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第一章
休息と再び鑑定
しおりを挟む目が覚めると、俺はナヴィさんの家のベッドの上だった。全身血まみれの俺をノランが必死で村まで運んできたらしい。
あいつ根性あるんだな。今度お礼を言っておこう。
ナヴィさんに泣かれ、喜ばれ、そして怒られた。
哀れなノランは言うまでもない。しばらく自宅謹慎らしい。
ノランは慌てていて、トレントの死体を見なかったらしい。運よくトレントが退散してくれたと思ったみたいで、村の人たちにそう伝えたそうだ。
まあ、そうだよね。俺がトレントを倒したとは思わないよね。
しかし、魔物の死体って燃やすか心臓部である魔石を取らないと、また変な化け物になったり、周りの動植物に悪影響を及ぼすことがあるとパティさんが言っていたのを思い出した。ナヴィさんが働いているうちに、俺はそっと村を抜け出し、トレントの死体のところまで行った。魔石の場所がわからずあっちこっち刺したり剝がしたりしてみた。すると、枝の付け根を剥がした時に、ビー玉くらいの大きさの石が出てきた。おそらく魔石なのだろう。いろいろと面倒なことになるだろうから村の人たちには内緒にしておこうと決め、魔石をポケットにしまって村に戻った。トレントとの戦いでかなりの傷を負ったと思ったが、結構回復してきていた。しかし、俺のスキルなどのおかげなのか、この世界の常識なのかはわからなかった。
村に戻った俺は、ギルドの仕事までの二日間、ナヴィさんのお手伝いをしようとしたが、怪我をしたんだからちゃんと休みなさいと怒られ、村のことを学びながらのんびりと過ごすことにした。だが、回復したての体で森に行ったせいなのか、その日は疲労と眠気に襲われ一日中寝込んでしまった。
そして、次の日の昼間に目が覚めた。朝、ナヴィさんが仕事に行ってくると寝ぼける俺に言ってきたかすかな記憶があった。体の調子は大分よかった。
村まで俺を背負ってきたお礼がてらノランの様子を見に行くと、家の外でノランのお母さんが魚の処理をしていた。俺に気が付くと彼女は俺に迷惑かけたことを謝り、ノランはまだ自宅謹慎だから今度また遊びに来てねと言ってくれた。それと同時くらいに、家の奥から20代前半くらいの逞しい男が出てきた。彼はバランという名で、ノランの年の離れたお兄さんだった。父親は漁の時の事故で亡くなったらしく、今はバランさんとノランと二人の母の三人で暮らしていた。バランさんは漁から帰ってきたばかりで、一休みの最中だった。
折角だからと俺に村やこの辺のことについて教えてくれた。そして、俺にナヴィさんについていろいろ聞いて来た。
それが目的か…
どうやらバランさんはナヴィさんのことが好きなんだが、中々声をかけることが出来ないでいるみたいだ。
小さな村だから振られるとあとがきついもんな…
そうでなくても、女性に話しかけられないのには共感してしまう俺だった。ふとバランさんの後ろにいたお母さんを見ると、何やら魚に向かって手をかざしながら何かをしていた。すると、手の周りが少し光った。
「今お母さんの手が光ったのが見えたのですが、あれはなんですか?」
「うん?おめえ、魔法みたことないのか?あっ、そうか船の事故で記憶がはっきりしないんだっけ?」
あれは魔法なのか。普通の人でも魔法使えるものなんだ。
初魔法にワクワクしながら、彼女が魔法をかけるのを見学した。
「あれは生活魔法だ。うちのお母さんは風属性の生活魔法が少し使えるんだ」
生活魔法は魔法の才能があまりない一般の人でも、必要な魔力が小さいため使える者がたまにいるのだという。彼のお母さんは風属性が得意で風の力で魚の天日干しの促進などが出来るらしい。生活魔法には様々なものがあり、火をつけたり、水の力で洗濯といった日常生活や家事に必要な作業を魔法で簡単に出来るというものだった。バランさんも風属性が得意らしいが、外界に影響を及ぼすような魔法は一切使えないとのことだ。
魔法が生活に溶け込んだ風景は新鮮で、自分が全く違う世界に来たことを再認識した。
「魔法の属性ってどうやってわかるんですか?」
「基本的には魔法ギルドにいけば鑑定してくれるよ。得意な属性とか魔力などをね」
「どこで鑑定してもらえるんですか?今、ルハン町の冒険者ギルドで働いているんですけど、ルハン町では鑑定できないと言われました」
「ああ、そうだな。ルハン町には魔法ギルドがないからな。魔法ギルドは大きな町にしかないんだ。登録できるほどの人は少ないし、こんな田舎に魔法使いはほとんど住まないしね。ちなみに、魔法使いのほとんどは魔法学園の卒業生なんだ」
魔法学園とかもあるのか。魔法使いって響がいいよな。俺にも魔法の才能とかあれば、魔法使いになってみたいかも。
「魔法使いってどうやってなるんですか?」
「まあ、俺もあまり詳しくはないけど、だいたいの魔法使いは大きな町にある魔法学園に入って勉強してなるんじゃないかな。でも、入学はすごい厳しいと聞いたことがある。普段、魔法使いを見る機会なんてあまりないからな。俺も毎年この村に来る魔法使いしか見たことないしな」
「魔法使いがこの村にくるんですか?」
「ああ、年に一回、秋の収穫祭の日に領主が魔法使いを呼んでこの近辺の海に魔法をかけてもらうんだ。漁の祈祷も含まれているんだけど、魔法をかけてもらうと魚の成長がよくなるんだ」
「俺もみてみたいです。収穫祭っていつなんですか?」
「今は春だから、まだまだ先だね。」
ちゃんとした魔法使いを見てみたいな。
冒険者ギルドのパティさんにもいろいろ聞いてみるか。
「漁の祈祷が出来る魔法使いを呼ぶのめちゃくちゃお金がかかるって聞いたことがあるな。ジグル男爵は領民思いで収穫祭の費用は全部だしてくれるから金額は知らないんだが、噂では一回金貨100枚って聞いたことがある。」
「金貨100枚!!すごいですね。めちゃくちゃ儲かる仕事なんですね」
「そりゃ~、魔法使いはみんなお金持ちだよ。魔法使いじゃなくても使い勝手のいい水属性の生活魔法が得意なら、それだけど普通以上の生活が出来るからね。漁の祈祷に必要な水と土の属性が得意な魔法使いともなったらいくら稼いでいるのか想像すら出来ないよ。二つの属性が得意な人はまずいないからな」
金額からしてもなれる人は極僅かなんだろうな。でもなんか少しわくわくする。魔法を使うってどんな気持ちなんだろ。
「バランさんのお母さんは魔法をどこで覚えたんですか?」
「生活魔法ね。魔法というと普通魔法使いが使うもっと強力なものを指すんだ。お母さんは隣のイシル村の人に教わったよ。魚の加工はイシル村の方が盛んだから、風の生活魔法を使える人が多いんだ。ナヴィさんの仕事もイシル村だしね。その代わり、こっちには腕利きの漁師が多いんだ、俺みたいなな」
それからバランさんからいろいろこの世界について聞いていると、向こうからナヴィさんが歩いて来た。
「体は大丈夫?ヒノ君はまだ安静にしてなきゃだめよ。あっ、こんにちはバランさん」
「あっ、こ、こんにちはナヴィさん…今日もいい天気ですね」
「はい」
ナヴィさんが笑顔で返すと、バランさんは目線をはずしておどおどし始めた。
バランさん…ナヴィさんとは会話もまともに出来ないのか…
「帰ったらご飯の支度をするから、ヒノ君もおいで」
引きつった笑顔で「また明日」と言った不憫なバランさんをあとにし、二人で家に帰った。早速、ご飯の支度を始めるナヴィさん。
気づかなかったけど、よく見るとコンロから普通に火が出ている。ガスも電気もないこの世界で。ナヴィさんに聞くと、魔石で機能するコンロらしい。魔物から取れる魔石が使われていて、家電みたいなものだった。魔法がありふれたこの世界の奥深さを考えさせられた。
