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フーディ村編
歯車は既に回っていた
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※前半フリードリヒ視点。後半ノア視点です。
「おはようございます。フリードリヒ殿下」
「……………。ああ」
ぼんやりとする頭で反射的にそう答えるとベッドの横にいたノアが読んでいた本をぱたりと閉じ、にこりと笑う。
……………ん? ノア?
いつもならばアルシュがいるはずだが…?
「アルシュなら今準備してますよ」
「珍しいな」
「大怪我と魔力不足でしたからね」
「なるほど」
くしゃりと前髪を掻きあげてからベッドから降りると「お食事はいかがされますか?」と背中から声がする。それに「…先にレイジスの様子を見てから決める」とだけ伝えて洗面所へ。
鏡に映る私の顔は少し疲れているようだが問題はない。というか今何時なんだ?
随分と日が高いような気がしたが…。まぁいい。とりあえず顔を洗って身体を起こすと歯を磨き完全に自身を覚醒させる。
久しぶりに魔力をギリギリまで使ったからか少々寝過ぎたようだ。
洗面所から顔を出せば、アルシュの準備が終わったのかノアと話していた。
「起きたか」
「おはようございます。フリードリヒ殿下」
「ああ。手の方はどうだ?」
「レイジス様の治癒魔法のおかげで問題はありません。少し違和感はありますがすぐに治ります」
「そうか。ならよかった」
アルシュにそう言ってから控えていた侍従が制服へと着替えさせる。レイジスの制服を上着だけでも女生徒用にしておいて正解だったな、とふと思う。それにどうやらうさぎが好きなのかうさぎ耳が付いたネグリジェをよく着ているようだし。
あの時アルシュ、ノア、リーシャに猛反対されたが己の意思を曲げなかった私はよくやった、と褒めてやりたい。それに、今は彼らもそれでいいと思っているようだ。
「殿下。ご注文していたものが朝届いたようですよ」
「そうか。もうできたのか」
「殿下が急がせるからですよ」
やれやれと肩を竦めるアルシュに苦笑いを浮かべる。着替え終わり侍従が一礼をして寝室から出ていくと、しばらくして大きな箱を二つ運んできた。
それはノアが言う通りの物だろう。ふかふかもこもこが好きなのか、ぬいぐるみと同じ素材で作ったネグリジェはレイジスのお気に入りのようだ。猫やくま、ライオンと言った耳が付いたものを好んで着るようで、今まで着せられていたシルクと言ったものを着ることはなくなったそうだ。ネグリジェと同じ素材で作ったドロワーズも疑問を持たずに穿いていると侍女に教えてもらった。
うむ。転んだ事を考慮して用意したがどうやら寝るときはそれがセットだと思っているようだ。可愛いな。
そして届いた箱の中身はうさぎ耳のネグリジェだ。一番初めに贈った白い生地のネグリジェはだいぶくたびれていたようだったから急いで作らせた。代わりに同じデザインの物を販売する許可を出した。どうやら一部の貴族から突っつかれていたようだ。
こちらのものを最優先するという条件で許可を出したがどうやら売れ行きは好調のようでなにより。なかでもやはりうさぎ耳が人気のようだ。当然だろう。レイジスが一番好きなものなのだから。
かぱ、と箱を開ければそこには注文していた栗毛と葦毛のネグリジェとドロワーズ。ドロワーズは今までと違い少しフリルが付いた可愛らしいものになっている。レイジスが着たのならもっと可愛くなるはずだ。
うんうん、と一人満足していると呆れた視線を送るアルシュとニコニコとしているノア。
コホン。
「リーシャは…」
「まだ寝ておりますね。ソルゾ先生も同じです」
「魔力を相当使ったようだしな。起きるまでそっとしておくか」
「それがよろしいでしょう」
ひょい、と箱をアルシュが持ち上げノアがドアを開ける。侍従が頭を下げ見送られながら部屋を出れば、見張りの兵の敬礼に頷くと少しだけ廊下を歩く。
ドアをノアがノックすればすぐに開き、侍女が頭を下げていた。
「お待ちしておりました。フリードリヒ殿下」
「ああ」
侍女頭の後を付いて寝室へ。アルシュが箱を置きノアが箱の中身を説明している。
「レイジスの様子はどうだ?」
「まだお休みなっておられます」
「そうか。顔を見ても?」
「勿論でございます」
にこりと笑う侍女頭に私も笑みで返すとアルシュが分厚いカーテンを持ち上げる。そろそろこのカーテンも変えてもいいかもしれないな。これから暑くなるからレースでもいい。色は…爽やかな水色、いや薄い緑でも…。
「殿下」
「ああ。悪い」
アルシュの呼びかけにハッとする。カーテンは今度侍女頭と相談してみるか。彼女ならレイジスの好みを知っていそうだからな。
持ち上げられた隙間からするりと身体を滑りこませると暗いベッドに羊のぬいぐるみを抱きしめてくうくうと静かに寝息を立てているレイジスについ笑みが浮かぶ。さらりと髪と頬を撫でても起きる気配はない。
熱もない。息苦しそうでもない。
それだけでほっとしてしまうのは幼いころのレイジスを重ねてしまっているからだろう。
ちゅっと額に「悪い夢を見ないように」と願いを込めてキスを落とすと「アルシュ」と小さな声で名を呼べばカーテンが開く。
「殿下」
「ふむ。今度は羊の耳のものでも作るか。ついでにもこもこのネグリジェを作るのもいいな」
「殿下!」
「ん? どうした?」
カーテンのことと羊耳のネグリジェで頭がいっぱいだったが、昨日の報告を聞かねばならない。ハーミットは来ていないのか?とノアに瞳で問えば「学園長に呼び出されていますね」とにっこりと綺麗な笑顔で告げる。
…となるとソルゾも起きたら学園長室行きか。どんな処罰が待っているかは分らないがあのレイジスを学園へと招待した学園長のことだ。とんでもないことを言い出しそうだな…。
「なら食堂へ行くか」
「フリードリヒ殿下」
「どうした?」
まずは食事でも、と思いレイジスと食事を共にし始めてからは行くこともなくなった食堂へ向かおうとしたがそんな私たちを侍女頭が呼び止めた。
「お食事のご準備をいたしますのでお待ちいただけますか」
「だがレイジスが…」
「このお部屋は元々殿下がお使いになられるはずのものです。それをレイジス様にお譲りいただいたとはいえ本来は殿下のお部屋。それに私達も殿下にお仕えする予定でございました」
