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どこに埋める?
しおりを挟む「……………」
身体が痛い。
いや、身体というよりは腰と尻が痛い。
あと腹か。
シモンの部屋に戻ってきた後、そこにはなぜかルスがいてビビり散らかした。
真っ暗な部屋にいきなり、ぼんやり光が現れたらビビるだろ!
シモンにしがみつき、がくぶるしていたら聞き慣れた“かかか”の笑い声でようやく安心した。
「こんなところまで…いかがされましたか。ルス様」
“なに。話があって来てみたが、なにやら話し込んでいたからな。悪いがここで待たせてもらった”
「そうでしたか。お待たせしました」
“かかか。気にするな”
からからと笑うルスは本当に気にしていないようで、ばさばさと羽を広げる。
伸び…かな?
「それでお話、とは?」
“おお。そうだった。シモンはまだ光の玉をハルトに渡していないだろう?”
「ああ。そう言えば」
“かかか”
「あのさ」
ルスとシモンの会話を聞いていた俺が、すっと左手を上げると“どうした?”と首を傾けるルス。
く…っ!かわい…! 可愛い…!
鳥の姿だからか、仕草が妙に可愛いんだよな…。こう、すずめ的な感じで。
「なんでシモンはルスの言葉が分かるの?」
「…そういえば」
“くかかか! シモンの元に我の玉があるからだな”
「え? それそんなことにも使えるの?!」
“もちろん。我の力を持っているものだからな”
「では、これがなくなると会話ができない、と?」
“そうだな。だがハルトの近くにいれば会話は可能だろう”
「なにそれ」
“くかか”と笑うルスに呆れる俺だけど、あの玉がないと右腕も作れない。
「というかその玉、持ってるだけならアクセサリーとかに加工すればよくない?」
俺が持つことに意味があるんだから、小さな袋に入れて首からかけててもいいわけだろ?
だが、そんな俺の提案はルスの瞳が細くなったことで間違いだったことを教えてくれた。
“ハルト”
「な、なに?」
“これは信頼できるお前だから渡したものだ”
「お、おう」
“見えるところに付ければ、狙われるのはお前だぞ”
「え?」
柔らかな空気から一変し、ぴり、と張り詰めた空気にたじろぐ。
そして細くなったルスの目が俺を見つめると、こくりと喉を鳴らす。
“それが悪しき者の手に渡れば、国、ひいては世界を揺るがしかねん”
「というかそんなもん渡すなよ」
“我のせいで右腕を失ったハルトへの、せめてもの礼だからな”
「あー…」
そう言われてしまえば今更「いらない」なんて言えなくなる。いらないわけじゃないんだけどさ。ないと困るのは俺だし。
“サニーの力も入っているからな。うっかりすると世界を壊しかねんものだ”
「うーわー…」
そういえばあの時サニーも手伝ってたけど…。まさかとんでもないものが出来上がっているとは…。
“そこで、だ。それはハルトの身体に埋め込んだ方がいいと思ってな”
「う…?!」
なんかさらっととんでもない事、言ったぞ?!
それにぎょっとすれば、シモンもまた何か考えていて。
「埋め込む場所はどこでもよろしいのですか?」
“そうだ。だが埋め込んだ場所は弱点にもなりうる。それを考えて埋め込むがよい”
「分かりました」
“ハルト”
「な、なんだよ…」
“埋め込んだ場所は決して他人に言わぬこと。例え、ハワードやトレバー達に聞かれてもな”
「なんで?」
“そうだな。我の心臓だから、と言った方がいいか?”
「ええ?!」
そんな大事なもん俺に渡すなよ!
思わずシモンにしがみつけば「ルス様」と少しだけ声が低い。おっと?
“くかかか。心配するな。それくらい大切なものだ、ということだ”
「び、ビビらせんなよ…」
“だがこうでも言わないと話すだろう?”
「そう…かもだけど」
“だからシモン以外には絶対に教えるなよ? あのハワードも食えんしな”
「え?」
“気にするな。とにかく、それをどこかに埋めるように。よいな?”
「分かりました」
「…分かった」
“話はそれだけだ。それと…”
ルスがそう言って俺を見るけど、口を閉じる。
な、なんだよ。
“まぁ、そういう訳だ。ではな”
「ちょ…! なんか滅茶苦茶もやもやするんだけど?!」
言いたいことがあれば言っていけよ!
そんな視線をルスが消えた場所を向けるけど、明かりが消えたその場所は暗闇になっていて。
そう言えばルスがいなくなったから真っ暗だ。あいついると便利なんだな。
「ハルトはここにいてくれ」
「ん」
暗いからヘタに動くとすっ転ぶからな。
シモンが動いて部屋が明るくなるとやっぱりほっとする。
「風呂に入ってから、これを埋める場所を決めるか」
「うえー…本当に埋めるのー…?」
「嫌ならやめるが」
「できればそうしたい」
「なら潰すか」
「何でそうなるの?!」
ぐっと玉を握る手に力を籠めるシモンにストップをかける。
「いらないんだろう?」
「いらないとは言ってないじゃん!」
「埋めないのなら、どうするんだ?」
「う…」
アクセサリーはダメって言われたからな…。かといって持ってるだけでやばそうなものをシモンにずっと預かってもらう訳にもいかないし…。
というかこれを埋めたら俺、人間辞めることにならない? 大丈夫? やべ、その辺聞けばよかった。
“おおそうだった”
「どぅわ?!」
俺の頭にどっしりと乗るように現れたルス。頭の上だから睨めもしねぇ!
“これを埋めても人間を辞めることはないから安心しろ”
「あ! お前…!」
“くかか”
左手でルスを捕まえようと伸ばしたけど、手が触れる前に消えた。
くっそー! 腹立つー!
「と、言うことだが?」
「分かった! 埋めればいいんだろ?! 埋めれば!」
やけくそ気味にそう言えば、なぜか頭を撫でられる。
「ハルトが嫌なら壊すが…」
「いい! むしろ壊したら大変なことになりそうだから!」
そう。ルスとサニーが作ったやべぇもんを壊す方が怖い。何が起きるか分からないからな。
なら埋めた方がよほどいい。危ないものは目の届くところにあった方が管理がしやすいし。
「なら風呂に入っている間に埋める場所を決めるか」
「うーん…ならシモンが決めてよ」
「は?」
おっとー。
シモンの目が丸くなってるな。可愛い。
「自分で決めるのなんか怖いじゃん」
「…………」
「シモンなら変なところ選ばないから、と思って。ダメだった?」
ピアスをどこに付ける?みたいな軽い選択肢じゃないからなー…。
それに自分で選ぶと怖くない所を選んじゃうし…。なら選んでもらって方がよくない?
「嫌なら、嫌って言うからさ」
「…それなら、いいが」
「よし。なら風呂入ろうぜ」
自分のことなのに決めるのは他人に丸投げ。本当はダメなんだろうけどさ。
でも、シモンが決めた所ならどこに埋めても怖くないって思うんだ。
「ハルト。とりあえずこれを渡しておく」
「あ、そっか。服脱がせてもらわないと」
シモンから玉を受け取り、左手で握るとそのまま服を脱がせてもらう。
右腕を作ってもいいけど、倒れそうだからやめておく。まだまだコントロールがうまくできないからな。
「ぷわ」
「先に入ってもいいが転ぶなよ?」
「気を付ける」
服を脱がせてもらって全裸になると、ドアを開けてもらって風呂場へ。
シモンが来るまで少し時間があるから、握った玉を手のひらでころころと転がす。
光るそれは本当にビー玉みたいで。これがめちゃくちゃ危ないものだなんて思えないよな。
中身を知らなければ。
でもこれを埋めるのかーと、思っているとシモンが入ってきた。
「ハルト」
「おう」
風呂の椅子に座れば、あとはされるがまま。
どうしようもないからな。
玉をぎゅうと握って、目を閉じれば髪を洗われる。シモンに髪を洗わられるとめちゃくちゃ気持ちよくて、眠くなるんだよ。
わっしわっしとまるで犬猫を洗うように頭を洗われてから、次は身体。
初めて一緒に入った時は自分で半分洗ってたけど…。今では懐かしささえ感じる。
椅子から降りて床に座ると、もこもこのタオルで洗ってくれる。特に右腕があったところは、壊れ物を拭くように優しく洗ってくれる。
足も洗ってもらって、流してもらう。風呂の縁を持って立ち上がるとそのまま中へ。ちょっと泡があっても気にしなくなった。
「ふはー…」
「溺れるなよ?」
「んー」
左腕を縁に置いて溺れないようにしているから平気だと思うんだ。
シモンはささっと適当に洗うのはもう見慣れたもの。あんまり好きじゃないんだよなー。風呂。
そんなことを思いながらもほんわかしていると、ざばとお湯が大量に流れていく。
ああ、もったいない。
「溺れなかったな」
「まぁね」
そう言いながら後ろにいるシモンに身体を預ければ、腕が腹に回る。
これでふわふわすることがなくなったから、のんびりできる。
「それで? 決めた?」
「そう、だな」
「早いな」
「まぁな」
なんか歯切れが悪いけど…なんだ?
