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第1話 キス
しおりを挟む春、雫織高等学校新学期。桜が舞い散る校内。気持ちい春風が頬をくすぐり、花の匂いが人を和ませる。過ごしやすく心地よい季節。
高校の校門の前で、一際目立つ男子が立っていた。整った顔立ち、スラッとした体。背も高く、少しロングの髪を小さく束ねている。女子が騒ぐのも無理がないくらいの美少年。高校2年、宮島誠だ。
誠は、学校に入っていく生徒を、チラチラ見見てる。目当ての人を見つけた瞬間、誠は顔を明るくし手を振った。
「美絵ー!」
呼ばれた少女は、誠に目線を向けた。黒髪のロングヘアをポニーテール。顔立ちも綺麗で、スタイルもいい。近寄り難いオーラが漂っているようにも感じる。
鈴風美絵は少し恥ずかしそうな表情と、怒った顔つきが入り混じった顔で近づいてきた。
「馬鹿か、そんなに叫ぶな」
距離が縮まり、誠の鼓動が高鳴った。やはりいつ見ても、綺麗だと彼は食い入る様に見る。
これが学園1の美少女、でも近づくやつは滅多に居ない。何しろ、男嫌いで剣道少女なのだから。気難しい性格も兼ね揃えているため、余程の勇気が無いと無理だ。
誠は幼なじみで、美絵は彼だけには心許していた。そんな美絵に誠は、11年間虜になっている。美絵はそんな事は知らない。
「しかも先に着いてるなら、さっさと学校に入っていれば良いだろう」
呆れた口調で言われる。ぼっ立てる誠の横を通った。誠は急いで美絵の後を追う。
「良いじゃん、別に」
誠は爽やかな笑顔を浮かべ、美絵の横を取った。彼女に触れたい、そう思い手を伸ばそうとした瞬間声が聞こえた。
「おはよー、美絵」
靴箱の入り口に、同級生の堂麗菜が立っていた。誠は直ぐに手を引っ込める。美絵は小走りで、麗菜の元へ行った。2人は歩き始め、途中で美絵は誠に顔を向けた。
「遅れるなよ」
突然の笑顔に誠は、動けなくなった。苦しいくらい鼓動が早くなる。周りの男子も騒ついている。
誠は自分に向けられた顔が目に焼き付き、離れなく思い出しながら歩き出した。
「はぁ…」
休み時間、誠は外を見ながらため息を吐いた。このままで良いのだろうか。ずーと片思いのままで、追いかけてるばかりで。良い加減、美絵を独り占めしたい。この11年触れずに、大切にしてきたのだから。
「お前は何やっても、絵になるな~」
ぼーっと考え事をしてると、目の前に友達の綾瀬遼太が立っていた。
「ほら、周りの女子が見てるぞ。これだらイケメンは」
「お前、恥ずかしい事ぬかすな」
誠は立ち上がり、小声で叫んだ。遼太が指をさす。見ると、確かに女子がチラチラと彼を見ている。
誠は何となく恥ずかしくなり、座りまた外に目線を向ける。遼太はからかう様な顔で、誠に目を向けた。
「おい女子、あの誠が照れてるぞ」
遼太の一声で、また女子が騒ついた。黄色い声が教室を埋め尽くした。
「遼太!良い加減にしろっ」
慌てて取り乱す誠を、遠目で見ていた美絵が笑っていた。
その姿を誠はチラリと目撃し、直ぐに身を縮めた。カッコ悪いな…と落ち込むのであった。
学校が終わり、家に着くと誠の母が駆け寄ってきた。手には紙袋を持っている。
「誠、お帰りなさい。丁度良かったわ」
誠が靴を脱いでいると、紙袋を渡された。中には箱に苺は敷き詰められている。
「近所でね、沢山貰ったのよ。食べ切れないから、鈴風さんの家に届けてくれない?」
「何で、俺が?」
「良いじゃない、予定ないでしょ?」
母は歩きながら「夕飯の支度しなきゃ何ないんだから」と言い、奥に引っ込んでしまった。誠は自分の部屋に行くと、私服に着替え美絵の家に向かった。
チャイムを鳴らすにも勇気がいる。家に入れてもらうのは初めてだし、呼び鈴鳴らすのも初めて。長い付き合いなのに、不思議だ。
