転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に住み着く

受付嬢と勧誘と

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 市場通りは、休日らしい賑わいを見せていた。
 果物の香りと焼き菓子の甘い匂いが入り混じり、子どもたちの笑い声が風に乗って広がっていく。
 サーチェはその中をゆっくり歩き、手提げ袋を揺らしながら、安い野菜や保存食を物色していた。
(今月も仕送り、ギリギリかな……)
 胸の奥に小さな重石のような不安が沈む。
 実家から届いた手紙には、凶作で畑が荒れたこと、家畜を減らさざるを得ないことが書かれていた。
 ギルド協会の受付嬢という仕事にやりがいはある。でも、それだけでは家計を救えない。
 

 ふと、通りの先で三人組の青年が人垣を割って歩いてきた。
 揃いの軽装鎧に新調したばかりのマント。笑顔が爽やかで、まるで舞台に上がる俳優のようだ。
 彼らは人混みの中で目立っていたが、周囲の視線を自然に受け止め、感じよく挨拶して歩いている。

「すみません、お嬢さん」
 一歩前に出た青年が、穏やかな声でサーチェに話しかけた。
 背が高く、淡い茶色の髪をきちんと撫でつけた整った顔立ち。
 両手を広げて敵意がないことを示しながら、優しく微笑む。

「あなた、ギルド協会の受付の方ですよね?」
「えっ……? はい、そうですけど」
 サーチェは思わず立ち止まり、目を瞬かせた。
「やっぱり。僕はカイル。こちらはセレスとミルヴ」
 カイルが後ろを振り返ると、活発そうな赤毛の少女セレスが元気よく手を振り、青灰色の髪の魔術師ミルヴは軽く会釈をした。
 どちらも若く、礼儀正しい仕草が目を引く。

「実はね、君にぴったりの話があるんだ」
「……ぴったりの話、ですか?」
 サーチェは眉をひそめつつも、声には好奇心が滲んでいた。

「僕たちは今、新しい仲間を探している。街や人を守る仕事を、もっと広くやりたいからね。受付で見てるだけじゃ分からない現場を、一緒に体験してみないか?」
 カイルの声は誠実そのもので、どこか兄のような温かみがある。
 セレスが横から口を挟んだ。
「もちろん、危ないこともあるわよ。でもね、それ以上にやりがいがあるの。現場に出れば世界が広がるし、報酬だって桁違い」
 ミルヴが淡々と補足する。
「手続きや契約は全部こちらでサポートします。装備レンタルもあり、練習用の簡単なクエストから始められます」
「……危ないこともあるって、正直に言ってくれるんですね」
 サーチェの目が一瞬、柔らかくなった。
 冒険者は大抵メリットしか話さない。デメリットを口にする人は少ない。
 だからこそ、目の前の三人がまっすぐに見えてしまう。

 カイルは微笑を深め、低く穏やかに続けた。
「君がどういう環境で働いてるかは、僕らも分かってる。
 でも、君の働きぶりは街でも評判だ。誇りを持ってる人だと聞いたよ」
「……っ」
 サーチェの胸の奥に熱いものが広がった。

「焦る必要はない。今すぐ答えを出せとは言わない」
 カイルは手帳を差し出し、一枚の紙を渡した。
「僕たちの連絡先と、次に出るクエストの概要だ。見学からでも構わない」
 セレスが笑って付け加える。
「初めては安全な採集クエストよ。森の奥で薬草を集めるだけ。
 その後、少しずつレベルを上げていくわ」
 ミルヴも一歩前に出る。
「仲間として大事に扱うことを約束します。もし合わなければ、いつでも辞めていい」
 サーチェは紙を受け取り、視線を落とした。
 細かい文字で報酬や条件が書かれている。
 読みやすく、偽りのないように見える。

(……本当に、こんなチャンスがあるの?)

 頭の中で、実家の荒れた畑と、家族の笑顔が交互に浮かんだ。
 確かに冒険者の報酬はものによっては大金だ。
 多くの事務員たちが夢と希望を見出し、職をやめ、冒険者になっていくのを幾度も見ている。
 胸の奥で「やってみたい」という声と「危ないかも」という声がせめぎ合う。

「……ちょっと考えさせてください」
 サーチェは小さく息を吐き、顔を上げた。

「もちろん」
 カイルが微笑む。
「連絡はいつでも。君のタイミングでいい」
 三人はそれ以上押し付けることなく、軽く礼をして去っていった。
 市場の喧騒に紛れながらも、その背中は自然に視界から消えていく。

 手の中の紙だけが、妙に重たく感じられた。
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