泣きたいくらい幸せよ

仏白目

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チェルシー.ハサウェイ

ルシアン

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そろそろシュバルツ王国の国境に着く頃、
チェルシーは窓の外を見ながら、精霊の事を考えていた

シュバルツ王国を守る精霊とは一体?

お姉様はダメで、今度は私がシュバルツ国王の婚約者として国に入る

前回は私は部外者だったから なんでも無かったけど、今回は?

私が体調を崩すのだろうか?また雪が降る? 

近くになるにつれ落ち着かない気持ちになる、

チェルシーは心の中で祈った

『精霊王様、私が気に入らなければ すぐに帰ります、もうそれはすぐ、その日のうちに国をでますので、凍えるのとか、体調が悪くなるのはやめて下さい! もう国に入ってすぐ雪や雨になったら引き返すので分かりやすく、教えてください!お願いします。』

そんな事を祈りながら、国境に辿りついた

国境の兵士達に歓迎の挨拶をされて、窓からお礼を言う、

さあ、ここからだわ、前回はもう雪が降って来ていたわ どうなのかしら

ドキドキして、なんだか気持ちが悪くなってきた気がする・・・
ああ、やっぱり具合が悪くなるのかしら

そんな事を考えていると、外から声がかかる

「王女様!空をご覧ください!」

外の護衛騎士からだった

馬車の窓を開けて 並走する騎士をみると、空を指さしている

不思議に思い空を見上げると、快晴の空に大きな虹がハッキリとかかっていた

「うわぁ」

チェルシーは思わず声に出してしまう

「精霊王様!すごく分かりやすいです!
歓迎してくれるのね? 嬉しい!!」

護衛騎士とケイティは思わず笑ってしまう

「凄いですよ!チェルシー様 良かったですね」

「ええ」

私の祈りを聞いてくれていた? 

嬉しいのに、チェルシーの目からは自然と涙が流れ落ちていた




本当にこの国に来て、不思議な事ばかりだわ




それからしばらく馬車は走り続けて、順調に明るいうちに王城に着いた

今度は王城の前に馬車を着けてくれて、城の前で騎士達大勢が迎えてくれた

そして、王城に一歩踏み入れると シュバルツ国王とジムニーが出迎えてくれた


「チェルシー王女よく来てくれた」


「シュバルツ国王陛下、ご機嫌麗しく・・ こないだぶりでございます」


「ああ、結果振り回した形になってしまってすまなかった 話しはしたいのだが 疲れているだろう?まずはゆっくりしてくれ」



「いえ、大丈夫です、シュバルツ国王陛下が大丈夫でしたら聞きたいことがございます、よろしいですか?」


「ああ、では案内させよう」


王城の応接室に通される、とても綺麗な部屋で高級感はあるのに、とても落ち着く部屋だった、部屋には綺麗な青い花が花瓶にいけられている

「とても綺麗な花ですね」

「ああ、王城の庭にしか咲かない妖精花だ」

「妖精花?初めてみました」

「君の部屋にも飾ってあるよ、今朝は庭にこの花が沢山咲いてね、歓迎しているんだろう」

「ふふふ、虹もでてましたね、嬉しいです」

「あんな虹は初めてみたよ 」

アインリヒも笑顔で話す 
その笑顔を見たチェルシーは、少し胸がキュンとした 『やっぱりこの方可愛いわ 』
1人そんな事を考えて、微笑んでいると、

「突然、姉君と婚約者の変更なんて、君には無理を強いたのではないかと思っている」

「ええ、驚きましたよ?  でも・・
私は一度お会いしてましたので不安はありませんでした 
陛下は素敵な方ですし好意もありますよ?ふふふ」

「そ、そうか、それは良かった 私達は婚約者なのだから、陛下では無く アインリヒと呼んでくれ」

「アインリヒ様!それでしたら私もチェルシーとお呼び下さいね」

「う、うむ、・・チェルシー・・」

「はい、アインリヒ様」

2人共照れながらのやりとりで、微笑ましい限りである

「そうそう、アインリヒ様に聞きたいことがございましたの」

そう話しながらチェルシーはあの紺色の本を手にして説明する

「こちらへ来る道中、侍女と不思議な体験をしました
この本を読み終わり、その後夢を見せられました このお話しの中に入り込んだような内容でした この精霊の悪戯と言う本をご存知ですか?」

「精霊の悪戯?」

そう言ってアインリヒは本を受け取る


「初めて見る本だ、私も読んでみてもいいかな?」

「ええ、是非」

向かい同士のソファに座り この部屋には2人きりなので、しばらくの間静寂が続く

アインリヒはページをめくり、読み進めている



チェルシーは出された紅茶をのみ、静かに待っていた・・はずが  

いつのまにか寝てしまい また夢の中へと足を踏み入れていた・・・






「リヒトー!」

森の中でルシアンはリヒトを大きな声で呼んだ

だが、何度も呼ぶのにリヒトは現れなかった

「やっぱり、兄さんが言った事は嘘なんだ 森に帰すなんて、嘘だったんだ!」

ルシアンは泣いていた 

「リヒトー!」何度も泣きながらリヒトを探していた、もう何日もこうしている





あの日、いつものようにルシアンが木の実を取りに森に入りリヒトと楽しく過ごしていると、

「驚いたな、いつも、季節はずれな木の実や果物を持って帰ってくるから、不思議に思ってついてきてみれば、そいつは妖精じゃないか?」

「マルクス兄さん!」

「よお、ルシアンその子に紹介してくれよ」

「う、うん  リヒト、僕の兄さんのマルクスだよ」

この時ルシアンは12歳、長男のマルクスは20歳 
両親と4人家族だった ルシアンの上と下にも姉と弟がいたが食べ物がなく、病気になり続けて亡くなってしまった この国は困窮を極めていた

