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ギュメル大陸編
妖艶なりしその者
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「だ、ダメだ・・・・・・手持ちじゃチケットが買えない・・・・・・」
北大陸行きの乗船チケット売り場を探し当てたあたしたち。
料金一覧を見ていたラレスが膝から崩れ落ちた。
月2回出港する大型客船、毎週出港する中型客船、荷物と一緒に3日に一度出港する貨物船があり、客船は一等から四等まで値段差でグレートが変わってくる。
運賃はほぼ固定らしいけど時期によって荒れに荒れまくるそう。
一方、貨物船は客室らしき客室が無く、乗船賃は完全に時価だ。
客船の一番安い四等客室7,500パシファル、あたしたちの手持ちは6,000パシファルだった。
リュオが爆死しなければ、と言いたいところだけど、そもそも12,000じゃ1人しか乗れないのでどうしようもない。
「ふむ。2倍以上の値が付いているのは時期の問題ですかな?」
値段表を見ていたモーリアス卿が訝しげに店員に尋ねる。
乗船賃が2倍に高騰してるらしい。
そういえばパルと卿は海外から来たんだったね。
「ええ、わずかにですが海流が変わっているんですよ。平常時より航海距離が伸びているせいですね」
何でも季節的なものらしいが、それ以外にも海の底の古代遺跡の影響もあるとか言われているが、確かめに行った人はいないのでよく分かっていないらしい。
兎にも角にも手持ち金では乗船不能という事実だけが分かったのだ。
一方パルティアたちのお財布も現在7,000パシファルというシビアな現実だった。
「お金を稼ぐしかないわね!!!」
こうなったらやる事はひとつ!
冒険者協会で仕事を貰うか食堂とかで給仕さんをやるかなどなど。
「まあ待て。オレが10倍にしてやろう。錬金術ってやつだ」
両手を組んだリュオが不敵に笑う。
「ヤメロ!」
思わずあたしが引っ叩いた。
「仕事、仕事ねえ。そっちの剣士の兄ちゃん隊商の護衛任務があるよ。10日間で5,000だ」
冒険者協会、とどのつまり何でも屋の仕事あっせん所の事だ。
とりあえずパルとモーリウス卿には宿に帰って頂いて(王族を雑用で働かせるわけにはいかないものね)、あたしとラレス、リュオの三人でクエストを見に来たのだ。
ナイスミドルのおじさんがひげを撫でながら紙の束を見ていく。
「どぶの掃除800、女装バー3日間ヘルプ2,500、貴族様のメイドヘルプ6日間10,000・・・・・・」
特に応募者の素性などを問わないクエストが並べられていく。
「お客様とお酒を飲む楽しい仕事15,000、ポーション瓶をひたすら割り続ける仕事4,000、街はずれに住み着いたゴブリンの駆除6,000・・・・・・」
どれもこれも胡散臭く何となくヤバそうなクエストだった。
「なあおっさん、お酒飲むやつって日給?」
死んだ魚のような目で成り行きを見守っていたリュオが食いついた。
「日給だね。稼働時間は夜22時前後から日が変わるころまで、とあるね」
依頼主からの要項に目を通していく。
「しかしこれは女の子しか受けられんよ?」
依頼書を投げてよこすと達筆すぎて読めない文字がズラリと並んでいた。
顎に手を当て少しの間思案していたリュオが狂ったことを言い出した。
「見た目が女の子なら?」
「う、うん? まあお客様が女の子とお酒を楽しむという事らしいから・・・・・・。要確認だが」
ツッコむべきか迷ったもののあえてそっとしておくという選択肢。
ナントカ危うきに近寄らず、学校で習った偉い人の言葉だ。
結局、あたしはポーション瓶をひたすら割り続ける仕事を1日、ラレスは行方不明の猫探し、リュオはお酒を飲む仕事に決まった。
良いんだ!? 中身男で女装したら!? この世は魔境だった。
宿に戻り、昼ご飯を食べるとラレスが猫探しに旅立っていった。
「我らも何か致しましょう。みなさまだけに負担を強いるのは申し訳が立ちませぬ」
夜、食堂でモーリウス卿が切り出した。
横でワッフルを口いっぱいにほおばっているパルも首を縦に振っている。
「ありがとう。一旦あたしたちだけでやってみて、人手が必要ならお願いしたいかなって」
半分ホントで、半分ウソだ。
「むう、必要とあらば是非ともお声掛けいただきたい」
「そうね。必要になったら是非、声を掛けさせてもらうわ」
唐突に誰か来た。
高身長、黄緑色のロングヘアーはシルクのような輝きと滑らかさを、そしてスリットから黒タイツに包まれた美脚が覗いていた。
鈴の音のようなきれいで透き通るような声。
・・・・・・誰?
