になるように無意識に調節しちゃってるんだろうな。スクワットで膝を伸ばしきらないように言われたんだけど、それがとんでもなく効いた……。ずーっと太腿に力が入ってるみたいになって、最初の回数チェックで俺がやったときよりキツくてキツくて。

 走ったときみたいに「ひっくり返る」なんてことはギリギリなかったんだけど、それでも全身ブルブルになった。俺が日本にいたときは筋トレって部位に分けて『今日は○○の日』みたいに分割でやるって聞いたことあったのに、こんな全身今日やっちゃっていいの? 筋肉の回復は?

「こ……これ、毎日?」
「できれば? 本当はもう少し細かい部位もやりたいところだが急には無理だろ?」

 おおう。これでも遠慮されてた……。膝に手を当てて必死に立ってたんだけど、脚が勝手にカクカク震えちゃって結局地面に座り込む俺。
 そして、なんか視線を感じてハッと横を見ると、ヴァンさんが手をワキワキさせて寄ってきてる!

「ちょっ! ルイ! ヴァンさんが……」
「揉まれとけ?」
「マジで!?」

 走った後に引き続き、またひっくり返されてマッサージされる俺。なんでだ? いや、ありがたいんだけどさ……。悪いじゃん。俺、今日会ったばっかりだよね。

「ルイー、なんでヴァンさん、こんな良くしてくれるの?」
「弟分の弟分って思ってるからだと……多分」
「え? そうなの?」

 ヴァンさんを仰ぎ見れば、めっちゃいい笑顔された。本当にそうなのか。どんだけルイの兄貴分なんだよ。
 てか、本当に二人は仲良しだな。ちょっと羨ましい。俺は妹しかいなかったし、性別が違うのもあって仲良しではなかったんだよなぁ。妹は……正直言うと、嫌いじゃないけど苦手というか……クールだしどう接していいか悩んだりしたんだ。
 でも、そっか。俺はヴァンさんの末の弟みたいに思われてるってことか。ふふ……。

「ヴァンさん、ありがとう」

 通訳は働いてないけど、どうしても俺の言葉で感謝を伝えたくて言ってみた。
 そしたらルイが俺の言葉を通訳しなくても感覚でわかってくれたみたいで頭をワシャワシャされた。だけど、子どもとして撫でられてるんじゃなくて親愛の表現ってわかったからなんかくすぐったい気分。

 そして走った後のときみたいにヴァンさんに全身捏ね捏ねされまくって、また身体のコンディションはいい状態にもっていかれた。『丈夫』とか言われたし、マッサージでかなり回復するのは俺の特性もあるのかなってのは思うよね。まあ、仕組みはわからないけど深く考えずに、ラッキーって思っておこうかな。

 俺のマッサージを終えると、ヴァンさんは帰っていった。本当に俺のトレーニングのためだけに今日は来ていたみたいだ。暇じゃなさそうなのに……。そして、寝転んだせいで汚れた服と汗だくだった俺にルイが浄化をかけてくれる。

「明日もヴァンは来るってさ」
「えぇ? 村一番の魔導士さんなら忙しいんじゃないの?」
「それ自称な。それに本人が来たがってるんだからやらせとけばいい」
「そういうもんなの……?」
「今日みたいに付きっきりじゃなくて、様子見て顔出す感じにはなると思うが」

 ああ、それならちょっと安心だよ。ルイはもともと村に長く滞在してないって言ってたから村での仕事って多くはなさそうだけど、ヴァンさんは役割とかありそうなんだもん。迷惑は極力かけたくないもんね。

 そんな話をしながら家に入ろうとしたところでサディさんが帰ってくるのが見えた。トレーニングどうだったって聞かれて俺は苦笑しかできなかったよ。だって、どうせサディさんだって俺が倒れた話とか知ってるんだろ?

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