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共鳴する魂
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「ほ、ほんとにいいんですか……?こんなのをもらっても」
ファンレターとして「アニメイション」を送り付けてきた「パヤオ」君に、俺は今用意した作画スタジオを見せているところだった。
10個の机が並び、撮影用のカメラと、検品の為に上映する用のプロジェクターや他にも画材道具やなんかを色々取り揃えた。
なにせアニメイションの「ア」の字も無い世界だったので、専用機材には特に苦労した。撮影機材、トレース台なんかは、当然軍事用途に特化して入るっぽい俺のクラフトメニューには存在しないのでポンっと出すわけにはいかない。
なので俺がふんわりと「こんなもんが欲しい」とオーダーしたものを、ロイとポルシュがその雰囲気を手掛かりに作り上げたものだ。二人には手間をかけ、本当に申し訳ないと思っている。
しかし、彼らの協力もあって、大変にアニメスタジオっぽいものが出来た。
まさかここまでちゃんとしたものができるとは思わなかったけど。
「……うむ、パヤオ君、君の才能は素晴らしい。是非ともその才能をこの場で活かしてほしいと思ってな」
「まさか、『蹴るぞ!ミリアちゃん』の作者である機人様にそこまでいわれては……僕にはとても断るなんてできません!」
「やってくれるか!!!!」
「はい!!!!」
俺はパヤオくんとガッシと握手を交わした。
彼の手は白く細いが、指には長年ペンを持ってできたタコができている。
よくもまあここまで研ぎ澄ませたものだ。
「……ところで、君は何か描きたい物語はあるか?」
「物語、ですか?」
「……うむ、君のアニメイションは素晴らしい。しかし今のところはキャラクターの魅力を描くにとどまっている」
そう、彼が箱に入れて送ってくれたファンアートは、ミリアの一動作だったのだ。
すばらしくはあるが、そこにまだストーリー、「物語」は無かった。
「これにに音楽と声の演技が加わって、それが何かを伝えようとする物語となれば、とても素晴らしいものになると思うのだが……」
「たしかにその通りです。ですがそれには脚本家が必要です。ぼくは絵が描けますけど、文章となると……」
「……うむ、仕方がない。久しぶりに私が書くとするか」
「そうか!!機人様はそもそも原作者でしたね!」
「……まあな。そうだな、初作品でもあることだし、ここは10分程度のショートストーリーのプロモーションビデオをつくるとしよう」
「プロモーションビデオとはなんですか?」
「……そうだな、簡単に言うと、シスターミリアを全く知らないものに、その魅力を伝える映像を作ってほしいという事だ」
「なるほど!!それが10分ですね?」
「10分という事は600秒、つまり18000枚の動画が必要ですね」
「……数字にすると絶望的な枚数だが、全てを動かす必要は無い。考えてみよ、導入部分は、見る者に世界観を説明しなくてはいけない。なら背景の一枚絵や、動きの少ない、落ち着いたシーンの方が良いだろう?」
そう、全ての場面でキャラクターを動かす必要はない。一枚壮大な背景を描いて、カメラを横に動かすだけでもいいのだ。
いきなりバンバン動かれてもこっちは見る準備ができていないので、まずお客さんを見る態勢にしないといけない。動く部分と止まった部分、緩急が必要なのだ。
きっとそういったテクニックは、まだこの世界では確立していないはずだ。
「そうか!ストーリーのメリハリですね?」
いや、意外と勘がいいなコイツ?!
「……うむ、ここは脚本家の腕の見せ所だな。10分全てのシーンが激しく動いていたら見る者が疲れてしまう。そもそもアニメーションを初めて見るものもいる」
「確かに、きっと機人様の言う通りです」
そうだな、であるならば……。
「……私からの課題を出そう。パヤオくん、この10分の作品の1割、1分の時間で観客の心を掴むシーンを作るのだ。アクションに拘る部分は1800枚のシーンで良い」
「……戦闘シーンのアクションでもいいし、日常動作でもいい。それを創れ。そうすればその前後のストーリーは私が考える」
「それでは機人様に負担がかかるのでは?」
「……馬鹿を言え、文字が一番手間がかからん。なんせ「山」「川」こういった単語ひとつを置くだけで世界が変わるのだからな」
「なるほど、そういわれてみればそうですね」
「……とにかくアニメイションは手間がかかる。こういったプロジェクトでは、一番手間がかかる作業を中心に据えて物事を考えた方が良い」
「は、はい!」
「安心しろ、脚本家はお前の味方だ。なにか都合が悪いことがあっても、なんとかしてつじつま合わせをしてやるから、好きなように描けばいい」
「わかりました、やってみます!!!!」
「……頼んだぞ」
俺は机に向かった「パヤオ」君の背中を見た。
うむ、丸まった背中、細かく動く指先を見つめる目は真剣そのものだ。
美少女であるミリアを描いているにもかかわらず、パヤオの頭にはいやらしい感情や、うわついた感情は一切ない。
彼が神経をとがらせているのは、そんな「エロい」とか「かわいい」といった漠然なものではないのだ。
彼が描いたその曲線で浮かび上がらせようとしているのは、ミリアの立ち居振る舞いの筋肉の動きと、その奥底にある感情と意志だ。
そしてそれを取り囲む世界。重力や風、光といったものだ。
「エルフ」の美しさを限られた時間でどう表現するか?