真っ直ぐと私を見つめる侍女頭に小さな溜息を吐くと「分かった」と告げる。
レイジス付きの侍女たちは王宮から送られている者ばかり。ユアソーン家からは侍女頭のみだ。
「なら、リビングで待つ」
「かしこまりました」
綺麗な礼を見届けた後、私はいつも通りにリビングへ行くとソファへと腰かけた。
「お、こちらでしたか」
侍女たちが用意した食事を食べていると、ハーミットが姿を現した。昼を過ぎ夕飯には早い食事だがエッグマフィン、サラダ、スープが置かれ瞳を丸くしたが。
「随分と遅かったな」
「小言は少なかったんですがレイジスのあれやこれやを聞かれましてね」
「話したのか?」
あー…と唸りながら視線が左下に動く。話したのか。
「どのみち学園から王宮へと報告が行くはずだからな」
「…申し訳ございません」
「気にするな。それよりもお前も食っていけ」
「レイジス…様は?」
「ソルゾと同じだ。まだ休んでいる。今日中は起きないだろう」
はぐ、とエッグマフィンに齧り付き咀嚼する。ふむ。これもうまい。サラダに手を伸ばしたがドレッシングがかかっていないことに眉を寄せると、それに気付いた侍女頭が口を開いた。
「レイジス様もリーシャ様もお休みされておりますので…」
「ああ。マヨネーズは作れても光魔法が使える者がいないか」
「申し訳ございません」
「いい。気にするな」
オリーブオイルと塩をふられただけのサラダ。レイジスと食事をするまでは当たり前だったものが今は物足りない。ざくざくとレタスをフォークで刺し、口へと運ぶ。うむ。やはり物足りないな。
むぐむぐと口を動かしマフィンを一口。
スープを飲んでいる間にアルシュとハーミットが既に二皿目に手を付けている。早いな。
だがこれならレイジスはどれだけ食べられるだろうか。むっむっと頬をリスのように膨らませて幸せそうに頬張る姿は私の食欲も増幅させる。だが今、腹は空いているはずなのにあまり入りそうにない。
「殿下?」
「ああ。心配はない」
いつもよりも少ない量しか取らない私にアルシュが眉を寄せるが「気にするな」と告げる。
「それにしても…レイジス様とリーシャがいないと食事も物足りないものですね」
「そうだな。すっかりとレイジスに胃袋を掴まれてしまったな」
ハーミットの言葉に苦笑いを浮かべると空の皿を下げられ、代わりにカップを置かれそれを傾ける。
「それにしてもレイジス様は料理には失敗しませんね」
「ああ。あのレイジスが料理ができるとは思わなかった。ほとんど侍女たちが作ってくれたと言っていたが…」
ふむ、と顎に手を置いて考える。そう言われてみれば不思議だ。
そもそも貴族の令息が料理など侍女がまず許さないだろう。だが未知の物を作りだしたレイジスはいつの間にかキッチンにいることが珍しくなくなった。貴族でありながらキッチンに立つ姿は他の者が見たら「おかしい」と取るだろう。
それに侍女頭のジョセフィーヌもレイジスがキッチンにいる間、黙って見守っている。流石に刃物は持たせていないとは思うが、それでも危険がないとも言えない。
レイジスの仕事はあれやこれやと指示を出すことだけだろうが、それでも危険が全くないとも言えない。
そう。薬物が使用されないとも限らないのだから。
今はリーシャが光魔法で毒物や雑菌などを浄化させてしまうから問題はない。それでも入れさせないことが重要だ。
「それに食材のこともきちんと理解していますしね」
「……………」
ノアの一言にぴくりと指が跳ねた。フォルスから告げられたレイジスの先祖返り。フォルスは私とアルシュだけに教えてくれた。その時ハーミットもいたが追い出した。恐らくはシュルツがいたからだろうが…。
「フリードリヒ殿下」
「ああ」
リーシャとソルゾはもうレイジスが『普通の貴族』ではないことを知っている。
我々では考えつかない魔法の使い方、未知の食材、そして料理。これらを見ているノア、リーシャ、ソルゾ、ハーミットなら話してもいいだろう。
眠ってしまったレイジスの頬を撫でながらフォルスは「殿下が信用できる者ならば」と私にだけ聞こえるようにそう告げた。つまり。
「リーシャが起きたら話しておきたいことがある」
私のその一言にノアとハーミットが真剣な表情に変わると、こくりと頷いた。
レイジスの秘密。そして…。
私のことなどは後でいい。まずはレイジスのことを知ってもらわねば。
そしてリーシャとソルゾが起きてきた翌朝、レイジスの部屋に全員集まってもらう。ソルゾもまた学園長に呼び出されていたらしいが「用事が終わってからきてくださいね」と言われたらしい。
「用事」か。あの学園長は何かを知っているような気もするが、話す機会などほとんどないに等しい。
だがソルゾも呼び出されたとなると何れ私たちも呼び出される可能性が高い。なんせ生徒が学園の許可なしに戦闘をしたのだから。
「それで? あのちびっ子どうだったの?」
リーシャが朝食のクラブハウスサンドを二皿ぺろりと食べた後のお茶を飲んでいる。
リーシャが起きてきて部屋に着いてすぐにしたことはマヨネーズ作りだった。レイジスが毎日作っている通りにリーシャが材料を混ぜ、風魔法で瓶を振る。しかし出来上がったものはいつも見ているそれとは全く違う、どろどろとしたもので。「もう少し振ってみます?」というリーシャの言葉に頷き瓶を振ったが、やはり固まらず。
原因が何なのか分らず首をひねると、侍女たちも同じように首をひねった。
このようなことは初めてだという。
そんな失敗をものともせずにレイジス用のおやつを頬張っている。
レイジスがいつ起きてもいいように、とおやつが用意されているがそのおやつは我々が食べてもいい様に用意されている。そのおやつ…今日はイチゴのオムレットを食べながらそうノアとハーミットに問う。
レイジスが起きないうちに報告を聞かなければならない。
「ああ。親にも会った。俺たちを見たら顔色が変わったが」
「というと?」
「あの子供の親は確かに花を売っていました。ですがその親曰く…」
『俺は何もしていない! 子供にレイジス・ユアソーンにこの薔薇を売れと書かれた手紙があっただけだ!』と。
「前払いで金貨も入っていたそうです」
「ふむ」
ソファの背もたれに背中を預け顎に指をかける。
なぜその花売りは報酬だけを貰って薔薇を破棄せず、わざわざ子供に危険を冒させてまでレイジスに売りに来たのだろうか。
「毒が入っていた事は?」