「・・・・・・?」
あたしとパルの目が点になる。
モーリアス卿は凝視した後、首をひねる。
「あら、分からなかったのね。ごめんなさい。私よ」
腕組みをしたまま口元に指をあててほくそ笑む。
大変立派なお胸が強調される。
今のところ大人のお姉さんに知り合いはいない。
「・・・・・・リュオ、さん?」
パルが首を斜め45度に傾けたまま返答。
「大正解! さすがパルちゃんね! いい目をしてるわぁー!」
「は?」
思わずマヌケな声が出る。
「リディアちゃんかっわいいー!」
ギュッと抱きしめられ、大層立派なものに顔がうずもれる。
おっぱい。
くるりと踵を返したリュオ姐さん(?)は不敵に笑うと夜の街に繰り出していった。
ああ、そっか。おきゃくさんとおさけをのむしごとだったっけ・・・・・・?
「女性は化粧で化け・・・・・・女性? 化粧・・・・・・化け????」
モーリアス卿がバグっていた。
リュオが去ったあと、甘い華のにおいが微かに残っていた。
そこには大人の女性がいたのだ。
女性???
その夜、夢の中でリュオ姐さんに熱血指導される夢を見て、明け方ベッドから落ちた。
北大陸行きの乗船チケット売り場を探し当てたあたしたち。
料金一覧を見ていたラレスが膝から崩れ落ちた。
月2回出港する大型客船、毎週出港する中型客船、荷物と一緒に3日に一度出港する貨物船があり、客船は一等から四等まで値段差でグレートが変わってくる。
運賃はほぼ固定らしいけど時期によって荒れに荒れまくるそう。
一方、貨物船は客室らしき客室が無く、乗船賃は完全に時価だ。
客船の一番安い四等客室7,500パシファル、あたしたちの手持ちは6,000パシファルだった。
リュオが爆死しなければ、と言いたいところだけど、そもそも12,000じゃ1人しか乗れないのでどうしようもない。
「ふむ。2倍以上の値が付いているのは時期の問題ですかな?」
値段表を見ていたモーリアス卿が訝しげに店員に尋ねる。
乗船賃が2倍に高騰してるらしい。
そういえばパルと卿は海外から来たんだったね。
「ええ、わずかにですが海流が変わっているんですよ。平常時より航海距離が伸びているせいですね」
何でも季節的なものらしいが、それ以外にも海の底の古代遺跡の影響もあるとか言われているが、確かめに行った人はいないのでよく分かっていないらしい。
兎にも角にも手持ち金では乗船不能という事実だけが分かったのだ。
一方パルティアたちのお財布も現在7,000パシファルというシビアな現実だった。
「お金を稼ぐしかないわね!!!」
こうなったらやる事はひとつ!
