悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います

マンゴー山田

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フーディ村編

そうと決まれば準備だ!

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※前半はレイジス視点、後半はメトル視点となります。



あれから夕飯もみんなで食べて(お夕飯はビーフシチューでデザートは侍女さん達が最近ハマっているらしいぷるんぷるんのプリンだったからプリンアラモードにしてもらった)少し寂しいけどばいばいをして部屋に一人。
まぁ侍女さんたちがいるから寂しくはないんだけどね。

「ねぇねぇジョセフィーヌ」
「いかがされましたか? レイジス様」

ジョセフィーヌにそう問いかければ、にこりと笑みを返される。本当にジョセフィーヌも変わったなぁ…。転生して初めて見た時のジョセフィーヌの表情は険しくて怖かったし。今はほわんほわんしてる。なんていうか…こう、叔母さんみたいな感じ? 年齢的に…おっと女性に年齢の話は禁物だ。危ない危ない。

「あ、そうそう。出かけるために必要な物ってなんだろう?」

あっちの世界なら日数分の着替えだけを持って新幹線や飛行機、電車に飛び乗って目的地までその日のうちに行けたけど、この世界は違うんだろうな。なんせ港から生魚が届かないんだし。

「レイジス様のお荷物は私たちがご用意いたしますよ」
「えー。それだとわくわく感がなくなっちゃうー」

旅行の楽しみって準備段階からあると僕は思ってる。天気によって温度も変わるしどこに行くかでも服装って変わるからあれこれと考えながら一日一日を過ごすのがすごく好きだ。
だから小学校の修学旅行の時、親に全部準備されてましたって感じはあんまり好きじゃない。けど今まで私服らしい私服って着たことないな。部屋でも授業があるから一応謎制服は着てるわけだし。
なんで部屋でも制服なのかって?
今まで一度も袖を通してなかったからさ。もったいないじゃん。だから授業がある日は制服着用。
なんかさ、僕が制服着てると侍女さん達…ジョセフィーヌがものすごく感動してるんだよ。まぁ…今まで一度も制服着てなかったからだと思うんだけど。

「そう言えば海に行く時、服はどうするんだろう?」
「お洋服なら恐らくはフリードリヒ殿下がご用意されているかと」
「え?」

なんで? 服くらい選ばせてくれたっていいじゃないー!

「…フリードリヒの趣味ってファンシー系なのかな?」
「レイジス様にお似合いになられるものをお選びになられているとは思いますが…」

フリードリヒって可愛い子には可愛い格好させろ!みたいな感じだよね。いや、でも耳付フードネグリジェは気持ちよくて好きだけど。ついでに今日の耳はライオン。ふさふさのたてがみは付いてないけど。そのうち尻尾付きのネグリジェ送られそうでヤダなー。

「レイジス様のぬいぐるみと同じような感覚だと思います」
「ああー…」

そう言われて妙に納得した。ぬいぐるみにリボンとブローチを付けて可愛くさせたいからお金が欲しい訳で。それと同じだと言われれば何も言えない。可愛い子には可愛くなってほしいからね。
そうすると僕はフリードリヒが可愛くさせたいって対象になるのか。あれか? 弟みたいな感じなのかな?
家族愛というか…。うん。婚約者とはいっても友達の延長みたいな感じだしね。今の僕たち。婚約者だからイチャイチャしなきゃいけない、なんて決まりはないんだろうけど。
この世界の結婚とかって政略結婚とかが多そうだし。自由恋愛で結婚はそれこそ平民しかできなさそうだもんなー。
お貴族様は大変だとつくづくそう思う。それがあるからいい暮らししてるんだろうけど。
と、なるとユアソーン家は結構な爵位を持ってるんだろうなー。なんせ王族と婚約できる立場なんだし。

「っと。そうだ。旅行の間、ジョセフィーヌ達はどうするの?」
「ここでレイジス様をお待ちします」
「えー。せっかくなんだしお休みにしちゃえばいいのに」

僕がいないのにここにいても仕方ないじゃん。だったら、いっそのこと全員をお休みにして好きなことしてもらいたい。お仕事は素晴らしいけどお休みがないとやっていけないし。
それに。