「知らなかった様です。それを告げたら顔から色が抜け落ちましたからね」
「そこで子供に毒が付いた薔薇を持たせていたことを知ったのか」
一体誰がレイジスに毒付きの薔薇を送ったのか…。調査をするにしても花売りが知らないのならどうすることもできないな。
「それと」
「ん?」
「花売りはこうも言っていました。『突然薔薇が入った籠が現れた』とも」
「どういうことだ?」
ノアの報告に全員が眉を寄せる。ハーミットも肩を竦めて「意味が分からないでしょう?」と告げる。
ますます犯人が分からなくなり溜息を吐くが、レイジスに害を与えることを目的としている事は明白。だがどうやって…。
ちらりとリーシャとソルゾを見れば「無理ですよ」と瞳が訴える。まぁそんなことができるのなら王宮に報告が上がるはずだ。…しない場合もあるがもしそれがバレた場合のことを考えると割に合わない。レイジスの場合は三種混合で『雪』を作りだした時はソルゾも言っていたが「偶然」として見なかったことにしている。
それに光魔法もあれから使わないように言いつけてあるのは「偶然」と言い張るためだ。リーシャはその「偶然」を見て試したら使えるようになった、とそう報告しているとソルゾが言っていたのはその為だ。
「それにしても」
んぐ、とオムレットを飲み込んだリーシャがフォークで新たにオムレットを一口大に切りながら口を開く。
「レイジス様はなんであんなに危機感がないんですかね」
あーん、とオムレットを頬張るリーシャの言葉に私は苦笑いを浮かべる。
「仕方ないだろう。9歳の頃まではベッドから降りれず、それからは…まぁああなっていたからな。レイジスにしてみればまだ3回しか外に出ていないうえに知り合った者達はあまり敵意がなかったからな」
「そう考えるとレイジス様の今の精神状態は幼い子供なんでしょうね」
「そうなるかもな。それにあの状態の時の記憶は殆どないと見ていいだろう」
「はぁー…なるほど? でもだとしたらこの部屋で毒に気付いたのは偶然なんでしょうか?」
熱に浮かされていたレイジスが塩水を求めたことがきっかけだったあの時。
その時は私たちに『毒を盛られている』と知らせていたのかと思ったが、よく考えてみればおかしなことが多い。
「そのことで少し話がある。リーシャ」
「はい?」
「遮断魔法は使えるな?」
「…部屋にもかかってますが? 二重でかけるんですか?」
「ああ」
「分かりました」
話を聞いていた侍女がぺこりと一礼をしてリビングを出ていく。ぱたんとドアが閉まったのを聞くと「ル・キエアラ」という言葉に隠れるように「ロー・スゥイン」という言葉が重なる。
「念のために」
「ああ。助かる」
ソルゾの施錠魔法に感謝をすると「それで?」とリーシャが前のめりになる。ノアもハーミットもソルゾもどこか緊張している面持ちで私を見ると、アルシュが頷く。
「レイジスは『先祖返り』をしている可能性が高いそうだ」
■■■
「ほへー…初めて薔薇風呂って入りますけどなんかなんかすごいですねー」
ちゃぷり、と薔薇と湯をすくって口を開けっぱなしになっているレイジスについ頬が緩む。開いた口はちゃんと顎を下から持ち上げて閉める。
起床し食事も済んだ後、再びうとうととし始めたレイジスを風呂に入らせようとした侍女たちが困っていた。夕飯を食べてそのまま眠ってもいい様に、とのことらしい。昨日一日眠っていたから風呂に入らせたいが眠ってしまうと運び出すのが大変、とのことらしい。
だったら私と一緒に入ればよいのでは?という案を出したところ、アルシュとソルゾ、ハーミットには半眼で見られノアにはただにこにこと微笑まれリーシャには「スケベですか?」と言われる始末。
お前ら。
まぁ下心がないといえばウソにはなる。私だって愛しい者の肌に触れたいと思うのは普通だろう?
「色とりどりで楽しいな」
「はい! オレンジの薔薇可愛いです」
眠気が飛んだのか、きゃっきゃと違う色の薔薇をすくっては楽しそうに落とし、またすくう。なんとなしに近くに浮いていた赤い薔薇を手にし、レイジスの頭に乗せてみる。
「ふへ?」
「ああ、可愛いな」
きょとんとしたグレープフルーツ・グリーンがぱちりと瞬く。淡い緑の髪が赤い薔薇を引き立てる。それに瞳を細めると湯で温まったほんのりと朱に染まった肌と相まって可愛らしさの中に艶が浮き出ている。
レイジスは成長が遅いのか同い年の者と比べて小柄だ。年齢的には16、いや17だが体格は12、3歳ほどで肉がほとんどついていない。レイジスが料理をもりもりと食べるようにはなったが、肉付きはやはりよろしくない。
熱で浮かされていた時に下心に負け、レイジスの身体を弄った時の衝撃は忘れられない。殆ど皮と骨だけの状態。よく生きていたな、と言うのが本音だった。だがそんな身体でも愛おしいと思えるのはレイジスだからだろう。
「でも重くないですか?」
くるりと上半身を捻ってそう言いながら可愛らしく首を傾げるレイジスに熱が集まりそうになるが理性をかき集めて押し留める。
「ん?軽いぞ? 軽すぎるくらいだ」
「わわっ!」
膝の上に乗っているレイジスの腋に手を差し入れ持ち上げれば、ざばりとお湯と薔薇が持ち上がる。それからすとん、と再び膝の上に乗せると「ビックリするじゃないですかー!」とぽかぽかと胸を叩かれる。大して痛くもないが「痛い痛い」と笑いながら言えばぴたりと止まった。
「うう…ごめんなさい」
するとしゅん、と眉を下げて叩いたところを撫でてくる小さな手に頬が緩む。
「大丈夫だ。それより眠くはないかい?」
「? 大丈夫ですよ?」
「そうか。…レイジス」
「はい?」
なぁに?と首を傾げ言葉を待つレイジスの肩を後ろから両手で抱く。
「…王族であるのに光魔法が使えない私に幻滅したかい?」
「ふえ?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞳は言葉の意味が理解できていなようで、反対側に首を傾げると「ああ」とそこでようやく私の言葉を理解したようだ。
「なんで幻滅なんかするんですか?」
レイジスのその一言に瞳を大きくする。そこにはやはりきょとんとしているレイジスがいる。
ああ、やはりお前は私の望む答えをくれるのか。
記憶が曖昧でも…殆どないとしても変わらないのだな。
ぎゅうとレイジスを抱きしめれば「どうしました? 逆上せちゃいました?」とよしよしと頭を撫でてくれる。
父上も母上も決して触ろうとしなかった髪を、レイジスは何の躊躇いもなく撫でてくれる。
それが私にとってどれだけ救われるかなど知らないのだろう。
「フリードリヒ殿下、ちょっといいですか?」
「うん?」
ぽんぽんと腕を優しく叩くレイジスに首を傾げれば「これだと腰が痛いです」とふにゃっと笑う。
それに「ああ、そうか」と呟くと腕を離せば狭い浴槽の中でも器用にくるりと身体を反転させると向かい合う。それににこりと笑うと、膝立になっているレイジスがそのまま私の頭を抱きしめた。
薄い薄い胸に顔を押し当てながらゆっくりと腰に腕を回す。するとゆっくりと頭を撫でられる。それはいつも私がレイジスにしているように母親が子供の頭を撫でるように。愛おしそうに。何度も何度も。
「僕は光魔法が使えないからとかどうでもいいんです」
「レイジス?」
「むふふ。そこで話されるとくすぐったいですよー」
「ああ、失礼」
そうだった。今温かなものに顔を埋めているのだった。
だが…。湯からあがったために身体が冷えているのか顔にぷくりとしたそれが当る。うむ、僥倖だが少々マズイかもしれないな。
「僕はですね、フリードリヒ殿下」
「?」
「光魔法が使えようが使えまいがどうでもいいです。フリードリヒはフリードリヒですから」
「――――っ?!」
すりすりと頭に頬摺りするレイジスの言葉に喉が痛くなり、目の奥が熱くなる。
「だから、そんなこと言わないでくださいね」
優しくそう告げるレイジスに、胸の奥にしまい込んだものが溢れ出す。
ああ。だからレイジス、私はお前を手放してやれないんだ。
婚約破棄を言い渡されるのが怖いのは私がレイジスに依存しているからだろう。
レイジスにとっては何気ない言葉だとしても私にとってそれは聖典にも等しいもので。ぐにゃりと歪む視界に慌てて瞼を下ろし視界を遮ると、ちゅっと頭にキスを落とされた。慈愛にも似たそれにぐっと奥歯を噛みしめると流れ落ちそうになるそれを必死に押しとどめる為に柔らかなそこに顔を埋める。
「レイジス」
「んー? 何ですか?」
「…ありがとう」
「? 何がですか?」
ぐっと折れそうなほど細い腰に絡めている腕に力を込めると隙間などないように抱きしめれば「頭撫でられるの気持ちいいでしょう?」とくすくすと笑う声が響く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
頭を撫でられながら薔薇の香りとレイジスの体温に包まれ私は、頬に湯が流れ落ちるのを感じた。
■■■
「「死ぬまで憎みます」「憎悪」「恨み」…か」
「ノア?」
フリードリヒ殿下がレイジス様と風呂に行ってしまい部屋に残った我々は各々好きなことをしている。
アルシュはソルゾ先生とリーシャから魔法のことを復習し、ハーミット先生は「ちょっと出てくる」と言い、部屋を出ていった。「夕飯までには戻る」と言っていたから言葉の通り夕飯までには戻るのだろう。リーシャが失敗したマヨネーズを見たレイジス様は「そうなる時もあるよねー」とうんうんと頷きつつも卵黄を加え、それを混ぜながら風魔法で振っていた。失敗したマヨネーズが無くなる頃にはいつも通りのマヨネーズに戻り全員が驚いた。
「はい、元通り」とにっこりと笑うレイジス様にリーシャがほっと胸をなでおろしていたその表情に頬が緩む。
しかし…レイジス様は不思議な方だと関わって知った。
そんな方が恨まれるとすれば、錯乱状態のレイジス様から攻撃を受けた者だろう。だがこの国にはなぜか「ユアソーン家に関わる保証」と称したものが予算とは別に積み立てられている。それを聞いた時は無駄では?と思っていたがレイジス様がああなって怪我人の補償に使われる、と聞いた時は驚いた。
無駄だと思っていたものが正しく使われていることにも驚いたが、王家がそこまで予測していた事にも驚いた。
もしかしたら王家とユアソーン家には何か繋がりがあるのでは、と調べたこともあったが何も出てこなかった。
なにかしら分かるとすれば、王立図書館にひっそりと保管されているらしい書物だけ。これも父に聞いただけで本当にあるかどうかさえ怪しい。しかもそれは誰も読めない、という話だ。この国の文字ではない文字で書かれている為、誰も読めないらしい。
気にはなるがそんなものが簡単に見られるはずもないからすっかりと存在を忘れていたが。
「どうかしたか?」
「…いや。薔薇の花言葉を思い出していた」
「薔薇の?」
「ああ」
レイジス様があの子供から買った(正しくはハーミット先生が買った)薔薇。それを力尽きそうなリーシャが私の部屋に持ってきて「浄化はしたから後はよろしく」と告げて部屋に戻った。
その薔薇を翌日一本一本調べてみたが、レイジス様が手を伸ばし触れようとしたものに眉を寄せた。
それは黒褐色の見慣れない色の薔薇。それが何なのかフリードリヒ殿下が起きるまで植物図鑑を読んでいて見つけた。
極まれに咲く黒褐色の薔薇。
そこには負に満ち満ちた言葉が連なっており、それをレイジス様が触れていたと思ったらゾッとした。
侍女たちへと渡す前にそれだけを抜き取り、自室のゴミ箱へと捨て、残った美しい薔薇だけを侍女に渡した。
「誰が送ったのかは知らないがあんなものを隠し入れるとは」
「…それは、殿下には言ってませんよね?」
「当然だろう。そんなことを言えば私たちでは手に負えなくなる」
そんな負の感情をまとめたものが隠れてました、なんて言った日には王家の権力を使ってでも送ったものを探し出すだろう。
「レイジス様バカだからねー。殿下は」
あはは、と笑うリーシャだがその目は笑ってない。どうやらリーシャも怒っているようだ。
「ああ、今のは私の独り言ですからね。お気になさらず」
にこりとそう言えばアルシュも「そうか。授業に集中してて聞こえなかったな」と言い「アルシュ君に教えていて聞いてませんでしたね」とソルゾ先生が告げる。
リーシャも「氷魔法考えてて聞き流してたわー」と告げると、それぞれが何事もなかったかのように動きだす。それに頬を緩めるとふと言葉を紡ぎ出していた。
「…王家とユアソーン家の関係」
ぽつりと呟いた本当の独り言は誰の耳にも届かず宙に舞って消えていった。
「おはようございます。フリードリヒ殿下」
「……………。ああ」
ぼんやりとする頭で反射的にそう答えるとベッドの横にいたノアが読んでいた本をぱたりと閉じ、にこりと笑う。
……………ん? ノア?
