13 / 48
そんなに驚かなくてもいいじゃない?
しおりを挟む
「ぅん?」
ふっと意識が浮上したら、あのふかふかベッド。
風呂場で意識を飛ばした後、どうなったのかは分からないけどここで寝てるということはシモンが寝かせてくれたんだろうな。
ぐーっと左腕だけを伸ばして、背筋もついでに伸ばす。
いい朝だ。
でもカーテンをも突き抜けそうな光に、何時ごろだろうと慎重にベッドから降りると、右手でカーテンを開けようとして慌てて左手で開ける。
「うおッ、眩しッ!」
途端に視界を焼くのは、高々と空に浮かぶ太陽。
直視しなくてよかった。
そのままカーテンを開けて、ふらふらとベッドに戻ろうとしてやめた。
腹が減ったから何か食わせてもらおう。
ぐーと鳴る腹を擦って、寝起きのままふらふらとドアをノックなしで開ければ、そこにはぎょっとしている騎士団の服を着た人。
「あ」
まさか人が出てくるとは思わなかったような反応を示すその人に、俺もやばい空気を察する。
「失礼しましたー…」
そのまま、ドアを閉めようとして「そのままでいい」と声がかかった。
あ。シモンいるじゃん。
「起きたか」
「ついさっき…」
「洗面所を使うなら使ってくれ」
「はーい?」
書類から視線を逸らさず言われ、俺も特に会話もないから了承して騎士団の服を着たその人の視線を受けながら、おとなしく洗面所に向かう。
だが、違和感に気付いた。
「っていうか、右腕使えないんだけど?」
「何?」
「え? 何って…右腕使えないって言ったんだけ…ど?」
おや?
俺の言葉に、視線が書類からこちらに向く。なんだよ。
「…右腕が使えない?」
「う、うん。使えないぞ?」
右腕を使おうとしても相変わらず自分の意志では動かせない。
動けー、動けーと念じてみても変わることはない。
けれどシモンの視線は「本当に?」と俺を疑っている。
「なんだよ。相変わらず重いだけだぞ?」
「ハワード…を呼んできてもらおう」
「うん?」
何がなんだか分からず、ドアを開けたままでいると騎士団の服を着たその人がシモンに一礼して部屋を出て行った。
しかも俺を睨んでから。なんだよ。
すると立ち上がったシモンが真っすぐ俺の方へと大股で歩いてくる。
コンパスが長いと早いな。
嫌味だぞ?
なんて思っていると「ドアを閉めてくれ構わん」と言われ、そこでようやくドアを閉める。そしてそのままやっぱり肩を抱かれて、移動をする。
「仕事はいいのか?」
「それよりお前の方が優先だ」
「うん?」
何その甘い言葉。
女性ならクリティカルヒットしてそうだ。
なんて考えながら、もう一つの部屋へと移動すると昨日と同じようにソファに座る。
けど、座るのは俺一人。
シモンはそのままドアへ向かい、何やら会話をしてる。
あ。トイレに行けばよかった。
そう考え始めたらトイレに行きたくなる。
不思議だよな。意識したら行きたくなるんだもんな。
「シモン。トイレに行きたいんだけど」
「分かった」
せっかく座ったのにすぐに立ち上がると、そのままトイレに連れて行ってもらう。もちろん肩を抱かれて。
え? もしかしてこれからの移動、全部こんな感じなの?
トイレで用を足し、すっきりしたところで手を洗う。
右手はシモンに洗ってもらった。恥ずかしかったけど、昨日のことを思えば屁みたいなもんだ。
と、そこで昨日の風呂場のことを思い出し、耳が熱くなるけど気にしない、気にしないと呪文のように唱えれば、肩を抱かれる。
それから仕事部屋…執務室を抜けて戻ってきたら、テーブルには料理が並んでいて。
「これ、食っていいの?!」
「…構わない、が。ハルト、確認するぞ」
「なに?」
早く食いたいんだけど?とシモンを見れば、眉間に皺が深々と刻まれていて。
「右腕が動かせないのは本当か?」
「は?」
何いってんだ? こいつ?を今度は俺がすれば、言われた右腕を見てみる。
そして、上に挙げようとしても動かせないことに、左の肩を竦めた。
「そうだよ。さっきも見ただろ。動かせないよ」
「…そうか」
そう言って口元を覆ったシモンに、今度は俺が眉を寄せた。
何なんだ?
