60 / 165
機人、セールスマンになる
しおりを挟む
うぉん!出来立てほやほやの鉄砲を、ミリアと一緒にトラックに載せて走る俺。
まさかこの体になって、セールスマンをやることになるとは思わなかった。
売る相手はもちろん、神聖オーマ帝国と、その愉快な仲間たちだ。
ミリアにアゴをタプタプされた貴族連中は、隙あらばデイツ王の後釜を狙っている。
そしてデイツ王は、そいつらをけん制する手段を求めている。
つまり、買い手はいくらでもいる。
俺の目的は3つ。
鉄砲の部品、それの生産ラインの確立。
鉄砲の有効性を示して、オーマの軍を再建させ、ムンゴルから自衛させる。
鉄砲を普及させて、民衆に革命で王や貴族を打倒させて、マシな政府を建てる
――やりたいことを時系列にならべると、こんなかんじだな。
土煙を上げながら爆走すると、オーマの首都が見えてきた。
きっと、油断ならない連中が並んで、手ぐすね引いて待っているだろう。
オーマとムンゴルは絶賛戦争中だ。
にもかかわらず、両国は互いに大打撃を受けたため、おかげさまで、鉄砲をつくるなんて、こんな悠長なことができる。
まあ、大打撃は主に俺のせいだが。
さて、せっかく動ける時間があるなら、少しでもできることをしようと思う。
このアホみたいに倫理観が滅び去ってしまった世界。
まずはこれを何とかしないといけないのだ。
エルフが武力で独立を勝ち取ったとしても、今後も、お互いに関係を持たないままだと、いずれまたドンパチが始まる。どっちが勝つにせよ、それは不幸なことだ。
ならせめて不幸を前借りしてでも、後にもっとひどいことが起きないようにしたい。
鉄砲という産業をもってポトポトとオーマが関係を持てば、相手に殴りかかる前に何秒かのためらいが生まれる。その間に外交交渉なりをしてもらえばいい。
さて、俺たちは青空会議室へとたどり着いた。これはちょっと不幸な行き違いで、普段オーマでの会議に使われていた場所が、キノコ雲で消し飛んだからだ。
どでかいテーブルにイスを並べ、居並ぶ貴族とデイツ王。
それを前に、俺はおごそかに口を開く。
「……本題に入る前に確認だ。今のムンゴルの状況を述べよ」
「うむ、機人殿により、ムンゴルはさんざに打ち破られた。今のきゃつ等は、戦線をペーランドにまで下げ、つぎの攻撃の準備をしているものと思われる」
「我がムンゴルから防衛するにしても、我が到着するまで、お主らが防ぎきれねば、意味はない。しかし、今のオーマの兵不足は明らか。それでこれをこしらえて持ってきた。」
俺はドワーフとエルフの合作の火縄銃をドカッと置く。
「ムンゴルの鉄砲、それを歩兵が持てるようにしたものだ」
「機人殿、我らには既に連弩がある。とてもそれを超える品には見えませぬな」
「あまりにも粗野な見た目。これではいかがなものか」
ホホホホと小馬鹿にするように笑っている貴族、うん、大体想像通り。
なのでデモンストレーションと行きましょう。
「それは試してから、という話であったはずだ」
「うむ、こちらで鎧を着せた2つの的と、熟練の連弩兵を用意しておる。」
「そうだな、では、こちらは……」
俺は青空会議場で立っている、侍女の一人を指さす。
「……こちらは、そこの彼女でよい。ミリア、使い方を教えてやれ」
「ケケケ!がってん承知!」
「はて、いったい機人は何を考えているのじゃ?兵でもないおなごを?」
「大方、失敗した言い訳のために、侍女を使おうという腹でおじゃる」
これがちがうんだなー?
