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守りたいもの
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※シモン視点になります。
「あれ? もういいの?」
「ああ。問題ない」
きょとんとしているハワードに眉を寄せれば、テレンスもユナもちらりとオレを見て視線をすぐに手元に移した。
どうやら今日も事務処理に追われているようで、少しだけ肩を竦める。
「ダンジョンから出てきてまだ2日だよ?」
「2日も経っている」
「かぁー! 真面目だねぇ!」
いひひと笑うハワードに、手近にあった紙の束を掴むとそのままスパンと頭を叩く。
それに呆れた顔をするのはテレンスだったが、いつものことなので特に何も言われることはない。むしろ「よくやった」と親指を立てられることもしばしばあったが。
「それで? 何の用?」
大して痛くもないだろう叩かれた頭を撫でるハワードに、ここに来た用事を思い出した。
「トレバー、グレン、ヒュームがこの国の滞在申請をしている」
「あ。そうなんだ。ありがたいねー」
トレバー、グレン、ヒュームというのはハルトと共に見つけたあの冒険者たちだ。
ダンジョンから脱出した日。
あの日からハルトの立場が不安定なものになった。
ヌールダンジョン25階。
人食いダンジョンと呼ばれたところから脱出した初めての生存者に、陛下も興味を示した。
それに加え、オレからしか取れなかったダンジョン内の様子も3人の証言が得られるのだ。
そうなれば、この3人にはこの国にいてもらわなければならない。
しかし、冒険者である彼らを引き留めることを強制することはできない。
なんせ冒険者はダンジョンに挑む流れ者なのだから。
そんな彼らが一国に留まってダンジョンを踏破する者など、ごく少数しかいない。もし国に留まることがあるとすれば、国が好待遇をしてようやく、だ。
例外的にその国に恋人や家族ができた場合は、その国に拠点を置くことが多い。
しかし今、この国には彼らに添えられそうな条件を満たせはしない。
あの人食いダンジョンがある限り。
このダンジョンのせいで冒険者が減った。だが、ダンジョンからは魔物が湧き続ける。
しかも25階、という位置にありながら魔物どもは地上へと現れるのだ。
その為、今は騎士団の仕事が魔物退治に変わっている。
他国よりもルーセントヌール国の治安がいいのは国民が少なく、騎士団の方が多いから。なんて言われる始末。
それほどまでに国民が減り、国そのものが滅びの道へと進んでいるのだ。
それでもこの国が国としての一応の体裁を保っているのは、大規模な『朔月』を知っている他国からの援助を受けているからだ。
そうなった事には理由がある。
7年前。
そう。すべての原因はあの7年前の『朔月』だった。
だがあの『朔月』以来、大規模なものは起きていないのが救いだ。
だから彼らの―冒険者の滞在申請は非常に助かる。
「それで? 彼らは何だって? 金?」
「金の要求はない」
「「は?」」
ハワードとテレンスの声が重なった。
分からんでもないけどな。
冒険者の大半は、金をまずは要求するのがセオリーだ。
だが彼らの「金は要らねぇよ」という言葉に、オレも「は?」と声が出たから。
「え? じゃあ女の子とか?」
「そっちは出来れば、と」
「うーん?」
金も女もいらない。
彼らの条件が謎すぎて、あのハワードさえ腕を組んで首を傾げている。
「…武器云々?」
「それもないな。武器や防具は用事があれば他に行く、と言っている」
「…それじゃ、なんでうちに滞在することにしたの?」
女の子の辺りでユナの眉が寄ったが仕事だと割り切ったのか、カリカリと羽ペンを動かしている。
「ハルト」
「うん?」
「ハルトがここにいる限り、彼らもここに滞在するそうだ」
「へぇ?」
彼らの条件を聞いたハワードが、にやりと笑う。
だが、オレも彼らの条件を聞いた時は眉を寄せた。
「随分と彼に懐いたみたいだね」