「詳しくはハワードが来たら話そう」
「? いいけど」
「それより飯を食わせないとな」
「そうだよ! なんでフォークとか使わなきゃいけない物だらけなんだよ!」
「……………」
「早く食わせろ!」と鳴く腹を押さえると、2人でソファに座って食べさせてもらうことにした。
もぐもぐとやっぱり給餌のように口に入れてもらって飯を食っていると、ハワードがやって来た。
そして飯中の俺を見て「あらやだ!」とわざとらしく口元を両手で隠す。
ハワードってこんな性格だっけ?
そんな疑問を浮かべながら「あー」と口を開ければ、スプーンを入れられる。
なんか食うタイミングとか量とか分かってきたのか、とっても食べやすい。助かるー。
「あれ? 君、右腕が使えるようになったんじゃなかったの?」
よっこいせ、と俺の前に座るハワードが不思議そうにそう尋ねてくるけど、そんなこと一言も言ってないぞ?
「これを見てよくそんなことが言えるな」
「そうだよねー。どう見ても右腕は動かせなさそうだもんねー」
にゃは☆と笑うハワードを軽く睨めば「まぁまぁ」となだめられた。
「っていうかなんで右腕が動くって思ったんだよ」
「え? だってシモンからそう報告受けてるし」
「は?」
どういうことだ?と隣にいるシモンを見れば、すっと視線を逸らされた。おい!
「…昨夜、右手が動いていたから、てっきりもう動くものだと思ったんだ」
「昨夜って…」
そう言葉にして、昨夜の抜き合いを瞬時に思い出し、ばふっと顔を真っ赤に染める。
それをハワードが見逃すはずがなく。
「なになに? 昨夜なんかあったの?」
「ぐっ」
にやにやと笑うハワードにどう答えればいいのか分からず、言葉を詰まらせれば「まずは飯を食わせてやれ」とシモンが答える。
それに「そだねー」とあっさりと引くと、カップを傾ける。
あれ?! いつの間に?!
「ほら。今は飯を食え」
「ふぁい」
飯を楽しむことなく、ただ口を動かし胃へと押し込む。
いや。飯はうまいんだ。
けど「右腕が動いた」って言葉が気になっちゃってさ。
しっかりと食後のフルーツ(桃みたいなやつで、甘くてうまかった)も食べてから、目の前に出されたクッキーを頬張る。
うまい。
「さて、ハルトの給餌も終わったから話しを聞こうか」
「給餌言うな!」
「ものを食いながら話すな」
「…ごめん」
普通に怒られた。
まぁ、そうだよなー。なんかシモンとかマナーに厳しそうだし。
むぐむぐとクッキーを食べてから、カップでそれを流し込む。すると、カップを先に置いたシモンが一度息を吐いてから口を開いた。
「昨夜、ハルトの腕が動いたのは確かだ」
「ふんふん。でも今日は動かないんでしょ?」
ハワードの言葉にこくんと頷くと「ううーん?」とハワードが腕を組んで首を傾げる。
仕草がなんか可愛いんだよなー。
こう…癒される?
って何考えてんだ。
左手で、ぱっぱっと考えを消すと「なんかハルトが面白いことしてる」とにまにまと笑うハワード。
前言撤回。
やっぱり考えを消して正解だわ。可愛くない。
「というか、なんで右腕が動くのをハルトが知らなくて、シモンが知ってるのさ」
ごもっともです。
昨夜は腹を…というか下肢をお互いの白濁で染めたのは覚えてるんだけど、身綺麗にした覚えはない。
と、いうことは俺の意識が飛んでから右腕が動いたということになる。
…これ、言わなきゃならんのか?
恥ずかしすぎるんだけど。
「昨夜、ハルトに性欲を発散させてもらった時だったからな」
「ファーッ!」
恥ずかしげもなく、さらっと言うシモンに俺はつい変な叫びをあげてしまった。
なんだよ「ファーッ!」って!
野球のファウルかよ!
「オレの腕に両手でしがみついてきたから、てっきりもう動かせるものだと…」
「え?! まじで?! 動かせてたの?!」
シモンの言葉で、恥ずかしさよりも驚きが勝った。
俺の意志なんかまる無視する右腕が動いたの?!
「…シモン」
「なんだ」
しかし、俺の驚きよりもハワードから発せられた低い、腹の底を冷やすような声にびくりと肩を震わせる。
心なしか目もめっちゃ怖いんだけど?
