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二度目の人生とか面倒くさい
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オレこと水柿玲於はなぜこんなことになっているのか。
それは魔が差した、の一言に尽きる。
ホームゲートのない駅で、それなりに人混みにもまれているときふと意識がそちらに向いた。
通り過ぎる電車。通過列車がオレの前を走っていき、風が身体を打つ。
そして列車が駅に滑り込むアナウンスが聞こえた。それに合わせ、ふらふらと導かれるように黄色い線へと近寄り…。
その時だった。
どんと後ろから押されたのと、オレがホームから足を落としたのは。
その後の記憶はないけど、だぶんめちゃくちゃ人に迷惑をかけたと思う。
駅員、警察、消防。それに。電車を使っている人全員。
その時にはもう何も感じられなかったけど「ああ、疲れた」と感じられたのはきっとすでにあそこにいたからだろう。
死んだと思ったけど、意識が浮上し瞼が持ち上がってしまった。そう。持ち上がってしまったのだ。
幽霊になったのかと思い、ふわふわとした柔らかなものに手をついて上半身を持ち上げれば、そこにはうろうろとしている人。
なんだ?と眉を寄せ、しばらく様子を見ていたらその人がオレに気付き「あ」と声を出した。
「やーやー! 悪かったね!」
「はぁ…」
ばしばしとオレの背中を叩きにこにことしているその人。男か女かさえ分からないが、異様に顔が整っていて怖い。顔が整いすぎても怖いのだと、この時知った。
そんな顔がいいやつが、にこにこと微笑む。
「いやー。君にぶつかった人の運命と君の運命がその時入れ替わっちゃってさー。めんごめんご」
「はぁ…」
てへ☆と誠意をこれっぽちも感じない謝罪にますます眉を寄せれば「あー。ごめんてー」とからから笑う。笑うところか?
「まぁいいや。君、気にしてないみたいだし」
「気にしてるかと言われれば特に気にしてませんね」
「あーよかったー! これで「お前のせいで死んだんだろうが!」って言われたらどうしようかと思ってさー。あ、お茶飲む?」
「お茶は…いりませんし、そもそも死んでよかったと思ってますけどね」
「粗茶ですが」と湯呑を渡されけど、どうしろと。というか何もないところで湯呑が浮いてるんだけど?
「そうそう。それでさ」
ずずっとお茶を飲んでいたその人がオレを真っすぐ見つめる。七色に輝く不思議な瞳がオレを映すとさっと視線を逸らす。恥ずかしいからじゃないぞ。
怖いんだ。何もかも見透かされてるようでな。
「うん。お詫びと言っちゃぁなんだけど、人生やり直す気はない?」
「ないですね」
提案されたそれをきっぱりと断れば「わお!」と驚くその人。
「そっか、そっか。人生やり直したいっていわれたら、なんでも用意する予定だったんだけどね」
「いえ、お構いなく。というかオレは死んでるんですよね?」
「うん」
「ならよかった」
中途半端に生きてもしょうがないし。というか、電車に轢かれて身体が無事とは到底思えない。最悪四肢欠損で生きていくことになるのだから、すぱっと死んだ方がましだろう。処理してくれた人には感謝しかない。
「それでさ。君はどうしたい?」
「どう、と言われても?」
「そうだね。さっきも言った通り、気が変わって人生をやり直したいなら準備はする」
「いえいえ。できればこのまま消滅したいんですよね」
「消滅?」
「はい。輪廻の輪に加わることなく、魂を消していただければ」
「ふむ」
オレはきっと何かの間違いで人に生まれ変わっただけなのだろうし。だからここで消滅すれば悔いはない。
「面白いね」
「どうも?」
「うんうん。君になら任せられるかも」
「はい?」
よしよし、と一人頷きながらオレの肩をバンバンと叩く。痛い。
「本来なら違う奴に頼もうと思ったんだけどさ。あんたならうまくやってくれそうだから」
「…生を受ける、という話ならお断りします」
「そう言わないでよー。今人気の悪役よ? 結構予約が埋まっちゃってる悪役よ?」
「いえ、ですから」
「うまくいけば処刑されるんだよ?」
「うん?」
それはどういう?とその人を見れば、にやにやとしている。面白がってんな。
