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一 違法薬物取締部特殊班
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「おい、きみ。ここは関係者以外立ち入り禁止だ。しかも犬なんてビル内に連れこんだら駄目だろ」
スーツを着た若い男性職員に、肩をつかまれ大守十和は振り返る。
スーツ姿の大人が行きかう庁舎内で、パーカーにジーンズというラフな格好の十和は明らかに浮いていた。
しかも犬を引き連れているのだ。
男の目に留まったのも仕方がなかった。
だが、肩をつかんだ男性の横にいた別の中年の男性が、十和と横にいた黒一色の衣服に身を包む目つきの鋭い女――間宵慧の顔を見てぎょっとした表情を浮かべる。
「やめろ。そいつは違う。特殊班のやつだ」
「えっ!? じゃあ、もしかしてこいつらは」
「ああ触媒だ。その犬も多分アイテールだよ」
「中毒者か……!」
その言葉を聞きつけた慧がさっと顔色を変えた。
十和の肩をつかんでいた男性の胸ぐらをつかみ、壁に叩きつける。
「おい、言葉に気をつけろ。わたしたちは中毒者なんかじゃない。あんたらと同じ取締官だよ」
首を絞められながらも、男性は言い返す。
「な、なにが同じだ。上の思いつきでできた、所詮実験的なイロモノ班だろう。すぐ解散がオチだ。しかも中毒者を捕まえるために、自分に違法薬物を用いるなんて、ジャンキーとなにが違うっていうんだ……!」
「あん? なんだと……!」
目のすわった慧の手のなかに、巨大な金色の諸刃の鋏が出現する。
慧のアイテールだ。
だがいまにも振り下ろされようとした刃は、空中で固定される。
鋏に茨が絡みついていた。
振り返って邪魔者を怒鳴りつけようとした慧だったが、背後にいた人物の顔を見て舌打ちするにとどめる。
そこにいたのは、ダークスーツを着た長身で細身の短髪の男だ。
眉間の皺が深く、神経質で厳めしい顔をしている。
「職員同士で騒ぎを起こすとは、感心しないが」
「椚局長、申し訳ないことであります!」
スーツ姿の男たちは恐れ入って姿勢を正す。
釘でも打てそうな直立不動だ。
「それに彼らはイロモノ班ではない。ここ一、二ヶ月の検挙率は特殊班が一位、二位を独占している」
「ですが、それは……」
「検挙率があがるというなら言い分を聞いてもいいが?」
「い、いえ……」
「ならばさっさと行け。そして、励め」
「は、はい!」
男たちは逃げだすように去っていく。
怒りのおさまらない慧はその背なかを睨みつけて、再び舌打ちをする。
「いい加減離せ、リリー。この不愉快な茨をぶった切るぞ」
リリーと名前を呼ばれたお人形のような容姿の派手な格好をした女が、椚光英の背後から姿を現す。
リリーはパステルカラーのロリータ・ファッションに身を包み、パステルレインボーカラーに染めた髪にチリチリのパーマをかけて、ツインテールに結んでいる。
茨はそのツインテールに飾られた同じくパステルレインボーカラーの薔薇から伸びていた。
その茨がリリーのアイテールだ。
リリーはフンと鼻を鳴らして茨を回収する。
リリーも違法薬物取締部特殊班の一員だった。
「相変わらず野蛮人ね、慧。あなたの気性の激しさは有名よ。だれにでも喧嘩をふっかけて、おかげでうちの班の評判は最悪よ」
「リリー、おまえのその目の痛くなる仮装が評判を落とす一端を担ってるって自覚はないのか?」
「あら? 評判を落としているのは、あなたたちのそのダサくて垢抜けない服装のほうじゃなくて? 慧なんていつも全身真っ黒だし、十和にいたってはラフすぎてもはや寝間着じゃない。ルウもそう思うでしょ」
声をかけられたルウはリリーの相棒で、リリーが選んだ黒と赤のチェック柄のスーツを着た、少年のようにあどけない顔をした二十歳の青年だ。
棒付きキャンディーを舐めながらルウが言う。
「それに十和、止めない。悪い」
極度の甘党でいつも菓子を口にしているルウは、あまりしゃべらない。
なにか話したと思っても片言のような単語の連なりを口にするのみだ。
「ほんとねー。慧のことだから、放っておけば殺しかねないのに。相棒なんだからちゃんと止めなさいよ、十和」
話が振られた十和はにこにこと答える。
「結果、死んだとしてもきっとそれがそのひとの運命だったんだ。だから、仕方ないよ」
「これだもの」
リリーは呆れて肩を竦めた。
「ところで、光英はなんでここにいるの?」
十和が局長である椚を呼び捨てにする。