ついシモンの服を左手で摘まむと「大丈夫だ」と見つめられる。
ええー…。マジかよ…。
殺る気の目してんぞ?
「ハルト」
「っはい!」
思わず背筋を伸ばして敬語になっちゃうほど、今のハワードは怖い。
ちょっと自分が震えてるの分かるもんな。
「無理矢理シモンにヤられた?」
「え?」
「正直に言ってね? シモンに無理矢理犯された?」
おっふ。
ハワードの目がめっちゃ怖い。
何なら膝の上でゲンドウポーズしてるんだよ。怖い。
「ハルト…」
「シモンは黙って。事と次第によっては団長から降ろす」
「ひぇ?!」
え? 俺の返答次第でシモンの今後が決まっちゃう感じ?!
責任がすごいんだけど。
「で? どうなの?」
「あー…。無理矢理では、ない、デス。はい」
あ。なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
「シモンがいるからって嘘は言わなくていいからね?」
「嘘じゃない、デス。なんなら俺から言い出した…から…」
はははははは恥ずかしい…!
いくらここにいたいからってとんでもない事したな?! 俺?!
恥ずかしさに耐え切れず、すすっとシモンの腕に隠れるとしばらくハワードの視線が突き刺さっていたけど、それが消えたことに、ほっと息を吐く。
「大丈夫か?」
「平気」
「ならいい」
そう言いながら頭撫でるのやめてくれませんかね。
俺、成人してるんですよ。
「はぁー…。分かった。無理矢理じゃないなら何も言わない」
大きなため息を吐いてから、俺を見つめるハワードがシモンを見た。
「子供に手を出したらさすがの僕もかばいきれないからね?」
「悪かった」
うん? 子供?
「ハルトはお尻平気? 切れてない? ポーション…いや、治癒魔法をかけた方がいい?」
「え? ちょ…?」
「あー…、でも患部を見てみないとダメだよねー…。でもシモンが止めるだろうし」
「当たり前だろ」
「え…? ちょっと待って?」
なんか俺の尻の話しになってない?
素股はしたけど、尻の穴には突っ込んでないよ?
「ダンジョン帰りのシモンの相手は大変だったでしょ?」
「え? はぁ、まぁ?」
「死ぬかもしれない、って本能が爆発しちゃうんだよねー。特にシモンは性欲が強い方だから一晩セックスしても治らない時あるし」
「おい」
「本当のことでしょ? 君がダンジョンから戻るときは何人女の子待たせてると思うの?」
あれー?
なんか話しがどんどんずれてるような気がするんだけど?
というかシモンの性欲ってやっぱ強いのか。俺もダンジョン帰りで性欲が強くなったと思ったけど、それ以上だもんな…。
結局何発抜いたんだ? というか、訂正したいことがあるんだけどいいかな?
「あの」
ハワードとシモンが何やら言ってるところに、すっと小さく左手を挙げて発言の許可をもらう。
すると。
「うん? お尻痛い?」
ハワードがそれに気付いてくれたみたいで、ほくほくとしながら俺に視線を向けてくれた。
「突っ込ませてはないんだけど…」
「え?」
「だから。セックスはしてない」
「え?」
俺を見た後、シモンへと視線が動く。
それにシモンが頷くと、あんぐりとハワードが口を開けた。
「嘘ーッ!!!!」
ガタンッ!とソファから立ち上がって叫ぶハワードに、俺は逆にぽかんとしてしまう。
え?
「セックスしてないのに、シモンから色気が漏れてこない!」
「は?」
え? 色気が漏れてこない? なに? どういうこと?
ちょっとハワードの言ってることが分からなくて、困惑する俺。
「あ、それと。俺、子供じゃなくて22歳だから」
「「は?!」」
あ。綺麗にハモった。
「嘘でしょー?!」
ハワードがついに頭を抱え、シモンに至っては信じられないといったように俺を見ている。
なんだよー。
「だからダンジョンで言っただろ?俺はもう成人してる、って」
「冗談じゃなかったのか…」
「嘘ついてないよね?!」
なんだろう…。
よく日本人は幼く見られるっていうけど、ここまで信じてもらえないとちょっと悲しくなってくるな。
「嘘じゃないって」
「異世界ってどうなってんのー?!」
うわあああ!と叫ぶハワードと、本当に?とまだ疑うシモン。
そんな2人を半眼で見つめながら、俺はクッキーをやけ食いするのだった。
ふっと意識が浮上したら、あのふかふかベッド。
風呂場で意識を飛ばした後、どうなったのかは分からないけどここで寝てるということはシモンが寝かせてくれたんだろうな。
ぐーっと左腕だけを伸ばして、背筋もついでに伸ばす。
いい朝だ。
でもカーテンをも突き抜けそうな光に、何時ごろだろうと慎重にベッドから降りると、右手でカーテンを開けようとして慌てて左手で開ける。
「うおッ、眩しッ!」
途端に視界を焼くのは、高々と空に浮かぶ太陽。
直視しなくてよかった。
そのままカーテンを開けて、ふらふらとベッドに戻ろうとしてやめた。
腹が減ったから何か食わせてもらおう。
ぐーと鳴る腹を擦って、寝起きのままふらふらとドアをノックなしで開ければ、そこにはぎょっとしている騎士団の服を着た人。
「あ」
まさか人が出てくるとは思わなかったような反応を示すその人に、俺もやばい空気を察する。
「失礼しましたー…」
そのまま、ドアを閉めようとして「そのままでいい」と声がかかった。
あ。シモンいるじゃん。
「起きたか」
「ついさっき…」
「洗面所を使うなら使ってくれ」
「はーい?」
書類から視線を逸らさず言われ、俺も特に会話もないから了承して騎士団の服を着たその人の視線を受けながら、おとなしく洗面所に向かう。
だが、違和感に気付いた。
「っていうか、右腕使えないんだけど?」
「何?」
「え? 何って…右腕使えないって言ったんだけ…ど?」
おや?
俺の言葉に、視線が書類からこちらに向く。なんだよ。
「…右腕が使えない?」
「う、うん。使えないぞ?」
右腕を使おうとしても相変わらず自分の意志では動かせない。
動けー、動けーと念じてみても変わることはない。
けれどシモンの視線は「本当に?」と俺を疑っている。
「なんだよ。相変わらず重いだけだぞ?」
「ハワード…を呼んできてもらおう」
「うん?」
何がなんだか分からず、ドアを開けたままでいると騎士団の服を着たその人がシモンに一礼して部屋を出て行った。
しかも俺を睨んでから。なんだよ。
すると立ち上がったシモンが真っすぐ俺の方へと大股で歩いてくる。
コンパスが長いと早いな。
嫌味だぞ?
なんて思っていると「ドアを閉めてくれ構わん」と言われ、そこでようやくドアを閉める。そしてそのままやっぱり肩を抱かれて、移動をする。
「仕事はいいのか?」
「それよりお前の方が優先だ」
「うん?」
何その甘い言葉。
女性ならクリティカルヒットしてそうだ。
なんて考えながら、もう一つの部屋へと移動すると昨日と同じようにソファに座る。
けど、座るのは俺一人。
シモンはそのままドアへ向かい、何やら会話をしてる。
あ。トイレに行けばよかった。
そう考え始めたらトイレに行きたくなる。
不思議だよな。意識したら行きたくなるんだもんな。
「シモン。トイレに行きたいんだけど」
「分かった」
せっかく座ったのにすぐに立ち上がると、そのままトイレに連れて行ってもらう。もちろん肩を抱かれて。
え? もしかしてこれからの移動、全部こんな感じなの?
トイレで用を足し、すっきりしたところで手を洗う。
右手はシモンに洗ってもらった。恥ずかしかったけど、昨日のことを思えば屁みたいなもんだ。
と、そこで昨日の風呂場のことを思い出し、耳が熱くなるけど気にしない、気にしないと呪文のように唱えれば、肩を抱かれる。
それから仕事部屋…執務室を抜けて戻ってきたら、テーブルには料理が並んでいて。
「これ、食っていいの?!」
「…構わない、が。ハルト、確認するぞ」
「なに?」
早く食いたいんだけど?とシモンを見れば、眉間に皺が深々と刻まれていて。
「右腕が動かせないのは本当か?」
「は?」
何いってんだ? こいつ?を今度は俺がすれば、言われた右腕を見てみる。
そして、上に挙げようとしても動かせないことに、左の肩を竦めた。
「そうだよ。さっきも見ただろ。動かせないよ」
「…そうか」
そう言って口元を覆ったシモンに、今度は俺が眉を寄せた。
何なんだ?