震える手を押さえながら鳴らすと、美絵の妹、智瑛梨が顔を出した。
「あれ?誠君が珍しいね~」
不思議そうな顔をしながらも、家に入れてくれた。誠が紙袋を差し出す。
「苺だけど、欲しい?」
「わぁ~、ありがとう」
中身を覗きながら、智瑛梨は受け取った。
「あっ、どうせならお姉ちゃんに会う?今道場で、多分練習してると思う」
智瑛梨が手招きをして来た。誠も半ば嬉しそうに、着いて行く。智瑛梨は誠の気持ちを知っている。密かに、応援しているのだろう。
「お姉ちゃーん」
ノックも無しに、智瑛梨は襖を開けた。美絵の体がビクッとした。
「智瑛梨か、ノックぐらいしろ。…って誠?」
誠が後ろから顔を出した、軽く会釈した。美絵が近寄ってくる。
「何か用か?」
聞かれ、誠の目が泳ぐ。用って物を考えていない。
「えっと、あっ智瑛梨ちゃんがどうせなら会ってけって…」
美絵が智瑛梨を見ると、ニヤニヤしていた。美絵は訳がわからないと言いたげな、顔で誠を見た。
「では、ごゆっくり~」
そう言うと妹はそそくさと、部屋から出て行った。広い道場に2人っきり。誠は妙に鼓動が、早くなるのを感じた。
「用があるなら、学校でも話せるだろう。同じクラスなんだから」
「まぁそうなんだけどさ…」
もっともな事を言われ、会話が続かなくなる。
ふと誠の目が、竹刀に向けられた。壁に掛けかけてあるのを1本持つと、軽く構えてみた。木の棒より少し重みが感じる。
「どうした?」
その姿を見て、美絵が振り向く。
「1度やってみたかったんだけどさ、美絵ちょっと手合わせしない?」
拍子抜けした様な顔で、美絵は呆れた。手合わせと言っても、第一誠は剣道は全くの素人。勝負にもならないだろう。
「馬鹿かお前は」
ため息を付き呟くと、その言葉がきっかけになったのか誠は声を上げた。
「やりたいんだ!」
声に美絵は、びっくりした。何をムキになっているのかと思った。頑固で鋭い目線。こうなったら、何言っても聞かない性格だと美絵は知っている。
美絵は仕方なく、竹刀を構えた。
「そう言う目なら、手加減無用だな」
美絵が言うと、誠は強く頷いた。誠は「馬鹿」という言葉が嫌いだ。自分が言われた相手に、負けてる様な感じがして。
竹刀を強く握りしめ、美絵に向かって行った。しかし所詮素人、簡単に止められてしまう。静かな道場に、2人の竹刀が当たる音が響き渡る。
もう何回誠の攻撃が、止められただろう。息が上がり、肩が上下する。誠は力を思いっきり込め振り落とした。また止められる。が、美絵は踏ん張ったが力に押され後ろにずれていく。やはり男と女はこうも違うのか?それとも火事場の馬鹿力というやつか?
ついに美絵の竹刀が、中を舞い床に落ちた。2人とも唖然とする。美絵がその場から動けないのを見て、誠は落ちた竹刀を拾った。
振り向くと、美絵は背を向けており肩が揺れていた。小さなすすり泣きの様な声が聞こえ、誠はハッとした。気づかれない様にそっと、顔を覗き込む。泣いていた。素人に負けた自分が情けなく、また悔しい気持ちが涙となって溢れたのだ。誠はその姿を数分眺めた後、美絵の両頬に手を添えた。誠の顔が美絵に近づく。彼女が声を上げる前に、素早く唇が触れ合った。
「…しょっぱい」
5分位だろうかキスした後、誠は小さく呟き離れる。舌に涙の味がじんわりと広がった。誠は手に持っていた竹刀を、片付けると道場から姿を消した。
美絵はその場から動けないでいた。いつの間にか誠は居なくなっていて、流れていた涙も止まっている。震える手でそっと、唇に触れる。まだ生暖かい様な気がした。苦しい位、鼓動が早くなるのを美絵は初めてこの時知った。
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