連弩を構えた兵と並べられる、火縄銃を携えた侍女さん。
二人の前に立つのは、鎧を着せられた、二つのカカシ。鎧にはご丁寧に的まで描かれている。
「ではまず、連弩兵から射撃を始めよ!」「ハハッ!」
オーマの連弩は、大きなレバーを縦に動かして、弓矢を放つものだ。マガジン代わりの矢の詰まった箱が、大きく上に伸びていて、それが狙いをつけるのに邪魔をして、あまり精度がよろしくない。
10発程度の矢を放ったが、命中は3本。鎧を貫通したものはそのうち2本。
この時代では、弓矢は集団に対して放つものだから、これでも十分なのだろう。
「……では、こちらは鎧の前に、盾を置いていただけるか?」
「はぁ?」「いいから、機人の言うとおりにするんだ!」「ハッ!」
鎧の前に、盾が縛り付けられたカカシ、それを前に侍女は火縄銃を構える。
じりじりと狙いをさだめ、引き金を引いた――。
火縄銃を始めて撃つ侍女。しかし彼女は割と肝が据わっていたようだ。
初めて聞くであろう、どん、という雷のような銃声にも怖気なかった。
飛んでいった金属の玉は、木製の盾をいとも簡単に貫き、鎧をうがち、ひしゃげさせた。勢いあまって、皮のベルトを引きちぎったのか、背面側の板金を地面に落としさえした。
恐らく、武器など生まれてこの方、持ったこともないであろう侍女。
それが熟練兵以上の破壊を、彼らの目の前で見せた。
デイツ王は確実にこれの意味を理解したのだろう。
ワサビチューブが3本目に突入した。
まさかこの体になって、セールスマンをやることになるとは思わなかった。
売る相手はもちろん、神聖オーマ帝国と、その愉快な仲間たちだ。
ミリアにアゴをタプタプされた貴族連中は、隙あらばデイツ王の後釜を狙っている。
そしてデイツ王は、そいつらをけん制する手段を求めている。
つまり、買い手はいくらでもいる。
俺の目的は3つ。
鉄砲の部品、それの生産ラインの確立。
鉄砲の有効性を示して、オーマの軍を再建させ、ムンゴルから自衛させる。
鉄砲を普及させて、民衆に革命で王や貴族を打倒させて、マシな政府を建てる
――やりたいことを時系列にならべると、こんなかんじだな。
土煙を上げながら爆走すると、オーマの首都が見えてきた。
きっと、油断ならない連中が並んで、手ぐすね引いて待っているだろう。
オーマとムンゴルは絶賛戦争中だ。
にもかかわらず、両国は互いに大打撃を受けたため、おかげさまで、鉄砲をつくるなんて、こんな悠長なことができる。
まあ、大打撃は主に俺のせいだが。
さて、せっかく動ける時間があるなら、少しでもできることをしようと思う。
このアホみたいに倫理観が滅び去ってしまった世界。
まずはこれを何とかしないといけないのだ。
エルフが武力で独立を勝ち取ったとしても、今後も、お互いに関係を持たないままだと、いずれまたドンパチが始まる。どっちが勝つにせよ、それは不幸なことだ。
ならせめて不幸を前借りしてでも、後にもっとひどいことが起きないようにしたい。
鉄砲という産業をもってポトポトとオーマが関係を持てば、相手に殴りかかる前に何秒かのためらいが生まれる。その間に外交交渉なりをしてもらえばいい。
さて、俺たちは青空会議室へとたどり着いた。これはちょっと不幸な行き違いで、普段オーマでの会議に使われていた場所が、キノコ雲で消し飛んだからだ。
どでかいテーブルにイスを並べ、居並ぶ貴族とデイツ王。
それを前に、俺はおごそかに口を開く。
「……本題に入る前に確認だ。今のムンゴルの状況を述べよ」
「うむ、機人殿により、ムンゴルはさんざに打ち破られた。今のきゃつ等は、戦線をペーランドにまで下げ、つぎの攻撃の準備をしているものと思われる」
「我がムンゴルから防衛するにしても、我が到着するまで、お主らが防ぎきれねば、意味はない。しかし、今のオーマの兵不足は明らか。それでこれをこしらえて持ってきた。」
俺はドワーフとエルフの合作の火縄銃をドカッと置く。
「ムンゴルの鉄砲、それを歩兵が持てるようにしたものだ」
「機人殿、我らには既に連弩がある。とてもそれを超える品には見えませぬな」
「あまりにも粗野な見た目。これではいかがなものか」
ホホホホと小馬鹿にするように笑っている貴族、うん、大体想像通り。
なのでデモンストレーションと行きましょう。
「それは試してから、という話であったはずだ」
「うむ、こちらで鎧を着せた2つの的と、熟練の連弩兵を用意しておる。」
「そうだな、では、こちらは……」
俺は青空会議場で立っている、侍女の一人を指さす。
「……こちらは、そこの彼女でよい。ミリア、使い方を教えてやれ」
「ケケケ!がってん承知!」
「はて、いったい機人は何を考えているのじゃ?兵でもないおなごを?」
「大方、失敗した言い訳のために、侍女を使おうという腹でおじゃる」
これがちがうんだなー?
連弩を構えた兵と並べられる、火縄銃を携えた侍女さん。
二人の前に立つのは、鎧を着せられた、二つのカカシ。鎧にはご丁寧に的まで描かれている。
「ではまず、連弩兵から射撃を始めよ!」「ハハッ!」
オーマの連弩は、大きなレバーを縦に動かして、弓矢を放つものだ。マガジン代わりの矢の詰まった箱が、大きく上に伸びていて、それが狙いをつけるのに邪魔をして、あまり精度がよろしくない。
10発程度の矢を放ったが、命中は3本。鎧を貫通したものはそのうち2本。
この時代では、弓矢は集団に対して放つものだから、これでも十分なのだろう。
「……では、こちらは鎧の前に、盾を置いていただけるか?」
「はぁ?」「いいから、機人の言うとおりにするんだ!」「ハッ!」
鎧の前に、盾が縛り付けられたカカシ、それを前に侍女は火縄銃を構える。
じりじりと狙いをさだめ、引き金を引いた――。
火縄銃を始めて撃つ侍女。しかし彼女は割と肝が据わっていたようだ。
初めて聞くであろう、どん、という雷のような銃声にも怖気なかった。
飛んでいった金属の玉は、木製の盾をいとも簡単に貫き、鎧をうがち、ひしゃげさせた。勢いあまって、皮のベルトを引きちぎったのか、背面側の板金を地面に落としさえした。
恐らく、武器など生まれてこの方、持ったこともないであろう侍女。
それが熟練兵以上の破壊を、彼らの目の前で見せた。
デイツ王は確実にこれの意味を理解したのだろう。
ワサビチューブが3本目に突入した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる