事務職員として異世界召喚されたけど俺は役に立てそうもありません!

マンゴー山田

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そんなに驚かなくてもいいじゃない?

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「ぅん?」

ふっと意識が浮上したら、あのふかふかベッド。
風呂場で意識を飛ばした後、どうなったのかは分からないけどここで寝てるということはシモンが寝かせてくれたんだろうな。
ぐーっと左腕だけを伸ばして、背筋もついでに伸ばす。
いい朝だ。
でもカーテンをも突き抜けそうな光に、何時ごろだろうと慎重にベッドから降りると、右手でカーテンを開けようとして慌てて左手で開ける。

「うおッ、眩しッ!」

途端に視界を焼くのは、高々と空に浮かぶ太陽。
直視しなくてよかった。
そのままカーテンを開けて、ふらふらとベッドに戻ろうとしてやめた。

腹が減ったから何か食わせてもらおう。

ぐーと鳴る腹を擦って、寝起きのままふらふらとドアをノックなしで開ければ、そこにはぎょっとしている騎士団の服を着た人。

「あ」

まさか人が出てくるとは思わなかったような反応を示すその人に、俺もやばい空気を察する。

「失礼しましたー…」

そのまま、ドアを閉めようとして「そのままでいい」と声がかかった。
あ。シモンいるじゃん。

「起きたか」
「ついさっき…」
「洗面所を使うなら使ってくれ」
「はーい?」

書類から視線を逸らさず言われ、俺も特に会話もないから了承して騎士団の服を着たその人の視線を受けながら、おとなしく洗面所に向かう。
だが、違和感に気付いた。

「っていうか、右腕使えないんだけど?」
「何?」
「え? 何って…右腕使えないって言ったんだけ…ど?」

おや?
俺の言葉に、視線が書類からこちらに向く。なんだよ。

「…右腕が使えない?」
「う、うん。使えないぞ?」

右腕を使おうとしても相変わらず自分の意志では動かせない。
動けー、動けーと念じてみても変わることはない。
けれどシモンの視線は「本当に?」と俺を疑っている。

「なんだよ。相変わらず重いだけだぞ?」
「ハワード…を呼んできてもらおう」
「うん?」

何がなんだか分からず、ドアを開けたままでいると騎士団の服を着たその人がシモンに一礼して部屋を出て行った。
しかも俺を睨んでから。なんだよ。
すると立ち上がったシモンが真っすぐ俺の方へと大股で歩いてくる。
コンパスが長いと早いな。

嫌味だぞ?

なんて思っていると「ドアを閉めてくれ構わん」と言われ、そこでようやくドアを閉める。そしてそのままやっぱり肩を抱かれて、移動をする。

「仕事はいいのか?」
「それよりお前の方が優先だ」
「うん?」

何その甘い言葉。
女性ならクリティカルヒットしてそうだ。
なんて考えながら、もう一つの部屋へと移動すると昨日と同じようにソファに座る。
けど、座るのは俺一人。
シモンはそのままドアへ向かい、何やら会話をしてる。

あ。トイレに行けばよかった。

そう考え始めたらトイレに行きたくなる。
不思議だよな。意識したら行きたくなるんだもんな。

「シモン。トイレに行きたいんだけど」
「分かった」

せっかく座ったのにすぐに立ち上がると、そのままトイレに連れて行ってもらう。もちろん肩を抱かれて。
え? もしかしてこれからの移動、全部こんな感じなの?

トイレで用を足し、すっきりしたところで手を洗う。
右手はシモンに洗ってもらった。恥ずかしかったけど、昨日のことを思えば屁みたいなもんだ。
と、そこで昨日の風呂場のことを思い出し、耳が熱くなるけど気にしない、気にしないと呪文のように唱えれば、肩を抱かれる。
それから仕事部屋…執務室を抜けて戻ってきたら、テーブルには料理が並んでいて。

「これ、食っていいの?!」
「…構わない、が。ハルト、確認するぞ」
「なに?」

早く食いたいんだけど?とシモンを見れば、眉間に皺が深々と刻まれていて。

「右腕が動かせないのは本当か?」
「は?」

何いってんだ? こいつ?を今度は俺がすれば、言われた右腕を見てみる。
そして、上に挙げようとしても動かせないことに、左の肩を竦めた。

「そうだよ。さっきも見ただろ。動かせないよ」
「…そうか」

そう言って口元を覆ったシモンに、今度は俺が眉を寄せた。
何なんだ?