「ハルトがいなければ、生きて戻ってこられなかったことは確かだからな」
「それでも滞在条件が『ハルト』と知ったら、あいつはさぞ悔しがるだろうな!」
くっふふと笑うハワードに何も言わずに口を閉じれば、にやにやとオレを見つめてくる。
なんだ。
「いやー。まさかハルトの存在がこの国の切り札になるとはね」
「『ジムショクイン』としてお前が呼んだんだろうが」
「うん。まぁそうなんだけど」
何かを含む笑みを浮かべたハワードに、オレも眉を寄せる。
こいつは隠し事がうまいからな。
「それで。ハルトはまだ寝てるの?」
「ああ」
「あれだけ魔力を使えばそうなるか。初めてだったしねぇ」
うんうんと頷くハワードに、あの日のことを思い出していた。
■■■
ヒュームと共に出口へと目指していたが、予想通り我々の路が複雑さを増した。
ハルトを脅威と認識しているのだろう。
だが、そのおかげでトレバーとグレンが無事出口へとたどり着いていればいいが、と思いながら魔物を切り捨てる。それを見ながら少し走れば、再び魔物。明らかに魔物の数が増えたことに、瞳を細めた。
魔物にやられるなら儲けもの。手段を択ばなくなったダンジョンは、何としてでもハルトを『食う』ことにしたのだろう。
だがそうはさせない。
ハワードから頼まれたのだ。
ハルトを守れ、と。
それはオレにとって義務であり、命令でもある。
それにあの能力を見た今では、この階を踏破できるのはハルト以外いないだろう。
だから。
「守り抜く」
それはずっと心のどこかで燻っていた炎が再び燃える瞬間でもあった。
■■■
「まぁ起きるまで寝かせてあげてね」
「分かっている」
「それより、ハルトの部屋はどう?」
「別段変わりはしないが?」
なぜかによによと嫌な笑みを浮かべながらそう尋ねるハワードに、至極真面目に答える。
そう。ダンジョンから戻ってすぐ。ハルトを医師に見せ、右腕の治療をしたのち部屋へと背負った時にハワードに告げられたのだ。
「そのままハルトの部屋で休んでいいからね」
ハワードのその言葉の意味が分からず眉を寄せたが、笑顔でひらひらと手を振られただけだった。
その後はハワードに任せ、なぜかシスター姿のユナと共にハルトの部屋へと急いだ。部屋の前に侍女たちが待ち構えており、オレの姿を確認するとユナも侍女と共に部屋を去った。
何のために、との疑問は一瞬。
彼らにはオレが騎士団長だと知られたが、ハルトはまだ孤児院育ちだと思っている。
その為とは言え、ユナにシスターの代わりをしろというのは…。
相変わらずハワードの行動は読めん。
そんなことを思いながら部屋に入り、ベッドまでハルトを運ぶと、ゆっくりと降ろす。
ベッドに下ろしてオレも縁に座れば、重みの分だけ沈む。
これで用事はすんだ、と立ち上がると、去り際にポケットに突っ込まれたビンが「まだ用事はあるだろう」と主張する。
それにちらりと眠るハルトを見てからビンへと視線を向けると、コルク栓を抜く。
難なく引き抜いたそれをサイドテーブルに置くと、液体を口に含む。
ハルトも言っていたではないか。
「人助けをするだけだ」と。
そう。これは人助けなのだ。
再びベッドに座り、眠るハルトの顎を掴んで上を向かせるとそのまま唇を重ねる。
薄く口が開いていてくれて助かった。開いていなければ強引に開けねばならないところだった。
少しずつ液体を送り、半分ほど口に含ませたところで上半身を起こし飲ませる。それをビンの半分ほどまで繰り返し、残りはオレが飲んでしまう。
空になったビンを、抜いたコルク横に置いてオレもベッドに横になる。
自室に戻って眠ってもいいが、もしも…万が一を考えハルトの横で眠ることにした。
突然吐かれても困るしな。
自分でもよく分からない言い訳を並べながら、すやすやと眠るハルトの幼い寝顔を見つめる。
黒い前髪を払い、露にした額に唇を落とすと瞳を閉じた。
そして目が覚めたのは今朝。
余りにも熟睡しすぎて驚いた。普段なら眠りが浅いはずなのに。
