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お腐れ様たち、ついにアレを書きだす

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「オレ、この部屋の存在知らなかったんだが?」

そうクルトに言えば「当たり前でしょう」と呆れた口調で返される。

「スヴェン様にこんな部屋お教えしたら、自殺をされ放題じゃないですか」
「ああ」

なるほど。確かに。
ここは王族と公爵家以外は入れない、とヴェルディアナ嬢が言っていたからな。

「確かに。人目がないからヤりたい放題だ」
「でしょう?」
「ふぐっ!」
「え?」

何やら不穏な音がした方へと顔を向ければ、クルトの手がそれを阻む。

「なに…」
「まだ出ていますので」
「…分かった」

こそこそとそう話していると「しっかりしてください! アメリアさん!」というヴェルディアナ嬢の声が聞こえる。
さっきの音はスミス嬢だったか…。それにしてもお腐れ様は何でも脳内変換して楽しむ、と言われているが…。なるほど。
そんなことを一人考えていると、オレを隠すようにクルトが自然に移動する。

「スヴェン様、幻影それを解除してください」
「もしかして、幻影これが原因か?」
「分かりません。ですが、左目にずっと出ているので」
「…分かった」

彼女らがなにやらわいわいとしている間に、クルトに「シール」を解いてもらい、幻影を解く。
すると、左目の痛みが途端になくなって、ほっと息を吐く。

「失礼します」
「ん」

左目をまじまじと見つめるクルトの真剣な表情は貴重だ。なんせいつもふにゃふにゃしてるからな。
しかし…。改めて見ると、クルトってイケメンだよな。それをオレへのとんでもない愛情がすべてをダメにしているが。

「スヴェン様」
「んぁ?! な…なんだ?!」

急に話しかけられて、びくっと肩を跳ねさせると眉を寄せたクルトの顔に首を傾げる。

「今までで一番濃く出ています」
「ぅえ…そんなにか?」
「はい。しばらく左目は隠しておいた方がよろしいかと」
「とはいっても眼帯なんか持ってねぇし…」
「ががががががが眼帯?!」

いきなりぶっ壊れたクルトにぽかんとすれば「まままままま待ってください?! 眼帯?! スヴェン様が、眼帯?!」とめちゃくちゃ動揺している。
…こいつのぶっ壊れる言葉がいまいち…あ、いや。なんとなく分かったわ。

「ひょわ?! スヴェン様に眼帯?!」
「まままままままずいですよ! 私たち本当に萌え死にます…!」

うん。やっぱりオタクが大好きな小物に反応するんだな。
ひょわわわ!と興奮しているらしいシンプソン嬢とヒューワー嬢の声を聞きながら、小さくため息を吐く。

「どどどどどどうしましょう! ローザしゃま!」
「皆さま、落ち着いて。スヴェン様に眼帯などそれはそれはすばらしいビジュアルになりますが、これも耐えねばなりません」

ヴェルディアナ嬢?! なんかだんだんとお腐れ様のレベルが上がりつつありますね?!
なんてアホなことをしていると、左目に何かが当たる。

「屋敷に帰る時までに消えているといいのですが…」

そう言いながら左目に革製の眼帯を付けるクルト。そんなもん眼帯いつの間に用意したんだ…?

シールの魔法を少し強くかけてあるので、取らないでくださいね?」
「分かった」

こくんと頷くと、わしわしと頭を撫でられた。
あれ? ものすごい兄感があるな?!