いつもならばアルシュがいるはずだが…?
「アルシュなら今準備してますよ」
「珍しいな」
「大怪我と魔力不足でしたからね」
「なるほど」
くしゃりと前髪を掻きあげてからベッドから降りると「お食事はいかがされますか?」と背中から声がする。それに「…先にレイジスの様子を見てから決める」とだけ伝えて洗面所へ。
鏡に映る私の顔は少し疲れているようだが問題はない。というか今何時なんだ?
随分と日が高いような気がしたが…。まぁいい。とりあえず顔を洗って身体を起こすと歯を磨き完全に自身を覚醒させる。
久しぶりに魔力をギリギリまで使ったからか少々寝過ぎたようだ。
洗面所から顔を出せば、アルシュの準備が終わったのかノアと話していた。
「起きたか」
「おはようございます。フリードリヒ殿下」
「ああ。手の方はどうだ?」
「レイジス様の治癒魔法のおかげで問題はありません。少し違和感はありますがすぐに治ります」
「そうか。ならよかった」
アルシュにそう言ってから控えていた侍従が制服へと着替えさせる。レイジスの制服を上着だけでも女生徒用にしておいて正解だったな、とふと思う。それにどうやらうさぎが好きなのかうさぎ耳が付いたネグリジェをよく着ているようだし。
あの時アルシュ、ノア、リーシャに猛反対されたが己の意思を曲げなかった私はよくやった、と褒めてやりたい。それに、今は彼らもそれでいいと思っているようだ。
「殿下。ご注文していたものが朝届いたようですよ」
「そうか。もうできたのか」
「殿下が急がせるからですよ」
やれやれと肩を竦めるアルシュに苦笑いを浮かべる。着替え終わり侍従が一礼をして寝室から出ていくと、しばらくして大きな箱を二つ運んできた。
それはノアが言う通りの物だろう。ふかふかもこもこが好きなのか、ぬいぐるみと同じ素材で作ったネグリジェはレイジスのお気に入りのようだ。猫やくま、ライオンと言った耳が付いたものを好んで着るようで、今まで着せられていたシルクと言ったものを着ることはなくなったそうだ。ネグリジェと同じ素材で作ったドロワーズも疑問を持たずに穿いていると侍女に教えてもらった。
うむ。転んだ事を考慮して用意したがどうやら寝るときはそれがセットだと思っているようだ。可愛いな。
そして届いた箱の中身はうさぎ耳のネグリジェだ。一番初めに贈った白い生地のネグリジェはだいぶくたびれていたようだったから急いで作らせた。代わりに同じデザインの物を販売する許可を出した。どうやら一部の貴族から突っつかれていたようだ。
こちらのものを最優先するという条件で許可を出したがどうやら売れ行きは好調のようでなにより。なかでもやはりうさぎ耳が人気のようだ。当然だろう。レイジスが一番好きなものなのだから。
かぱ、と箱を開ければそこには注文していた栗毛と葦毛のネグリジェとドロワーズ。ドロワーズは今までと違い少しフリルが付いた可愛らしいものになっている。レイジスが着たのならもっと可愛くなるはずだ。
うんうん、と一人満足していると呆れた視線を送るアルシュとニコニコとしているノア。
コホン。
「リーシャは…」
「まだ寝ておりますね。ソルゾ先生も同じです」
「魔力を相当使ったようだしな。起きるまでそっとしておくか」
「それがよろしいでしょう」
ひょい、と箱をアルシュが持ち上げノアがドアを開ける。侍従が頭を下げ見送られながら部屋を出れば、見張りの兵の敬礼に頷くと少しだけ廊下を歩く。
ドアをノアがノックすればすぐに開き、侍女が頭を下げていた。
「お待ちしておりました。フリードリヒ殿下」
「ああ」
侍女頭の後を付いて寝室へ。アルシュが箱を置きノアが箱の中身を説明している。
「レイジスの様子はどうだ?」
「まだお休みなっておられます」
「そうか。顔を見ても?」
「勿論でございます」
にこりと笑う侍女頭に私も笑みで返すとアルシュが分厚いカーテンを持ち上げる。そろそろこのカーテンも変えてもいいかもしれないな。これから暑くなるからレースでもいい。色は…爽やかな水色、いや薄い緑でも…。
「殿下」
「ああ。悪い」
アルシュの呼びかけにハッとする。カーテンは今度侍女頭と相談してみるか。彼女ならレイジスの好みを知っていそうだからな。
持ち上げられた隙間からするりと身体を滑りこませると暗いベッドに羊のぬいぐるみを抱きしめてくうくうと静かに寝息を立てているレイジスについ笑みが浮かぶ。さらりと髪と頬を撫でても起きる気配はない。
熱もない。息苦しそうでもない。
それだけでほっとしてしまうのは幼いころのレイジスを重ねてしまっているからだろう。
ちゅっと額に「悪い夢を見ないように」と願いを込めてキスを落とすと「アルシュ」と小さな声で名を呼べばカーテンが開く。
「殿下」
「ふむ。今度は羊の耳のものでも作るか。ついでにもこもこのネグリジェを作るのもいいな」
「殿下!」
「ん? どうした?」
カーテンのことと羊耳のネグリジェで頭がいっぱいだったが、昨日の報告を聞かねばならない。ハーミットは来ていないのか?とノアに瞳で問えば「学園長に呼び出されていますね」とにっこりと綺麗な笑顔で告げる。
…となるとソルゾも起きたら学園長室行きか。どんな処罰が待っているかは分らないがあのレイジスを学園へと招待した学園長のことだ。とんでもないことを言い出しそうだな…。
「なら食堂へ行くか」
「フリードリヒ殿下」
「どうした?」
まずは食事でも、と思いレイジスと食事を共にし始めてからは行くこともなくなった食堂へ向かおうとしたがそんな私たちを侍女頭が呼び止めた。
「お食事のご準備をいたしますのでお待ちいただけますか」
「だがレイジスが…」
「このお部屋は元々殿下がお使いになられるはずのものです。それをレイジス様にお譲りいただいたとはいえ本来は殿下のお部屋。それに私達も殿下にお仕えする予定でございました」
真っ直ぐと私を見つめる侍女頭に小さな溜息を吐くと「分かった」と告げる。
レイジス付きの侍女たちは王宮から送られている者ばかり。ユアソーン家からは侍女頭のみだ。
「なら、リビングで待つ」
「かしこまりました」
綺麗な礼を見届けた後、私はいつも通りにリビングへ行くとソファへと腰かけた。
「お、こちらでしたか」
