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本編
14.看病
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先生が戻ってくると、ユキジは村瀬はどうしちゃったのかと詰め寄った。
「予想だけど、疲れがたまったところに無理をして、体調を崩したんだと思うよ。確かに体温は高いけど、喉が腫れたり咳がひどいわけでもないし、水分取って安静にしていればとりあえずは大丈夫かな。熱がしんどそうなら首とか脇の下を冷やしてあげて。高熱が続くようならちゃんとした病院に連れて行こう。まったく……身を引いた途端これなんだから。でも、君が僕を頼るなんて意外だったね」
「他の人間がわからないんだ……。それに先生は人間だって動物だから調子悪そうなのわかるって前にタカオに言ってたから」
「んん?」
「でも! タカオは俺のだから!」
気弱かと思えばいきなりフーッと威嚇してくるようなユキジの様子に、先生は「んーー」と悩むと、天井を見たり窓の外を見たりキョロキョロしながら切り出した。
「ちょっと変なことを言うから、僕の言葉は忘れてもらっていいんだけど、君は……その……あの猫ちゃんだったりとかなんて……いやいや、ないない。何を僕は」
「そうだけど?」
「……」
絶句してしまった先生を余所に、ユキジは村瀬の看病を続けている。泣きそうな顔で賢明に看病する様子を見て、先生は「さすがにこれはつけ入る隙もないな」と笑う。
そして、ユキジにアドバイスしながら看病の仕方を教えた。ユキジは言葉を喋ることはできても字は書けないので、何度も何度も口に出して記憶に刻み込んでいく。
「――じゃあ、子猫のときに出会った村瀬さんを? というか、未だに夢見てるみたいないんだけど、ネコマタって本当にいるんだ? じゃあうちで飼っていた子はなれない子だったのかな。僕もいつまでも一緒にいたかったよ」
「わかんない。なれない子だったのかもしれないし、幸せだったのかもしれない」
「幸せ、か」
先生は普通にユキジと会話をして事実を受け止めていた。家族全員動物が大好きで、動物のことばかり考えている先生だからなのか、もともと柔軟な考え方なのかはわからないが。
それにしても……ユキジがあの猫だと思えば、途端に可愛く思えてくるのだから先生は根っからの動物好きといえる。猫であるユキジから自分の飼い猫が生涯幸せだったのかもと言われて、それもやたらと嬉しくなってしまったのだ。
先生はそっとユキジを撫でると「一途だな」と褒めた。自分は動物のこういうところが愛おしいんだよなぁなどと思いながら。……だが、ユキジから猫パンチを貰ってしまった。
「タカオの前でやめてよ! 俺は浮気しないっ」
「えぇ……そういうつもりじゃないってば。診察室でも撫でただろ?」
「この姿のときはだめ! いいのはタカオだけ!」
「わ、わかったって。僕は別にもう村瀬さんにどうこうはないよ。確かに最初は、伏し目がちにこっちの顔色をうかがってる感じが、保護したての野良みたいでさ。可愛いなぁ守ってあげたいなぁって思ってた。僕が村瀬さんをいいなって思ってたのを君は見抜いていたんだろうけど。ちょ……威嚇しようとしないで聞いてよ。この間、君と来た村瀬さんはさ……目の奥に光があったよね。だから正直、今は君たちのこと応援したいなと思ってるくらいで」
ユキジはじぃっと先生の瞳をを見ると「それ本当のことみたい」と呟いて笑顔を見せた。ネコマタになったユキジには、発せられた言葉が真実かそうでないかは感じ取ることができる。それでやっと先生への警戒心が消えたようだ。
先生は「村瀬さんが食べられそうならこれを温めて食べさせてね」とお粥のパウチを指差す。本当は作ったほうが美味しいけど、まだ食べられるかわからないから、まずはスポーツドリンクで水分と塩分や糖分を摂るようにと言った。
ユキジに村瀬のスマホの使い方を教えて、自分への電話のかけ方だけは覚えさせる。ロックがかかっていないなんて不用心ではあったが、今回ばかりはありがたい。
「これで、何か困ったときに君が村瀬さんのそばを離れないで僕を呼べるからね」
「ありがとう、先生!」
素直にお礼を言うユキジは可愛い。あの猫ちゃんが……と思うと先生は内心悶えまくっていた。
その後、村瀬は丸一日うなされ続け、ユキジが甲斐甲斐しく看病していた。村瀬が起き上がることができたのは日曜の夕方だ。たった一日、されど一日。
村瀬にとっては一瞬の空白だったが、ユキジにとっては長い長い一日だった。
あんなに先生と会うのを嫌がっていたユキジが、自分のために先生を呼んできていたなんてと、村瀬はユキジに事情を聞いてかなり驚く。
まだ熱はあるものの、たくさん寝て汗をかいたからか身体はだいぶ楽になっている。それもこれもマメに世話をしてくれたユキジのおかげだ。