そして、実はナヴィさんも風属性の生活魔法が使えることがわかった。そのおかげで一人でも魚の加工をして生計を立てることが出来ているんだとか。ファンタジーだけどシビアな一面も少し垣間見える内容だった。
その日はご飯を食べた後、少し談笑して眠りについた。
次の日の朝、ナヴィさんがダイレ村からルハン町に行く人がいるからいっしょに行きなさいと言って、ナボという中年のおじさんを紹介してくれた。出発の前に、ノランに村まで運んでくれたことに対してお礼を言いに彼の家に寄った。ノランは謹慎が解けたみたいで朝からご機嫌で木の塊で遊んでいた。単純だがすがすがしいやつだ。そして、村の入口でナボさんと合流し、ルハン町に向かった。
ナボさんは漁師だが村で獲れた魚をルハン町の店まで運ぶのも仕事の一環らしい。干し魚いっぱいの箱を体にひもで括り付けていた。帰りには村に必要な野菜などを買うそうだ。月に二度エルンという大きな市から来る商人から買うのは、ルハン町で売っていないめずらしい品々らしい。背中の箱には干し魚が50匹ほど詰めており、一匹銅貨6枚で卸すそうだ。ナボさんと何人かの持ち回りで月に20回ほどルハン町に行くとのこと。
道中、他の村人たちが合流してきた。近くの村の農家たちは野菜を毎朝店に卸すのだそうだ。毎日この距離を歩くのはきついとのことだが、馬車などはお貴族か裕福な商人しか持っていない高価なものらしい。
そうこうしているうちにあっという間に2時間が経ち、ルハン町に着いた。俺はナボさんと別れ冒険者ギルドに着いた。今日からまた四日間ここで働く。仕事はきつくないし、食事も出るのでむしろ楽しみだった。
お昼の暇な時間にパティさんにトレントから手に入れた魔石を見せた。その時、パティさんに魔石を手に入れた経緯について聞かれた。嘘をついても仕方がない上に、まだ討伐依頼が掲示板に貼ってあるので、他の冒険者がこの依頼を受けて無駄骨を折るのも気が引けるので、正直に話した。それに依頼書にあった魔物を討伐すれば、ギルドやその上に報告しなければならない決まりもある。
パティさんは驚いたあと怒り、俺は厳しく注意された。だが、信じられないでいるパティさんはもう一度俺のレベルを鑑定してみた。
「うそ!こんなことありえない…」
名前:ヒノ
人族
レベル6
体力:15
攻撃力:17
防御力:14
魔力:?
素早さ:10
知力:?
スキル:不屈の根性、限界突破
現レベル経験値:31
おお!いろんな数値が三倍くらいに増えてる。
「どうして?レベルって年単位の修練などで増えるものなのよ。自分よりはるかに強い魔物を倒したからなのかしら。ちょっと待ってて」
そう言ってパティさんはギルド長のボルンさんを呼びに行った。ボルンさんは興奮気味に二階から降りてきた。そして、俺のステータスを確認したボルンさんは、
「スキルの影響なのかな…なんにもしてもこれはすごい」
「もうその辺の大人よりも強いわよ、これ!」
そして急に我に返ったかのように咳ばらいをして、パティさんは冷静な口調で俺の無謀な行動を叱った。一通りというか、結構長めの説教だった。そして、パティさんに解放された俺にボルンさんが話しかけてきた。
「それにしてもすごいな。その年でその強さ。才能があるのかも知れないな…よし、俺が鍛えてやる。決めた、これから仕事以外の時間は俺が鍛えてやる。感謝しろ。わっははは」
決められた…俺の意思と関係なく…この人強引なんだ…そういうタイプの人間なんだ…
すると、少し青ざめたパティさんがボルンさんを止めようとしたが、彼は聞く耳を持たず、笑顔で「いや、もう決まったから」の一点張りで押し通した。しばらくして、諦めたような表情を浮かべながら、不憫な子を見る目でこっちを見た。
ちなみに、俺が手に入れた魔石は銀貨8枚で買い取ってくれた。そして、その書類と報告書は俺が自分で作成することになった。
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