侍女たちが用意した食事を食べていると、ハーミットが姿を現した。昼を過ぎ夕飯には早い食事だがエッグマフィン、サラダ、スープが置かれ瞳を丸くしたが。
「随分と遅かったな」
「小言は少なかったんですがレイジスのあれやこれやを聞かれましてね」
「話したのか?」
あー…と唸りながら視線が左下に動く。話したのか。
「どのみち学園から王宮へと報告が行くはずだからな」
「…申し訳ございません」
「気にするな。それよりもお前も食っていけ」
「レイジス…様は?」
「ソルゾと同じだ。まだ休んでいる。今日中は起きないだろう」
はぐ、とエッグマフィンに齧り付き咀嚼する。ふむ。これもうまい。サラダに手を伸ばしたがドレッシングがかかっていないことに眉を寄せると、それに気付いた侍女頭が口を開いた。
「レイジス様もリーシャ様もお休みされておりますので…」
「ああ。マヨネーズは作れても光魔法が使える者がいないか」
「申し訳ございません」
「いい。気にするな」
オリーブオイルと塩をふられただけのサラダ。レイジスと食事をするまでは当たり前だったものが今は物足りない。ざくざくとレタスをフォークで刺し、口へと運ぶ。うむ。やはり物足りないな。
むぐむぐと口を動かしマフィンを一口。
スープを飲んでいる間にアルシュとハーミットが既に二皿目に手を付けている。早いな。
だがこれならレイジスはどれだけ食べられるだろうか。むっむっと頬をリスのように膨らませて幸せそうに頬張る姿は私の食欲も増幅させる。だが今、腹は空いているはずなのにあまり入りそうにない。
「殿下?」
「ああ。心配はない」
いつもよりも少ない量しか取らない私にアルシュが眉を寄せるが「気にするな」と告げる。
「それにしても…レイジス様とリーシャがいないと食事も物足りないものですね」
「そうだな。すっかりとレイジスに胃袋を掴まれてしまったな」
ハーミットの言葉に苦笑いを浮かべると空の皿を下げられ、代わりにカップを置かれそれを傾ける。
「それにしてもレイジス様は料理には失敗しませんね」
「ああ。あのレイジスが料理ができるとは思わなかった。ほとんど侍女たちが作ってくれたと言っていたが…」
ふむ、と顎に手を置いて考える。そう言われてみれば不思議だ。
そもそも貴族の令息が料理など侍女がまず許さないだろう。だが未知の物を作りだしたレイジスはいつの間にかキッチンにいることが珍しくなくなった。貴族でありながらキッチンに立つ姿は他の者が見たら「おかしい」と取るだろう。
それに侍女頭のジョセフィーヌもレイジスがキッチンにいる間、黙って見守っている。流石に刃物は持たせていないとは思うが、それでも危険がないとも言えない。
レイジスの仕事はあれやこれやと指示を出すことだけだろうが、それでも危険が全くないとも言えない。
そう。薬物が使用されないとも限らないのだから。
今はリーシャが光魔法で毒物や雑菌などを浄化させてしまうから問題はない。それでも入れさせないことが重要だ。
「それに食材のこともきちんと理解していますしね」
「……………」
ノアの一言にぴくりと指が跳ねた。フォルスから告げられたレイジスの先祖返り。フォルスは私とアルシュだけに教えてくれた。その時ハーミットもいたが追い出した。恐らくはシュルツがいたからだろうが…。
「フリードリヒ殿下」
「ああ」
リーシャとソルゾはもうレイジスが『普通の貴族』ではないことを知っている。
我々では考えつかない魔法の使い方、未知の食材、そして料理。これらを見ているノア、リーシャ、ソルゾ、ハーミットなら話してもいいだろう。
眠ってしまったレイジスの頬を撫でながらフォルスは「殿下が信用できる者ならば」と私にだけ聞こえるようにそう告げた。つまり。
「リーシャが起きたら話しておきたいことがある」
私のその一言にノアとハーミットが真剣な表情に変わると、こくりと頷いた。
レイジスの秘密。そして…。
私のことなどは後でいい。まずはレイジスのことを知ってもらわねば。
そしてリーシャとソルゾが起きてきた翌朝、レイジスの部屋に全員集まってもらう。ソルゾもまた学園長に呼び出されていたらしいが「用事が終わってからきてくださいね」と言われたらしい。
「用事」か。あの学園長は何かを知っているような気もするが、話す機会などほとんどないに等しい。
だがソルゾも呼び出されたとなると何れ私たちも呼び出される可能性が高い。なんせ生徒が学園の許可なしに戦闘をしたのだから。
「それで? あのちびっ子どうだったの?」
リーシャが朝食のクラブハウスサンドを二皿ぺろりと食べた後のお茶を飲んでいる。
リーシャが起きてきて部屋に着いてすぐにしたことはマヨネーズ作りだった。レイジスが毎日作っている通りにリーシャが材料を混ぜ、風魔法で瓶を振る。しかし出来上がったものはいつも見ているそれとは全く違う、どろどろとしたもので。「もう少し振ってみます?」というリーシャの言葉に頷き瓶を振ったが、やはり固まらず。
原因が何なのか分らず首をひねると、侍女たちも同じように首をひねった。
このようなことは初めてだという。
そんな失敗をものともせずにレイジス用のおやつを頬張っている。
レイジスがいつ起きてもいいように、とおやつが用意されているがそのおやつは我々が食べてもいい様に用意されている。そのおやつ…今日はイチゴのオムレットを食べながらそうノアとハーミットに問う。
レイジスが起きないうちに報告を聞かなければならない。
「ああ。親にも会った。俺たちを見たら顔色が変わったが」
「というと?」
「あの子供の親は確かに花を売っていました。ですがその親曰く…」
『俺は何もしていない! 子供にレイジス・ユアソーンにこの薔薇を売れと書かれた手紙があっただけだ!』と。
「前払いで金貨も入っていたそうです」
「ふむ」
ソファの背もたれに背中を預け顎に指をかける。
なぜその花売りは報酬だけを貰って薔薇を破棄せず、わざわざ子供に危険を冒させてまでレイジスに売りに来たのだろうか。
「毒が入っていた事は?」
「知らなかった様です。それを告げたら顔から色が抜け落ちましたからね」
「そこで子供に毒が付いた薔薇を持たせていたことを知ったのか」
一体誰がレイジスに毒付きの薔薇を送ったのか…。調査をするにしても花売りが知らないのならどうすることもできないな。
