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第一章
ギルドの仕事と特訓
しおりを挟むルハン町の冒険者ギルドで働き始めて一ヶ月が経った。ダイレ村やこの町での生活にもようやく慣れてきた。仕事もパティさんに教えられながら徐々に一人で出来ることが増えてきた。ギルドによく持ち込まれるので、一般的な薬草の名前と効能なども学んだ。しかし、この平和な地域では本物の強い冒険者を見かけることはない。
俺は冒険者として登録できるようになる15歳になったら、この世界を見て周ろうと思うようになった。今、書類上12歳だからあと3年間ここで働きながら修行すれば、冒険者として独り立ち出来るはずだ。折角の新しい人生だからいろいろみてみたい。
冒険者ギルドについてだが、基本的にギルドは中立で王国にも領主にも属さず、そのバランスを保つ役割も兼ねているのだ。ギルドはラグナ王国王都冒険者ギルド本部の直轄で、そのギルド本部は最終的には国王に属するが、かなりの範囲で自由運営が許されている。その独立性から各地に支部が置かれ独自のネットワークを形成している。例外もあるようだが、他の種類のギルドも同じみたいだ。
中立的な立場のせいか、ルハン町のギルドの仕事は意外と役所じみていて冒険者関連ばかりではなかった。この町と周辺の村の生活に密着していて、領民の意見や苦情、嘆願書なども扱うことが多い。それらをまとめて町長やルハン町を治めるレオルド辺境伯爵、そして必要があれば王都にギルド本部に報告をするのだ。要は、ここの領主があまり悪いことをし過ぎると、ギルドを通して国に報告などが行くのだ。
最初はいろいろと期待していたが、ここのギルドでは魔物討伐の依頼なんてほとんどないのだ。地域によって全く違うらしいが、ここ一帯は本当に平和で、俺が倒したトレント以降、魔物討伐の依頼は一つもなかった。護衛や薬草採取、そして日雇いのような仕事ばかりだった。しかも護衛と言っても、有事の際は護衛の仕事をするが、大抵は依頼の際に生じる力仕事も兼ねているのが実情だった。
ただ、ギルドでのパティさんの仕事は多種に渡っていた。最初は、応対や経営助手のような仕事だと思っていたが、実は鑑定が彼女の主な仕事だった。様々な人のレベル鑑定もするが、依頼された薬草や魔石、宝石、鉱石、魔法関連商品などの鑑定が主だった。大きな町には魔法ギルドや商人ギルド、薬草ギルドなどもあるが、この町には冒険者ギルドしかないため、鑑定スキルを持っているパティさんが一手に引き受けている。冒険者ギルドに持ち込まれる魔石や薬草の値段とその価値を鑑定し、買い取る額を決定する。ただし、食用魔物の肉の鑑定はギルドに雇われているコックのクガロさんの仕事だ。解体された肉はギルドレストランで使われる他、商人や店に卸される。クガロさんのお兄さんは店を経営していて、そこに卸すことが多いようだ。また、買取目的ではない鑑定が意外に多い。近くに薬屋があり、そこから高価な薬草やポーションなどの鑑定を依頼されることが多い。また、薬草のほとんどは薬屋で買い取られるが、扱われないものや高価すぎるものはギルドで買い取っている。一般の人や商人からの依頼も多い。主に高価な宝石や薬、ポーション、魔石類を持ってきてその価値を確かめるために鑑定する人が多い。
ちなみに、薬とポーションの違いは、薬は様々な薬草などを調合または精製してつくられたもので、病気や解毒、ステータスの上昇のためのものがほとんどで、弱くゆっくりじわじわと効くものが多い。逆にポーション類は即効性があり、効果も劇的。回復など緊急性が求められるので、吸収しやすい液体上になっていることが多い。しかし、単純な下級回復ポーションすら相当高いのだ。例えば、瀕死の重傷を負った時に服用すれば、助かる程度に回復させる下級回復ポーションは金貨10枚(銀貨100枚)なのだ。中級回復ポーションはギルドに何個か置いてあるが、売るためではなく緊急用だ。売られている数も少なく貴重品らしい。値段はだいたい金貨50枚ほどだが、その希少性から実際はもっと高値で売られることも多いんだとか。
