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念願の花婿は元・女子のあやつ
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勝者・美央の前に現れたのは、こともあろう、女子から男子にチェンジしたばかりのダンプヤスオ(元・女子のアン子)であった。
「えっ、まさか、ヤスオがお婿さんになるなんていう結末じゃないでしょうね」と目を丸くする美央。安子から安夫へ。男子としては初心者マークつきであったが、イケメンでワイルドで、それでいてハートも最高というヤスオが優勝者への副賞として差し出されたのである。
「あのね。同じ会社の部下が副賞というのは、わけがわからないってば――。一体何を考えているのよ、日奈子社長」。そんな想いが頭の中でリフレインを続けていた美央に向かって、「えへへ、美央先輩、僕をよろしく」とかなんとかいいながら、握手を求めてきたのは元・女子のヤスオであった。
「えっ、なんなんだよー。これって意味がわからないだろ」といい、ロングボブの茶髪をかきむしりながら、しきりに説明を求める美央だったが、そこは社長兼プロデューサーの日奈子のこと、きっと「ヤスオと誰かをくっつけちゃえ」ぐらいの気持ちで仕かけてきたとしか思えない。「これは絶対に社長の悪だくみだわ」とアピールしたら、「悪だくみじゃないよ、悪ふざけだよ」といい、当の日奈子がリングにあがってきた。
影であやつっていたのは、やっぱり社長の日奈子だ。おてんばプロレスナンバーワンの花嫁候補としてまつりあげられた美央と、今やちょい悪イケメンの男子マネージャーとして生まれ変わったヤスオ(元・アン子)をくっつけようという魂胆だったのである。
「すべては話題づくり。他のローカルプロレス団体ではなし得ないことを実現すること、それがおてんばプロレスなの。それにヤスオが男子になって、美央ちゃんのような美人と結婚できたら、男子冥利に尽きるわ。みんなで協力してヤスオを男の中の男にしましょうよ。ねー、会場の皆さんもそう思うでしょ」という日奈子のマイクパフォーマンスに、会場から大きな歓声(無理やり)があがった。
「何がなんだか、さっぱりわからないわ」と嘆く美央に対し、「僕は嬉しいです」といいながら、ヤスオがいきなりハグを求めてきた。「な、なんだよ」と慌てふためく美央。
「あ、あのなー。これってセクハラだからな」と美央は叫んだが、今やすっかりイケメンと化したヤスオの顔を見ていると、つい気を許してしまうのであった。
「お、お客さんが見ているだろ」といい、一旦は突っぱねた美央だったが、「でも、ヤスオとだったらいいかな」なんて思い直し、そっとヤスオの胸に顔をうずめたのだから、これがまたおかしなことになってきた。あっ、ヤスオの匂い。駅裏のラブホテルで感じたのと同じだわ。イケメンの魔力。私の居場所。なんてさ。たちまち恋におぼれた女の顔を浮かべる美央。
「いいぞー、やれやれ」なんて会場が大騒ぎをする中、「ちょっと待って」といって、美央とヤスオの間に割って入ったのはジュリーだった。
「おふたりが先輩-後輩の間柄であるのはよくわかるんですけど、試合の結果だけがすべてじゃありませんからね。私のことも忘れないでください。お願いしますよ、ダンプヤスオ君」といってのけたのである。
ジュリーによる急転直下の「ちょっと待って」には、さすがに会場全体がざわついた。「ジュリーには、俺(おら)がいるっちゃ」という酔っ払い軍団のひとことに、ドッという笑い声が起こった。笑い声で済むならまだしも、ジュリーの熱烈なる親衛隊の間からは痛烈なブーイングが浴びせられた。たとえ元・女子のヤスオといえども、超絶美女のジュリーを他のやからに奪われるわけにいかなかったのである。