そこに疚しさなどない。
「グフフ、年頃の女の子が何てはしたない!」なんてことは、微塵にも思ってはいないだろう。たぶん。
やはり創作というのは素晴らしいな。
熱い魂、そこに熱気を感じる。
フフフ……!意外とこういうのは世界が滅んでも変わらんものだな!
(Cis. 芸術って意外と生き残りますよね。食えもしないのによくやります。)
(まあ、人間ってそういう所あるからねー。AIにはわからんやろ、ガハハ!)
(あなたも一応AIなんですが……有機生命体の思考がベースになってますけどね)
(そういやそうか。前世の俺がこう言うの好きで助かったわ)
(自覚して居直るのも意味が解りませんね。まあ機人様の場合、考えるだけ無駄ですか)
ナビさんの言い回しにちょっと傷つくが、まあそんなもんだよ。
こんな無駄なもんに理由は無いのだ。ただむやみに「好き」ってだけだ。
でもこれが意外と不思議なもんで、一度は絶望した人を動かしたりする、なくてはならないもんだったりする。
だから俺の前世にもこれはあったし、今世でも生まれたんだろう。
これを「正しい」とか「ふさわしい」なんていう勝手な考えで、都合よくどうにかしようとした連中もいた。
しかし連中には「好き」が理解できなかった。
そして連中は、その行いに「ふさわしい」「正しい」返報を受けたのだ。
・
・
・
数日して動画が完成したというので、俺はその試写に立ち会った。
スクリーンの上ではシスターミリアが動いている。
生命の躍動、リズムを感じる。そしてその奥に宿る意志も。
それは見る者すべてを励ますようなダンスだった。
そうか、彼の思うミリアはこうか。
「どうでしょうか?」
「……よしこれで行こう、パヤオくん、仕上げで変更したいところがあったら、いつでも言ってくれ。こちらはそれに合わせる。」
「はい!!」
それからさらに1月後の事だった。
世界初の音楽、声の演技がついて、完全着色された「アニメイション」。
それがついにCTNを通して、ラメリカ中に放映される事となった。
そしてこれが、たった10分にすぎない短いアニメイションが、ラメリカの問題を大きく進展させることになるのだ。
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「ほ、ほんとにいいんですか……?こんなのをもらっても」
ファンレターとして「アニメイション」を送り付けてきた「パヤオ」君に、俺は今用意した作画スタジオを見せているところだった。
10個の机が並び、撮影用のカメラと、検品の為に上映する用のプロジェクターや他にも画材道具やなんかを色々取り揃えた。
なにせアニメイションの「ア」の字も無い世界だったので、専用機材には特に苦労した。撮影機材、トレース台なんかは、当然軍事用途に特化して入るっぽい俺のクラフトメニューには存在しないのでポンっと出すわけにはいかない。
なので俺がふんわりと「こんなもんが欲しい」とオーダーしたものを、ロイとポルシュがその雰囲気を手掛かりに作り上げたものだ。二人には手間をかけ、本当に申し訳ないと思っている。
しかし、彼らの協力もあって、大変にアニメスタジオっぽいものが出来た。
まさかここまでちゃんとしたものができるとは思わなかったけど。
「……うむ、パヤオ君、君の才能は素晴らしい。是非ともその才能をこの場で活かしてほしいと思ってな」
「まさか、『蹴るぞ!ミリアちゃん』の作者である機人様にそこまでいわれては……僕にはとても断るなんてできません!」
「やってくれるか!!!!」
「はい!!!!」
俺はパヤオくんとガッシと握手を交わした。
彼の手は白く細いが、指には長年ペンを持ってできたタコができている。
よくもまあここまで研ぎ澄ませたものだ。
「……ところで、君は何か描きたい物語はあるか?」
「物語、ですか?」
「……うむ、君のアニメイションは素晴らしい。しかし今のところはキャラクターの魅力を描くにとどまっている」
そう、彼が箱に入れて送ってくれたファンアートは、ミリアの一動作だったのだ。
すばらしくはあるが、そこにまだストーリー、「物語」は無かった。
「これにに音楽と声の演技が加わって、それが何かを伝えようとする物語となれば、とても素晴らしいものになると思うのだが……」
「たしかにその通りです。ですがそれには脚本家が必要です。ぼくは絵が描けますけど、文章となると……」
「……うむ、仕方がない。久しぶりに私が書くとするか」
「そうか!!機人様はそもそも原作者でしたね!」
「……まあな。そうだな、初作品でもあることだし、ここは10分程度のショートストーリーのプロモーションビデオをつくるとしよう」
「プロモーションビデオとはなんですか?」
「……そうだな、簡単に言うと、シスターミリアを全く知らないものに、その魅力を伝える映像を作ってほしいという事だ」
「なるほど!!それが10分ですね?」
「10分という事は600秒、つまり18000枚の動画が必要ですね」
「……数字にすると絶望的な枚数だが、全てを動かす必要は無い。考えてみよ、導入部分は、見る者に世界観を説明しなくてはいけない。なら背景の一枚絵や、動きの少ない、落ち着いたシーンの方が良いだろう?」
そう、全ての場面でキャラクターを動かす必要はない。一枚壮大な背景を描いて、カメラを横に動かすだけでもいいのだ。
いきなりバンバン動かれてもこっちは見る準備ができていないので、まずお客さんを見る態勢にしないといけない。動く部分と止まった部分、緩急が必要なのだ。
きっとそういったテクニックは、まだこの世界では確立していないはずだ。
「そうか!ストーリーのメリハリですね?」
いや、意外と勘がいいなコイツ?!