コックのクガロさんは調理と肉の解体が主な仕事だ。ギルドに持ち込まれた食用や素材用の魔物の解体とその鑑定を行う。魔物はそのままではとても不味く、浄化という作業をしなければならない。魔物の肉の浄化は生活魔法の一つで、一般の人でも使えるものが多い。ダイレ村でたまたま漁の網に引っかかった海の魔物を、村の人が浄化してるのを何回か見かけた。食べ物の浄化は属性が関係なく使える魔法の一つだと教えられた。ちなみに、海の魔物は数が少なく珍しいようで、しかも、浄化後の味は大抵おいしいということで高値で取引されるのだとか。
そして今、俺はというと、酷い全身の痛みや筋肉痛と戦いながら、ギルドの報告書の書き写しを行っている。ギルド長のボルンさんにしごかれているのだ。一ヶ月くらい前からボルンさんに見いだされ(目をつけられ)、強制的に朝と夕方、合計4時間以上の戦闘訓練をすることになった。最近はギルドでの仕事がない日でも走り込みという名で、毎日ギルドに呼ばれ修行することになっている。そして、食事と修行の授業料替わりということで休日でも少し仕事を手伝っている。ボルンさんがやるはずの仕事を…
しかし、トレントを倒して一気に強くなったのとは違い、特訓でステータスの劇的な上昇はなかった。やはり、前回のステータス上昇はスキルのおかげだったのだろう。スキルにあったように生死の境でないとスキルが発動しないのだとしたら、日頃の修行で急に伸びるわけはない。まあ、それでも着実に力をつけてるような気はするが…
パティさんやボルンさんに教えてもらった話だと、スキルは生まれついて持っている者もいれば、長年経ってから発現する者もいる。前者は圧倒的に少ないらしい。そして、スキルの内容も固定ではなく変化することがあるらしい。ステータスには出ないが、一般的に通常スキルと特殊スキルというものに分けている。通常スキルは努力をすれば可能な範囲のもので、特殊スキルは未知の力が働くものを指す。
俺のスキルはおそらく特殊スキルに分類されるのだろう。しかし、今一その詳細がわからない。特訓で限界ギリギリまで追い込んでも、トレントと戦った時のように少し回復したり大幅に強くなったりしなかった。やっぱり生き死にがかかってないと発動しないということだろうか。
…なんかすごいようでやっかいなスキルだ。努力が報われて死ににくい体を自ら望んだとは言え、もう少しいい塩梅のスキルはなかったのかな、神様さん…
そして、なによりも…なによりもまず、ボルンさんが異常に強い…
ボコボコにされる…毎日…
スキルの恩恵なのかはわからないが、俺の自然回復力が高いらしく次の日はだいたい治っている。なので、休むことも出来ず、毎日しごかれている。だが、痛みや筋肉痛が引くわけじゃない。少しでも動くと体中が痛いのだ…
はたから見れば、きつそうにペンを握り、歯を食いしばって文字を書く今の俺の姿はかなり滑稽だろう。
「おい、ヒノ!修行の時間だ」
腹に響く勢いのある声。
ぁぁ、いつものように張り切ってるなボルンさん。いや、俺のために時間を取ってくれて嬉しいけど…。嬉しいけどね…夕方の4時になるのがはやい…筋肉痛や痛みとか全然引いてないし…
「はい、この書き写しが終わったら行きます」
ボルンさに文句を言うのを諦めて覚悟を決める。そして、少し気合を入れ作業を続けた。
10分くらいで今日の分の書き写しが終わった。今日の主な仕事は報告書の書き写しだ。レオルド辺境伯爵領エルン市のギルドとこのギルドに保管する2部が必要なので、手書きでもう一部同じものを作成しなければならないのだ。依頼報告書のほかに、領民からの意見や嘆願書なども含まれるため、結構な量になるのだ。しかも、書き写しに使うのはマリシという木の皮でそれがまた書き辛いのだ。幾分か慣れてきたとは言え、なんのゆとりもなく仕事時間が過ぎていくのだ。
