18 / 18
番外編
ふたりのクリスマス-後編-
しおりを挟むユキジにはキャメル色のコートとチェックのマフラー、中はシャツにニットを合わせて、いつものジーンズを着させた。ブランド物でもないのにモデルみたいに見えるんだからまいってしまう。ちなみにユキジの服は村瀬との共用ではない。比較的小柄で痩せ型の村瀬はSサイズで、ユキジとはサイズが合わないのだ。
村瀬はいつもみたいに黒が多い格好ではあるものの、こっそりとチェックの靴下をはいてチェックのハンカチを持つと、自己満足でにやにやとしてしまう。
出かけると、まずはふたりでクリスマス雑貨を売っているような店を巡った。女性が多い店内でユキジは目立つ。村瀬は片時もユキジの隣を離れないようにしながら、女性に声をかけられないようにガードしていることに気づき、そんな自分にびっくりしていた。
各店内には木製やフェルト製、プラスチックやアクリルでできた様々なオーナメントがある。ユキジが気に入るのはどうやらキラキラしたボール型のオーナメントが多いらしい。
「ユキジ、そんなにたくさん飾れないよ。それに、クリスマスは毎年来るんだ。毎年少しずついろんな形のを増やすのもふたりの思い出みたいでいいんじゃないか?」
「そっか! そうだね。そうする。タカオ頭いいー」
特に気に入ったいくつかを精算しながら、各雑貨店をあとにすると、ランチをしたあとに江の島の水族館へと向かった。
さすがに週末の水族館は人が多い。そして、ここもクリスマス仕様だ。クリスマスの飾り付けをされた水槽や特設ブースがある。
「魚もクリスマス楽しみなのかな」
「はは……どうだろうね。さすがに水槽の中にクリスマス飾りが入ってくるとは思ってなかったんじゃないか?」
「そうなんだぁ。水の中じゃぴかぴか見れないしかわいそうだね」
「いや、もしかしたら魚の目からしか見えないぴかぴかがあるかもしれないだろ?」
特にユキジが感動していたのがクラゲのホールだった。雪の結晶のオーナメントと水槽にゆらゆらしているクラゲを見ていると、雪の世界にいるみたいだと興奮気味に話す。
「タカオ、すごいねぇ。俺、雪の結晶の飾りも買えばよかった」
「今日はもう無理だけど、どこかで見かけたらひとつくらい買ってもいいかもな」
「クラゲの飾りはあるかなぁ」
「クラゲ……のオーナメントはないかもな……」
村瀬はクリスマスツリーにクラゲがぶら下がっているのを想像して吹く。でも、それはそれで自分とユキジの思い出としていいかもしれないなんて思うのだった。
閉館の時間近くまで水族館でのんびりしたふたりは、薄暗くなった道を江の島に向かって歩く。イルミネーションで彩られた江の島は村瀬の記憶にある江の島とはまるっきり違って見える。
シーキャンドルだけでなく一帯がキラキラと輝き、光のトンネルなんかもある。もちろん周りはカップルだらけだ。
「タカオ! ここにもクラゲみたいなのいるよ」
村瀬はイルミネーションを見て走り出そうとしたユキジの袖をとっさに掴む。
「あ、ユキジ。人が多いから走らないで。えっと……その、手」
「外なのにぎゅってしていいの?」
「今日は特別。はぐれないように」
ユキジと繋いだ手を寒いからとコートのポケットに突っ込む。えへへと締まらない顔のままのユキジとイルミネーションを見ながら歩いていると、ユキジがピクっとしたあと辺りをきょろきょろとしだした。
「どうした?」
「えっと、なんか……」
「チビ?」
斜め前方から歩いてきた男性がなぜかユキジを『チビ』と呼んだ。
「ぎんさん!」
目をまんまるにしてユキジがその男性を見ている。知り合いなのだろうか? と村瀬がふたりを交互に見ていると、ユキジは「あっ」と声を上げて村瀬を見た。
「タカオ、ごめんね。この人はぎんさん。えっとね……(ネコマタだよ)」
「チビ、探してた人間に会えたのか」
「うん。っていうか、俺、今はチビじゃなくてユキジっていうんだ。タカオに新しい名前をつけてもらったの」
「はじめまして。銀之丞だ。ぎんでいい」
「あ、はじめまして。ユキジがお世話になったみたいで……?」
そういえば江の島はネコマタの聖地だったと言っていたなと村瀬は思い出していた。ここでいろんな地域猫やネコマタから情報を収集してユキジは村瀬の前に現れたのだ。きっと長くいるネコマタの先輩が助けてくれたのだろう。つまり、この人がそういった? 確かに目の前のぎんと名乗るこの男性も年齢不詳な感じがユキジと似ている。
「チビ……じゃなくてユキジ、良かったな」
「いろんなこと教えてくれてありがとう。俺ね、今はタカオと番なんだー」
「ユキジ……」
「そりゃめでたいな。他の奴らもいるからたまには顔出せ」
恥ずかしげもなく村瀬と番だと話すユキジは幸せいっぱいに見えて、村瀬は止めることもできなかった。夜とイルミネーションのおかげで赤くなっているだろう顔がわかりにくくてよかったと思ってしまう。