「……うむ、ここは脚本家の腕の見せ所だな。10分全てのシーンが激しく動いていたら見る者が疲れてしまう。そもそもアニメーションを初めて見るものもいる」
「確かに、きっと機人様の言う通りです」
そうだな、であるならば……。
「……私からの課題を出そう。パヤオくん、この10分の作品の1割、1分の時間で観客の心を掴むシーンを作るのだ。アクションに拘る部分は1800枚のシーンで良い」
「……戦闘シーンのアクションでもいいし、日常動作でもいい。それを創れ。そうすればその前後のストーリーは私が考える」
「それでは機人様に負担がかかるのでは?」
「……馬鹿を言え、文字が一番手間がかからん。なんせ「山」「川」こういった単語ひとつを置くだけで世界が変わるのだからな」
「なるほど、そういわれてみればそうですね」
「……とにかくアニメイションは手間がかかる。こういったプロジェクトでは、一番手間がかかる作業を中心に据えて物事を考えた方が良い」
「は、はい!」
「安心しろ、脚本家はお前の味方だ。なにか都合が悪いことがあっても、なんとかしてつじつま合わせをしてやるから、好きなように描けばいい」
「わかりました、やってみます!!!!」
「……頼んだぞ」
俺は机に向かった「パヤオ」君の背中を見た。
うむ、丸まった背中、細かく動く指先を見つめる目は真剣そのものだ。
美少女であるミリアを描いているにもかかわらず、パヤオの頭にはいやらしい感情や、うわついた感情は一切ない。
彼が神経をとがらせているのは、そんな「エロい」とか「かわいい」といった漠然なものではないのだ。
彼が描いたその曲線で浮かび上がらせようとしているのは、ミリアの立ち居振る舞いの筋肉の動きと、その奥底にある感情と意志だ。
そしてそれを取り囲む世界。重力や風、光といったものだ。
「エルフ」の美しさを限られた時間でどう表現するか?
そこに疚しさなどない。
「グフフ、年頃の女の子が何てはしたない!」なんてことは、微塵にも思ってはいないだろう。たぶん。
やはり創作というのは素晴らしいな。
熱い魂、そこに熱気を感じる。
フフフ……!意外とこういうのは世界が滅んでも変わらんものだな!
(Cis. 芸術って意外と生き残りますよね。食えもしないのによくやります。)
(まあ、人間ってそういう所あるからねー。AIにはわからんやろ、ガハハ!)
(あなたも一応AIなんですが……有機生命体の思考がベースになってますけどね)
(そういやそうか。前世の俺がこう言うの好きで助かったわ)
(自覚して居直るのも意味が解りませんね。まあ機人様の場合、考えるだけ無駄ですか)
ナビさんの言い回しにちょっと傷つくが、まあそんなもんだよ。
こんな無駄なもんに理由は無いのだ。ただむやみに「好き」ってだけだ。
でもこれが意外と不思議なもんで、一度は絶望した人を動かしたりする、なくてはならないもんだったりする。
だから俺の前世にもこれはあったし、今世でも生まれたんだろう。
これを「正しい」とか「ふさわしい」なんていう勝手な考えで、都合よくどうにかしようとした連中もいた。
しかし連中には「好き」が理解できなかった。
そして連中は、その行いに「ふさわしい」「正しい」返報を受けたのだ。
・
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・
数日して動画が完成したというので、俺はその試写に立ち会った。
スクリーンの上ではシスターミリアが動いている。
生命の躍動、リズムを感じる。そしてその奥に宿る意志も。
それは見る者すべてを励ますようなダンスだった。
そうか、彼の思うミリアはこうか。
「どうでしょうか?」
「……よしこれで行こう、パヤオくん、仕上げで変更したいところがあったら、いつでも言ってくれ。こちらはそれに合わせる。」
「はい!!」
それからさらに1月後の事だった。
世界初の音楽、声の演技がついて、完全着色された「アニメイション」。
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