そして、これから地獄の特訓だ…
「修行頑張ってね」
とパティさんに哀れみを含んだ優しい笑顔で励まされ、ギルド館の裏にある簡易訓練所に行った。
「よ~し、今日も剣術を中心に教える。木刀を持って構えろ」
ボルンさんの特訓のほとんどは剣術だ。自身のスキルも剣術に特化したものだと聞いたが、基本である剣術を最初に学ぶのが一番だと言われた。確かにそんな気はする。
簡単に準備運動を終え、訓練用防具を身に着ける。本当に簡易的なものだ。胸と首、股間を守る防具で硬い革で出来ている。そして樽の中に適当に放り込まれた様々な木製の武器から、いつも使っている木刀を手に取りボルンさんの前に立った。
「よ~し、じゃあ、打ってこい」
そう、彼の教え方はいつもこうなのだ。剣術って基本型から学ぶみたいなイメージだったが、ボルンさんの特訓はまず体で覚えることだった。型なんてあったもんじゃない。
この世界には型とか流派とかないのか…
左足を前に出し、ボルンさんの胸をめがけて木刀を打ち下ろす。だが、木刀の先で簡単にいなされ、踏み込まれるのと同時に腹に強烈な一太刀を浴びた。防具の上からでもかなりのダメージを受ける。そして、あまりの激痛で地面に丸くなって苦しんでいると、
「ほい、日が暮れちゃうぞ。次いくよ」
はぁ、この人はもう、全然手加減してくれない…
…いや、すごく手加減してくれている感じは伝わってるけど、それでもかなりきつい。実際、この人のレベルって一体いくつなのかすごく気になる。
なんとか、立ち上がり息を整え、胸を狙って突きを出す、と同時にボルンさんは軽く俺の剣先をかわし俺に向かって踏み込んだ。そして、気が付けば肩に木刀がめり込んでいる。衝撃を感じるまで剣筋が全く見えなかった。真剣の戦いだったら間違いなく首が飛んでるだろう…
「よ~し、いいぞ。ほんのすこ~しだけよくなってきてる」
本当ですか…落ち込まないように励ましてくれているんですか…
差がありすぎて一ヶ月前の自分と比べて成長が全く感じ取れない…
「次、かる~く連打を浴びせるから受けてみなさい」
休む間もなく、剣先が何本にも見える速度で連打を浴びせてきた。必死で受けようとしても、全く見えず、たまたま受けられた木刀が大きくはじかれた。雨あられのような連撃なのに一撃一撃がとてつもなく重いのだ。次第に、耐えられなくなり地面崩れ落ちた。
剣筋を見極める特訓というより、連打に耐える我慢大会みたいだ…
「5秒くらい耐えられたか。よ~し、今のもう一回いくぞ」
こうして、地獄のような連撃を浴びては倒れを繰り返した。時間は泥につかったような遅さでしか過ぎず、体力と精神の限界すれすれでひたすら耐えつづけた。
すると、パティさんが裏庭に走り込んできた。
「ボルンさん!ハンメル団長一行と町長が来ています。緊急の事態とのことなので、急いでギルド長室まで来てください」
「わかった、今行く。ヒノ!素振りをしていてくれ」
ボルンさんは手を止め、急いでギルドの建物の中に入っていった。
俺はほんの少し息を整えてから、何が起きたのかが気になりながらも素振りを続けていた。10分くらい過ぎた時、ボルンさんが戻ってきた。
「ヒノ、今日の特訓はもう終わりだ。それより早く中に入ってきてくれ」
中に入ると、
「ここから北にあるミール村が盗賊団に襲われ略奪されたという報告があった。たまたま町長宅に宿泊していた騎士団長一行がここから急いでサバール町に向かうそうだ。我々はここで緊急伝令を出し徴兵を行い、今夜出発する」
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