「タカオ、ユキジを頼む」
「あ、はい。ぎんさん、私が今幸せなのはあなたたちのおかげです。ありがとうございます」
「あは! ユキジが言うように本当にいい人間だ」
「当たり前でしょ。俺のタカオなんだから」
ドヤ顔で村瀬を自慢するユキジを見て、村瀬は胸がジンジンとしてくる。こんなところで泣きたくないのに、どうしてユキジはいつでもどこでもまっすぐな信頼と愛情を向けてくれるんだろうか。
「ほらほら、ユキジ。タカオが恥ずかしがってるぞ。本当にお前は……」
「でもタカオは嫌じゃないんだよ。俺のこと大好きだし、ちょっと言葉に慣れてないだけなんだ」
確かにそうだけども……と思いつつ、他人に話されてしまう恥ずかしさはどうにも消化できない。村瀬はついその恥ずかしさにポケットの中のユキジの手をぎゅぎゅっと握った。すると、ユキジは村瀬を見て蕩ける笑顔を浮かべる。
「ぎんさん、またね。今度ゆっくり来るから!」
村瀬の手をにぎにぎしながらユキジが歩き出して、引っ張られるように村瀬が着いていく。村瀬は振り返りながらぎんというネコマタに会釈をした。
「彼に会いたくて江ノ島に来たのか?」
「え、まさかぁ。会うとは思ってなかったよ。こんなに人が多いから猫姿でいたほうが楽だろうし」
「ああ、そうか……。なんで人化してたんだろう」
「情報集めてたのかなって思うけど、猫姿のときのほうが内緒話が聞けるときもあるって言ってたからわかんない。ぎんさんは情報いっぱい持ってるんだよ。せんそーのときのこととかね、怖いよ」
俺は聞いただけだからわかんないけどとユキジは言う。村瀬はあの人がいつから生きているのかとかいろいろ気になりだしたが、詮索はいけないことのような気がして話を切り替え、その後はユキジが必死で村瀬を探していたときの話になった。この話は何度聞いても村瀬の胸を震わせてくる。きっと自分は……これからもユキジのこの想いに揺さぶられて変わっていくのだろうなと考えていた。
「ユキジ、そろそろ家に帰ろうか。その……。私は昨夜の続きがしたい気分……なんだ、けど」
「もうー。俺が頑張って我慢してるのになんでそういうこと言っちゃうの?」
ぷうと頬を膨らませてユキジが言う。村瀬はその様子を見て続けた。
「クリスマスイブは明後日だけど、いい子にしてたらサンタクロースがプレゼントをくれるんだ。私はユキジにとっていい子かな?」
「当たり前だよ! タカオは世界で一番いい人間だもん」
「じゃあ、ユキジから私へ、ユキジをプレゼントしてくれる?」
「タカオってば、明日お仕事なのにそんなこと言って。もう知らないから。夜明けまでたくさんプレゼントしちゃうからね!」
「ふふ。ありがとう、ユキジ。私のこともたくさんもらって? 初めての幸せいっぱいのクリスマスだ」
顔を寄せ合ってそんなことを言いながら、ふたりはクリスマスツリーの光る自宅に帰っていった。
──終わり──
応援してくれる大事な読者さまへ、愛を込めて!
30
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
【ネタバレあり】
遅ればせながら…完結おめでとうございます♡
リアルとファンタジーの間でほっこりしました♡
愛し愛されて自己肯定感上げていくっていうのは本当に素敵☆
「え?え?うなじ噛んじゃうの!?♡」「え?え?とげとげtin…(;-_-)=○()°e°)ハグア」とちょっぴりRシーンも気になりつつも、楽しく読ませていただきました!!素敵作品、ありがとうございました!!
猫丸さん
ぬあぁ……わざわざ書いてくれてありがとうございます
Rについてはにゃんこの交尾を検索してみてください(汗)
メスにゃんは結構痛いみたいです
(でもその刺激で排卵させるらしく、生命の神秘……)
お読みいただき感謝です!
完結おめでとうございます!
今こんなのが読みたいな~という気分にぴったり合ってる作品でした!
「君に愛を教えたい」というタイトルから、何となく人間の村瀬→猫のユキジに愛を教えるのかと想像してたけど、逆だったー!そういうところも含めて大満足!
投票ボタンこっそり押しときますね(*´艸`*)
柿味噌さん
うにゃー(涙)
ありがとうございます!
あっさり読めるR18じゃない短編で、にゃんこを絡めたかったので頑張りました←
なんか当て馬予定だった先生が最後まで出しゃばってきたけどwww
まあ、頑張ってる主人公には幸せになってほしいな〜って想いは込めました。
お読みいただきありがとうございました!
つ、続き。はよ読みたい……。
柿味噌さん
感想ありがとうございます(感涙)
三人称リベンジとか思って書き始めたけど難しくてショボ━(๑•́ω•̀๑)━ン...すぎて宣伝してなかったから嬉しいです。
今週中には完結するように投稿していきます〜