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右腕の暴走
「おおー」
「ダンジョン2回目でも、結構感動できるんだな」
カツカツと靴を鳴らしながら道を歩く。中は迷路…ではなく、草やコケが生えた石畳の一本道があるだけだから、ここで迷う方が難しい。
きょろきょろと周りを見ながら歩いていると、ヒュームに笑われた。
「だって1回目の時は、ここ通らなかったから」
「そっか。兄さん、騎士団長だもんな。ここを通らなかったってことは、騎士団専用の道を使ったのか」
「おれはむしろそっちを行ってみたいけどな」
そんな風に呑気に会話をしながら、道なりに歩く。
時折魔物も出てくるけど、3人がさくっと片付けるから俺は隅で震えているだけ。
それにしても…。
「なんか武器変わった?」
「ようやく気付いたか」
「仕方ないだろ?! 俺、武器なんかまじまじと見たことないんだから!」
そう、あの時とは違いなんだか剣も、槍も、弓もピカピカとしている。
初めは気のせいだと思ったんだけど、サクサクと戦闘を終える3人を見て「あれ? やっぱり変わった?」と思ったのだ。
「そ。ここで貰った宝石を売った金でな」
「あ。そういえばあの宝石役に立った?」
「もちろん! その金で武器と防具、それにここを拠点にするための家を買ったからな」
「家を買ったの?!」
家ってあの家だよな?! しかも買ったってことは…?
「い…一軒家?」
「? 当たり前だろ。それ以外に何かあんのか?」
「あ、いや。別に…」
「こら、ヒュー。ハルトは孤児院育ちだって言われてただろ」
「あ、そうだった。すまん」
ごめんなーと言いながら頭を撫でるヒューに、ぶすっと不機嫌を態度で表せば「外に出たら兄ちゃんがうまいもん食わせてやるからなー」と笑う。
うまいもん?!
ヒューの言葉に瞳をキラキラせれば「うっ!」と言ってなぜか仰け反られる。なんでだよ。
「いやー…。こんな素直に反応されると兄ちゃん困っちゃう」
「ハルトはそのまま素直でいような?」
「うがー! 子供扱いすんじゃねー!」
いい子いい子、とヒューとトレバーに左手を挙げて抗議するものの、その様子を見たグレンが「お前、マジで可愛いな」と真顔で言うものだから、この3人には何を言っても無駄だと悟る。
そんな風にじゃれあい、戦闘をしながら一本道を歩く。
「そういや俺たち以外の人たちってどこ行ってんの?」
「多分20階層だな」
「危なくねぇの?」
「このダンジョン、今の階層よりも下の階層の奴らが出てきてるから、20階層でも十分歯ごたえがあるんだよ」
「へぇー」
っていうかそんな危ないことになってたのかよ。
レベル的には余裕だと思ってたら痛い目見る奴じゃんか。
それにしてもこの3人の話しはやっぱり面白い。
現役の冒険者だからか、生の情報が手に入るのはありがたい。
俺はまだまだひよこ…いや孵化したてのひよこなのだから。
「それにしてもやっぱこのダンジョンおかしいな」
「そうなの?」
「ああ。ドロップ品が高価すぎるんだよ」
「高価すぎる? それっていい事じゃないの?」
なんせ戦った貰える報酬みたいなものなんだから。命を張って戦った結果なら、高い方が嬉しいじゃん。
「レベルが21くらいのリザードマンやダークスライムがバカでかい宝石とか落とすと思うのか?」
そう。3人が戦った後のドロップ品はやっぱり宝石で。
宝石の種類なんかほとんど分からんが、緑に、黄色に赤に青。それに七色っぽく光るものまである。
大きさはさまざまだけど、そのほとんどが成人男性のこぶし大なのだ。
お陰で重くて仕方ない…と思ったら、ハワードが貸してくれたウエストポーチ。
この前の物よりもいいものを貸してくれた。
しかもなんと中に入れ放題!
所謂マジックバッグ、ってやつだな。これがあるのとないのとでは探索の仕方が変わってくるからな。マジでありがたい。
これを見た3人がなぜか俺を崇め始めたけど、崇めるんだったらハワードにしてくれって笑ったら「戻ったらいっぱいキスするわ」とこれまた真面目にグランが言うものだから、笑ってしまった。
そんなわけで、俺のウエストポーチの中には宝石がザクザク入っている。
あとは光っている花とか、なんだか良く分からない実。それになんとなくうすぼんやりとこれまた光っているコケを突っ込んでおいた。
手当たり次第、気になったものを突っ込んでいく俺を3人がなぜかほんわかとして見ていたのは気にしないでおこう。
「だいぶ歩いてきたけど、まだ奥があるのか?」
「さぁ? 俺たちもこのダンジョンは初めてだからな」
「ええー?」
そうなの?とヒューとトレバーに聞けば、こくりと頷く。
「どこまで行くつもりだったんだ?」
「ハワードさんの話しからして、最奥まで行ったら戻るつもり。これならあんまり時間もかからないって言われてたけどな」
「だがかれこれ半刻歩いてるが、奥が見えないな」
薄暗いダンジョンだけど、明かりは光る花がその役目を果たしてくれている。けれどその花がまだまだ続いている、ということはその奥がある、ということなのだろう。
そういや、休憩なしで歩いてるけどあんま疲れてないな。
「これ以上奥に行くのはやめるか。戻るにしても同じ時間がかかるしな」
「そうだな。ハワードさんと団長さんに時間までに帰るって約束したし」
これ以上歩いても何もなし、と判断したグランとトレバーに俺もこくりと頷く。そしてその場で反転した時だった。
「え?」
「ハルト?」
「え? ちょ…?! なんだ?!」
「ハルト?!」
突然右手の甲からまばゆい光が発せられ、俺たちの目を焼く。
うわああああ?! なんだこれ?!
視界が真っ白になり、何も見えなくなる。
すると。
「うわぁ?!」
「ハルト!」
動かなかった右腕が突然持ち上がり、ぐいぐいと奥へ誘うように引っ張り始める。
「いだだだだ!」
早く来い、と言わんばかりにぐいぐいと引っ張られ、痛みで涙目になる。
なんだよ!
「何してんだ?!」
「分かんない! けど…右腕が…!」
「右腕?!」
3人が叫んだと同時に、ダンジョンがぐにゃりと歪む。それと同時に、俺はヒューに肩を抱かれグランが剣を、トレバーが弓を番えて戦闘態勢に入る。
「なっ?!」
しばらく、ぐにょぐにょとしていたダンジョンが元に戻る。そして、歪んだ後には…。
「路…?」
今まで一本しかなった道が複数に分かれている。
呆然とその道を眺めていると、右腕がまだ引っ張ってくる。
「痛いって! なんだよ!」
「なんかどこかへ連れて行こうとしてるみたいだな」
「えー…?」
引っ張る力が強くなってきていて、踏ん張らなければいけなくなってきているし、めちゃくちゃ痛い。
なんで俺の意志通りに動かないんだよ!と思ったところで、今この右手は大精霊様のものであるということを思い出した。
そうだ。この右腕は監視だけじゃなくて契約された大精霊様の物なのだ。だから俺が痛がったところで、大精霊様にはダメージがない。
というかなんで痛みはしっかりあるんだよ! その辺は切っとけよ!
ずず…ずず…と肩を押さえているヒューもろとも、徐々に引っ張られていく。
「いてぇよ! この馬鹿!」
ぎちぎちと関節を外さんばかりに引っ張る右腕に文句を言えば、なぜか引っ張る力が弱まった。
そうだった。これ、映像だけじゃなくて音声も繋がってるんだった。
罵ったことで少しだけ弱まった力だけど、痛さはあまり変わらない。
そんな俺を見ていたグランが「ハルト」と声をかけてきた。
「何?!」
「右手が行きたい方に行ってみよう」
「え?」
「このままではハルトが怪我をする」
「だからって…!」
確かにこのままでは関節が外れる方が先か、進むのが先か、という選択肢になっている。
痛みのあまりに脂汗が吹き出してきているのを見かねたヒューも、グランの言葉に賛同した。
「ハルト。時間は守れそうにないが、怪我だけはやめてくれ」
「あ」
そこで約束を思い出す。
約束は守るからダンジョンに行かせてくれ。
そう言ってここに来たのだ。
でも右手が言うことを聞かない時点で、約束は守れそうにないことを悟った。
「…分かった。怪我だけはしない」
「よし。警戒しながら進むぞ。ヒューはそのままハルトのそばにいてくれ」
「分かった」
「戦闘は俺たちで何とかする」
「…頼んだ」
こうして、強く光る右手の甲が指し示す方向へと俺たちは進むことにした。
心の中でハワードとシモンに謝りながら。
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