すると、もぞりとそれが身じろいだ。それに驚いたが、ここがどこかを思い出し肩の力を抜いた。
腕の中ですよすよとこれまた気持ちよく眠る人物。
温かな身体は、熱が引いていることを知らせてくれていた。
それにほっとしながら、抱きしめていた身体を離し起こさないようにベッドから抜け出す。少しの振動で起きてしまうだろうかと思い、慎重にベッドから降りるとハルトを見る。
しかし起きた様子は見えず、すうすうという寝息が聞こえるだけ。1日眠った身体は軽く、疲労は感じない。
ぐっと身体を伸ばし、手足を確認する。そして眠るハルトに背を向けて部屋を出ようとして、ふと何かを感じた。
くるりと踵を返して、ベッドに戻る。そして再び縁に座って、前髪を払う。
「よく頑張った」
聞こえるはずもないハルトに褒めると、額に唇を落とすと今度こそ部屋を後にする。
部屋から出たらまずは自室に戻り、風呂に入ってから団服に着替えれば気持ちが切り替わる。
1日抱いていた重みと温かさがないことに違和感を抱きながらも、空腹を訴える腹を満たすために食堂へと向かった。
食事を終え、何やら視線を受けながらもそれを無視し、執務室へと向かえば机の上には紙切れが1枚。
それを手にして読めば、はぁとため息が漏れた。
せっかくここに来たというのに。無駄足になった。
紙を机の上に置いて、執務室を出る。近くにいた者に「魔道具開発部に行く」と伝えると「分かりました」と返ってきたことに頷くと、そのまま魔道具開発部へと向かう前に彼らに会うことにした。
彼らは憔悴していた為、1日医務室にいたそうだがポーションと回復魔法で怪我を治したためか、元気だった。
今は賓客扱いをされているらしく、彼らがいる部屋に入ったオレを見た彼らが驚きと共に、畏まった。それからどうするのか、との問いにオレは驚くことになったが。
そして冒頭のセリフである。
賓客の部屋から魔道具開発部にやって来た。
それからハワードの好奇心…もとい報告をそこでさせられ、自室へ戻る前にハルトの部屋に寄る。
そして目を覚まし、ぼんやりとしている彼の世話をすることなどその時のオレは思わなかったが。
「あれ? もういいの?」
「ああ。問題ない」
きょとんとしているハワードに眉を寄せれば、テレンスもユナもちらりとオレを見て視線をすぐに手元に移した。
どうやら今日も事務処理に追われているようで、少しだけ肩を竦める。
「ダンジョンから出てきてまだ2日だよ?」
「2日も経っている」
「かぁー! 真面目だねぇ!」
いひひと笑うハワードに、手近にあった紙の束を掴むとそのままスパンと頭を叩く。
それに呆れた顔をするのはテレンスだったが、いつものことなので特に何も言われることはない。むしろ「よくやった」と親指を立てられることもしばしばあったが。
「それで? 何の用?」
大して痛くもないだろう叩かれた頭を撫でるハワードに、ここに来た用事を思い出した。
「トレバー、グレン、ヒュームがこの国の滞在申請をしている」
「あ。そうなんだ。ありがたいねー」
トレバー、グレン、ヒュームというのはハルトと共に見つけたあの冒険者たちだ。
ダンジョンから脱出した日。
あの日からハルトの立場が不安定なものになった。
ヌールダンジョン25階。
人食いダンジョンと呼ばれたところから脱出した初めての生存者に、陛下も興味を示した。
それに加え、オレからしか取れなかったダンジョン内の様子も3人の証言が得られるのだ。
そうなれば、この3人にはこの国にいてもらわなければならない。
しかし、冒険者である彼らを引き留めることを強制することはできない。
なんせ冒険者はダンジョンに挑む流れ者なのだから。
そんな彼らが一国に留まってダンジョンを踏破する者など、ごく少数しかいない。もし国に留まることがあるとすれば、国が好待遇をしてようやく、だ。
例外的にその国に恋人や家族ができた場合は、その国に拠点を置くことが多い。
しかし今、この国には彼らに添えられそうな条件を満たせはしない。
あの人食いダンジョンがある限り。