冒険者協会で仕事を貰うか食堂とかで給仕さんをやるかなどなど。
「まあ待て。オレが10倍にしてやろう。錬金術ってやつだ」
両手を組んだリュオが不敵に笑う。
「ヤメロ!」
思わずあたしが引っ叩いた。
「仕事、仕事ねえ。そっちの剣士の兄ちゃん隊商の護衛任務があるよ。10日間で5,000だ」
冒険者協会、とどのつまり何でも屋の仕事あっせん所の事だ。
とりあえずパルとモーリウス卿には宿に帰って頂いて(王族を雑用で働かせるわけにはいかないものね)、あたしとラレス、リュオの三人でクエストを見に来たのだ。
ナイスミドルのおじさんがひげを撫でながら紙の束を見ていく。
「どぶの掃除800、女装バー3日間ヘルプ2,500、貴族様のメイドヘルプ6日間10,000・・・・・・」
特に応募者の素性などを問わないクエストが並べられていく。
「お客様とお酒を飲む楽しい仕事15,000、ポーション瓶をひたすら割り続ける仕事4,000、街はずれに住み着いたゴブリンの駆除6,000・・・・・・」
どれもこれも胡散臭く何となくヤバそうなクエストだった。
「なあおっさん、お酒飲むやつって日給?」
死んだ魚のような目で成り行きを見守っていたリュオが食いついた。
「日給だね。稼働時間は夜22時前後から日が変わるころまで、とあるね」
依頼主からの要項に目を通していく。
「しかしこれは女の子しか受けられんよ?」
依頼書を投げてよこすと達筆すぎて読めない文字がズラリと並んでいた。
顎に手を当て少しの間思案していたリュオが狂ったことを言い出した。
「見た目が女の子なら?」
「う、うん? まあお客様が女の子とお酒を楽しむという事らしいから・・・・・・。要確認だが」
ツッコむべきか迷ったもののあえてそっとしておくという選択肢。
ナントカ危うきに近寄らず、学校で習った偉い人の言葉だ。
結局、あたしはポーション瓶をひたすら割り続ける仕事を1日、ラレスは行方不明の猫探し、リュオはお酒を飲む仕事に決まった。
良いんだ!? 中身男で女装したら!? この世は魔境だった。
宿に戻り、昼ご飯を食べるとラレスが猫探しに旅立っていった。
「我らも何か致しましょう。みなさまだけに負担を強いるのは申し訳が立ちませぬ」
夜、食堂でモーリウス卿が切り出した。
横でワッフルを口いっぱいにほおばっているパルも首を縦に振っている。
「ありがとう。一旦あたしたちだけでやってみて、人手が必要ならお願いしたいかなって」
半分ホントで、半分ウソだ。
「むう、必要とあらば是非ともお声掛けいただきたい」
「そうね。必要になったら是非、声を掛けさせてもらうわ」
唐突に誰か来た。
高身長、黄緑色のロングヘアーはシルクのような輝きと滑らかさを、そしてスリットから黒タイツに包まれた美脚が覗いていた。
鈴の音のようなきれいで透き通るような声。
・・・・・・誰?
「・・・・・・?」
あたしとパルの目が点になる。
モーリアス卿は凝視した後、首をひねる。
「あら、分からなかったのね。ごめんなさい。私よ」
腕組みをしたまま口元に指をあててほくそ笑む。
大変立派なお胸が強調される。
今のところ大人のお姉さんに知り合いはいない。
「・・・・・・リュオ、さん?」
パルが首を斜め45度に傾けたまま返答。
「大正解! さすがパルちゃんね! いい目をしてるわぁー!」
「は?」
思わずマヌケな声が出る。
「リディアちゃんかっわいいー!」
ギュッと抱きしめられ、大層立派なものに顔がうずもれる。
おっぱい。
くるりと踵を返したリュオ姐さん(?)は不敵に笑うと夜の街に繰り出していった。
ああ、そっか。おきゃくさんとおさけをのむしごとだったっけ・・・・・・?
「女性は化粧で化け・・・・・・女性? 化粧・・・・・・化け????」
モーリアス卿がバグっていた。
リュオが去ったあと、甘い華のにおいが微かに残っていた。
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