「そういう訳ですので」

くるっとオレに背を向けてそう告げるクルトの陰からひょこっと顔を出せば、聖母のごとくヴェルディアナ嬢がご令嬢たちを介抱していて。
…何があったかなんてわかってしまうのがなんだか悔しい。

「せっかくの昼食なのに…申し訳ございません」
「あら、スヴェン様! 眼帯のお姿でも素敵ですわね」
「…どうも」

そんなことよりご令嬢たちが全員、床に転がっているのですが…?
ちらりとご令嬢たちを見れば「皆さま、スヴェン様が眼帯を付けられましたわよ?」というヴェルディアナ嬢の一言で復活する。
なんかゾンビみたいだ…。

「ふおおお! スヴェン様、美しいです!」
「ああ…神はなんて方を生み出されたのでしょう…」
「わたくしたちの妄想ではないのですね」

それぞれに感想?を貰って苦笑いを浮かべれば「クルト様」と給仕の一人がクルトに声をかける。

「準備が終わりました」
「ありがとう。君たちは下がってくれ」
「かしこまりました」

クルトに頭を下げて出ていく給仕たちをオレも視線だけで見送ってから、テーブルの上を見る。

「あ、そう言えば食事」
「少し冷めてしまっておりますが、十分食べられますよ。食堂の事件で午後の授業が1時間潰れたそうですから」
「…悪いことしたな」
「いえいえ。私たちは授業がなくなってラッキーですから」

むふん、と鼻息を吐くスミス嬢に、シンプソン嬢もヒューワー嬢もこくこくと頷き同調している。
いつの間に完全復活を…?!

「では改めていただきましょうか」
「そうですね」

慣れない眼帯が気になって触れば、その度に「ダメですよ」と少し強い口調でクルトに言われる。
だって気になるし…。
つんつんとそれを触り続ければ「スヴェン様」という言葉の後に、唇を塞がれた。もちろん食事のためにキスをしたわけじゃない。

「ん、んむ…!」

口腔内を舐めまわされ、舌を絡める深いキス。オレも腕を首に回して何度も離れては触れる。舌を差し入れ、絡め口の周りを唾液で汚せば頭がぼーっとする。
酸欠だ。
大人しくなったオレに満足したのか、クルトが頭を撫でる。
そんなオレたちの様子を見ていたご令嬢達が静かに涙を流し、床に倒れていることにも気付かなかった。


■■■


「ううう…それでは私たちはこれで失礼します…」
「お勉強、頑張ってくださいね」
「とてもいいものを見させていただいたので、頑張れます!」

波乱の食事を終え、うとうととしだしたスヴェン様をソファに横たわらせれば、すぐに寝息を立て始めた。
そんなスヴェン様の頭を膝に乗せ、頭を撫でる。
可愛い…。ものすごく可愛い。
眼帯が邪魔そうだけど我慢してくださいね。
スミス嬢、シンプソン嬢、ヒューワー嬢が授業のために、ここから出て行った一分後、給仕が入ってきて食事の片付けと俺たちの紅茶とクッキーやケーキを置いていく。
お三方は授業だが、ヴェルディアナは王妃教育もあるから、授業は自由。
そして給仕を見たヴェルディアナがぽつりと呟く。

「影…ですか」
「ああ。ここの給仕のほとんどは影だな」
「あら。クルト様、猫を被るのはやめましたの?」
「問題ないだろ?」
「…スヴェン様、起きてくださいませ。クルト様の化けの皮が剥がれましてよ?」
「やめろ」

すいよすいよと気持ちよさそうに眠るスヴェン様を起こすんじゃない。
と、いうかこれ腹上死チャレンジの影響だよな…。一昨日、丸一日セックスしてたし。

「クリストフェル殿下。お顔がだらしないですわよ?」
「おっと」

カップを手にして、じとりと睨むヴェルディアナに、わざと肩を竦めると「はぁ」と大きなため息が聞こえた。

「ところで…何かわたくしに用があるのでは?」
「そうだな。隠したものを出してもらえば問題ない」
「…何のことでしょうか」
「とぼけるな。スヴェン様がテーブルに近付いた時に隠しただろう?」
「……………」

今までの和んでいた空気が一気に緊張感に包まれる。
俺とヴェルディアナが睨み合っていると「ん…ぅ」と鼻にかかった声が聞こえて、二人同時にその声の主を見る。

「んにゃ…ぁ…」
「にゃああああ!」
「あああああああ。スヴェン様可愛すぎませんか…ッ!」

先ほどまでのピリピリとした空気が一変し、花が溢れる。

「なんですか?! なんですか?! この可愛らしい生き物は!」
「もー! ホントにスヴェン様はーッ!」

ばしばしとヴェルディアナが俺の腕を叩いているが関係ねぇ! だって俺は、目元に手を乗せて天を仰いでいるのだから。
天使が…天使がここにいる…!

