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学園の名物
しおりを挟むそして現在。
オレは今食堂に来ている。
口輪には魔法が使えないようになっているから、食事をする時には外さなければならないが、オレは外せないから外してもらう必要がある。
なんせ両手は拘束されたままなのだから。これはクルトの言う通り自業自得でしかないんだけれども。
あいつと約束して生れ落ちた瞬間から、オレはどうにかこうにかしてこの人生を終わらせようと必死だった。
赤ん坊のころはうつ伏せになり、窒息を試みたが乳母に見つかりあえなく失敗。それから片時も離れなくなった。それから食事をのどに詰まらせてみる、というのも試したがこれもまた失敗。
ハイハイができるようになれば、うっかり階段から落ちましたといえるように転落を試みた結果、失敗。成長するにつれて死ねる行動は広がったものの、それを阻止する人たちのおかげで17歳まで生きる羽目になった。
それでこいつ。侍従のクルト。
こいつが変わったやつで、オレが6歳の時から側にいる。年齢は…今、22歳だったか? あまりにも死ぬことに必死になりすぎて周りのことなど知らない。
「おおー。今日もおいしそうですね」
「…ソウデスカ」
オレはこの食事の時間が一番苦手だ。トイレも大概だけど、トイレは時間をずらせばそこまで人に見られない。けどこの食事の時間は人目を避けるなどとは無理なわけで。
「どれから食べます? スヴェン様」
「どれでもいいよ。さっさと食わせろ」
「もー。せっかちですねー。スヴェン様はー。食事くらいゆっくりしましょうねー」
「はぁ…」
このアホ侍従。
ちらりとクルトを見れば、にこりと甘い笑みを浮かべている。そういうのはオレじゃなくて女性にやれ。
ちなみに。
オレ達が席に着くと、給仕がテーブルまで持ってきてくれる。まぁ…オレがプレート持てないのは分かってるからな。
それにまだ口輪をせず家の中でも手の拘束だけで済んでいた頃、クルトの持つプレートからナイフを口で奪って不安定なそれで首を切りつけたことがあった。
途端にあふれる赤に両親が悲鳴を上げたが、すぐに治療された。本当は誰にも迷惑をかけたくなかったが、その時はとにかく死にたくて必死だったんだ。
それ以来、これも追加されたわけだ。
それもあって、オレが座る席はいつも決まっている。そして周りには誰も座らない。
当然だな。いつオレが自殺を試みるか分からないんだから。
それに。
口輪を外され、くいっと顎を摘ままれる。そしてそのままクルトの唇がオレの唇に触れると、口の中に小さく切られた肉が押し込まれた。
うん。これが苦手なんだ。
男に口移しで食事をするのはもう慣れた。かれこれ10年もこういう風に食事をすれば慣れるってもんだ。
けどな。
「ん…?! ぐぅ、ふ…ぅんん…ッ!」
舌を絡ませるのは違うと思うんだよな。
肉の塊が邪魔をするけど、こいつにとってはそうでもないらしい。器用にオレの舌だけを絡め吸いつく。
お前…せっかくのソース味が無くなるだろうが!
そう睨めば、すぐに舌が離れていく。そして口の周りを拭かれると、もぐもぐと口を動かす。
あ、肉うめぇ。
「スヴェン様、次は何がいいですか?」
「何でもいい」
「じゃあ次はスープにしますねー」
「はいはい」
こうやって侍従に口移しで食事をするオレは学園の名物になりつつあるらしい。嫌な名物だな、おい。
「はい、スヴェン様」
「ん」
むちゅっとソースをパンに付けて食わされると、デザートに移る。甘いもの…は。
「クルト」
「はい?」
「これはお前が食べろ」
「え? いいんですか?」
「甘いものがあまり好きじゃないって知ってるだろうが!」
「スヴェン様…!」
うるうると瞳に涙を乗せてオレを見るクルトにため息しか出てこない。
わざとらしい。
「私はスヴェン様にお仕えできて幸せです…!」
「はいはい。それよりお前も飯食えよ」
「はい!」
オレはこいつの世話がないと何もできないから、特別にクルトも食堂の飯が食えるようになっている。けれど、いつもオレに食わせた後だから、食事が冷める。それでもおいしそうに食べるクルトを見て心が痛み「どうせならオレに食わせた後、食事を頼め」と言ったところ、きょとんとした後「さすがスヴェン様!」と抱きつかれた。
それ以来、クルトの食事はオレが食い終わったら給仕が持ってきてくれることになった。
クルトの食事中はやることがないから、手の拘束を緩めてもらって本を読むことになっている。ページをめくるだけの手の動きは許されてるからな。
それに午後一時間の授業は免除されている。オレとクルトの食事の時間が他の生徒に比べ倍時間がかかるからだ。その為、補習を受けている。
「今日の本は何ですか?」
「食うか話すかどっちかにしろ」
「気になるじゃないですか」
「まずは食え」
「分かりましたー」
もぐもぐとうまそうに食事をするクルトを横目にため息を吐くと、本へと視線を移す。
「今日はありきたりな英雄譚だな」
「スヴェン様はそういうの好きなんですか?」
「好きでも嫌いでもない。ただの暇つぶしだからな」
「ふぅーん」
クルトの言葉にどこか棘があり、彼を見ればもぐもぐと食事をしている。
気のせいか?
「王子様とか出てくる物語、好きですか?」
「うん?」
クルトの言葉に顔を上げれば、なぜかじっとオレを見つめている。しかしその瞳にぞわりとしたものが背中を駆け抜けた。
なんだ?
視線をそらしたいのにそらせない。
はくはくと口だけを動かすオレに、クルトはにこりと笑うとデザートに手を伸ばす。
「まぁ実際の王子さまはクズですけどね」
「おい!」
「なんですか。本当のことでしょう?」
ふん、と鼻を鳴らし、デザートを食うクルトに焦る。オレはどうなってもいいが、こいつだけは守らねばならない。
というかこいつ本当にオレよりも年上なのか?
「言葉には気を付けろ!」
バン!と本をテーブルに叩きつければ、しん、と食堂が静かになる。
「……………。分かってますよ」
「次やったら侍従を変えるからな。いいな?」
「はい」
オレの睨みにもにこにことするだけのクルトに、ため息を吐くと「こちらの席、よろしいかしら?」と声をかけられた。それに思わず振り向けば、そこには王子様の婚約者様がいらっしゃった。
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