このダンジョンのせいで冒険者が減った。だが、ダンジョンからは魔物が湧き続ける。
しかも25階、という位置にありながら魔物どもは地上へと現れるのだ。
その為、今は騎士団の仕事が魔物退治に変わっている。
他国よりもルーセントヌール国の治安がいいのは国民が少なく、騎士団の方が多いから。なんて言われる始末。
それほどまでに国民が減り、国そのものが滅びの道へと進んでいるのだ。
それでもこの国が国としての一応の体裁を保っているのは、大規模な『朔月』を知っている他国からの援助を受けているからだ。
そうなった事には理由がある。
7年前。
そう。すべての原因はあの7年前の『朔月』だった。
だがあの『朔月』以来、大規模なものは起きていないのが救いだ。
だから彼らの―冒険者の滞在申請は非常に助かる。
「それで? 彼らは何だって? 金?」
「金の要求はない」
「「は?」」
ハワードとテレンスの声が重なった。
分からんでもないけどな。
冒険者の大半は、金をまずは要求するのがセオリーだ。
だが彼らの「金は要らねぇよ」という言葉に、オレも「は?」と声が出たから。
「え? じゃあ女の子とか?」
「そっちは出来れば、と」
「うーん?」
金も女もいらない。
彼らの条件が謎すぎて、あのハワードさえ腕を組んで首を傾げている。
「…武器云々?」
「それもないな。武器や防具は用事があれば他に行く、と言っている」
「…それじゃ、なんでうちに滞在することにしたの?」
女の子の辺りでユナの眉が寄ったが仕事だと割り切ったのか、カリカリと羽ペンを動かしている。
「ハルト」
「うん?」
「ハルトがここにいる限り、彼らもここに滞在するそうだ」
「へぇ?」
彼らの条件を聞いたハワードが、にやりと笑う。
だが、オレも彼らの条件を聞いた時は眉を寄せた。
「随分と彼に懐いたみたいだね」
「ハルトがいなければ、生きて戻ってこられなかったことは確かだからな」
「それでも滞在条件が『ハルト』と知ったら、あいつはさぞ悔しがるだろうな!」
くっふふと笑うハワードに何も言わずに口を閉じれば、にやにやとオレを見つめてくる。
なんだ。
「いやー。まさかハルトの存在がこの国の切り札になるとはね」
「『ジムショクイン』としてお前が呼んだんだろうが」
「うん。まぁそうなんだけど」
何かを含む笑みを浮かべたハワードに、オレも眉を寄せる。
こいつは隠し事がうまいからな。
「それで。ハルトはまだ寝てるの?」
「ああ」
「あれだけ魔力を使えばそうなるか。初めてだったしねぇ」
うんうんと頷くハワードに、あの日のことを思い出していた。
■■■
ヒュームと共に出口へと目指していたが、予想通り我々の路が複雑さを増した。
ハルトを脅威と認識しているのだろう。
だが、そのおかげでトレバーとグレンが無事出口へとたどり着いていればいいが、と思いながら魔物を切り捨てる。それを見ながら少し走れば、再び魔物。明らかに魔物の数が増えたことに、瞳を細めた。
魔物にやられるなら儲けもの。手段を択ばなくなったダンジョンは、何としてでもハルトを『食う』ことにしたのだろう。
だがそうはさせない。
ハワードから頼まれたのだ。
ハルトを守れ、と。
それはオレにとって義務であり、命令でもある。
それにあの能力を見た今では、この階を踏破できるのはハルト以外いないだろう。
だから。
「守り抜く」
それはずっと心のどこかで燻っていた炎が再び燃える瞬間でもあった。
■■■
「まぁ起きるまで寝かせてあげてね」
「分かっている」
「それより、ハルトの部屋はどう?」
「別段変わりはしないが?」
なぜかによによと嫌な笑みを浮かべながらそう尋ねるハワードに、至極真面目に答える。
そう。ダンジョンから戻ってすぐ。ハルトを医師に見せ、右腕の治療をしたのち部屋へと背負った時にハワードに告げられたのだ。
「そのままハルトの部屋で休んでいいからね」
ハワードのその言葉の意味が分からず眉を寄せたが、笑顔でひらひらと手を振られただけだった。