「詳しくはハワードが来たら話そう」
「? いいけど」
「それより飯を食わせないとな」
「そうだよ! なんでフォークとか使わなきゃいけない物だらけなんだよ!」
「……………」
「早く食わせろ!」と鳴く腹を押さえると、2人でソファに座って食べさせてもらうことにした。
もぐもぐとやっぱり給餌のように口に入れてもらって飯を食っていると、ハワードがやって来た。
そして飯中の俺を見て「あらやだ!」とわざとらしく口元を両手で隠す。
ハワードってこんな性格だっけ?
そんな疑問を浮かべながら「あー」と口を開ければ、スプーンを入れられる。
なんか食うタイミングとか量とか分かってきたのか、とっても食べやすい。助かるー。
「あれ? 君、右腕が使えるようになったんじゃなかったの?」
よっこいせ、と俺の前に座るハワードが不思議そうにそう尋ねてくるけど、そんなこと一言も言ってないぞ?
「これを見てよくそんなことが言えるな」
「そうだよねー。どう見ても右腕は動かせなさそうだもんねー」
にゃは☆と笑うハワードを軽く睨めば「まぁまぁ」となだめられた。
「っていうかなんで右腕が動くって思ったんだよ」
「え? だってシモンからそう報告受けてるし」
「は?」
どういうことだ?と隣にいるシモンを見れば、すっと視線を逸らされた。おい!
「…昨夜、右手が動いていたから、てっきりもう動くものだと思ったんだ」
「昨夜って…」
そう言葉にして、昨夜の抜き合いを瞬時に思い出し、ばふっと顔を真っ赤に染める。
それをハワードが見逃すはずがなく。
「なになに? 昨夜なんかあったの?」
「ぐっ」
にやにやと笑うハワードにどう答えればいいのか分からず、言葉を詰まらせれば「まずは飯を食わせてやれ」とシモンが答える。
それに「そだねー」とあっさりと引くと、カップを傾ける。
あれ?! いつの間に?!
「ほら。今は飯を食え」
「ふぁい」
飯を楽しむことなく、ただ口を動かし胃へと押し込む。
いや。飯はうまいんだ。
けど「右腕が動いた」って言葉が気になっちゃってさ。
しっかりと食後のフルーツ(桃みたいなやつで、甘くてうまかった)も食べてから、目の前に出されたクッキーを頬張る。
うまい。
「さて、ハルトの給餌も終わったから話しを聞こうか」
「給餌言うな!」
「ものを食いながら話すな」
「…ごめん」
普通に怒られた。
まぁ、そうだよなー。なんかシモンとかマナーに厳しそうだし。
むぐむぐとクッキーを食べてから、カップでそれを流し込む。すると、カップを先に置いたシモンが一度息を吐いてから口を開いた。
「昨夜、ハルトの腕が動いたのは確かだ」
「ふんふん。でも今日は動かないんでしょ?」
ハワードの言葉にこくんと頷くと「ううーん?」とハワードが腕を組んで首を傾げる。
仕草がなんか可愛いんだよなー。
こう…癒される?
って何考えてんだ。
左手で、ぱっぱっと考えを消すと「なんかハルトが面白いことしてる」とにまにまと笑うハワード。
前言撤回。
やっぱり考えを消して正解だわ。可愛くない。
「というか、なんで右腕が動くのをハルトが知らなくて、シモンが知ってるのさ」
ごもっともです。
昨夜は腹を…というか下肢をお互いの白濁で染めたのは覚えてるんだけど、身綺麗にした覚えはない。
と、いうことは俺の意識が飛んでから右腕が動いたということになる。
…これ、言わなきゃならんのか?
恥ずかしすぎるんだけど。
「昨夜、ハルトに性欲を発散させてもらった時だったからな」
「ファーッ!」
恥ずかしげもなく、さらっと言うシモンに俺はつい変な叫びをあげてしまった。
なんだよ「ファーッ!」って!
野球のファウルかよ!
「オレの腕に両手でしがみついてきたから、てっきりもう動かせるものだと…」
「え?! まじで?! 動かせてたの?!」
シモンの言葉で、恥ずかしさよりも驚きが勝った。
俺の意志なんかまる無視する右腕が動いたの?!
「…シモン」
「なんだ」
しかし、俺の驚きよりもハワードから発せられた低い、腹の底を冷やすような声にびくりと肩を震わせる。
心なしか目もめっちゃ怖いんだけど?