ルシアンに紹介されて、怖がりながらもリヒトはマルクスに挨拶をした

「弟と仲良くしてくれてありがとうな」

マルクスは優しくリヒトに笑いかける

「うん、ルシアンは僕の大事な友達なんだ」

「そっか、リヒトはルシアンの事が好きかい?」

「うん,大好きだよー」

リヒトは羽をキラキラさせながらルシアンの周りを飛んではしゃぐ

それを見てルシアンも嬉しそうに笑った

「そっか、これからも弟と仲良くしてやっておくれ」

マルクスも嬉しそうにしていた
その日は兄弟で木の実を拾い 森を後にした

「ルシアン、またねー」

リヒトの声が聞こえて、ルシアンは振り向き またねと言って手を振った


ルシアンが見たリヒトはそれが最後だった



しばらくの間、ルシアンは森に来る事が出来なかった

両親と一緒に痩せた土地を耕す手伝いをしていた、毎日同じ様に畑を耕していた

リヒトが森に行けばその日は食べる物が手に入っていたが、この一週間は森からの恵みの蓄えを食べていて、それも底をつきそうだった

「僕森で木の実を拾ってくるよ」

森に行こうとした時、マルクス兄さんが大きな声をあげて、家の中に入ってきた

「父さん!みんな聞いてくれ!別の領地の伯爵様が仕事をくれたんだ!家族みんなで引っ越してこいって、住む所もある!急いで向こうに行こう!
ここにいたって、死ぬのを待つだけだ!」

マルクス兄さんの剣幕に驚いたが、両親も僕も喜んで兄さんの用意した馬車に乗り込んだ


マルクス兄さんが連れて行ってくれた領地は食べ物に困ることはなかった

用意された家はとても広く快適で、今までの暮らしが嘘のようだった

美味しいご飯に暖かい布団

ここでは、毎日の食べ物を心配しないでも安心していられた

ひと月が過ぎた頃 

夜、喉が渇いて水を飲みに起きた 時計を見ると夜中の2時をまわっている

炊事場に行くと灯りが灯っていた

こんな夜中に?

ルシアンはこっそり中を覗くと、両親と兄さんがテーブルを囲んで座り話しをしていた

「それで、もうそろそろ教えてくれるだろ?こんないい暮らしが出来ているのはどうしてなんだ? もうひと月だ そろそろ話してもいいだろう?」

「ルシアンは寝ているよな?」

「こんな真夜中に起こしたって起きやしないさ・・・
 ルシアンには聞かせられ無い話なのか?」

「ああ、 ルシアンがよく森から木の実や果物を持って帰っていただろう?
時期はずれなのに、森の実りを持って帰ってくるのが不思議だったんだ、 俺たちはあの実りのおかげで助けられていたけど、気になってルシアンの後をつけたんだ、
あいつは森の奥に入って行って、そこで妖精と友達になっていたんだよ」

「・・・妖精?」

両親はマルクスが何を言っているのか、信じられない顔をしている

「そう、妖精だよ 御伽話にでてくるあれだよ 自分でも目を疑ったよ?まさか実在するなんて思ってなかったからさ」

「・・・・・」

「だけど、合点がいったんだ それで時期はずれなのに木の実や果物をルシアンは手に入れられたんだって」

「あ、ああ、妖精のおかげだったのか」

「ルシアンを森に行かせないように、畑仕事を手伝わせている間に、俺は妖精を捕まえた、
それからすぐ不思議な事に良い話しが向こうからやってきたんだ、ここの領地の伯爵様からで、
今の暮らしを一生保証してやるから、是非譲って欲しいと言われてね」

「お前、妖精を伯爵に売ったのか?」

「ああ、そのおかげで俺たちはいい暮らしが出来ているんだよ」

「・・・・・」

ルシアンは今聞いた話が信じられなかった、マルクス兄さんの事は大好きだった
姉と弟を立て続けに無くして、悲しみに暮れる両親やルシアンをいつも気にかけ守ってくれていた、大好きな兄が・・ルシアンの友達を売った?

ガタン、と音がしてマルクスは振り向いた
そこには呆然としたルシアンが立っていた

「・・・リヒトを?兄さんリヒトを捕まえて・・売ったの?」


「ルシアン!・・お前聞いてたのか!」


「答えて!リヒトをどうしたの!」


「・・ああ,その通りだよ・・仕方ないだろう?あの国に居たら俺たちはみんな死んでいた!どうしたらよかったんだ!」

「リヒトは・・僕たちを助けてくれたのに・・・売られて・・リヒトは酷い事はされてない?大丈夫だよね?兄さん!
なんとか言ってよ!」


「ああ、大丈夫だよ、伯爵も少ししたら あの森に逃がすからって、言っていたし
酷い事なんてされていないさ」

「あの森に・・そっか、大丈夫だよね?」

「ああ、心配しなくて大丈夫だよ」

「・・うん」


マルクスはルシアンを安心させる為に嘘をついた、いいや、自分が責められたく無いから嘘をついた リヒトを売った後の事なんて伯爵からは何も聞いていない

その場をやり過ごす事が出来ればそれで良かった


そして、その嘘がマルクスの一生の後悔となる 

ルシアンはあの森にリヒトに会いに、1人で行ってしまった 




そして、マルクスが探して見つけだしたルシアンは冷たく動かなくなっていた

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