他の違法薬物取締官が聞いたら、目を剥くような場面だ。
だが、イロモノと言われる特殊班の面々はだれも慌てるようすがない。
椚自身も気にしたようすはなく、バリトンのよく通る声で答えた。
「奥へ行こう。鹿妻も含めて話をしたい」
スーツを着た若い男性職員に、肩をつかまれ大守十和は振り返る。
スーツ姿の大人が行きかう庁舎内で、パーカーにジーンズというラフな格好の十和は明らかに浮いていた。
しかも犬を引き連れているのだ。
男の目に留まったのも仕方がなかった。
だが、肩をつかんだ男性の横にいた別の中年の男性が、十和と横にいた黒一色の衣服に身を包む目つきの鋭い女――間宵慧の顔を見てぎょっとした表情を浮かべる。
「やめろ。そいつは違う。特殊班のやつだ」
「えっ!? じゃあ、もしかしてこいつらは」
「ああ触媒だ。その犬も多分アイテールだよ」
「中毒者か……!」
その言葉を聞きつけた慧がさっと顔色を変えた。
十和の肩をつかんでいた男性の胸ぐらをつかみ、壁に叩きつける。
「おい、言葉に気をつけろ。わたしたちは中毒者なんかじゃない。あんたらと同じ取締官だよ」
首を絞められながらも、男性は言い返す。
「な、なにが同じだ。上の思いつきでできた、所詮実験的なイロモノ班だろう。すぐ解散がオチだ。しかも中毒者を捕まえるために、自分に違法薬物を用いるなんて、ジャンキーとなにが違うっていうんだ……!」
「あん? なんだと……!」
目のすわった慧の手のなかに、巨大な金色の諸刃の鋏が出現する。
慧のアイテールだ。
だがいまにも振り下ろされようとした刃は、空中で固定される。
鋏に茨が絡みついていた。
振り返って邪魔者を怒鳴りつけようとした慧だったが、背後にいた人物の顔を見て舌打ちするにとどめる。
そこにいたのは、ダークスーツを着た長身で細身の短髪の男だ。
眉間の皺が深く、神経質で厳めしい顔をしている。
「職員同士で騒ぎを起こすとは、感心しないが」
「椚局長、申し訳ないことであります!」
スーツ姿の男たちは恐れ入って姿勢を正す。
釘でも打てそうな直立不動だ。
「それに彼らはイロモノ班ではない。ここ一、二ヶ月の検挙率は特殊班が一位、二位を独占している」
「ですが、それは……」
「検挙率があがるというなら言い分を聞いてもいいが?」
「い、いえ……」
「ならばさっさと行け。そして、励め」
「は、はい!」
男たちは逃げだすように去っていく。
怒りのおさまらない慧はその背なかを睨みつけて、再び舌打ちをする。
「いい加減離せ、リリー。この不愉快な茨をぶった切るぞ」
リリーと名前を呼ばれたお人形のような容姿の派手な格好をした女が、椚光英の背後から姿を現す。
リリーはパステルカラーのロリータ・ファッションに身を包み、パステルレインボーカラーに染めた髪にチリチリのパーマをかけて、ツインテールに結んでいる。
茨はそのツインテールに飾られた同じくパステルレインボーカラーの薔薇から伸びていた。
その茨がリリーのアイテールだ。
リリーはフンと鼻を鳴らして茨を回収する。
リリーも違法薬物取締部特殊班の一員だった。
「相変わらず野蛮人ね、慧。あなたの気性の激しさは有名よ。だれにでも喧嘩をふっかけて、おかげでうちの班の評判は最悪よ」
「リリー、おまえのその目の痛くなる仮装が評判を落とす一端を担ってるって自覚はないのか?」
「あら? 評判を落としているのは、あなたたちのそのダサくて垢抜けない服装のほうじゃなくて? 慧なんていつも全身真っ黒だし、十和にいたってはラフすぎてもはや寝間着じゃない。ルウもそう思うでしょ」
声をかけられたルウはリリーの相棒で、リリーが選んだ黒と赤のチェック柄のスーツを着た、少年のようにあどけない顔をした二十歳の青年だ。
棒付きキャンディーを舐めながらルウが言う。
「それに十和、止めない。悪い」
極度の甘党でいつも菓子を口にしているルウは、あまりしゃべらない。
なにか話したと思っても片言のような単語の連なりを口にするのみだ。
「ほんとねー。慧のことだから、放っておけば殺しかねないのに。相棒なんだからちゃんと止めなさいよ、十和」
話が振られた十和はにこにこと答える。
「結果、死んだとしてもきっとそれがそのひとの運命だったんだ。だから、仕方ないよ」
「これだもの」
リリーは呆れて肩を竦めた。
「ところで、光英はなんでここにいるの?」
十和が局長である椚を呼び捨てにする。
他の違法薬物取締官が聞いたら、目を剥くような場面だ。
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