「ああ、いや。ハルトの身体を見ていたら、な」
「えっち」
「否定はしない」
「ふはっ」
のし、とルスがいつも乗る頭に顎を乗せて俺の身体を引き寄せるシモンに、けらけらと笑うと左手を握られた。
その意味に気付いて、握っていた玉をシモンに渡すと、ふ、と息を吐く。
どこでもいい、とはいったけど…。ちょっと怖いから聞いておきたいなー、なんて思ったり。
「どこに埋めるか聞いてもいい?」
「そうだな」
そう言いながら、玉をそこへと押し当てる。
それにびくりと膝が跳ねた。
「そこ…?」
「ああ。ここならハルトも言いにくいだろう?」
「…まぁ。そうだな…ッあ!」
つぷりとそれが入り込む度に、ぞくぞくとしたものが全身を駆け巡る。
「あ…ッ! やぁ…! なに…っ?!」
「ハルト?」
それを入れていた手が離れたけれど、中途半端にされるよりいっそのこと一気に入れてもらった方が楽かもしれない。
左手でシモンの手首を掴んで、奥歯を噛みしめて声を漏れないようにしても、ふーふーという息は漏れてしまう。
ぱたぱたと唾液を湯に落としながらシモンを見れば、大きく瞳を見開いていた。
「…も、いれて…っ!」
「――ッ!」
「これ…ッ、ぜんぶ…んぅ…ッ! いれてぇ!」
そう叫ぶと同時に、ずぶりと玉が入ってくる感覚にびくびくと身体を震わせれば、指先が腹に触れた感覚がした。
けれど俺はそれどころではない。
絶頂にも似た感覚が身体を襲っていて、がくがくと膝を震わせる。
「ぁあ…あっァ…ッ!」
「ハ…ルト?」
心配そうなシモンの声に反応したいけど、それどころじゃないんだよ。
襲い来る絶頂の波に耐えながら身体を震わせていると、シモンの手が肩に触れた。
瞬間。
「んぅう…ッ! ああぁ…っァ!」
それだけで身体が反応し、絶頂した感覚。
多分湯の中に白濁を放っただろうけど、それよりも身体がまだ熱を持っている。
玉を入れた場所が場所なのか、ずくずくと感じるそこが熱くてたまらない。
「ハルト?」
「まって…ッ! 今…っ、イ…ッ!」
ぎゅうと左腕で腹を抱え、背を丸めれば起立したそれが触れて泣きたくなる。
「だい、じょうぶか?」
掠れた声でそう尋ねられたけど、何度も絶頂した頭はふわふわしている。
「おなか…きゅうってする…っ!」
ぐずぐずと泣きながらシモンを見れば、その喉が上下に動いた。
はっ、はっという自分の乱れた呼吸音が響いているけど、それが妙に卑猥で腹の中がどくどくと脈打つ。
やっぱりやばいやつなんじゃ?と思い始めたころ、腰を掴まれそのままシモンと一緒に立ち上がる。
その行動の意味が分からなくて、顔を上げればそのままくるりと反転させられた。
「へ?」
そしてそのままシモンの顔が近付いてきて、唇を塞がれた。
「んぅ?!」
なに?! どういうこと?!とパニックになっている間に、腰を掴んでいた手が尻に伸びて揉み始める。
呼吸は碌にできないし、腹が熱いし、尻は揉まれているしで。
何が何だか分からないうちに、またぞくぞくとした感覚が襲ってきて。
でも一つだけ分かったことは…。
「きもち…い…」
それだけ告げるとシモンの瞳が獰猛に輝いた。
「そうだ。あれからあれよあれよと流されて最後まで…」
昨日のことを思い出すと非常に恥ずかしい。
そこでふと、玉を埋め込まれた臍を撫でてみる。