「身も心もリフレッシュした方がお仕事頑張れるし」
「レイジス様…」
「だからさ、僕が帰ってくる数日前までみんなお休み。ダメ?」

働きすぎもよくないぞ、とホワイト企業っぽくしてみたけどどうなんだろう。

「いえ…。いえ。ありがたいお言葉」
「ならよかった。何日いないかは分んないけどね」

まだ行くと決まっただけで日にちも何も決まっていない。けどさ。早めに決めとかないと困惑するじゃない? いきなり予定が空きました。じゃ何したらいいのか分んなくなるかもだし。…僕がそうだったからとかじゃないぞ。決して。

「そのことは決まってからでも大丈夫でございますよ」
「そっか。じゃあ、この話しを皆にしとかないとね」

侍女さん達は多くて6人くらい。シフトか何かで決まってるみたいだけど、ジョセフィーヌは毎日いるからね。少しでも羽を伸ばしてくれたらいいな。

「レイジス様。そろそろお休みになられてください」
「はーい」

こうやってしゃべってると時間があっという間にきちゃうのも楽しい。さて、寝ようかな!
…そういえば旅行に行くとなるとぬいぐるみたちともしばらく会えなくなるのか。一人で寝れるかな?



「海へ行くのは来月の頭。ハルへ会いに行くのは明後日でよろしいですか?」

まるで秘書のようにスケジュールを読みあげてくれるのはノア。いつも側にいてすっかりと忘れてるんだけど、ノアは将来宰相さんになるんだっけ。

「ハルにもう連絡取れたんですか?」
「おうよ。ハルの村は俺たちの間でも結構有名でな。レイジスの名前を出したらすぐに会ってくれるとよ」
「わあ!」

変な所で僕の名前が役に立った!

「レイジスに色々と聞きたいそうだ。会いに行くときは『たれ』を作った侍女たちを連れていくといい」
「あ、気に入ってくれたんだー」

うな丼ならぬアンギーユ丼。美味しく食べてくれるか不安だったけどよかったー。もういっそのことアンギーユ専門店を出しちゃえばいいのに、と思ったけどアンギーユさんの毒が問題だよな…。
クズ石に光の浄化魔法入れて光の魔石とか作れないかなー?

「レイジス様。また変な事考えてますね」
「考えてないよ。ただ、光の浄化魔法を魔石に出来ないかなって思ってるだけだよ」
「十分変な事ですよ。それ」

やれやれと呆れるリーシャと、苦笑いを浮かべているソルゾ先生。えー、だって魔石って魔法を溜めることができるんでしょ? なら普通の浄化魔法も魔石に溜めれば握っただけで浄化できそうじゃん。石鹸みたいに。

「あのですね。光魔法を魔石にするなんて誰もできない事なんですよ!」
「そんなのやってみなきゃわかんないじゃん!」

やりもしないのにできないって初めから決めつけて行動を縛るのはよくないと思う。可能性があるのならやってみたい。できる能力を持っているのなら尚更。

「落ち着け。二人とも」

ヒートアップしそうなリーシャとの会話にするりと入り込んできたのはフリードリヒの静かな声だった。
そこではっとすると「申し訳ございません」とリーシャが引く。それから僕も「すみません」と謝る。

落ち着け、と言わんばかりにお茶のお代わりを出される。リーシャと一緒にカップを傾けて心を落ち着かせる。
温かな液体が胃に到達するのを感じると、ほうと息を吐く。

「珍しいな。リーシャがそこまで言うのは」
「―……っ」
「一度、レイジス様と同じように光魔法を魔石にしようとした方がいたのですよ」

フリードリヒの言葉にリーシャが息を飲むと代わりにソルゾ先生が口を開く。

「その方は結局魔法が暴走してお亡くなりになられました」
「え?」
「光魔法と闇魔法は扱いが非常に難しい魔法です。ですから訓練が必要なのですよ。レイジス様」

だからリーシャはああ言ったのか。そっか。知らなかったとはいえ酷いこと言っちゃったな。
カチャリとソーサーにカップを置いて、リーシャを見れば唇を噛んでいた。

「ごめん。リーシャ」
「…いえ。そのことは魔導士の間でしか知られてませんから」
「でも…ごめんなさい」

きっとリーシャは魔法が暴走して、僕がその人と同じ末路を辿るんじゃないかって心配してくれたんだよね。
いつも勝気なリーシャが目に見えて沈んでる。ごめん。本当にごめん。