「本当に…本当にスヴェン様は可愛らしい…!」
「当たり前でしょう! スヴェン様はこの世界の可愛いを集めたお方ですよ!」

二人して顔を覆って、ぶんぶんと頭を振る。
仕方ないじゃないか! スヴェン様が可愛すぎるんだから!

「ああああ! このスヴェン様はわたくしたちの妄想ではありませんのよね?!」
「現実だ! お口もむにゅむにゅして…可愛い…ッ!」

もにゅもにゅとお口を動かしてから、すやぁと眠るスヴェン様に俺たちはただただ可愛いとしか口にしていない。
スヴェン様! 一生ついていきますから!

「アメリアとサラ、サマンサがいたら鼻血を吹き出していそうですわ…!」
「どうにかしてこのスヴェン様を絵画にできないだろうか…!」

しゅばっと給仕を見れば「無理です、無理です」と頭と手を勢いよく左右に振っている。くそ! 影ともあろう者が…!

「どうしましょう…。わたくしの書いたものが現実になるなんて…!」
「うん?」

わああああ!と泣きそうになっているヴェルディアナの言葉に引っかかりを感じ「書いたもの?」と口にすれば、ハッとした彼女が口を押える。

「どういう意味だ?」
「くっ! うっかりと口を滑らせてしまいましたわ…!」

ぐっとこぶしを握り、悔しそうにしているヴェルディアナが肩を落とすと、頭を下げた。

「クリストフェル殿下。こちらですわ」
「ノート?」

すっとどこからか出てきたものを受け取ると、ぱらぱらとめくる。

「これは…!」

そしてその書かれたものを読んで、俺は驚愕した。
なんせ。

「わたくしたちが書きましたの。スヴェン様とクルト様の妄想小説を…」
「へぇ?」

公爵令嬢と育てられた故か、俺の目をまっすぐ見てそう告げるヴェルディアナ。

「わたくし達、ということはあのご令嬢たちも書いているんだな?」
「はい。わたくしとサラ、サマンサが小説を、アメリアが絵画を…」
「絵画?」
「…はい。こちらですわ」

すっともう一冊どこからかノートを取り出し、渡してきた。小説が書かれたノートを横に置き、絵画が描かれたノートを手にする。
そして、ぱらぱらと中身を見ると、口元が持ち上がっていく。

「これはいい」
「…罰はなし、ということでよろしいのですか?」
「ああ。むしろよくやった」
「はい?」

ノート二冊を手にして、ヴェルディアナを見る。

「これを出版しようじゃないか」
「しゅっ?!」
「ああ。ただし、俺の名前とスヴェン様の名前は変えてもらうが」
「で、ですが…!」

まぁ焦るのも無理はない。この国の筆頭公爵の令嬢が書いたものだ。それだけなら問題はないが、問題は内容だ。

「男同士のラブロマンス。性描写マシマシだもんな」
「…………っ!」

だからと言ってそれを咎める法律はない。

「安心しろ。作者は違う名前にするし、何なら架空の人物をこちらが作ってもいい」
「…そこまでこだわるのはなぜでしょうか」
「俺の計画が一気に運ぶから」
「…計画、ですか?」
「ああ。ヴェルディアナにも悪い話じゃない」
「…と申されますと?」

スヴェン様を見ていた蕩けるような表情はなりを潜め『公爵令嬢』の顔をしている。
それに口元を持ち上げると、口を開く。

「ヴェルディアナ、君との婚約解消が決定的になる」

にぃと笑うと、ヴェルディアナの瞳が大きく見開いた。


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