「アン子ちゃんがヤスオ君になってから、ずいぶん考えさせられました。その勇気には拍手を送りたいですし、これからのヤスオ君の人生にもエールを送ります」といい、自分の想いを語り始めたジュリー。一瞬だけブーイングも聞かれたが、よくよく聞けば、自分と同じように“性”に悩んできたアン子のことが愛おしく、「今はただヤスオに会いたい」と考えているうちに、特別な想いが醸成されたようなのだ。ジュリー自身、男の娘から女の子へと変貌をとげている証なのかもしれない。女子的な生き方には、どうしたってジェラスな想いもつきまとうのだ。今はおてんば企画のバンコク事務所をたったひとりで守り続けているジュリーだが、異国での寂しさもあるのか、五千キロ近くも離れたバンコクの地から、男子へと大変身をとげたヤスオに熱烈なるラブコールを送っていたのである。
「私もアン子、いえ、ヤスオ君に特別な想いを抱いています。おてんば市とバンコク。距離は離れていても、気持ちはいつもすぐそばにありました。たからお願いです。私のことも花嫁候補に加えてください。もちろん試合の結果は結果で受け止めますが、今はヤスオ君のほんとうの想いが聞きたいんです。どうですか、皆さん」。
リング上でのジュリーの言葉に、ヤスオのことが気になって仕方がないという本気度がうかがえた。女子から男子へ、男子から女子へという立場の違いこそあれ、性のギャップに立ち向かおうとする後輩の姿に、ジュリーのハートが突き動かされたのだ。会場からは「ヤスオと美央とジュリー。三人でくっついたらいいんでねえの?」という声が聞こえてきた。「トリプルプレー」というかけ声に、「だめよ。そんなんじゃ、せっかくの青春小説が十八禁になっちゃうわ」と美央が嘆いた。
「いや、その前に――。私は私でジュリーとくっつきたいから」とかなんとか、リングサイドで日奈子がわめき立てているが、やめてやめて。これ以上、混乱しちゃったら、小説のプロットが総崩れでしょ。多様化の道を突き進む、おてんばプロレス。いくらなんでもまさかジュリーまでが男女の性差を超えた恋の魔法にかかろうとは、夢にも思わなかったわ、んもうっ(著者談)。
多様化を自認するおてんばプロレスならではの恋の路(みち)。恋女・美央と、恋する男の娘・ジュリーという、ふたりの♀(ひとりは♂)からの求愛を受けて、ダンプヤスオの男心-初心者マークつきである-は大きく揺れ動くのであった。
「えっ、まさか、ヤスオがお婿さんになるなんていう結末じゃないでしょうね」と目を丸くする美央。安子から安夫へ。男子としては初心者マークつきであったが、イケメンでワイルドで、それでいてハートも最高というヤスオが優勝者への副賞として差し出されたのである。
「あのね。同じ会社の部下が副賞というのは、わけがわからないってば――。一体何を考えているのよ、日奈子社長」。そんな想いが頭の中でリフレインを続けていた美央に向かって、「えへへ、美央先輩、僕をよろしく」とかなんとかいいながら、握手を求めてきたのは元・女子のヤスオであった。
「えっ、なんなんだよー。これって意味がわからないだろ」といい、ロングボブの茶髪をかきむしりながら、しきりに説明を求める美央だったが、そこは社長兼プロデューサーの日奈子のこと、きっと「ヤスオと誰かをくっつけちゃえ」ぐらいの気持ちで仕かけてきたとしか思えない。「これは絶対に社長の悪だくみだわ」とアピールしたら、「悪だくみじゃないよ、悪ふざけだよ」といい、当の日奈子がリングにあがってきた。
影であやつっていたのは、やっぱり社長の日奈子だ。おてんばプロレスナンバーワンの花嫁候補としてまつりあげられた美央と、今やちょい悪イケメンの男子マネージャーとして生まれ変わったヤスオ(元・アン子)をくっつけようという魂胆だったのである。
「すべては話題づくり。他のローカルプロレス団体ではなし得ないことを実現すること、それがおてんばプロレスなの。それにヤスオが男子になって、美央ちゃんのような美人と結婚できたら、男子冥利に尽きるわ。みんなで協力してヤスオを男の中の男にしましょうよ。ねー、会場の皆さんもそう思うでしょ」という日奈子のマイクパフォーマンスに、会場から大きな歓声(無理やり)があがった。
