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ポトポトにひびく槌の音

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「……お前が気絶させたその者、我の眷属にしてポトポト王なのだが……」

「え”っこれがボスっすかあ?!」

「とりあえず村の中に運んで置いてくれ」

「ウッス!」

 村の中に入ると早速何やらいろいろトンテンカン始まっていた。
 俺のでっち上げたワイノクラフト式の炉はすっかり解体され、なんか教科書で見た、明治時代の溶鉱炉みたいな形になっている。こりゃクオリティの方向性が尋常じゃないぞ?

 キコキコと弓ノコでおれの作ったブロックを寸断し、レンガみたいにして積み上げているのか。ドワーフ器用だなおい!?

 炉を作るために、ドワーフが振るうハンマーの音が響く。
 ポトポトにひびく澄んだ槌の音。いいねぇいいねぇ。
 オッサンはこういうの好きよ。

 ローニィ一家は総勢10人くらいか?男女半々くらいで、男の方は解りやすいくらいドワーフだな。サンタクロースの髭部分が歩き回ってるみたいだ。

「これはすごいな。これがドワーフの炉か?」

「ッス!ローニィ一家自慢の反射炉っす!ムンゴルの鉄砲だって、こいつで作ってるッス!」

「おい!!!」

「……あ、ごめんッス!」

 ふぅーむ、鉄砲は人間じゃなくてドワーフ由来の技術か?
 ブラック労働に耐えかねた、ムンゴル技術者集団の亡命とみていいんだろうか?いうて、ポトポトもあれやこれやが足らないので、めっちゃブラックな労働環境になりそうなんだけど……。

「……ムンゴルのくびきといったな。お前たちはムンゴルに虐げられていたのか」

「ッス!うちらはムンゴルの騎兵隊に負けて、白髭山脈の住処を追われたっス。そっからは、ムンゴルに従属する一部族に成り下がったっス」

「だが、一族に伝わる石板にはそのことをちゃーんと刻んどる!いつかチンガスの髭を切り取って、柱に吊るしてやるわい!」

 ロイの言葉に反応してトンカチを振りまわしているのはヒゲを4本の三つ編みにしたちょっと少女趣味なオッサンだ。見た感じ、三つ編みの数が階級になってるんだろうか?年を取って偉そうな奴ほど、ヒゲの三つ編みの数が多い。

 勝手に4本さんと呼ばせてもらおう。

「ッス!」

 そうかぁ、しかしドワーフ、ドワーフと言えば異世界転生もので、主人公たちが、必ずといっていいほど、作らせてる定番のものがあるよなあ?

 それはもちろん、「鉄砲」のことだ。

 この世界での鉄砲は、大砲の事だが、手持ちの鉄砲はまだ出てきていない。もし、戦国時代くらいの鉄砲、それを作ってオーマあたりにばらまけば、連中もムンゴルから守るのにいちいち俺が出ていく必要もなくなる。

 鉄砲は訓練期間が少なくて済むので、兵隊の数を揃えやすくなる。数万単位の兵が俺によって消し飛ばされたオーマにとっては必要な武器だ。

 無論、反乱や貴族に対する革命の危険もでてくる。しかしそういった革命で王様が倒れた後の制度は民主的なものだったよな……たぶん?
 なので、この倫理観が完全に焼け野原になっている世界が、ちょっとはマシになっていく可能性も出てくる。

 俺やエルフの使ってるものと比べたら雲泥の差なんだから、別に多少バラまいたところで、問題はないさ。……たぶん。

「……ドワーフよ、ムンゴルの騎兵隊を打ち破った、我らの使ったもの。実はあれも我らは鉄砲とよんでいる。それに興味はないか?」

「ッス!ありまくりッス!」

「いくつか、参考になりそうなものを下賜するとしよう。それを複製できるかどうか試してみよ」

「ッス!やるッス!!」

 とはいえ、俺はFPSゲーマーとしての銃の知識はあるが、それがどうやって動いてるかなんて全然知らない。言ってみたはいいものの、どうすんべ?

 ちょっと豆腐ハウスを借りて、その中でクラフトメニューから、ドワーフに渡す銃を見繕うとしよう。

 エルフ達が使ってる、汎用軽機関銃とか汎用突撃銃は、俺が知ってるFPSの、割とSFチックな世界観の奴に似ている。だから多分あれを渡してもコピーはできないだろう。

 低級な武器、竹槍とかナイフくらいのでちょっと探してみる。
 国民簡易小銃?お、なんか末期感漂う、怪しげなのがあるな。
 ――なんか不安しかないが、ちょっとこれを出してみよう。

 クラフトで出てきたものを見て、俺はちょっと唖然としてしまった。
 
 なんかもう、俺の想像している銃とは全然違う。角材からニョキっと鉄パイプが付きだしていて、後ろの方には後ろに引くとロックがかかって、引き金を引くとカチンと落ちてくる、何かを挟む形をした金具。

 どう見ても戦国時代の火縄銃。しかも、それよりも粗悪だ。
 メニューにあるってことはだ、多分当時の戦争とかなんかで、国民にこれを使わせたってことだよな?頭おかしいんじゃねえの?これ考えた奴。

 どう考えても戦えるレベルにある武器じゃないから、これを使って相手の武器を奪えとか、そういうコンセプトのやつだろ。うへぇー。

 さすがにこのレベルのをお出ししたら、「馬鹿にしてるんじゃねえッス」ってロイに怒られそうだが、最初ならこれで様子見てもいいだろ。
 そもそも弾が自前で用意できるような銃じゃないと、送ってもゴミになるんだし。

 という訳でなんか、骨を待ってる犬みたいなロイに「国民簡易小銃」を渡してみることにした。さて、反応の方は?
 ――すっごいイヤそうな顔してる!ですよね!俺もどうかと思ったこれは!!

「これは……機人さんの美的センスはアレだと思いましたが、相当ッスね!」

「……ぬぅ。最も簡便なものを選んだつもりだが。アレか?」

「武器は見た目も重要ッスから。うーん、これならギリ作れないことも無いっすかね~?かなり難易度高いっすけど。一家に聞いてみるっす!」

 あ、このレベルでも高いんだ。じゃあ練習がてらに丁度良かったのかな?

「ローニィ一家!しゅうごーぅ!!!」

「「おう!!」」

わらわらとドワーフ達が集まって、簡易小銃を中心に円陣を組んで。あれやこれやと相談を始めた。俺はそれをどれどれ?と首をかしげて覗き込む。

「子供の作ったガラクタみたいな見た目なのになんじゃコレ?」
「この鉄の筒、継ぎ目が無いぞ?鋳造か?この細さで?頭おかしいな!」
「火薬をこの筒の尻に詰めて、この穴に点火じゃな。」
「いやでもこれ、火挟みを下すバネどうなってんのこれ?薄ッ!よく折れんな?」
「再設計すっか?」
「だな。ちょっとこのサイズの維持は無理だわ」

 ドワーフの技術でも、これそのまんま再現はきついんだなぁ。
 でもそりゃそうか。できるんだったら、とっくに手持ち銃は存在するよな。

「ウッス!今書いたッスけど、こんな感じの方向性で行こうとかと!」

 俺に差し出されたドワーフ作の設計図面。
 ――それは少し大型化してるが、戦国時代の火縄銃そのものだった。
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