「結構です」
「うん。無理を言ってる。だから報酬は処刑でどう?」
「処刑まで生きていなければならないんでしょう? 嫌ですよ」
ずず、とお茶を飲めばちょうどいい温さでほっと息を吐く。あ。うまい。
「だから。何をやってもいい」
「は?」
「君は消滅したい。なら、何をしてもいいんだろう?」
「…いわゆる無敵の人になれ、ということですか?」
「無敵の人。なかなかおもしろいことをいうね! まぁそんな感じ。うまくやってくれれば処刑は免れないだろうし、無事処刑までいったら君の望む通り魂の消滅をしよう」
「断れば?」
「独断で勝手に人生をやり直しさせる」
そう言ってニコッと笑うそいつ。…選択肢があってないようなもんじゃないか。
「つまりはどうしてもそこでやり直しをさせたい、ということか?」
「そうでーす! 運命の入れ替えなんてイレギュラーを起こしたお詫びだね。君の願いを叶える代わりに僕のお願いを聞いてもらいたい」
「……………」
いい案でしょ?と笑うそいつに、オレはため息を一つ吐く。
だが処刑されればオレの魂は消滅するらしいし、いいのでは? いや。ちょっと待て。
「確認するが“何を”してもいいんだな?」
「いいよー!」
「ふむ」
ならばうっかり死んでしまってもいい、ということか。
「そこで死んだらオレの魂はどうなるんですか?」
「うーん…。処刑なら消滅は約束する。それ以外なら…どうするかなぁ…」
「なら消滅…ではなく輪廻から外すことはできませんか?」
「人が嫌ならそうするよ?」
「ならそれで」
「よしよし! じゃあ人生をやり直す、ってことでおーけー?」
「ああ」
オレがこくりと頷くとそいつも笑いながら頷いた。
よし! これでうっかり死んでも人にはならずに済む! ならさっさと死んでしまえばいい!
そう思いながらお茶を飲めば、意識がすとんと落ちる。
「じゃあいってらっしゃーい! うまくいけば処刑、だからね! 頑張ってねー!」
そいつのその声を聴いた後、気付けばこの世界に生れ落ちていたのだった。
「…なんか嫌な予感がするからちょっとだけ保険かけておこうかなー? あ。もしもしー? ちょっと伝えたいことがあるんだけどさー」
それは魔が差した、の一言に尽きる。
ホームゲートのない駅で、それなりに人混みにもまれているときふと意識がそちらに向いた。
通り過ぎる電車。通過列車がオレの前を走っていき、風が身体を打つ。
そして列車が駅に滑り込むアナウンスが聞こえた。それに合わせ、ふらふらと導かれるように黄色い線へと近寄り…。
その時だった。
どんと後ろから押されたのと、オレがホームから足を落としたのは。
その後の記憶はないけど、だぶんめちゃくちゃ人に迷惑をかけたと思う。
駅員、警察、消防。それに。電車を使っている人全員。
その時にはもう何も感じられなかったけど「ああ、疲れた」と感じられたのはきっとすでにあそこにいたからだろう。
死んだと思ったけど、意識が浮上し瞼が持ち上がってしまった。そう。持ち上がってしまったのだ。
幽霊になったのかと思い、ふわふわとした柔らかなものに手をついて上半身を持ち上げれば、そこにはうろうろとしている人。
なんだ?と眉を寄せ、しばらく様子を見ていたらその人がオレに気付き「あ」と声を出した。
「やーやー! 悪かったね!」
「はぁ…」
ばしばしとオレの背中を叩きにこにことしているその人。男か女かさえ分からないが、異様に顔が整っていて怖い。顔が整いすぎても怖いのだと、この時知った。
そんな顔がいいやつが、にこにこと微笑む。
「いやー。君にぶつかった人の運命と君の運命がその時入れ替わっちゃってさー。めんごめんご」
「はぁ…」
てへ☆と誠意をこれっぽちも感じない謝罪にますます眉を寄せれば「あー。ごめんてー」とからから笑う。笑うところか?
「まぁいいや。君、気にしてないみたいだし」
「気にしてるかと言われれば特に気にしてませんね」
「あーよかったー! これで「お前のせいで死んだんだろうが!」って言われたらどうしようかと思ってさー。あ、お茶飲む?」
「お茶は…いりませんし、そもそも死んでよかったと思ってますけどね」
「粗茶ですが」と湯呑を渡されけど、どうしろと。というか何もないところで湯呑が浮いてるんだけど?