「それと」
「ん?」
「花売りはこうも言っていました。『突然薔薇が入った籠が現れた』とも」
「どういうことだ?」
ノアの報告に全員が眉を寄せる。ハーミットも肩を竦めて「意味が分からないでしょう?」と告げる。
ますます犯人が分からなくなり溜息を吐くが、レイジスに害を与えることを目的としている事は明白。だがどうやって…。
ちらりとリーシャとソルゾを見れば「無理ですよ」と瞳が訴える。まぁそんなことができるのなら王宮に報告が上がるはずだ。…しない場合もあるがもしそれがバレた場合のことを考えると割に合わない。レイジスの場合は三種混合で『雪』を作りだした時はソルゾも言っていたが「偶然」として見なかったことにしている。
それに光魔法もあれから使わないように言いつけてあるのは「偶然」と言い張るためだ。リーシャはその「偶然」を見て試したら使えるようになった、とそう報告しているとソルゾが言っていたのはその為だ。
「それにしても」
んぐ、とオムレットを飲み込んだリーシャがフォークで新たにオムレットを一口大に切りながら口を開く。
「レイジス様はなんであんなに危機感がないんですかね」
あーん、とオムレットを頬張るリーシャの言葉に私は苦笑いを浮かべる。
「仕方ないだろう。9歳の頃まではベッドから降りれず、それからは…まぁああなっていたからな。レイジスにしてみればまだ3回しか外に出ていないうえに知り合った者達はあまり敵意がなかったからな」
「そう考えるとレイジス様の今の精神状態は幼い子供なんでしょうね」
「そうなるかもな。それにあの状態の時の記憶は殆どないと見ていいだろう」
「はぁー…なるほど? でもだとしたらこの部屋で毒に気付いたのは偶然なんでしょうか?」
熱に浮かされていたレイジスが塩水を求めたことがきっかけだったあの時。
その時は私たちに『毒を盛られている』と知らせていたのかと思ったが、よく考えてみればおかしなことが多い。
「そのことで少し話がある。リーシャ」
「はい?」
「遮断魔法は使えるな?」
「…部屋にもかかってますが? 二重でかけるんですか?」
「ああ」
「分かりました」
話を聞いていた侍女がぺこりと一礼をしてリビングを出ていく。ぱたんとドアが閉まったのを聞くと「ル・キエアラ」という言葉に隠れるように「ロー・スゥイン」という言葉が重なる。
「念のために」
「ああ。助かる」
ソルゾの施錠魔法に感謝をすると「それで?」とリーシャが前のめりになる。ノアもハーミットもソルゾもどこか緊張している面持ちで私を見ると、アルシュが頷く。
「レイジスは『先祖返り』をしている可能性が高いそうだ」
■■■
「ほへー…初めて薔薇風呂って入りますけどなんかなんかすごいですねー」
ちゃぷり、と薔薇と湯をすくって口を開けっぱなしになっているレイジスについ頬が緩む。開いた口はちゃんと顎を下から持ち上げて閉める。
起床し食事も済んだ後、再びうとうととし始めたレイジスを風呂に入らせようとした侍女たちが困っていた。夕飯を食べてそのまま眠ってもいい様に、とのことらしい。昨日一日眠っていたから風呂に入らせたいが眠ってしまうと運び出すのが大変、とのことらしい。
だったら私と一緒に入ればよいのでは?という案を出したところ、アルシュとソルゾ、ハーミットには半眼で見られノアにはただにこにこと微笑まれリーシャには「スケベですか?」と言われる始末。
お前ら。
まぁ下心がないといえばウソにはなる。私だって愛しい者の肌に触れたいと思うのは普通だろう?
「色とりどりで楽しいな」
「はい! オレンジの薔薇可愛いです」
眠気が飛んだのか、きゃっきゃと違う色の薔薇をすくっては楽しそうに落とし、またすくう。なんとなしに近くに浮いていた赤い薔薇を手にし、レイジスの頭に乗せてみる。
「ふへ?」
「ああ、可愛いな」
きょとんとしたグレープフルーツ・グリーンがぱちりと瞬く。淡い緑の髪が赤い薔薇を引き立てる。それに瞳を細めると湯で温まったほんのりと朱に染まった肌と相まって可愛らしさの中に艶が浮き出ている。
レイジスは成長が遅いのか同い年の者と比べて小柄だ。年齢的には16、いや17だが体格は12、3歳ほどで肉がほとんどついていない。レイジスが料理をもりもりと食べるようにはなったが、肉付きはやはりよろしくない。
熱で浮かされていた時に下心に負け、レイジスの身体を弄った時の衝撃は忘れられない。殆ど皮と骨だけの状態。よく生きていたな、と言うのが本音だった。だがそんな身体でも愛おしいと思えるのはレイジスだからだろう。
「でも重くないですか?」
くるりと上半身を捻ってそう言いながら可愛らしく首を傾げるレイジスに熱が集まりそうになるが理性をかき集めて押し留める。
「ん?軽いぞ? 軽すぎるくらいだ」
「わわっ!」
膝の上に乗っているレイジスの腋に手を差し入れ持ち上げれば、ざばりとお湯と薔薇が持ち上がる。それからすとん、と再び膝の上に乗せると「ビックリするじゃないですかー!」とぽかぽかと胸を叩かれる。大して痛くもないが「痛い痛い」と笑いながら言えばぴたりと止まった。
「うう…ごめんなさい」
するとしゅん、と眉を下げて叩いたところを撫でてくる小さな手に頬が緩む。
「大丈夫だ。それより眠くはないかい?」
「? 大丈夫ですよ?」
「そうか。…レイジス」
「はい?」
なぁに?と首を傾げ言葉を待つレイジスの肩を後ろから両手で抱く。
「…王族であるのに光魔法が使えない私に幻滅したかい?」
「ふえ?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す瞳は言葉の意味が理解できていなようで、反対側に首を傾げると「ああ」とそこでようやく私の言葉を理解したようだ。
「なんで幻滅なんかするんですか?」
レイジスのその一言に瞳を大きくする。そこにはやはりきょとんとしているレイジスがいる。
ああ、やはりお前は私の望む答えをくれるのか。
記憶が曖昧でも…殆どないとしても変わらないのだな。
ぎゅうとレイジスを抱きしめれば「どうしました? 逆上せちゃいました?」とよしよしと頭を撫でてくれる。
父上も母上も決して触ろうとしなかった髪を、レイジスは何の躊躇いもなく撫でてくれる。
