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おじさん、異世界に住み着く
新人さんたちと行く紙の迷宮
しおりを挟むギルド協会の執務室。
机を三つ並べた一角に、早くも新人二人が腰を下ろしていた。
ファルコは、椅子の背もたれに軽く体を預け、手元の書類束を指で叩いた。
「さて、今日から本格的に研修だ。やることは単純だが、量がえげつない。慣れるまで根気が要るぞ」
「覚悟はしている」
「任せてください」
ヴォルケ・タールマイヤとネージュ・トレリスは揃って真剣に頷いた。
「よし。じゃあまず――依頼票だ」
ファルコが机に並べたのは、羊皮紙に細かく記された紙束。
「冒険者が受けるクエストは、依頼主が出してくるこの依頼票が出発点になる。俺たちは内容を確認し、形式を整え、受領可能に仕立て直す」
リンネが横から補足する。
「つまり冒険者が見て分かる形に翻訳するってことです。お役所言葉を冒険者用語に変える作業ですね」
「お役所言葉……確かに」
ネージュは紙を手に取り、目を走らせた。
「『適切な農耕地における害獣の排除業務』……」
「はい、早速ですね」
リンネが即座に挙手。
「畑を荒らすツノイノシシの退治です」
「ほう、分かりやすい」
ヴォルケが感心し、ファルコはにやりと笑った。
「依頼票の翻訳は慣れればすぐにできる。問題は量だ。朝一で机に山ができて、夕方にはまた山ができてる」
「スライムか」
「そうそう、スライム」
ファルコの冗談に新人二人が笑い、緊張がほどけていく。
「じゃあ実際にやってみよう。ヴォルケ、あんたからだ」
「任せろ」
ヴォルケは一枚手に取り、眉をひそめた。
「『指定された地における盗掘行為の防止活動』……なんだこれは」
「はい、盗掘団を追い払ってこいです」
「なるほどな。……確かに、俺が冒険者の頃はこういうのが分かりにくくて困ったものだ」
ヴォルケはうんうんと頷きながら、筆を走らせ始めた。
「ネージュ、次は君だ」
「はい」
彼女はすらすらと目を通す。
「『森林資源の安定的確保のための環境整備』……えっと、森の伐採手伝いですね?」
「正解」
ファルコは思わず口笛を吹いた。
「記憶力もだが、勘がいいな」
「数字や規則を覚えるのは得意なんです」
ネージュは控えめに笑う。
こうして、二人の初仕事は無事に回り始めた。
だが、仕事は依頼票だけでは終わらない。
ファルコは新たな紙束を取り出した。
「さて、次は報告書だ」
どさり、と机に置かれた束を見て、二人の顔色が変わる。
「依頼が終わったら、受付嬢が一次処理をしてくれる。だが場合によっては、俺たちが依頼主と直接やり取りする必要がある」
「例えば?」
「『森の魔獣を退治したら、ついでに村の柵も壊しちゃいました』とか」
「『盗賊団を捕らえたら、証拠の品をうっかり燃やしました』とか」
リンネが畳みかけ、ネージュが目をぱちぱちさせる。
「……本当にあるんですか、そんな報告」
「あるんだな、これが」
ファルコが肩をすくめると、ヴォルケは吹き出した。
「冒険者ってやつは、本当に予想外の連中ばかりだな。ま、私も大概やってきたが」
「だからこそ、俺たちが後始末をする。帳簿を整え、補填を算出して、国に報告する」
ファルコは、二人の目を見て真剣に告げた。
「いいか。俺たちの仕事は派手じゃない。剣を振るわないし、魔法も使わない。だが――この紙一枚で、冒険者も依頼主も守れる」
その言葉に、ヴォルケは小さく頷き、ネージュは真剣な表情でペンを握った。
「……分かりました」
「任せろ。俺は現場を知っている。だからこそ、この仕事の重みも分かる」
「私も、覚えられることは全部覚えます」
ファルコは満足げに微笑み、山のような紙束を二人に分けた。
「よし、じゃあ実戦だ。……歓迎するよ、紙の迷宮攻略へ行こうか」
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