空想獄中記

荒邦

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入所1

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 「被告を3年の刑に処す。」そう裁判官が言った直後、法廷はざわついた。「ありえない!」そう叫ぶ声も聞こえた。身なりの良い男は当然の結果だと言わんばかりで誇らしげにも見える表情であった。手錠をかけられ、看守に薄暗くじめじめとした法廷の地下にある独房に連れていかれた。そんな彼の背中に向かって悲痛な叫び声をあげている女性がいたが彼は振り返りもしなかった。
 しかし、男は自分の今からおかれる状況を手錠をかけられたことで実感した。食道に何やら重いものがあるような感覚がした。それから男は放心しきった様子で、見かねて看守が「大丈夫か?」と問いかけてもうつろな目を看守に向けるだけであった。男はすぐに自分の手にかかった手錠に視線を落とした。「大丈夫なわけないか。まあよい。じきに輸送車が来るが乗るのはお前だけだ。」と看守は言った。
 「じぶんだけ?」と男は言った。
 「なんせここから一番遠い刑務所だからな。お前がそこを希望したから減刑されたもんだろうな。一番厳しく囚人を矯正することで有名だからな。あと、車で囚人に付き添うのはむこう刑務所の看守だからな覚悟しとけよ。そうだ、トイレと水分補給は済ませとけよ。」と看守は言うと独房から離れた。
 そう。男は弁護士に一番刑期が短く済む方法をと持ち掛けたのだ。8年と予想されていた刑期が3年で済むのは奇跡だ。しかし、弁護士の言っていた○○刑務所とはどんなところなのか全く予想もつかなかったが、弁護士と根回しで快適に過ごせるだろうと男は思った。そう思うと気が楽になった。

 やがて、えらく長い’じきに’の時間になり男は二人の看守とともに囚人輸送車に乗せられた。「君、ここからどれくらいかかるのかね?」男は車に乗りながら看守の一人に尋ねた。「言い方に気をつけろ。看守のことは先生と呼べ。言い直せ。」と看守は男を睨みながら言った。「はい。先生、ここからどれくらいかかるのですか?」と男は言い直した。「3時間だ。」と看守はぶっきらぼうに答えた。「拘束具の変更をする。変な気を起こすんじゃないぞ。」そう看守は言って、男に皮の胴ベルトがついた手錠と皮の足枷をした。「刑務所についたら暴れだしたり逃げようとする奴が多くてな。こうすることになってる。」と看守が言った。男はこれで3時間座りっぱなしはつらいと言いたかったが我慢した。
 それから看守が合図をすると車が動き出した。「お伺いしてもよろしいでしょうか?」と男は言った。
 「なんだ?」
 「○○刑務所はどんなところなんですか?まあ、減刑されるから弁護士の言う通り希望したんですけどね。法廷の留置所の看守がひどく気の毒そうに話してきたので。」
 「刑務所とはいっているが、囚人を使った矯正実験施設だ。早期矯正の試験的取り組みをする…体をひどく気付つけなければ体罰も実験の名のもと許可されている。お前のような傲慢な態度な奴もひどくへいつくばった態度になる。そして娑婆でも刑務所に二度と戻らないように必死に働くという塩梅だ。」と看守は自慢げに語った。
 「とんでもないところに連れていかれる。」そう男は思った。
 「行きたくないと思ってるだろ?」と看守は男の表情を見ていった。
 「そりゃあ、誰でも行きたくないですよ。」
 「まあ、大体のお前みたいに金を持っている初犯の囚人は刑が軽くなるからという理由だけで来るからな。施設の特徴上、弁護士も処遇改善には介入できないから覚悟することだな。そして、お前みたいなやつが一番嫌われる。」
 男は刑務所に自分の用意した人脈であっても助けは期待できないことを悟った。今更別の刑務所に移送されるように働きかけることも不可能であろう。彼はそれ以上何も言わないことに決めだんまりを決め込んだ。

 それからは誰も一言も発しなかった。ずっと座りっぱなしで痛みで自分の尻と座席の境目がわからなくなった。おまけに禄に体を動かすこともできず肩も膝も痛い。男はひたすら車景を眺めて時間をやり過ごした。
 看守はちらっと時計を見て「さあ、もうすぐ着くぞ。」といった。高い塀に囲まれた建物が見えてきた。