それが私にとってどれだけ救われるかなど知らないのだろう。
「フリードリヒ殿下、ちょっといいですか?」
「うん?」
ぽんぽんと腕を優しく叩くレイジスに首を傾げれば「これだと腰が痛いです」とふにゃっと笑う。
それに「ああ、そうか」と呟くと腕を離せば狭い浴槽の中でも器用にくるりと身体を反転させると向かい合う。それににこりと笑うと、膝立になっているレイジスがそのまま私の頭を抱きしめた。
薄い薄い胸に顔を押し当てながらゆっくりと腰に腕を回す。するとゆっくりと頭を撫でられる。それはいつも私がレイジスにしているように母親が子供の頭を撫でるように。愛おしそうに。何度も何度も。
「僕は光魔法が使えないからとかどうでもいいんです」
「レイジス?」
「むふふ。そこで話されるとくすぐったいですよー」
「ああ、失礼」
そうだった。今温かなものに顔を埋めているのだった。
だが…。湯からあがったために身体が冷えているのか顔にぷくりとしたそれが当る。うむ、僥倖だが少々マズイかもしれないな。
「僕はですね、フリードリヒ殿下」
「?」
「光魔法が使えようが使えまいがどうでもいいです。フリードリヒはフリードリヒですから」
「――――っ?!」
すりすりと頭に頬摺りするレイジスの言葉に喉が痛くなり、目の奥が熱くなる。
「だから、そんなこと言わないでくださいね」
優しくそう告げるレイジスに、胸の奥にしまい込んだものが溢れ出す。
ああ。だからレイジス、私はお前を手放してやれないんだ。
婚約破棄を言い渡されるのが怖いのは私がレイジスに依存しているからだろう。
レイジスにとっては何気ない言葉だとしても私にとってそれは聖典にも等しいもので。ぐにゃりと歪む視界に慌てて瞼を下ろし視界を遮ると、ちゅっと頭にキスを落とされた。慈愛にも似たそれにぐっと奥歯を噛みしめると流れ落ちそうになるそれを必死に押しとどめる為に柔らかなそこに顔を埋める。
「レイジス」
「んー? 何ですか?」
「…ありがとう」
「? 何がですか?」
ぐっと折れそうなほど細い腰に絡めている腕に力を込めると隙間などないように抱きしめれば「頭撫でられるの気持ちいいでしょう?」とくすくすと笑う声が響く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
頭を撫でられながら薔薇の香りとレイジスの体温に包まれ私は、頬に湯が流れ落ちるのを感じた。
■■■
「「死ぬまで憎みます」「憎悪」「恨み」…か」
「ノア?」
フリードリヒ殿下がレイジス様と風呂に行ってしまい部屋に残った我々は各々好きなことをしている。
アルシュはソルゾ先生とリーシャから魔法のことを復習し、ハーミット先生は「ちょっと出てくる」と言い、部屋を出ていった。「夕飯までには戻る」と言っていたから言葉の通り夕飯までには戻るのだろう。リーシャが失敗したマヨネーズを見たレイジス様は「そうなる時もあるよねー」とうんうんと頷きつつも卵黄を加え、それを混ぜながら風魔法で振っていた。失敗したマヨネーズが無くなる頃にはいつも通りのマヨネーズに戻り全員が驚いた。
「はい、元通り」とにっこりと笑うレイジス様にリーシャがほっと胸をなでおろしていたその表情に頬が緩む。
しかし…レイジス様は不思議な方だと関わって知った。
そんな方が恨まれるとすれば、錯乱状態のレイジス様から攻撃を受けた者だろう。だがこの国にはなぜか「ユアソーン家に関わる保証」と称したものが予算とは別に積み立てられている。それを聞いた時は無駄では?と思っていたがレイジス様がああなって怪我人の補償に使われる、と聞いた時は驚いた。
無駄だと思っていたものが正しく使われていることにも驚いたが、王家がそこまで予測していた事にも驚いた。
もしかしたら王家とユアソーン家には何か繋がりがあるのでは、と調べたこともあったが何も出てこなかった。
なにかしら分かるとすれば、王立図書館にひっそりと保管されているらしい書物だけ。これも父に聞いただけで本当にあるかどうかさえ怪しい。しかもそれは誰も読めない、という話だ。この国の文字ではない文字で書かれている為、誰も読めないらしい。
気にはなるがそんなものが簡単に見られるはずもないからすっかりと存在を忘れていたが。
「どうかしたか?」
「…いや。薔薇の花言葉を思い出していた」
「薔薇の?」
「ああ」
レイジス様があの子供から買った(正しくはハーミット先生が買った)薔薇。それを力尽きそうなリーシャが私の部屋に持ってきて「浄化はしたから後はよろしく」と告げて部屋に戻った。
その薔薇を翌日一本一本調べてみたが、レイジス様が手を伸ばし触れようとしたものに眉を寄せた。
それは黒褐色の見慣れない色の薔薇。それが何なのかフリードリヒ殿下が起きるまで植物図鑑を読んでいて見つけた。
極まれに咲く黒褐色の薔薇。
そこには負に満ち満ちた言葉が連なっており、それをレイジス様が触れていたと思ったらゾッとした。
侍女たちへと渡す前にそれだけを抜き取り、自室のゴミ箱へと捨て、残った美しい薔薇だけを侍女に渡した。
「誰が送ったのかは知らないがあんなものを隠し入れるとは」
「…それは、殿下には言ってませんよね?」
「当然だろう。そんなことを言えば私たちでは手に負えなくなる」
そんな負の感情をまとめたものが隠れてました、なんて言った日には王家の権力を使ってでも送ったものを探し出すだろう。
「レイジス様バカだからねー。殿下は」
あはは、と笑うリーシャだがその目は笑ってない。どうやらリーシャも怒っているようだ。
「ああ、今のは私の独り言ですからね。お気になさらず」
にこりとそう言えばアルシュも「そうか。授業に集中してて聞こえなかったな」と言い「アルシュ君に教えていて聞いてませんでしたね」とソルゾ先生が告げる。
リーシャも「氷魔法考えてて聞き流してたわー」と告げると、それぞれが何事もなかったかのように動きだす。それに頬を緩めるとふと言葉を紡ぎ出していた。
「…王家とユアソーン家の関係」
ぽつりと呟いた本当の独り言は誰の耳にも届かず宙に舞って消えていった。
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