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114.あれは向こう岸に燃える炎ではなかった
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どうしよう。人生設計が土台から狂ってしまう。
親方は発情期が来ようと来まいと雇ってくれるだろう。
弟子入りの当初はまだ発情期が来るかもしれないと思われていて、あらかじめそういう条件をつけてくれたからだ。
いつまでも体が成熟しないあゆたを心配こそすれ、オメガの発情期が来たからと放り出されないのはありがたかった。
(大学は? 帰ったら調べて……)
書類上はオメガだが発情期が来ない前提で大学の情報を集めていたので、オメガ特有の施設の有無や設備など改めて検討しなければならない。
のべつ幕なしに考えが浮かぶ。
不安は思考を加速させた。何か考えて神経を張りつめておかなければ、あゆたは頽れてしまいそうになっていた。
率直に怖かった。
体が変化する。
オメガはアルファを誘う。
もうおぼろげな美しい思い出の中の、母のたおやかな、しかし寂しげな横顔。
(いやだ、いやだ)
発情期なんて。
怖い。怖い。
あゆたの望みとは裏腹に、心は勝手に八月一日宮を求める。
いざこうなってしまうと、自分の体が変わっていく恐れのほうが強かった。
オメガとして出来損ないだと蔑まされながら、ずるいあゆたは確かに心のどこかで安堵していた。
自分には関係ないとたかをくくっていた。アルファとオメガの狂騒に巻き込まれない。あれは対岸の火事なんだと。
(八月一日宮は、どんな顔をするかな)
俺はお前の運命の男かもしれないよ。
オメガを嫌っている彼の、目尻の下がった甘い笑みはもう二度とあゆたに向けられないかもしれない。
恋を自覚した時と同じように、底のない沼にずぶずぶと沈んでいくような不安があゆたを掴んでいた。
親方は発情期が来ようと来まいと雇ってくれるだろう。
弟子入りの当初はまだ発情期が来るかもしれないと思われていて、あらかじめそういう条件をつけてくれたからだ。
いつまでも体が成熟しないあゆたを心配こそすれ、オメガの発情期が来たからと放り出されないのはありがたかった。
(大学は? 帰ったら調べて……)
書類上はオメガだが発情期が来ない前提で大学の情報を集めていたので、オメガ特有の施設の有無や設備など改めて検討しなければならない。
のべつ幕なしに考えが浮かぶ。
不安は思考を加速させた。何か考えて神経を張りつめておかなければ、あゆたは頽れてしまいそうになっていた。
率直に怖かった。
体が変化する。
オメガはアルファを誘う。
もうおぼろげな美しい思い出の中の、母のたおやかな、しかし寂しげな横顔。
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あゆたの望みとは裏腹に、心は勝手に八月一日宮を求める。
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自分には関係ないとたかをくくっていた。アルファとオメガの狂騒に巻き込まれない。あれは対岸の火事なんだと。
(八月一日宮は、どんな顔をするかな)
俺はお前の運命の男かもしれないよ。
オメガを嫌っている彼の、目尻の下がった甘い笑みはもう二度とあゆたに向けられないかもしれない。
恋を自覚した時と同じように、底のない沼にずぶずぶと沈んでいくような不安があゆたを掴んでいた。
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