「何がなんだか、さっぱりわからないわ」と嘆く美央に対し、「僕は嬉しいです」といいながら、ヤスオがいきなりハグを求めてきた。「な、なんだよ」と慌てふためく美央。
「あ、あのなー。これってセクハラだからな」と美央は叫んだが、今やすっかりイケメンと化したヤスオの顔を見ていると、つい気を許してしまうのであった。
「お、お客さんが見ているだろ」といい、一旦は突っぱねた美央だったが、「でも、ヤスオとだったらいいかな」なんて思い直し、そっとヤスオの胸に顔をうずめたのだから、これがまたおかしなことになってきた。あっ、ヤスオの匂い。駅裏のラブホテルで感じたのと同じだわ。イケメンの魔力。私の居場所。なんてさ。たちまち恋におぼれた女の顔を浮かべる美央。
「いいぞー、やれやれ」なんて会場が大騒ぎをする中、「ちょっと待って」といって、美央とヤスオの間に割って入ったのはジュリーだった。
「おふたりが先輩-後輩の間柄であるのはよくわかるんですけど、試合の結果だけがすべてじゃありませんからね。私のことも忘れないでください。お願いしますよ、ダンプヤスオ君」といってのけたのである。
ジュリーによる急転直下の「ちょっと待って」には、さすがに会場全体がざわついた。「ジュリーには、俺(おら)がいるっちゃ」という酔っ払い軍団のひとことに、ドッという笑い声が起こった。笑い声で済むならまだしも、ジュリーの熱烈なる親衛隊の間からは痛烈なブーイングが浴びせられた。たとえ元・女子のヤスオといえども、超絶美女のジュリーを他のやからに奪われるわけにいかなかったのである。
「アン子ちゃんがヤスオ君になってから、ずいぶん考えさせられました。その勇気には拍手を送りたいですし、これからのヤスオ君の人生にもエールを送ります」といい、自分の想いを語り始めたジュリー。一瞬だけブーイングも聞かれたが、よくよく聞けば、自分と同じように“性”に悩んできたアン子のことが愛おしく、「今はただヤスオに会いたい」と考えているうちに、特別な想いが醸成されたようなのだ。ジュリー自身、男の娘から女の子へと変貌をとげている証なのかもしれない。女子的な生き方には、どうしたってジェラスな想いもつきまとうのだ。今はおてんば企画のバンコク事務所をたったひとりで守り続けているジュリーだが、異国での寂しさもあるのか、五千キロ近くも離れたバンコクの地から、男子へと大変身をとげたヤスオに熱烈なるラブコールを送っていたのである。
「私もアン子、いえ、ヤスオ君に特別な想いを抱いています。おてんば市とバンコク。距離は離れていても、気持ちはいつもすぐそばにありました。たからお願いです。私のことも花嫁候補に加えてください。もちろん試合の結果は結果で受け止めますが、今はヤスオ君のほんとうの想いが聞きたいんです。どうですか、皆さん」。
リング上でのジュリーの言葉に、ヤスオのことが気になって仕方がないという本気度がうかがえた。女子から男子へ、男子から女子へという立場の違いこそあれ、性のギャップに立ち向かおうとする後輩の姿に、ジュリーのハートが突き動かされたのだ。会場からは「ヤスオと美央とジュリー。三人でくっついたらいいんでねえの?」という声が聞こえてきた。「トリプルプレー」というかけ声に、「だめよ。そんなんじゃ、せっかくの青春小説が十八禁になっちゃうわ」と美央が嘆いた。
「いや、その前に――。私は私でジュリーとくっつきたいから」とかなんとか、リングサイドで日奈子がわめき立てているが、やめてやめて。これ以上、混乱しちゃったら、小説のプロットが総崩れでしょ。多様化の道を突き進む、おてんばプロレス。いくらなんでもまさかジュリーまでが男女の性差を超えた恋の魔法にかかろうとは、夢にも思わなかったわ、んもうっ(著者談)。
多様化を自認するおてんばプロレスならではの恋の路(みち)。恋女・美央と、恋する男の娘・ジュリーという、ふたりの♀(ひとりは♂)からの求愛を受けて、ダンプヤスオの男心-初心者マークつきである-は大きく揺れ動くのであった。
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