「詳しくはハワードが来たら話そう」
「? いいけど」
「それより飯を食わせないとな」
「そうだよ! なんでフォークとか使わなきゃいけない物だらけなんだよ!」
「……………」

「早く食わせろ!」と鳴く腹を押さえると、2人でソファに座って食べさせてもらうことにした。

もぐもぐとやっぱり給餌のように口に入れてもらって飯を食っていると、ハワードがやって来た。
そして飯中の俺を見て「あらやだ!」とわざとらしく口元を両手で隠す。

ハワードってこんな性格だっけ?

そんな疑問を浮かべながら「あー」と口を開ければ、スプーンを入れられる。
なんか食うタイミングとか量とか分かってきたのか、とっても食べやすい。助かるー。

「あれ? 君、右腕が使えるようになったんじゃなかったの?」

よっこいせ、と俺の前に座るハワードが不思議そうにそう尋ねてくるけど、そんなこと一言も言ってないぞ?

「これを見てよくそんなことが言えるな」
「そうだよねー。どう見ても右腕は動かせなさそうだもんねー」

にゃは☆と笑うハワードを軽く睨めば「まぁまぁ」となだめられた。

「っていうかなんで右腕が動くって思ったんだよ」
「え? だってシモンからそう報告受けてるし」
「は?」

どういうことだ?と隣にいるシモンを見れば、すっと視線を逸らされた。おい!

「…昨夜、右手が動いていたから、てっきりもう動くものだと思ったんだ」
「昨夜って…」

そう言葉にして、昨夜の抜き合いを瞬時に思い出し、ばふっと顔を真っ赤に染める。
それをハワードが見逃すはずがなく。

「なになに? 昨夜なんかあったの?」
「ぐっ」

にやにやと笑うハワードにどう答えればいいのか分からず、言葉を詰まらせれば「まずは飯を食わせてやれ」とシモンが答える。
それに「そだねー」とあっさりと引くと、カップを傾ける。

あれ?! いつの間に?!

「ほら。今は飯を食え」
「ふぁい」

飯を楽しむことなく、ただ口を動かし胃へと押し込む。
いや。飯はうまいんだ。
けど「右腕が動いた」って言葉が気になっちゃってさ。

しっかりと食後のフルーツ(桃みたいなやつで、甘くてうまかった)も食べてから、目の前に出されたクッキーを頬張る。
うまい。

「さて、ハルトの給餌も終わったから話しを聞こうか」
「給餌言うな!」
「ものを食いながら話すな」
「…ごめん」

普通に怒られた。
まぁ、そうだよなー。なんかシモンとかマナーに厳しそうだし。
むぐむぐとクッキーを食べてから、カップでそれを流し込む。すると、カップを先に置いたシモンが一度息を吐いてから口を開いた。

「昨夜、ハルトの腕が動いたのは確かだ」
「ふんふん。でも今日は動かないんでしょ?」

ハワードの言葉にこくんと頷くと「ううーん?」とハワードが腕を組んで首を傾げる。
仕草がなんか可愛いんだよなー。
こう…癒される?

って何考えてんだ。

左手で、ぱっぱっと考えを消すと「なんかハルトが面白いことしてる」とにまにまと笑うハワード。
前言撤回。
やっぱり考えを消して正解だわ。可愛くない。

「というか、なんで右腕が動くのをハルトが知らなくて、シモンが知ってるのさ」

ごもっともです。
昨夜は腹を…というか下肢をお互いの白濁で染めたのは覚えてるんだけど、身綺麗にした覚えはない。
と、いうことは俺の意識が飛んでから右腕が動いたということになる。

…これ、言わなきゃならんのか?
恥ずかしすぎるんだけど。

「昨夜、ハルトに性欲を発散させてもらった時だったからな」
「ファーッ!」

恥ずかしげもなく、さらっと言うシモンに俺はつい変な叫びをあげてしまった。
なんだよ「ファーッ!」って!
野球のファウルかよ!

「オレの腕に両手でしがみついてきたから、てっきりもう動かせるものだと…」
「え?! まじで?! 動かせてたの?!」

シモンの言葉で、恥ずかしさよりも驚きが勝った。
俺の意志なんかまる無視する右腕が動いたの?!

「…シモン」
「なんだ」

しかし、俺の驚きよりもハワードから発せられた低い、腹の底を冷やすような声にびくりと肩を震わせる。
心なしか目もめっちゃ怖いんだけど?
ついシモンの服を左手で摘まむと「大丈夫だ」と見つめられる。

ええー…。マジかよ…。
殺る気の目してんぞ?