特に違和感はない。昨日は熱くて腹が変だったが、今日は落ち着いている。
それにほっとしていると、ドアが開いた。
「起きたか」
「おう」
「声が掠れてるな」
「誰のせいだよ」
「…俺のせいだな」
そう言って、ふっと笑うシモンにぐっと言葉を詰まらせると、顔が熱くなる。
なんだよ。
昨日はあんなに飢えた獣みたいだったのに。
「今は無理だぞ」
「なっ、何が?!」
くすりと笑うその顔は、うまく隠されている本能がむき出しになっている。
それにぞわりとしたものが背中を駆け抜けると、臍を撫でていた手が腹を撫でる。まるで腹が減った時に撫でるみたいに。
俺の近くまで無言で歩いてきたシモンがベッドに手を付くと、そっと耳元に唇を寄せた。
「今すぐにでも食われたいという顔をしてる」
「――――ッ!」
その声に身体が反応すると、腹が熱くなる。
なんだよ…ッ! これ…!
「そんなに煽るな」
「あお…ってない…っ!」
耳元で囁かれると、ぞわぞわとしたものが腹からあふれ出す。
顔を見られたくなくて逸らしたのがダメだった。
「ひ…ぅ!」
かぷりと耳を食ままれた。
それに、びくりと肩を跳ねさせるとするりと胸を撫でられる。
「ゃ…あ!」
「夜まで待てないか?」
「待つ! 待つから…ぁ!」
顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、ちゅっと耳元でリップ音がした。
それにぎゅうと目をつむれば「何してんのぉー!」という声と共に、ばしん!という痛い音が聞こえた。
「ハワード…」
「昼間から! 何を! してるの!」
シモンの身体が離れていくと同時に見えたのは、腰に両手を置いてぷりぷりと怒っているハワード。
そんなハワードの姿を見たらほっとした。
「ハルト。いやらしいことされてない?」
「うん…、大丈夫」
その言葉に少しだけ迷ったけど、こくこくと頷けば「よかったぁ」と笑うハワードに曖昧に笑い返す。
「シモン。早くハルト連れてきてよ」
「…分かっている」
「分かってないじゃん! 様子を見に行くって言うから待ってたのに! まさか昼間から手を出すとか!」
「…出してない」
「嘘つけ!」
ぷりぷりとおかんむりなハワードに、ふはっと笑えば「もう!」とまたしても怒り始める。
「ハルト! 嫌なら嫌! ダメならダメ!って言わなきゃだめだよ!」
「…それが言えたら苦労はしない」
「ちゃんと自己主張しなさい!」
「…ゼンショシマス」
ぷん!と最後に怒ると、腹を押さえていた俺に気付いたハワードが何かに気付いたみたいで「あ!」と大きな声を上げる。
それに、あの玉を埋め込んだのバレたか?と一瞬ひやりとした。
「もう! ちゃんと後始末しなきゃダメだろ?! お腹痛くなるだけならいいけど!」
「…忘れていたわけじゃない」
「シモンがやらないとハルトが痛い思いするんだからね!」
ぷんぷこぷん!と怒るハワードに、心配されてるんだか怒られてんだか分からなくなって「ぶふっ!」と吹き出せば標的がこちらに移った。
「ハルトも! ちゃんと言いなさい!」
そう叫ぶハワードに「はぁーい」と返せば、頬を膨らませたまま呆れていた。
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