私の勝手な恋物語

花散風

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はじまり

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「好きかもしれない」

 あなたのことを考えると、なんか不安になって、心臓がバクバクと音をならす。
 今まで感じた恋とはちょっと違う。でもそっくりなこの思いは何て言うんだろう。多分、好き、で合ってるんだけど。

「えっと、最近はいかがお過ごしでしょうか?」

「ははは、元気だよ」

 軽快に笑うあなたは私よりもずっと年上の男性っていう感じで。私のことなんて、ただの親しい女の子だと思っているのがよくわかる。それじゃ、物足りないって思うのは私のエゴなんだろうな。

「最近は顔を会わせてくれないから嫌われたと思ったよー」

 あなたは変わらない笑顔でそんなことを言う。

「いえいえ、最近忙しかったんで。顔を会わせる機会とか減っちゃってて」

 嘘だ。いや、全部が嘘と言う訳でもないんだけど。
 私が忙しかったのは本当だ。提出書類の準備とか調べものとか、以前よりも確かに忙しかった。でも、あなたと顔を会わせるのが恥ずかしくて、どこか怖くて、できるだけ顔を会わせないようにしていたのもまた事実。
 会いたいけど、会いたくない。わがままな感情に振り回されて遊ばれてるみたい。

「そっか、ならよかった」

 あなたは安心したように笑って見せた。
 ツキンッと心に痛みが走る。きっとあなたは私の思いには気づかないんだろうな。いや、気づいたとしても触れないだろう。私とあなたの関係じゃそこまで進むことができない。

「あの、」

「ん?」

「先生はおかわりありませんか」

 ここに来るまでに必死に練習した台詞。たった一言だけど、この一言は私の勇気の塊だ。

「うん。相変わらずだよ」

 あっさりと返事が返ってくる。返事を返してくれた嬉しさと、すぐに終わってしまった会話に、私は慌てた。えっと、次は、

「__さんは?」

「え?」

「最近どう?」

 あなたは私の目をみて、話しかけた。心臓、うるさい。

「え、あ、あぁ、元気です。毎日大変だけど、楽しくやってます」

 つい、慌てた口調で答える。変に思われてないかな。大丈夫かな。

「そっか、ならよかった」

 うん、先生はやっぱり先生だ。この変わらない態度がどこか安心する。

「せんせーい!」

 次の授業が始まるようで、先生は時計を見てその場の空気はちょっと静かになった。

「じゃあ、そろそろ……」

 もう時間か。一緒に話したたった数分がとっても長くも短くも感じられた。まだ話したいことはいっぱいあるのに。

「はい、ありがとうございました」

 私はそう言って二人の時間を終えた。

「うん、こちらこそ。じゃあ、また」

「はい」

 あなたはそのまま教室へ入っていった。


 いつもは饒舌な口調もあなたの前だと静かになる。話したいことも全部吹っ飛んで、顔も見れなくなる。
 前に友達から「恋って?」って聞かれたけど、一言で言えるわけがないよ。今の気持ちが恋だって明言できないくらい、あやふやで不安定だもん。
 私が私じゃないみたいな感覚で。もういっぱいいっぱいだよ。はあ、辛い。
 もし、こんなに年の差が離れてなかったら。
 もし、別のところで会ってたら。
 もし、親しくなってなかったら。
 いろんな"もしも"が頭のなかを流れていく。

 でも、きっと、今みたいに会ってなかったら、こんなにドキドキしたり、不安になったりしなかったんだろうな。そう考えると、ちょっとだけ、幸せな気分になったような気がした。

 高鳴る心臓の音を聞きながら、私はあなたに背を向けて、扉の奥の帰路を見た。
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