その後はハワードに任せ、なぜかシスター姿のユナと共にハルトの部屋へと急いだ。部屋の前に侍女たちが待ち構えており、オレの姿を確認するとユナも侍女と共に部屋を去った。
何のために、との疑問は一瞬。
彼らにはオレが騎士団長だと知られたが、ハルトはまだ孤児院育ちだと思っている。
その為とは言え、ユナにシスターの代わりをしろというのは…。
相変わらずハワードの行動は読めん。
そんなことを思いながら部屋に入り、ベッドまでハルトを運ぶと、ゆっくりと降ろす。
ベッドに下ろしてオレも縁に座れば、重みの分だけ沈む。
これで用事はすんだ、と立ち上がると、去り際にポケットに突っ込まれたビンが「まだ用事はあるだろう」と主張する。
それにちらりと眠るハルトを見てからビンへと視線を向けると、コルク栓を抜く。
難なく引き抜いたそれをサイドテーブルに置くと、液体を口に含む。
ハルトも言っていたではないか。
「人助けをするだけだ」と。
そう。これは人助けなのだ。
再びベッドに座り、眠るハルトの顎を掴んで上を向かせるとそのまま唇を重ねる。
薄く口が開いていてくれて助かった。開いていなければ強引に開けねばならないところだった。
少しずつ液体を送り、半分ほど口に含ませたところで上半身を起こし飲ませる。それをビンの半分ほどまで繰り返し、残りはオレが飲んでしまう。
空になったビンを、抜いたコルク横に置いてオレもベッドに横になる。
自室に戻って眠ってもいいが、もしも…万が一を考えハルトの横で眠ることにした。
突然吐かれても困るしな。
自分でもよく分からない言い訳を並べながら、すやすやと眠るハルトの幼い寝顔を見つめる。
黒い前髪を払い、露にした額に唇を落とすと瞳を閉じた。
そして目が覚めたのは今朝。
余りにも熟睡しすぎて驚いた。普段なら眠りが浅いはずなのに。
すると、もぞりとそれが身じろいだ。それに驚いたが、ここがどこかを思い出し肩の力を抜いた。
腕の中ですよすよとこれまた気持ちよく眠る人物。
温かな身体は、熱が引いていることを知らせてくれていた。
それにほっとしながら、抱きしめていた身体を離し起こさないようにベッドから抜け出す。少しの振動で起きてしまうだろうかと思い、慎重にベッドから降りるとハルトを見る。
しかし起きた様子は見えず、すうすうという寝息が聞こえるだけ。1日眠った身体は軽く、疲労は感じない。
ぐっと身体を伸ばし、手足を確認する。そして眠るハルトに背を向けて部屋を出ようとして、ふと何かを感じた。
くるりと踵を返して、ベッドに戻る。そして再び縁に座って、前髪を払う。
「よく頑張った」
聞こえるはずもないハルトに褒めると、額に唇を落とすと今度こそ部屋を後にする。
部屋から出たらまずは自室に戻り、風呂に入ってから団服に着替えれば気持ちが切り替わる。
1日抱いていた重みと温かさがないことに違和感を抱きながらも、空腹を訴える腹を満たすために食堂へと向かった。
食事を終え、何やら視線を受けながらもそれを無視し、執務室へと向かえば机の上には紙切れが1枚。
それを手にして読めば、はぁとため息が漏れた。
せっかくここに来たというのに。無駄足になった。
紙を机の上に置いて、執務室を出る。近くにいた者に「魔道具開発部に行く」と伝えると「分かりました」と返ってきたことに頷くと、そのまま魔道具開発部へと向かう前に彼らに会うことにした。
彼らは憔悴していた為、1日医務室にいたそうだがポーションと回復魔法で怪我を治したためか、元気だった。
今は賓客扱いをされているらしく、彼らがいる部屋に入ったオレを見た彼らが驚きと共に、畏まった。それからどうするのか、との問いにオレは驚くことになったが。
そして冒頭のセリフである。
賓客の部屋から魔道具開発部にやって来た。
それからハワードの好奇心…もとい報告をそこでさせられ、自室へ戻る前にハルトの部屋に寄る。
そして目を覚まし、ぼんやりとしている彼の世話をすることなどその時のオレは思わなかったが。
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