「そうそう。それでさ」
ずずっとお茶を飲んでいたその人がオレを真っすぐ見つめる。七色に輝く不思議な瞳がオレを映すとさっと視線を逸らす。恥ずかしいからじゃないぞ。
怖いんだ。何もかも見透かされてるようでな。
「うん。お詫びと言っちゃぁなんだけど、人生やり直す気はない?」
「ないですね」
提案されたそれをきっぱりと断れば「わお!」と驚くその人。
「そっか、そっか。人生やり直したいっていわれたら、なんでも用意する予定だったんだけどね」
「いえ、お構いなく。というかオレは死んでるんですよね?」
「うん」
「ならよかった」
中途半端に生きてもしょうがないし。というか、電車に轢かれて身体が無事とは到底思えない。最悪四肢欠損で生きていくことになるのだから、すぱっと死んだ方がましだろう。処理してくれた人には感謝しかない。
「それでさ。君はどうしたい?」
「どう、と言われても?」
「そうだね。さっきも言った通り、気が変わって人生をやり直したいなら準備はする」
「いえいえ。できればこのまま消滅したいんですよね」
「消滅?」
「はい。輪廻の輪に加わることなく、魂を消していただければ」
「ふむ」
オレはきっと何かの間違いで人に生まれ変わっただけなのだろうし。だからここで消滅すれば悔いはない。
「面白いね」
「どうも?」
「うんうん。君になら任せられるかも」
「はい?」
よしよし、と一人頷きながらオレの肩をバンバンと叩く。痛い。
「本来なら違う奴に頼もうと思ったんだけどさ。あんたならうまくやってくれそうだから」
「…生を受ける、という話ならお断りします」
「そう言わないでよー。今人気の悪役よ? 結構予約が埋まっちゃってる悪役よ?」
「いえ、ですから」
「うまくいけば処刑されるんだよ?」
「うん?」
それはどういう?とその人を見れば、にやにやとしている。面白がってんな。
「結構です」
「うん。無理を言ってる。だから報酬は処刑でどう?」
「処刑まで生きていなければならないんでしょう? 嫌ですよ」
ずず、とお茶を飲めばちょうどいい温さでほっと息を吐く。あ。うまい。
「だから。何をやってもいい」
「は?」
「君は消滅したい。なら、何をしてもいいんだろう?」
「…いわゆる無敵の人になれ、ということですか?」
「無敵の人。なかなかおもしろいことをいうね! まぁそんな感じ。うまくやってくれれば処刑は免れないだろうし、無事処刑までいったら君の望む通り魂の消滅をしよう」
「断れば?」
「独断で勝手に人生をやり直しさせる」
そう言ってニコッと笑うそいつ。…選択肢があってないようなもんじゃないか。
「つまりはどうしてもそこでやり直しをさせたい、ということか?」
「そうでーす! 運命の入れ替えなんてイレギュラーを起こしたお詫びだね。君の願いを叶える代わりに僕のお願いを聞いてもらいたい」
「……………」
いい案でしょ?と笑うそいつに、オレはため息を一つ吐く。
だが処刑されればオレの魂は消滅するらしいし、いいのでは? いや。ちょっと待て。
「確認するが“何を”してもいいんだな?」
「いいよー!」
「ふむ」
ならばうっかり死んでしまってもいい、ということか。
「そこで死んだらオレの魂はどうなるんですか?」
「うーん…。処刑なら消滅は約束する。それ以外なら…どうするかなぁ…」
「なら消滅…ではなく輪廻から外すことはできませんか?」
「人が嫌ならそうするよ?」
「ならそれで」
「よしよし! じゃあ人生をやり直す、ってことでおーけー?」
「ああ」
オレがこくりと頷くとそいつも笑いながら頷いた。
よし! これでうっかり死んでも人にはならずに済む! ならさっさと死んでしまえばいい!
そう思いながらお茶を飲めば、意識がすとんと落ちる。
「じゃあいってらっしゃーい! うまくいけば処刑、だからね! 頑張ってねー!」
そいつのその声を聴いた後、気付けばこの世界に生れ落ちていたのだった。
「…なんか嫌な予感がするからちょっとだけ保険かけておこうかなー? あ。もしもしー? ちょっと伝えたいことがあるんだけどさー」
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