 護送車が門をくぐり、停車した。
 「降りろ」と看守はぶっきらぼうに言った。
 男は足枷でこけないようにゆっくりと歩いたが、看守が優しいわけがない。
 「早く歩け。」と看守が言った。
 「足枷が…」と男はいった。
 「足枷がなんだ?早く歩けといったのが聞こえなかったか?」と看守が怒鳴ると男は必死で歩いた。急かされてついた先は’レセプション’と呼ばれる場所だった。ホテルのレセプションとは大違いだった。男は’レセプション’の看守に引き継がれた。

 男の名前、住所などの個人情報を聞くと看守は言った。「お前の管理番号は230号だ。ここでのお前の名前だ。忘れるな。拘束具を解除する。」
 男の手錠と足枷が解かれた。
 「所持品をすべて没収する。まずポケットの中のものをすべて出せ。」男は命令に従ってポケットの中身をすべて出すと、看守は一つ一つを詳細に記録した。
 「服を脱げ。」と看守は言った。
 「ここでですか。仕切りも何もないのに。」と男が言った。
 「ここでだ。服もお前の所持品だ。つべこべ言わずに早く脱げ。」と看守はイラつきながら言った。
 男は急いで服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になったが、看守が記録を終えるまでじっと立っていなければならなかった。
 「230号他に所持品はないか?」と看守は男に聞いた。
 「ありません。」男は答えながら、みてわかるだろうと思った。
 「そうか。別室で身体検査をする。ついてこい。」男は全裸のまま医務室に連れていかれた。そこには白衣を着た医官と呼ばれる職員がいた。

 「名前は?」と医官が尋ねた。
 「ウ…」と男が名前を言いかけると、看守が「囚人番号を答えろ。」と怒鳴った。
 「230号です。」男がそう言い直すと何事もなかったかのようにあしらわれた。
男はその場で目や耳、鼻、口などを調べられた。「異常なし。そこの台に力を抜いて上半身を伏せろ。」と医官が言った。
 男が台に伏せると医官はゴム手袋をつけて素早く指に何かをつけて男の肛門に指を入れぐりぐりと探った。そのあと、指とは違う冷たい塊が奥深くに挿入された感覚がした。「異常なし。処置終了。」医官はゴム手袋をとりながら機械的に言った。「15分後にそこの便器に座って出せ。それまでそこに立って質問に答えろ。」と医官は言った。下剤を挿入し便秘でもないのに下剤を入れられた男の腹部は異常を感じてグルグルと動き出していた。
 「今まで大きな大きな病気はしたか?」
 「いいえ。」
 「性病は?」
 「ありません。」
 と医官は質問紙をそのまま読んで質問した。
 「質問は以上だ。そのまま指定の時間までじっと立ってろ。」と医官は言った。10分もたてば男は強い腹痛を感じていた。男が痛む腹を抑えると、看守は「じっと立ってろ。といっただろ。気を付けをしろってことだ。」といった。「トイレに行かせてもらえませんか?」男は言った。「15分間待機だ。あと4分待て。看守の言うことは絶対だ。」と看守が言った。「もう出したいんです。」と男は冷や汗を流しながら切羽詰まった様子で言った。「我慢しろ。」と看守は言って男の発言を無視した。

 「15分経過した。便器に座ってよいぞ。」と看守が言うと男はぎこちない歩き方で便器に向かった。男は恥をかき捨てて醜悪な音と臭いを立てながら腹が出したくてたまらないものを出した。「全部出し切れよ。監房にトイレはないぞ。」と看守は言った。「紙を下さい。」と男が言った。
 「その前に異物がないか確認する。立て。」男は素直に立った。「便には何も混ざっていないな。もう一度直腸を調べる。汚いけつを拭け。」と言って看守はトイレットペーパーを渡した。男はもう一度医官に肛門を調べられ、何もないことが確認されると、風呂に入れられた。風呂の水は何か薬が入っているのか薬品の臭いがした。
 「頭も沈めて洗え。」と看守に言われ男は従った。
 浴槽から上がると男はタオルを渡され体を拭き上げた。看守は男の小さなほくろや創痕に至るまで詳細に記録した。
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