転職に失敗したおっさん、異世界転生し事務職無双する

ほぼ全裸体のハシラジマ

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おじさん、異世界に転生する

霧の峡谷、失われた連絡線

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 霧の峡谷――そこは、地図に記されながらも、常に様子が変わると恐れられている魔域だった。

 空気は重く、常に細かい水滴が肌にまとわりつく。  
 視界は狭く、物音が鈍く響き、時間の感覚すら曖昧になる。

 

 「ここが……霧の峡谷か」

 

 ファルコは地図を片手に、谷の入口へと歩を進めていた。

 背後ではマルドが荷馬車を見守り、脇をノワールが影のように寄り添っている。

 

 「結界線までは正常です。ここから先、魔力の揺らぎが急激に高まる」

 「マジで地形そのものが生きてるって言われるだけあるな……」

 

 ノワールは、黒革のグローブ越しに一本の針を取り出し、霧の中にかざした。

 針はゆらりと回転し、やがて真北ではない方向を指し始める。

 

 「……気流、魔力流、地磁気……全部微妙に狂っている。これでは方向感覚が崩れて当然だ」

 「霧の中で迷ったら帰れないって噂、あながち大げさじゃないんですね……」

 

 それでも、足跡はあった。

 土に残された複数の踏み跡。  
 刃物で切り裂かれた枝。  
 そして、途中の石に引っかかっていた――ギルド標準の布製包帯の切れ端。

 

 「間違いない。これは、聖女ソフィリア様が使うものと同じ」

 

 「……じゃあ、進んでいる。でも何かトラブルが起きたんだ」

 

 

 さらに進んだ先。  
 崖沿いのくぼ地で、ノワールが地面を掘り返した。

 「ここに誰かが焚き火跡を残している。だが、完全に消してはいない。急いで出た証拠だ」

 

 ファルコは焚き火跡の横に、何かの破片が落ちているのを見つけた。

 

 「これは……金属の、札?」

 「識別用の通信タグ。古い型だが、王都ギルドがかつて使っていた記録用媒体だ。これを使えば――」

 

 ノワールが手早く魔力を送り込む。

 タグは微かに光り、そこに映し出されたのは、わずかな音声記録だった。

 

 『……霧、濃度……予想以上。……通信断続的。ジール様……魔力低下。予定変更し――』

 そこで、音が途切れる。

 

 「ジールさんの名前が……!」

 

 つまり、アークメイジであるジールですら、霧の魔力干渉を受け、苦戦していたことを意味する。

 

 「このままでは、あの人たち、完全に孤立してることに……」

 「ファルコ」

 ノワールが静かに呼びかけた。

 

 「ここから先は、危険度が高い。正直、支援部隊の領分を超えつつある」

 

 「……でも、彼らの動きを可視化しないと、誰も助けに来られない。現状を知って、対策立てないと、ギルドとしても次の一手が打てない」

 

 「目の前の戦闘じゃなくて、全体の勝利のために動く……ですね」

 

 「お、ノワールさん、俺の口癖、覚えてくれてるじゃないですか」

 「分析しました」

 

 その瞬間、霧の奥から――

 「……誰かっ……助け……」

 

 かすかな声が聞こえた。

 霧の波を割るように、ノワールがすっと前に出た。

 

 「距離は――30メートル! 障害物なし、霧濃度中、接近可能!」

 

 「行こう!!」

 

 ファルコが駆けだし、ノワールがその背後を護るように追う。  
 数秒後、彼らがたどり着いたその先にいたのは――

 

 血まみれのローブ姿、聖女ソフィリア本人だった。

 

 彼女は半ば意識を失いかけていたが、見つめた先にファルコの顔を認識した途端、微笑んだ。

 

 「……ああ……あなた……ギルドの、事務の……方、ね……」

 

 「はい、ファルコです。すぐに応急処置します!」

 

 マルドが駆け寄り、後方から救急キットを運んでくる。

 

 ファルコは慣れた手つきで止血布を巻き、魔導照明具を取り出し、応急記録用の紙に迅速に症状を書き留める。

 

 「ノワール、これ! 外部支援要請書だ! この場で作った! 霧の外に出たらすぐ提出して!」

 「了解。送信優先で動く」

 

 「マルドさん、霧の境界まで引き返して、通信珠の地点で待機! ここから先は、戻ってくる隊を迎える!」

 「う、うん! あんた……ほんとにただの事務屋かねぇ……!」

 

 

 その時、ファルコの表情は冗談抜きで戦う司令官だった。

 戦場で剣を振るわずとも、  
 支援線を繋ぐことで人を生かす――それが彼の冒険だった。

 

 彼は静かにソフィリアに声をかけた。

 

 「大丈夫です。次は、ちゃんと組織で支援しますから。現場を、任せっぱなしにはしませんよ」

 

 霧の峡谷の深奥で、事務屋が戦った一日だった。

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