そして、スマホには先生から『事情もわかるけど明日は休むように』というメッセージが届いている。ああ、やってしまったと反省し、村瀬は謝って素直に従うことにした。
「予想だけど、疲れがたまったところに無理をして、体調を崩したんだと思うよ。確かに体温は高いけど、喉が腫れたり咳がひどいわけでもないし、水分取って安静にしていればとりあえずは大丈夫かな。熱がしんどそうなら首とか脇の下を冷やしてあげて。高熱が続くようならちゃんとした病院に連れて行こう。まったく……身を引いた途端これなんだから。でも、君が僕を頼るなんて意外だったね」
「他の人間がわからないんだ……。それに先生は人間だって動物だから調子悪そうなのわかるって前にタカオに言ってたから」
「んん?」
「でも! タカオは俺のだから!」
気弱かと思えばいきなりフーッと威嚇してくるようなユキジの様子に、先生は「んーー」と悩むと、天井を見たり窓の外を見たりキョロキョロしながら切り出した。
「ちょっと変なことを言うから、僕の言葉は忘れてもらっていいんだけど、君は……その……あの猫ちゃんだったりとかなんて……いやいや、ないない。何を僕は」
「そうだけど?」
「……」
絶句してしまった先生を余所に、ユキジは村瀬の看病を続けている。泣きそうな顔で賢明に看病する様子を見て、先生は「さすがにこれはつけ入る隙もないな」と笑う。
そして、ユキジにアドバイスしながら看病の仕方を教えた。ユキジは言葉を喋ることはできても字は書けないので、何度も何度も口に出して記憶に刻み込んでいく。
「――じゃあ、子猫のときに出会った村瀬さんを? というか、未だに夢見てるみたいないんだけど、ネコマタって本当にいるんだ? じゃあうちで飼っていた子はなれない子だったのかな。僕もいつまでも一緒にいたかったよ」
「わかんない。なれない子だったのかもしれないし、幸せだったのかもしれない」
「幸せ、か」
先生は普通にユキジと会話をして事実を受け止めていた。家族全員動物が大好きで、動物のことばかり考えている先生だからなのか、もともと柔軟な考え方なのかはわからないが。
それにしても……ユキジがあの猫だと思えば、途端に可愛く思えてくるのだから先生は根っからの動物好きといえる。猫であるユキジから自分の飼い猫が生涯幸せだったのかもと言われて、それもやたらと嬉しくなってしまったのだ。
先生はそっとユキジを撫でると「一途だな」と褒めた。自分は動物のこういうところが愛おしいんだよなぁなどと思いながら。……だが、ユキジから猫パンチを貰ってしまった。
「タカオの前でやめてよ! 俺は浮気しないっ」
「えぇ……そういうつもりじゃないってば。診察室でも撫でただろ?」
「この姿のときはだめ! いいのはタカオだけ!」
「わ、わかったって。僕は別にもう村瀬さんにどうこうはないよ。確かに最初は、伏し目がちにこっちの顔色をうかがってる感じが、保護したての野良みたいでさ。可愛いなぁ守ってあげたいなぁって思ってた。僕が村瀬さんをいいなって思ってたのを君は見抜いていたんだろうけど。ちょ……威嚇しようとしないで聞いてよ。この間、君と来た村瀬さんはさ……目の奥に光があったよね。だから正直、今は君たちのこと応援したいなと思ってるくらいで」
ユキジはじぃっと先生の瞳をを見ると「それ本当のことみたい」と呟いて笑顔を見せた。ネコマタになったユキジには、発せられた言葉が真実かそうでないかは感じ取ることができる。それでやっと先生への警戒心が消えたようだ。
先生は「村瀬さんが食べられそうならこれを温めて食べさせてね」とお粥のパウチを指差す。本当は作ったほうが美味しいけど、まだ食べられるかわからないから、まずはスポーツドリンクで水分と塩分や糖分を摂るようにと言った。
ユキジに村瀬のスマホの使い方を教えて、自分への電話のかけ方だけは覚えさせる。ロックがかかっていないなんて不用心ではあったが、今回ばかりはありがたい。
「これで、何か困ったときに君が村瀬さんのそばを離れないで僕を呼べるからね」
「ありがとう、先生!」
素直にお礼を言うユキジは可愛い。あの猫ちゃんが……と思うと先生は内心悶えまくっていた。
その後、村瀬は丸一日うなされ続け、ユキジが甲斐甲斐しく看病していた。村瀬が起き上がることができたのは日曜の夕方だ。たった一日、されど一日。
村瀬にとっては一瞬の空白だったが、ユキジにとっては長い長い一日だった。
あんなに先生と会うのを嫌がっていたユキジが、自分のために先生を呼んできていたなんてと、村瀬はユキジに事情を聞いてかなり驚く。
まだ熱はあるものの、たくさん寝て汗をかいたからか身体はだいぶ楽になっている。それもこれもマメに世話をしてくれたユキジのおかげだ。
そして、スマホには先生から『事情もわかるけど明日は休むように』というメッセージが届いている。ああ、やってしまったと反省し、村瀬は謝って素直に従うことにした。
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