「ハルト」
「っはい!」

思わず背筋を伸ばして敬語になっちゃうほど、今のハワードは怖い。
ちょっと自分が震えてるの分かるもんな。

「無理矢理シモンにヤられた?」
「え?」
「正直に言ってね? シモンに無理矢理犯された?」

おっふ。
ハワードの目がめっちゃ怖い。
何なら膝の上でゲンドウポーズしてるんだよ。怖い。

「ハルト…」
「シモンは黙って。事と次第によっては団長から降ろす」
「ひぇ?!」

え? 俺の返答次第でシモンの今後が決まっちゃう感じ?!
責任がすごいんだけど。

「で? どうなの?」
「あー…。無理矢理では、ない、デス。はい」

あ。なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。

「シモンがいるからって嘘は言わなくていいからね?」
「嘘じゃない、デス。なんなら俺から言い出した…から…」

はははははは恥ずかしい…!

いくらここにいたいからってとんでもない事したな?! 俺?!
恥ずかしさに耐え切れず、すすっとシモンの腕に隠れるとしばらくハワードの視線が突き刺さっていたけど、それが消えたことに、ほっと息を吐く。

「大丈夫か?」
「平気」
「ならいい」

そう言いながら頭撫でるのやめてくれませんかね。
俺、成人してるんですよ。

「はぁー…。分かった。無理矢理じゃないなら何も言わない」

大きなため息を吐いてから、俺を見つめるハワードがシモンを見た。

「子供に手を出したらさすがのもかばいきれないからね?」
「悪かった」

うん? 子供?

「ハルトはお尻平気? 切れてない? ポーション…いや、治癒魔法をかけた方がいい?」
「え? ちょ…?」
「あー…、でも患部を見てみないとダメだよねー…。でもシモンが止めるだろうし」
「当たり前だろ」
「え…? ちょっと待って?」

なんか俺の尻の話しになってない?
素股はしたけど、尻の穴には突っ込んでないよ?

「ダンジョン帰りのシモンの相手は大変だったでしょ?」
「え? はぁ、まぁ?」
「死ぬかもしれない、って本能が爆発しちゃうんだよねー。特にシモンは性欲が強い方だから一晩セックスしても治らない時あるし」
「おい」
「本当のことでしょ? 君がダンジョンから戻るときは何人女の子待たせてると思うの?」

あれー?
なんか話しがどんどんずれてるような気がするんだけど?
というかシモンの性欲ってやっぱ強いのか。俺もダンジョン帰りで性欲が強くなったと思ったけど、それ以上だもんな…。
結局何発抜いたんだ? というか、訂正したいことがあるんだけどいいかな?

「あの」

ハワードとシモンが何やら言ってるところに、すっと小さく左手を挙げて発言の許可をもらう。
すると。

「うん? お尻痛い?」

ハワードがそれに気付いてくれたみたいで、ほくほくとしながら俺に視線を向けてくれた。

「突っ込ませてはないんだけど…」
「え?」
「だから。セックスはしてない」
「え?」

俺を見た後、シモンへと視線が動く。
それにシモンが頷くと、あんぐりとハワードが口を開けた。

「嘘ーッ!!!!」

ガタンッ!とソファから立ち上がって叫ぶハワードに、俺は逆にぽかんとしてしまう。
え?

「セックスしてないのに、シモンから色気が漏れてこない!」
「は?」

え? 色気が漏れてこない? なに? どういうこと?
ちょっとハワードの言ってることが分からなくて、困惑する俺。

「あ、それと。俺、子供じゃなくて22歳だから」
「「は?!」」

あ。綺麗にハモった。

「嘘でしょー?!」

ハワードがついに頭を抱え、シモンに至っては信じられないといったように俺を見ている。
なんだよー。

「だからダンジョンで言っただろ?俺はもう成人してる、って」
「冗談じゃなかったのか…」
「嘘ついてないよね?!」

なんだろう…。
よく日本人は幼く見られるっていうけど、ここまで信じてもらえないとちょっと悲しくなってくるな。

「嘘じゃないって」
「異世界ってどうなってんのー?!」

うわあああ!と叫ぶハワードと、本当に?とまだ疑うシモン。
そんな2人を半眼で見つめながら、俺はクッキーをやけ食いするのだった。


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