「我々の間では、ですからね。レイジス様が知らなかったのは当然です」
「私も初めて聞いたぞ、そんなこと」
「だから光魔法や闇魔法の魔石は殆どないんですね」

なるほど、と頷くフリードリヒとアルシュ。この二人は騎士科だっけ? けどフリードリヒも知らなかったというのは意外だった。

「光魔法と闇魔法は悪用されると最悪な結果を生みますからね。光と闇、単体の魔石は禁止されているんですよ」
「なるほど」

ソルゾ先生の解説に、僕を含めた5人が頷く。そういえばハーミット先生も魔法は苦手だっていってたもんね。ノアもどっちかと言えば騎士科に近いんだっけ?
なんか微妙な空気になっちゃったけど明後日はハルのところに行くんだよね?

「ああ、そうだ。リーシャ」
「はい」
「お前の考えでいい。光の浄化魔法の魔石化は可能か?」
「殿下!」

フリードリヒの言葉にソルゾ先生が慌てる。そうだよ。さっき先生が試した人が亡くなったっていってたじゃないか!
だけどそんな僕たちを他所に、フリードリヒはじっとリーシャを見つめる。

「なら質問をソルゾに向けようか。お前はどう思う?」
「…………っ!」

水を向けられたソルゾ先生がぐぅっと言葉を詰まらせる。あれ? 意外な反応だ。てっきり「できません」ってはっきり言うかと思ってたのに。

「リーシャ」
「…っ、はい」
「お前の考えでいい。可能か?」

その声からは圧がかかっているようで、リーシャが小さく震えている。ちょ、ちょっとフリードリヒさん? 怖がらせちゃいけないと思うんですよ。

「僕、の考えでは不可能ではない、と思います」
「え?」
「ソルゾは?」
「…リーシャ君と同じです。不可能ではありません」
「ふむ」

そこでようやく圧を解いたのかリーシャがぶはっと息を吐いている。大丈夫? リーシャ。先生も顔色が少し悪い。ちょっとやり過ぎじゃないの?

「フリードリヒ殿下」
「どうした? レイジス」

僕に呼ばれてにこりと笑ってはいるけど僕は怒ってるんですよ。

「なんで圧をかけたんですか」
「? 圧をかけたつもりはないが?」

けろりとそう言うフリードリヒは本当に無意識に圧をかけたようでアルシュも眉を寄せている。分かってたのなら言ってよーって思ったけど言葉には出せないか…。
よくポカをするけど僕もこんな感じなんだろうな。気を付けよう。

「いえ。無意識なら何も言いません」
「ああ。レイジスのことになるとつい、な。すまない。リーシャ、ソルゾ」

言葉だけの謝罪だけど、リーシャもソルゾ先生も「いえ」と告げるだけ。まぁ…そうなるか。というかフリードリヒの手綱って僕が握ってる感じ?
ちらりとアルシュを見れば「お願いします」と託されるように頷かれる。
なんかゲーム紹介とは全然違うんだけどどうなっているんだろう。本当にゲーム通りに進んでるの?
ちょっとした不安が胸をよぎったけど「レイジス?」とフリードリヒに声をかけられハッとする。

「あ、すみません。大丈夫です」
「そうか。体調が悪くなったら言ってくれ」
「はい。ありがとうございます」

にこりと笑うフリードリヒの笑顔がなぜか怖くて、へらりと笑う。
さっきのはきっと圧を受けたからだと言い聞かせながらカップを持ち上げる手の震えに気付かない振りをした。

「そう言えば殿下。海へ行くのに馬車で行くのはいいとしてどこで借りられますか?」
「そうだな。王族とはいえまだ学生の身。それにできれば内密に海に行きたい」

ハーミット先生の言葉にほっとしたのは僕だけじゃないはず。リーシャもソルゾ先生もあからさまにほっとしている。うん。怖かった。

「でしたら学園の馬車を借りるというのは?」
「ああ。それはいい! ほとんど使われてないくせに一丁前に代金を取ってますからね」

アルシュの提案にハーミット先生が、がははと豪快に笑う。ハーミット先生がいてくれてよかったと心から思っていると、こそっとノアに「大丈夫ですか?」と耳打ちされた。それに「うん、大丈夫。ありがとう」と笑えば「それはよかった」とノアも笑う。
それよりリーシャは大丈夫なのかな?と視線を向ければ、すでにいつも通り。すごいな…。

「我々はこういったことには慣れておりますから」
「ええー…」

慣れちゃダメなんじゃないのー?と困惑していると「ですが」と言葉を繋ぐ。

「先程はありがとうございました」
「うん? 何が?」
「殿下を叱ろうとしていただいたことです」
「あれはなかったからね。けどうやむやになっちゃったから」
「いえ。レイジス様が声をかけてくださったから、あれだけで済んだのです」
「え?」
「そこ! こそこそ話さない!」

こそこそと話していたのがフリードリヒにばれてびしりと指を指される。それに慌てて「す、すみません!」と謝ると「私もレイジス様と話したかったのですが」と残念そうに肩を竦めてわざとらしく首を左右に振るノア。
それが妙におかしくてくすりと笑えば「失礼しますね」とノアも笑いながら離れていった。ノアのおかげで怖さが無くなった! すごいよ、ノア! ありがとう!

けど「あれだけで済んだ」って言葉が不穏すぎるんだけど…。まぁ僕もヘタレなりに役に立てたのならよかったよ。
ほわんほわんとした空気に変えてくれたハーミット先生とノアには感謝しかないね。あとでアルシュにもお礼を言っておこうっと。


■■■


「待て、待て待て待て!」

今聞いたことが本当のことならば初めからこの世界はゲームではなくゲームを模した全く別の世界だということになる。
生まれたばかりのこの世界はすでに『強制力』から解放されていると目の前の男は言った。それにあわせて分かっていたことだが、全てがデータではなく『生きた人間』だということも。

混乱で思わず目元を手で覆い隠し一度視界を遮断する。
言われた意味が分からない。異世界ものではよくあることだが、まさかそんなことがリアルで起きているなどと誰が思うか。

それに。
するりと目元を覆っていた手を離し、目の前で静かに座り俺を見つめてくる男を見る。

「あんたの言うことを信じればレイジスは…!」
「ああ。あの子はちょっとした『事故』でそうなってしまったんだ」

知ってしまったレイジスの秘密。
ならばレイジスが「前世の記憶がないんだよね」と言っていた意味も分かる。
なんせ『全て上書き』されたのだから。
元データはあっても新たなパッチのせいでおかしくなったのならば再びパッチが当てられる。しかもそのパッチがレイジスにどう影響するのかは未知数。
それにはぁー…と深い深いため息を吐く。

そうだ。あの時レイジスは「この世界に来てから精神が幼くなってるような気がするんだよね」とも言っていた。
俺は転生者が元のキャラに引っ張られると考えていたが違った。
ならばなぜ前世の記憶を所々持っているんだ?

「質問はもういいかい?」
「…もう今日はいい。頭がこんがらがってる」

新たな情報でお腹いっぱいどころか食べすぎて苦しい。
まずは落ち着いて整理をすべきだ。

「ならまたここへ来るといい。メトル・オリバーン」

そう言ってにっこりと笑う男に何も言わずくるりと背を向けドアを目指す。
一人で抱え込むには大きすぎる『真実』に俺はどうしたらいいのか分からず、ドアを出るとそのままずるずると頭を抱えてしゃがみ込む。

「俺にどうしろってんだよ…」

その呟きは静かに宙を舞い、ゆっくりと床へと落ちていく。

レイジス本人でさえ知らない事実を知ってしまった。
知らなければよかったと心から思った俺は、酷く苦い『真実』を飲み込むまでただただ膝に顔を埋めていた。

レイジスが決して記憶が戻らぬと知ったらどうなるのか。

俺はただフリードリヒが決して彼の手を離さず握ってくれることだけを願っていた。


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