ついシモンの服を左手で摘まむと「大丈夫だ」と見つめられる。
ええー…。マジかよ…。
殺る気の目してんぞ?
「ハルト」
「っはい!」
思わず背筋を伸ばして敬語になっちゃうほど、今のハワードは怖い。
ちょっと自分が震えてるの分かるもんな。
「無理矢理シモンにヤられた?」
「え?」
「正直に言ってね? シモンに無理矢理犯された?」
おっふ。
ハワードの目がめっちゃ怖い。
何なら膝の上でゲンドウポーズしてるんだよ。怖い。
「ハルト…」
「シモンは黙って。事と次第によっては団長から降ろす」
「ひぇ?!」
え? 俺の返答次第でシモンの今後が決まっちゃう感じ?!
責任がすごいんだけど。
「で? どうなの?」
「あー…。無理矢理では、ない、デス。はい」
あ。なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。
「シモンがいるからって嘘は言わなくていいからね?」
「嘘じゃない、デス。なんなら俺から言い出した…から…」
はははははは恥ずかしい…!
いくらここにいたいからってとんでもない事したな?! 俺?!
恥ずかしさに耐え切れず、すすっとシモンの腕に隠れるとしばらくハワードの視線が突き刺さっていたけど、それが消えたことに、ほっと息を吐く。
「大丈夫か?」
「平気」
「ならいい」
そう言いながら頭撫でるのやめてくれませんかね。
俺、成人してるんですよ。
「はぁー…。分かった。無理矢理じゃないなら何も言わない」
大きなため息を吐いてから、俺を見つめるハワードがシモンを見た。
「子供に手を出したらさすがの僕もかばいきれないからね?」
「悪かった」
うん? 子供?
「ハルトはお尻平気? 切れてない? ポーション…いや、治癒魔法をかけた方がいい?」
「え? ちょ…?」
「あー…、でも患部を見てみないとダメだよねー…。でもシモンが止めるだろうし」
「当たり前だろ」
「え…? ちょっと待って?」
なんか俺の尻の話しになってない?
素股はしたけど、尻の穴には突っ込んでないよ?
「ダンジョン帰りのシモンの相手は大変だったでしょ?」
「え? はぁ、まぁ?」
「死ぬかもしれない、って本能が爆発しちゃうんだよねー。特にシモンは性欲が強い方だから一晩セックスしても治らない時あるし」
「おい」
「本当のことでしょ? 君がダンジョンから戻るときは何人女の子待たせてると思うの?」
あれー?
なんか話しがどんどんずれてるような気がするんだけど?
というかシモンの性欲ってやっぱ強いのか。俺もダンジョン帰りで性欲が強くなったと思ったけど、それ以上だもんな…。
結局何発抜いたんだ? というか、訂正したいことがあるんだけどいいかな?
「あの」
ハワードとシモンが何やら言ってるところに、すっと小さく左手を挙げて発言の許可をもらう。
すると。
「うん? お尻痛い?」
ハワードがそれに気付いてくれたみたいで、ほくほくとしながら俺に視線を向けてくれた。
「突っ込ませてはないんだけど…」
「え?」
「だから。セックスはしてない」
「え?」
俺を見た後、シモンへと視線が動く。
それにシモンが頷くと、あんぐりとハワードが口を開けた。
「嘘ーッ!!!!」
ガタンッ!とソファから立ち上がって叫ぶハワードに、俺は逆にぽかんとしてしまう。
え?
「セックスしてないのに、シモンから色気が漏れてこない!」
「は?」
え? 色気が漏れてこない? なに? どういうこと?
ちょっとハワードの言ってることが分からなくて、困惑する俺。
「あ、それと。俺、子供じゃなくて22歳だから」
「「は?!」」
あ。綺麗にハモった。
「嘘でしょー?!」
ハワードがついに頭を抱え、シモンに至っては信じられないといったように俺を見ている。
なんだよー。
「だからダンジョンで言っただろ?俺はもう成人してる、って」
「冗談じゃなかったのか…」
「嘘ついてないよね?!」
なんだろう…。
よく日本人は幼く見られるっていうけど、ここまで信じてもらえないとちょっと悲しくなってくるな。
「嘘じゃないって」
「異世界ってどうなってんのー?!」
うわあああ!と叫ぶハワードと、本当に?とまだ疑うシモン。
そんな2人を半眼で見つめながら、俺はクッキーをやけ食いするのだった。
7
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる