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王都編
あつあつ肉まんともちもち鬼まんじゅう
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「それで…あつっ。ふーふー、面白いこととは? あつつっ!」
「陛下お気を付けくださいね! 蒸したてふかふかですか…あっつ!」
「レイジスも気を付けるように。ほら。ふーふーしてあるから」
「ありがとうございます! フリードリヒ殿下!」
蒸したてふかふかな肉まんを皆で頬張りながら「面白いこと」が何かを聞く会議?中。
あちあちと言いながら皆、肉まんを手でちぎり、ふーふー言いながら冷まし、はぐりと食べる。あつあつうまうま。
事の始まりは僕の夢だった。すやすやと寝ていたのはいい。ただその夢がダメだった。なぜかって? その夢で僕はふかふかあつあつな肉まんを頬張っていたからだ。ふーふーと冷ましながら両手に肉まんを持っては、はふはふいいながら食べる僕。けどそれは夢だから現実には食べていない訳で。
あーん、はむっと夢の僕が肉まんを頬張った。現実の僕もはむっと肉まんを頬張った。けど。
「んむー!」
頬張ったのはふかふかな肉まんではなく、シーツ。美味しくもない、食べられないそれを口にしたところで目が覚めた。肉まんだと思ってむにむにと食べていたシーツはよだれでべたべたになっちゃった。ごめんなさい。
そこで肉まんは夢だったことにしょんもりしてもう一度寝直そうかとも思った。思ったんだよ。けどさ。
「肉まんが食べたい!」
そう思ってしまえば肉まんが食べたくなる訳で。そうなると寝直すなんて選択肢は放り投げて肉まんを作る、という選択肢一択になる。窓はカーテンがしてあるから時間は分らない。けどまだいつもの僕ならば夢の中の時間。
んむー!と両手を伸ばして伸びをする。そうすれば多少なりとも頭がすっきり!
よし!と無駄に気合を入れてベッドを降りる。用意されているブーツなんだかアニマルスリッパなんだかわかんないそれを履くと、うさうさバッグを斜めにかける。父様が部屋を出るならこれを持って行くこと、と両手を握って僕の目を見てそう言った。それに頷けば「良い子だ」と頭を撫でてもらった。
準備万端!と意気揚々に鍵を開けてドアを開ければ、ドアの前にいた騎士さんが振り向いた。あ、おはようございます。
「おはようございます。レイジス様。いかがされましたか?」
「おはようございます。えっと…厨房に行ってから後宮のキッチンに行きたいんですけど…」
「では申し訳ありませんが少しお待ちいただいても?」
「あ、はい。大丈夫です」
そう言うと、一人の騎士さんが隣の部屋に歩いていく。そういえば僕の隣は騎士さんの詰め所的ななにかだっけ? ん? 違うような気もするけどいっか!
ドアから半分くらい身体を出した状態で待ってると、隣の部屋から3人出てきた。おあ?! そんなに必要なんですか?!とそれに驚いているともう一人の騎士さんが「ついていく者は2人ですからご安心を」とにっこりと笑ってくれた。
あ、そうなんだ。びっくりしたー…。
「こちらの者達に付いていってください」
「あ、ありがとうございます」
「では」
そう言って僕の部屋の前に立つ騎士さんにお礼を言ってから、新しく来てくれた騎士さんに前後を挟まれるようにして厨房へ。あ、そういえば僕、寝間着のままだ。でも着替えるにしても何を着ていいか分んないし…。侍女さん達はまだ寝てるだろうし。ま、いっか。
今日はくまさんの耳が付いてるネグリジェ。他に比べればそんなに派手じゃないからね。
カツカツ、という音と一緒にぺたぺたという音が誰もいない廊下に響く。この時間だとこんなに静かなんだー。ちょっと怖いね。なんて思いながらきょろきょろと首を動かしながら歩けば、当然前が不注意になるわけで。
「にょっ?!」
「レイジス様?!」
履物に躓いて転びそうになったところを後ろにいた騎士さんがお腹に腕を回して支えてくれた。おおー! びっくりしたー…!
どきどきとする心臓を押さえながら、ぷらんとしていると「お怪我はありませんか?!」と前にいた騎士さんが慌てて降ろしてくれる。おっふ…。大丈夫です。すみません。でも僕、背が低いからちょっとした高さでも浮いちゃうんだよね。
「大丈夫です。ごめんなさい」
今のは完全に僕の前方不注意。騎士さん達に謝れば、ほっと肩を下げた。うん、ごめんなさい。
それからはちょっとゆっくり歩いてくれる。うん。コンパスの長さも違うからね。本当に申し訳ない。
騎士さん達に見守られながら厨房に着けば、餃子作りで共に戦場を駆け抜けた見知った人がいて「おはようございます」と頭を下げれば「レイジス様?!」と驚かれた。まぁ、無理もないか。いつもなら寝てる時間だからねー。
それになんだなんだと厨房の人たちが集まって来ちゃった。おおう。
「どうかされましたか?!」
「ん、ちょっと食べたいものができたから来ちゃった」
その一言で、厨房にいた人たち全員の瞳が光る。ついでに騎士さん達も。え? え?
「ここで一緒に作っても大丈夫ですか?」
「後宮で作ろうと思ったんですが…ううーん…どうしよう」
きっと今、朝食の仕込みの途中だよね? 迷惑だろうから後宮で作った方がいいかな?
「朝食の仕込みなら終わってますからここで作りましょう? ね?」
なんかぐいぐいくるね! でもみんながいるならさくさく作れそうかなー? 今回も包むからね!
「じゃあ、お言葉に甘えてここで作ります」
「ありがとうございます! よっし! お前ら準備だ!」
「おー!」
体育会系かな? なんて思いながらてきぱきと準備が進められて、無事肉まんを作る準備が素早く整った。
それから父様がまず厨房に現れて「レイジスー! 心配したよー!」と涙目で言われてしまった。ごめんね、父様! どうしても肉まんが食べたかったんだ!
「じゃあ、父様ここで見ててもいいかな?」って言うものだから、一瞬厨房内が緊張した。あ、見てるなら父様も手伝って!
「じゃあじゃあ父様も手伝ってください!」
「手伝う? …手伝えるのかい?」
「はい! 餃子と同じように包まなきゃいけないんで!」
「ううーん…。父様こういったこと初めてだけどできそう?」
「問題ありません! 包んであれば肉まんになりますから!」
「そっか、じゃあ大丈夫だね!」と笑う父様。ついでにここまで連れてきてくれた騎士さん達も巻き込んで、れっつ・肉まん作り!
皆わいわいと話しながら皮に餡を包んでいく。これがなかなか難しくて初めの2、3個はだいぶ不格好になっちゃった。でも肉まん作りで「発酵」と言うことを知った料理人さん達大興奮。あれ? もしかして「発酵」って言葉を知らない? だから発酵食品が少なかったのかな? チーズはあるけど。
よし、これを期にヨーグルトとか作ってもらおう!
なんて皆で肉まんを作ってたけどふと視界に映った紫色。おお? あれは?
「あれ…サツマイモだよね? いっぱいある!」
「ああ…、あれですか…」
どことなく歯切れの悪い言い方に首を傾げると「何に使えばいいのか分からなくて」と困ったように笑う。あ、なるほど。サツマイモのレシピはいっぱいあるけどね。知らないとどうしたらいいか分かんなくなるよね…。
「じゃあ、あれ作りましょう!」
「あれ?」
肉まんを作ってた全員が首を傾げるのを見て、僕はむふふと1人笑うのだった。
そんなこんなで出来上がった肉まんと鬼まんじゅう。
ホントはスイートポテトとか大学芋とかでもよかったんだけど、肉まんを作るために蒸篭があったからちょうどいいやって思ってさ。
形が不格好なのを一番初めにむしむしして皆に食べてもらった。熱々だからねー。みーんなでふーふー言いながら食べた。というか皆未知の食べ物に対して恐怖心とかないんだねー。料理人さん達はすでに復習と言わんばかりに自分たちで肉まん作りを開始している。あ、これお昼ご飯だ!
ごめんね! 王宮勤めの人! 今日のお昼ご飯は強制的に肉まんになります!
と、いうわけで僕が食べたかった肉まんは無事、陛下やフリードリヒにも食されております。王様があつあつの肉まんをはふはふいいながら手掴みで食べる姿はものすごくシュールだ。けどもぐもぐ食べてくれるからお気に召されたようだ。よかったー!
それに加えてもちもちの鬼まんじゅうも食べてくれる。お腹いっぱいになっちゃうねー。
ちなみにあの時肉まんを作ってくれた人たちには先に鬼まんじゅうも食べてる。サツマイモが甘かったからそのままサツマイモきんとんにしてもおいしそう。
サツマイモきんとんは蒸して裏ごしして(潰すだけでも大丈夫)お砂糖入れて(バター入れてもおいしい)布巾(サランラップでも全然いける)できゅきゅって絞れば簡単にできるおいしいおやつだね。
「さて、腹がいっぱいになる前に聞かねばならんな」
手を浄化魔法で綺麗にして、肉まんをあつあつ言いながら3個食べた所で陛下がそう告げる。
ちなみに第一宮廷魔導士団、団長はリーシャのお父さんと言うことは知ってる。それに副団長もエストラさんということも知ってる。更に言えば第二魔導士団長副団長もソルゾ先生だから問題ない。あとは第二魔導士団長さんなんだけど…。
なんだろう。めちゃくちゃいい人っぽい。なんせ鬼まんじゅうをさっきからずっと食べてるんだ。肉まん? なにそれ?って言うくらい鬼まんじゅう食べてる。
そういえば以前ハーミット先生が「第二騎士団は平民騎士団」って言ってたけど…。なるほど。そう言うことか。
そんなことを思いながら「けふ」と小さく息を吐けば「そうですね」と肉まん食べてたソルゾ先生が頷く。リーシャのお父さんもキリッとしてるけどすでに肉まんと鬼まんじゅうを一通り食べてる。
お口にあったのなら幸いです。
ついでに言えばちょっと離れた場所でアルシュ、ノア、リーシャ、ハーミット先生を始めとする第一・第二騎士団の皆さんもいる。もちろん肉まんと鬼まんじゅうがテーブルに置かれてるよ! というか流石騎士さん達は胃袋が違う。僕たちがあちちと言いながら食べてる間に二つ目に手が伸び、三つ、四つとなくなっていく。これには僕もにっこり。よかったー!
「それで? 何を見つけたんだい?」
にこりと笑う陛下に僕はちらりとフリードリヒを見れば頷かれた。あ、言っても大丈夫ってことか。
「もしかしたら光魔法と闇魔法が使えるかもしれません」
「? 今でも光魔法と闇魔法は使えているだろう?」
「元々光魔法と闇魔法を持っている人でなくても使える可能性があるんです」
「なっ?!」
その言葉に反応したのはやはりリーシャのお父さんとエストラさんだった。第二魔導士団長さん(ハリバドラさんって言うらしい)とソルゾ先生も目を見開いてる。
僕の声が聞こえたアルシュ達は「ああ、だからか」と妙に納得しているし、騎士団長さん達も信じられないという表情を浮かべている。
「それは…つまり、元々属性を持っていなくても使える、と?」
「はい。可能性ですが」
「そ、れはどういうことですか?」
震える声でそう聞くのはソルゾ先生。
「フリードリヒ殿下達には先にお話してありますが、恐らく光と闇の三原色でいけるのでは、と」
「三原色?」
「はい。光の三原色は火・水・風。闇の三原色はちょっと違うんですが火・水・土です」
「それは…」
とソルゾ先生が口にした時にハッとそれに気付いた。
「『神の目』…」
「はい。先生たちから見えるもやもやがその人の持っている属性だと分りました」
「まさかそんなことが…」
「嘘ではない。嘘だと思うならレイジスに見てもらうといい」
涼しい顔をしてカップを傾けるフリードリヒに言葉を失ったのはソルゾ先生。まぁ何回か見てるからねー。嘘ではないことは分かってるはず。何とも言えない表情で僕を見つめているのはリーシャのお父さんとハリバドラさん。
「だから言ったでしょ? 親父。今日はちょっと覚悟しておいた方がいいよって」
にやにやしながらそう言うのはリーシャ。
というか、僕の奇行や変な事を言う事に慣れてない人の反応はこれが当たり前だと思うんだ。フリードリヒ達は慣れすぎちゃってるんだよね。
それに苦笑いを浮かべると「…それは仮説か?」と真剣な声色で問うてくる陛下に「仮説ですね」と頷いておく。
これは本当にあくまでも仮説だからね。しかも黒に関しては色が微妙に違うんだよねー。光の三原色はそのままでもいいけど、黒はシアン、マゼンタ、イエローつまりは印刷の色になるんだ。光はいけるけど闇は本当に可能性しかない。
「今すぐにその仮説が実証されればいいんだが…」
「んー…。もしかしたらアルシュかノアが実証するのに一番近いかも、です」
「ふむ」
そう。あの時一番可能性が高かったのはアルシュとノア。リーシャは元々光と闇を持ってるから除外。フリードリヒはまず、風魔法の緑を作らねばならない。その為に水と土魔法を頑張ってもらわねばならないからね!
「アルシュとノアか…」
そう言ってちらりと二人を見る陛下の視線に気付き、立ち上がると頭を下げる。
「私たちでお役に立てるのならば」
「アルシュ…」
アルシュのお父さんが心配そうに見てる。ううーん…、そうだよね。アルシュとノアは見てるけどほかの人たちは見てないからね…。心配だよね。
って、あれ? ぱちりと瞬いてフリードリヒを見れば「どうかしたのかい?」とにこりと微笑まれた。そのまま視線を下に向ければ、制服の胸元の辺りにきらりと光るものが。
「あ。それ付けてくださってるんですね」
「ああ。これか」
そう言って、ちゃりと音をたて六角柱のクリスタルを掌に乗せて見せてくれる。ふわぁ、嬉しい!
うふふ、と笑えば「レイジスもリボンを付けてくれているだろう?」と微笑まれるとそうだったと、膝の上のうさうさバッグを見る。そこには赤いリボンが揺らめていて、どこか誇らしげだ。それにふふっと笑うとそっと撫でる。
「アルシュもノアもリーシャも、ついでにソルゾもハーミットも付けてるぞ」
「ホントですか!?」
わあ! 皆付けてくれたのか! わー!嬉しいー!
そう、あのクリスタル。四人に渡した後、ソルゾ先生とハーミット先生にも渡したんだ。父様にもね! ソルゾ先生には万華鏡も一緒に渡したら、すごく喜んでくれたんだ! それと万華鏡は陛下にも渡してある。
こんなのできましたよーっていうことで渡したんだけど、陛下も喜んでいただいたんだ。よかったー!
「それは非常に羨ましいがまずは光魔法と闇魔法だな」
「羨ましいんですか?」
「ああ。とても、な」
そう言って笑う陛下に、にへりと笑えば「あとでこっそり渡せないかなー」なんて思ってたんだけど…。
「陛下には私から素敵なものを差し上げますので、息子に集らないでくださいね」
ぷぎゅ。父様に「渡さなくていいからね?」と先に釘を刺されてしまった。こうなると僕は何もできない。父様は陛下の扱いがうまいなぁ、とほへぇと間抜けな顔で見てると「レイジス、口空いてるよ」と開いた口に、あまーいイチゴのオムレットを突っ込まれる。口に入ったものは食べられる、という僕の残念な頭はむぎゅむぎゅと疑問を持つことなく咀嚼する。
甘酸っぱいいちごと、あまーいクリームが口の中で混ざってとってもうままー。んふんふと鼻を鳴らしながらフリードリヒにオムレットを食べさせてもらってる僕。しょっぱいもの食べた後は甘いものいいよねー。逆でもいいけど。
「幸せそうで私も嬉しいよ。フリードリヒ」
そう僕たちを見て呟く陛下の瞳はどこか揺れていて。
同情のような、憐れむようなそんな色を見つけた僕は、むぐむぐと口を動かしながら首を傾げるのだった。
■■■
「じゃあ、お願いね!」
「はい」
「楽しみですね」
朝ご飯兼おやつを食べた僕たちは、陛下も一緒に魔法をぶっぱしてもいいよっていう訓練場へと移動してきた。ここは宮廷魔導士さんたちが訓練するところだから、護りが強固なんだって。たまーに魔法が暴走して半壊するらしいけど。すごいね!
お腹いっぱいになった僕たちがここに来た理由はたった一つ。
さっきの仮定を実証するため。
予め作ってあった水と土の魔石をそれぞれアルシュとノアに渡して陛下と父様、そしてフリードリヒは下がってもらって魔導士団の皆に守ってもらうことに。
僕の側にはソルゾ先生とエストラさん。両副団長さんに付いてもらっている。
魔石を握った二人からちょっと離れて「よろしくねー!」と手を振れば、小さく手を上げられる。
それから二人が集中し、属性武器を作っていく。二人同時でもやっぱりアルシュの方が早い。一度触れて作ってるから魔力の流れを掴むのが早いなー。ノアはちょっと苦戦してる。ノアは見ただけだからね。その辺りは頑張ってもらうしかない。
ゆっくりとアルシュの手に水でできた弓が形作られていくのを全員が固唾を飲んで見守っている。ザザザ、と水の流れる音が止むとアルシュの手には美しい青色の弓が握られていて、それを見た魔導士、そして騎士さん達が言葉を失っている。
それからノアの手にもアルシュとは違う弓が形作られていてこっちは黄色…というよりちょっと橙色っぽい。たぶん『金』のスキルが混ざってるんだろうなー。
なんて思ってたけどここからは僕の仕事。キンと『神の目』を発動させると、誰かが息を飲んだ。あ、初めて見るもんね。ごめんね。
「アルシュはもうちょっとそのままで。ノアは…矢、出せる?」
「矢…ですか?」
「うん。ちょびっとだけでいいんだ」
「ふむ。やってみます」
そう言って弓を引くノアに眉を寄せる陛下。何もないものを摘まんでるようにしか見えませんもんね。けど。
矢がはっきりと見えた瞬間、矢じりの先端が光る。うおぁ?! 眩しいー!と思いきや、全然眩しくない。あれれー? なんでー?
けどその時、アルシュから白いもやもやが大きくなった。
「アルシュ! 今なら光魔法使える! 弓に気持ち悪い感覚を流せば行けるよ!」
「はい!」
僕の声にアルシュが反応して、瞳を閉じる。そして水の弓が徐々に白が混ざっていく。アルシュすごーい!
アルシュが光魔法を使おうとしてる時に、ノアも黒いもやもやが膨らむ。
「ノア! ノアもいける!」
「っつ! 分かりました!」
その言葉だけで理解してくれるノアもやっぱりすごい!
ほわぁと二人を見てたんだけど、なんかノアの様子がおかしい。どうしたの?!
「ノア! どうしたの?! ノア!」
「――――…ッ! 魔力が…!」
「暴走し始めてる?!」
アルシュは安定してるけどノアの方は黒くなった弓を持つ手がぶるぶると震え、その手をアルシュが掴み奥歯を噛んで耐えている。
すると二人から強烈な光が発せられたかと思うと、それに飲み込まれた。でも僕はその光すら眩しく感じない。きっと他の人には見えないだろう光の中心にいる二人の姿が見える。何かに耐えてる二人にたまらず駆け出せば「レイジス様!」というエストラさんの声が聞こえる。ごめん!
「アルシュ! ノア!」
僕が二人の名前を叫ぶと、その光が何かに吸収されるように動いた。うえ?! 何?!
光と闇の魔力が混ざりあい、二人の左胸の辺りに吸収されるのを見て言葉を失うけど、まずは怪我ないか確認しないと!
「大丈夫?!」
光が治まり、肩で息をしてる二人に声をかければ「だいじょうぶ、です」とアルシュが小さく笑う。ノアは?! ばっとノアの方を見れば、眉を寄せて汗をかいてはいるけれど怪我はなさそう。でも一応治癒魔法をかけておく。
はぁはぁと荒い息を吐く二人にソルゾ先生とエストラさんが駆け寄ってくると「大丈夫です」と告げている。ふらつく様子もない。ただ肩で息をしているだけ。
「レイジス様」
「え?」
「闇魔法はありますか?」
エストラさんに支えられるようにそう告げるノアに、僕は泣きそうになる。
「そんなことよりノアだよ! 大丈夫? 痛いところない?」
「先程治癒魔法をかけていただいたので問題はありません。それよりも…」
「成功しましたか?」という問いに唇を噛むと、ノアに抱き付く。
「レイジス様?」
「成功したかなんてどうでもいい! ノアが怪我しなくてよかった…!」
えぐえぐと泣きながらお腹に顔を埋めれば「えっと…?」と困惑しているノア。
「どうしましょう?」とエストラさんに聞いてるけど、エストラさんも困惑してるようで「ソルゾ・カルティス」とソルゾ先生の名前を呼ぶ。
「レイジス様、落ち着いてください」
そう言いながら背中を優しく撫でてくれるソルゾ先生。それに幾分か落ち着きを取り戻せば、直ぐ近くにフリードリヒとリーシャがいた。
ずびび、と鼻を鳴らしてお腹から離れると「ああ、そのままだと腫れますよ」と変な事を心配してくれる。
「ほら、レイジス」
フリードリヒから差し出されたハンカチで鼻をかみ、涙を指で拭われるとようやく僕も落ち着く。
あぁ…ノアの制服が大変なことに…。どうしよう、とノアを見れば「大丈夫ですか?」と僕のことを心配してくれる。違うんだよー! 制服がー!
「制服は後で浄化魔法で綺麗にしましょうね」
「ふぁい」
よしよし、と頭を撫でられながらそう答えればノアの背後から黒いもやもやが見て取れた。あ、そういえば『神の目』発動したままだった。そのままアルシュを見れば、しっかりと白いもやもやが背後にある。
すん、と鼻をすすってから「だいじょぶ。ちゃんと光魔法と闇魔法、使えるよ」と言えば、ほっとした表情を浮かべるアルシュとノア。
「しかし…あの光、ここに吸い込まれた気がするんだが…」
「アルシュもそうか。暴走した魔力がこれに吸い込まれたような気がしてな」
おん? どういうこと?
二人がいう場所には僕があげたクリスタルが揺れている。え? もしかしてこれが魔力を吸い取ったの?
「大丈夫か? 二人とも」
「はっ」
落ち着いた僕たちを見て陛下が側までくると、僕とフリードリヒ以外の全員が頭を下げる。それに「よい」という一言で頭を上げる皆に頷くと僕を見た。
「それが『神の目』か」
「あ、はい。すみません! すぐに切りますね!」
おっと! このままだったら陛下の属性を見てしまう所だった! 危ない危ない! 慌てて『神の目』を切ると「ほう」と感心したような声が漏れた。
「既に制御はできているのか」
「あ、はい」
「そうか。ならいい」
うっかり「学園長先生に教えてもらいました」って言わなくてよかったー! 学園長先生が神様だって知ってるの僕とメトル君だけだもんね。ふいー。焦ったー!
「怪我はないか?」
「はっ。レイジス様に治癒魔法をかけていただきました」
「そうか」
陛下の言葉に一番ほっとしたのはアルシュのお父さんだよね。ごめんなさい。ちょっと急ぎ過ぎちゃいました。
しょん、と反省して肩を落とせば「レイジス」とフリードリヒに肩を抱かれる。甘やかされてるなぁ…と思いながらも頭を倒せば、腕を撫でてくれた。
「それで、魔法の方は?」
「レイジス様曰く無事、会得したと」
「なるほど。レイジスの仮説が実証されたわけか」
「こうなると全ての国に伝えなければなりませんね」
「そうだな。だがこれで教会の意味が変わってくるが」
やれやれ、と言った表情を浮かべる陛下に「陛下」とリーシャが前に出る。おお?
「なんだ? リーシャ・モグリワル」
「はっ。光の浄化魔法についてですが少々お耳に入れたいことがございます」
「申してみよ」
おあ?! あのリーシャが敬語使ってる! それに驚いて瞳をまん丸にすれば「後で覚えておいてくださいね」とにっこりと微笑まれる。ひえ! 思わずフリードリヒに抱き付けば「酷いことはしないよ」と笑われた。
「光の浄化魔法ですがそれを受ければ使えるのではないか、と」
「どういうことだ?」
「私はたまたま、偶然発動し暴走したレイジス様の光の浄化魔法を受けております。その後…」
「使えるようになった、と」
「はい」
おわー。リーシャよ…。なぜ僕の名前を出したんだい? たまたまできましたじゃダメなの?
「たまたま偶然で通すと、後々詳しく聞かれるからね。気分が悪いだろうけど我慢ね」とこそっと父様に耳打ちされる。なるほど。ならしょうがないか。
「報告にもあったが本当かい? レイジス」
「ほわっ?! あ、はい! 本当です!」
急に僕に振られるから変な声でちゃったよー! でも陛下は気にすることもなく「なら、レイジスも光の浄化魔法が使えるのか」と納得してる。おっふ…。今まで使わずになんとか「偶然だぞ!」を装ってきたけどここまでばれてるのか。
「ああ、報告がなかったからと言って咎めることはしないから安心したまえ」
「よかったー…」
はうーと肩から力を抜くと「このことをすぐさま各国に報告するように」とリーシャのお父さんに命じてるからこれからちょっと忙しくなるのかな? うう…ごめんね。
「では一度戻ろうか」
陛下のその一言で全員が再び中庭に集まることになった。
その後はお昼ご飯のオムライスを皆で食べて僕たちは部屋に戻った。後のことは僕たちには分からないからね。偉い人たちに丸投げ。父様も泣く泣く仕事に戻っていった。
そして僕に与えられた部屋の中にはいつものメンバーがいたりする。先生たちはいないけどね。
「アルシュ、ノア。それちょっと見せて」
「はい」
暴走した魔力が吸収されたと思しきクリスタルを貸してもらうと魔力を流し込んでみると、ほんのりと温かくなる。
あ、本当に魔力を吸収してる。しかも…。
「これ、そのまま魔力として使えるみたい」
「はい?」
おお、珍しい。アルシュとノアが同時に「何言ってるんですか?」って声出した。
「つまりは?」
「アルシュとノアの魔力が融合されてこの二人の疑似魔力的な何かになって、魔石状態になってます」
フリードリヒの問いに答えれば、顎に指を乗せたまま僕を見つめまた口を開く。
「ふむ。と、なると属性は?」
「ないですね。光と闇で打ち消し合ってなくなっちゃってます」
「と、言うことは無属性。ホントに魔石みたいですね」
うんうんとリーシャが頷き、僕はクリスタルを摘まんで下から覗いてみる。属性付きならたぶん色が付くはずだけど色が付いてないからね。これならばれないかも。
「アルシュもノアもありがと。これを使えば素早く属性武器が作れるかもしれない」
「え?」
「これ、僕が属性魔石を作ったときと同じか、それ以上の魔力が吸収されてるからね。アルシュとノアが使う分には問題ないけど、他の人が使うと大問題だからね」
はい、とアルシュとノアにクリスタルを返すと、真剣な表情で「間違えないように気を付けねばなりませんね」と頷く。そうなんだよねー。みんな一緒だからまちが…あ! そうだ!
「ちょっと待ってね! えっと確か…」
もじょもじょとうさうさバッグの中身を引っ掻き回す度に形がぼこぼこと変わるからちょっと怖い。でも確か…。
「あった!」
お目当てのものを探し出すと、じゃじゃーん!とそれを掌に乗せて大きく掲げる。それにぱちぱちとフリードリヒが拍手をしてくれるのがちょっと恥ずかしい。
「それは?」
「アレクトス君の露店で買ったガラス! ドロップ型で色もついてるからこれを付ければ間違えることもなくなると思って!」
「ですがそれは…」
「いいのいいの! 怪我人が出ちゃう方が大変なんだから!」
そう言って赤色と黄色のガラスを手にする。黄色は貰ったものじゃなくてちゃんと買ったやつ。貰ったものは別にしてあるからね!
「えっと…あ、これアクセサリー用に金具が付いてるからそのまま付けれるよ!」
はい、どうぞ。と赤色をアルシュに、黄色をノアに渡すと「では」とちょっと躊躇うように手にするとそのままクリスタルと同じ場所に金具を取り付ける。
カチャリ、というガラスとクリスタルが触れあう音がするけど、クリスタルからちょっと魔力が漏れ出して薄い膜になってるから傷付くことはないみたい。それにほっとすると「可愛いねー」とほんわかしてしまう。
するとアルシュとノアが顔を見合わせ「可愛い」と呟く。んふふ。そう言う二人も可愛いんだよー。
「レイジス」
「はい?」
にこにこほわほわしてるとフリードリヒがなぜか膝をぽんぽんと軽く叩いている。ん? 何してるんですか?
「今朝、肉まんを作りに厨房へ行く途中、転んだそうだね」
「ふぉ?!」
なななななななぜそれをフリードリヒが知ってるの?!
あの時いた騎士さんに「内緒ね! 内緒!」と言っておいたはずなのに!
「え? 転んだんですか?! 怪我は?!」
「治療はされたのですか?!」
「うわああああん! こうなるから内緒にしてって言っておいたのにー!」
「ふむ。しかも転んで騎士に抱えられたそうじゃないか」
「み゜」
転んだことを知ってるなら当然知ってますよね! うわああああん! 恥ずかしいよー!
しゅばっと両手で顔を隠せば「謝るのはこちらだな」とフリードリヒが告げる、んえ? なんでですか?
そろりと顔を覆った手を少しずらせば、眉を下げているフリードリヒがなぜか膝を付いて僕を見上げている。ほあ?! 何してるんですかー! あまりの驚き様に、後ろ髪がばびょっと逆立ってる。
「室内用の履物に躓いたそうだな」
「ふえ?」
「すまない」
「な、なんでフリードリヒ殿下が謝るんですか?」
あの時はきょろきょろと周りを見ていた僕が悪いのに。
「あまり歩くことを想定していないものだったからな。すまない。それは私が用意させたものだ」
「いえ…あの時は僕もよそ見してましたから殿下は悪くないです」
「それでも原因はそれだろう? すまなかった」
そう言って頭を下げるフリードリヒに僕はどうしたらいいのか分らない。あのスリッパなのかブーツなのか分からない代物は可愛いから好きだし、そもそも転ぶような構造はしていない。
となるとやっぱり僕が勝手に転んだわけで。
「フリードリヒ殿下」
「ああ」
「僕、あの履物可愛いから好きなんです」
「え?」
そう。なぜかふわふわもこもこのそれは僕の可愛いを刺激するもので。だからさ。
「転んだことを言わなかったのはごめんなさい。でも履物のせいじゃないですからフリードリヒ殿下も謝らないでください」
「………………」
「ね?」
眉を下げて僕を見つめるフリードリヒに、にこりと笑いながらそう言えば眉が寄ってから下を向く。大丈夫かな?と思いながら見つめていると、すっくと立ちあがり、両腕を広げられた。それにぱちりと瞬くとへらりと笑うとソファから立ち上がってその胸に飛び込む。わーい!
ぎゅうぎゅうとフリードリヒを抱きしめると、すりすりと頬摺りをする。んんー。久しぶりだなー。んふんふと笑っていると「じゃあ、転んだことを言わなかったレイジスには仕置きだね」と言われ、ピシリと固まる。ふえ?!
ばっと頬を胸から離しフリードリヒを見上げれば、にっこりとそれはそれは綺麗に微笑んでいて。
「ひにゃ…」
「今日一日、私の膝の上の刑だな」
「い、一日?!」
「ああ。夕飯もこのままだからね。レイジス」
「ふぉあ?!」
それってどうなの?! というかマナー的にどうなの?!
「心配しなくてもいい。夕飯はここで食べるように言ってあるからね」
「ふぎゅ」
思いの外怒ってたフリードリヒに、僕は逃げられないと悟る。引くつく笑顔を浮かべながら周りを見れば「言わなかったレイジス様が悪い」と頷いている。
すんっとしていた侍女さん達もどうやら同じようで。
「ああ、ご飯もちゃんと食べさせてあげるからね」
「みぎゃー!」
にっこりと楽しそうに微笑むフリードリヒに僕はただただ羞恥に耐えるしかないのだった。
「陛下お気を付けくださいね! 蒸したてふかふかですか…あっつ!」
「レイジスも気を付けるように。ほら。ふーふーしてあるから」
「ありがとうございます! フリードリヒ殿下!」
蒸したてふかふかな肉まんを皆で頬張りながら「面白いこと」が何かを聞く会議?中。
あちあちと言いながら皆、肉まんを手でちぎり、ふーふー言いながら冷まし、はぐりと食べる。あつあつうまうま。
事の始まりは僕の夢だった。すやすやと寝ていたのはいい。ただその夢がダメだった。なぜかって? その夢で僕はふかふかあつあつな肉まんを頬張っていたからだ。ふーふーと冷ましながら両手に肉まんを持っては、はふはふいいながら食べる僕。けどそれは夢だから現実には食べていない訳で。
あーん、はむっと夢の僕が肉まんを頬張った。現実の僕もはむっと肉まんを頬張った。けど。
「んむー!」
頬張ったのはふかふかな肉まんではなく、シーツ。美味しくもない、食べられないそれを口にしたところで目が覚めた。肉まんだと思ってむにむにと食べていたシーツはよだれでべたべたになっちゃった。ごめんなさい。
そこで肉まんは夢だったことにしょんもりしてもう一度寝直そうかとも思った。思ったんだよ。けどさ。
「肉まんが食べたい!」
そう思ってしまえば肉まんが食べたくなる訳で。そうなると寝直すなんて選択肢は放り投げて肉まんを作る、という選択肢一択になる。窓はカーテンがしてあるから時間は分らない。けどまだいつもの僕ならば夢の中の時間。
んむー!と両手を伸ばして伸びをする。そうすれば多少なりとも頭がすっきり!
よし!と無駄に気合を入れてベッドを降りる。用意されているブーツなんだかアニマルスリッパなんだかわかんないそれを履くと、うさうさバッグを斜めにかける。父様が部屋を出るならこれを持って行くこと、と両手を握って僕の目を見てそう言った。それに頷けば「良い子だ」と頭を撫でてもらった。
準備万端!と意気揚々に鍵を開けてドアを開ければ、ドアの前にいた騎士さんが振り向いた。あ、おはようございます。
「おはようございます。レイジス様。いかがされましたか?」
「おはようございます。えっと…厨房に行ってから後宮のキッチンに行きたいんですけど…」
「では申し訳ありませんが少しお待ちいただいても?」
「あ、はい。大丈夫です」
そう言うと、一人の騎士さんが隣の部屋に歩いていく。そういえば僕の隣は騎士さんの詰め所的ななにかだっけ? ん? 違うような気もするけどいっか!
ドアから半分くらい身体を出した状態で待ってると、隣の部屋から3人出てきた。おあ?! そんなに必要なんですか?!とそれに驚いているともう一人の騎士さんが「ついていく者は2人ですからご安心を」とにっこりと笑ってくれた。
あ、そうなんだ。びっくりしたー…。
「こちらの者達に付いていってください」
「あ、ありがとうございます」
「では」
そう言って僕の部屋の前に立つ騎士さんにお礼を言ってから、新しく来てくれた騎士さんに前後を挟まれるようにして厨房へ。あ、そういえば僕、寝間着のままだ。でも着替えるにしても何を着ていいか分んないし…。侍女さん達はまだ寝てるだろうし。ま、いっか。
今日はくまさんの耳が付いてるネグリジェ。他に比べればそんなに派手じゃないからね。
カツカツ、という音と一緒にぺたぺたという音が誰もいない廊下に響く。この時間だとこんなに静かなんだー。ちょっと怖いね。なんて思いながらきょろきょろと首を動かしながら歩けば、当然前が不注意になるわけで。
「にょっ?!」
「レイジス様?!」
履物に躓いて転びそうになったところを後ろにいた騎士さんがお腹に腕を回して支えてくれた。おおー! びっくりしたー…!
どきどきとする心臓を押さえながら、ぷらんとしていると「お怪我はありませんか?!」と前にいた騎士さんが慌てて降ろしてくれる。おっふ…。大丈夫です。すみません。でも僕、背が低いからちょっとした高さでも浮いちゃうんだよね。
「大丈夫です。ごめんなさい」
今のは完全に僕の前方不注意。騎士さん達に謝れば、ほっと肩を下げた。うん、ごめんなさい。
それからはちょっとゆっくり歩いてくれる。うん。コンパスの長さも違うからね。本当に申し訳ない。
騎士さん達に見守られながら厨房に着けば、餃子作りで共に戦場を駆け抜けた見知った人がいて「おはようございます」と頭を下げれば「レイジス様?!」と驚かれた。まぁ、無理もないか。いつもなら寝てる時間だからねー。
それになんだなんだと厨房の人たちが集まって来ちゃった。おおう。
「どうかされましたか?!」
「ん、ちょっと食べたいものができたから来ちゃった」
その一言で、厨房にいた人たち全員の瞳が光る。ついでに騎士さん達も。え? え?
「ここで一緒に作っても大丈夫ですか?」
「後宮で作ろうと思ったんですが…ううーん…どうしよう」
きっと今、朝食の仕込みの途中だよね? 迷惑だろうから後宮で作った方がいいかな?
「朝食の仕込みなら終わってますからここで作りましょう? ね?」
なんかぐいぐいくるね! でもみんながいるならさくさく作れそうかなー? 今回も包むからね!
「じゃあ、お言葉に甘えてここで作ります」
「ありがとうございます! よっし! お前ら準備だ!」
「おー!」
体育会系かな? なんて思いながらてきぱきと準備が進められて、無事肉まんを作る準備が素早く整った。
それから父様がまず厨房に現れて「レイジスー! 心配したよー!」と涙目で言われてしまった。ごめんね、父様! どうしても肉まんが食べたかったんだ!
「じゃあ、父様ここで見ててもいいかな?」って言うものだから、一瞬厨房内が緊張した。あ、見てるなら父様も手伝って!
「じゃあじゃあ父様も手伝ってください!」
「手伝う? …手伝えるのかい?」
「はい! 餃子と同じように包まなきゃいけないんで!」
「ううーん…。父様こういったこと初めてだけどできそう?」
「問題ありません! 包んであれば肉まんになりますから!」
「そっか、じゃあ大丈夫だね!」と笑う父様。ついでにここまで連れてきてくれた騎士さん達も巻き込んで、れっつ・肉まん作り!
皆わいわいと話しながら皮に餡を包んでいく。これがなかなか難しくて初めの2、3個はだいぶ不格好になっちゃった。でも肉まん作りで「発酵」と言うことを知った料理人さん達大興奮。あれ? もしかして「発酵」って言葉を知らない? だから発酵食品が少なかったのかな? チーズはあるけど。
よし、これを期にヨーグルトとか作ってもらおう!
なんて皆で肉まんを作ってたけどふと視界に映った紫色。おお? あれは?
「あれ…サツマイモだよね? いっぱいある!」
「ああ…、あれですか…」
どことなく歯切れの悪い言い方に首を傾げると「何に使えばいいのか分からなくて」と困ったように笑う。あ、なるほど。サツマイモのレシピはいっぱいあるけどね。知らないとどうしたらいいか分かんなくなるよね…。
「じゃあ、あれ作りましょう!」
「あれ?」
肉まんを作ってた全員が首を傾げるのを見て、僕はむふふと1人笑うのだった。
そんなこんなで出来上がった肉まんと鬼まんじゅう。
ホントはスイートポテトとか大学芋とかでもよかったんだけど、肉まんを作るために蒸篭があったからちょうどいいやって思ってさ。
形が不格好なのを一番初めにむしむしして皆に食べてもらった。熱々だからねー。みーんなでふーふー言いながら食べた。というか皆未知の食べ物に対して恐怖心とかないんだねー。料理人さん達はすでに復習と言わんばかりに自分たちで肉まん作りを開始している。あ、これお昼ご飯だ!
ごめんね! 王宮勤めの人! 今日のお昼ご飯は強制的に肉まんになります!
と、いうわけで僕が食べたかった肉まんは無事、陛下やフリードリヒにも食されております。王様があつあつの肉まんをはふはふいいながら手掴みで食べる姿はものすごくシュールだ。けどもぐもぐ食べてくれるからお気に召されたようだ。よかったー!
それに加えてもちもちの鬼まんじゅうも食べてくれる。お腹いっぱいになっちゃうねー。
ちなみにあの時肉まんを作ってくれた人たちには先に鬼まんじゅうも食べてる。サツマイモが甘かったからそのままサツマイモきんとんにしてもおいしそう。
サツマイモきんとんは蒸して裏ごしして(潰すだけでも大丈夫)お砂糖入れて(バター入れてもおいしい)布巾(サランラップでも全然いける)できゅきゅって絞れば簡単にできるおいしいおやつだね。
「さて、腹がいっぱいになる前に聞かねばならんな」
手を浄化魔法で綺麗にして、肉まんをあつあつ言いながら3個食べた所で陛下がそう告げる。
ちなみに第一宮廷魔導士団、団長はリーシャのお父さんと言うことは知ってる。それに副団長もエストラさんということも知ってる。更に言えば第二魔導士団長副団長もソルゾ先生だから問題ない。あとは第二魔導士団長さんなんだけど…。
なんだろう。めちゃくちゃいい人っぽい。なんせ鬼まんじゅうをさっきからずっと食べてるんだ。肉まん? なにそれ?って言うくらい鬼まんじゅう食べてる。
そういえば以前ハーミット先生が「第二騎士団は平民騎士団」って言ってたけど…。なるほど。そう言うことか。
そんなことを思いながら「けふ」と小さく息を吐けば「そうですね」と肉まん食べてたソルゾ先生が頷く。リーシャのお父さんもキリッとしてるけどすでに肉まんと鬼まんじゅうを一通り食べてる。
お口にあったのなら幸いです。
ついでに言えばちょっと離れた場所でアルシュ、ノア、リーシャ、ハーミット先生を始めとする第一・第二騎士団の皆さんもいる。もちろん肉まんと鬼まんじゅうがテーブルに置かれてるよ! というか流石騎士さん達は胃袋が違う。僕たちがあちちと言いながら食べてる間に二つ目に手が伸び、三つ、四つとなくなっていく。これには僕もにっこり。よかったー!
「それで? 何を見つけたんだい?」
にこりと笑う陛下に僕はちらりとフリードリヒを見れば頷かれた。あ、言っても大丈夫ってことか。
「もしかしたら光魔法と闇魔法が使えるかもしれません」
「? 今でも光魔法と闇魔法は使えているだろう?」
「元々光魔法と闇魔法を持っている人でなくても使える可能性があるんです」
「なっ?!」
その言葉に反応したのはやはりリーシャのお父さんとエストラさんだった。第二魔導士団長さん(ハリバドラさんって言うらしい)とソルゾ先生も目を見開いてる。
僕の声が聞こえたアルシュ達は「ああ、だからか」と妙に納得しているし、騎士団長さん達も信じられないという表情を浮かべている。
「それは…つまり、元々属性を持っていなくても使える、と?」
「はい。可能性ですが」
「そ、れはどういうことですか?」
震える声でそう聞くのはソルゾ先生。
「フリードリヒ殿下達には先にお話してありますが、恐らく光と闇の三原色でいけるのでは、と」
「三原色?」
「はい。光の三原色は火・水・風。闇の三原色はちょっと違うんですが火・水・土です」
「それは…」
とソルゾ先生が口にした時にハッとそれに気付いた。
「『神の目』…」
「はい。先生たちから見えるもやもやがその人の持っている属性だと分りました」
「まさかそんなことが…」
「嘘ではない。嘘だと思うならレイジスに見てもらうといい」
涼しい顔をしてカップを傾けるフリードリヒに言葉を失ったのはソルゾ先生。まぁ何回か見てるからねー。嘘ではないことは分かってるはず。何とも言えない表情で僕を見つめているのはリーシャのお父さんとハリバドラさん。
「だから言ったでしょ? 親父。今日はちょっと覚悟しておいた方がいいよって」
にやにやしながらそう言うのはリーシャ。
というか、僕の奇行や変な事を言う事に慣れてない人の反応はこれが当たり前だと思うんだ。フリードリヒ達は慣れすぎちゃってるんだよね。
それに苦笑いを浮かべると「…それは仮説か?」と真剣な声色で問うてくる陛下に「仮説ですね」と頷いておく。
これは本当にあくまでも仮説だからね。しかも黒に関しては色が微妙に違うんだよねー。光の三原色はそのままでもいいけど、黒はシアン、マゼンタ、イエローつまりは印刷の色になるんだ。光はいけるけど闇は本当に可能性しかない。
「今すぐにその仮説が実証されればいいんだが…」
「んー…。もしかしたらアルシュかノアが実証するのに一番近いかも、です」
「ふむ」
そう。あの時一番可能性が高かったのはアルシュとノア。リーシャは元々光と闇を持ってるから除外。フリードリヒはまず、風魔法の緑を作らねばならない。その為に水と土魔法を頑張ってもらわねばならないからね!
「アルシュとノアか…」
そう言ってちらりと二人を見る陛下の視線に気付き、立ち上がると頭を下げる。
「私たちでお役に立てるのならば」
「アルシュ…」
アルシュのお父さんが心配そうに見てる。ううーん…、そうだよね。アルシュとノアは見てるけどほかの人たちは見てないからね…。心配だよね。
って、あれ? ぱちりと瞬いてフリードリヒを見れば「どうかしたのかい?」とにこりと微笑まれた。そのまま視線を下に向ければ、制服の胸元の辺りにきらりと光るものが。
「あ。それ付けてくださってるんですね」
「ああ。これか」
そう言って、ちゃりと音をたて六角柱のクリスタルを掌に乗せて見せてくれる。ふわぁ、嬉しい!
うふふ、と笑えば「レイジスもリボンを付けてくれているだろう?」と微笑まれるとそうだったと、膝の上のうさうさバッグを見る。そこには赤いリボンが揺らめていて、どこか誇らしげだ。それにふふっと笑うとそっと撫でる。
「アルシュもノアもリーシャも、ついでにソルゾもハーミットも付けてるぞ」
「ホントですか!?」
わあ! 皆付けてくれたのか! わー!嬉しいー!
そう、あのクリスタル。四人に渡した後、ソルゾ先生とハーミット先生にも渡したんだ。父様にもね! ソルゾ先生には万華鏡も一緒に渡したら、すごく喜んでくれたんだ! それと万華鏡は陛下にも渡してある。
こんなのできましたよーっていうことで渡したんだけど、陛下も喜んでいただいたんだ。よかったー!
「それは非常に羨ましいがまずは光魔法と闇魔法だな」
「羨ましいんですか?」
「ああ。とても、な」
そう言って笑う陛下に、にへりと笑えば「あとでこっそり渡せないかなー」なんて思ってたんだけど…。
「陛下には私から素敵なものを差し上げますので、息子に集らないでくださいね」
ぷぎゅ。父様に「渡さなくていいからね?」と先に釘を刺されてしまった。こうなると僕は何もできない。父様は陛下の扱いがうまいなぁ、とほへぇと間抜けな顔で見てると「レイジス、口空いてるよ」と開いた口に、あまーいイチゴのオムレットを突っ込まれる。口に入ったものは食べられる、という僕の残念な頭はむぎゅむぎゅと疑問を持つことなく咀嚼する。
甘酸っぱいいちごと、あまーいクリームが口の中で混ざってとってもうままー。んふんふと鼻を鳴らしながらフリードリヒにオムレットを食べさせてもらってる僕。しょっぱいもの食べた後は甘いものいいよねー。逆でもいいけど。
「幸せそうで私も嬉しいよ。フリードリヒ」
そう僕たちを見て呟く陛下の瞳はどこか揺れていて。
同情のような、憐れむようなそんな色を見つけた僕は、むぐむぐと口を動かしながら首を傾げるのだった。
■■■
「じゃあ、お願いね!」
「はい」
「楽しみですね」
朝ご飯兼おやつを食べた僕たちは、陛下も一緒に魔法をぶっぱしてもいいよっていう訓練場へと移動してきた。ここは宮廷魔導士さんたちが訓練するところだから、護りが強固なんだって。たまーに魔法が暴走して半壊するらしいけど。すごいね!
お腹いっぱいになった僕たちがここに来た理由はたった一つ。
さっきの仮定を実証するため。
予め作ってあった水と土の魔石をそれぞれアルシュとノアに渡して陛下と父様、そしてフリードリヒは下がってもらって魔導士団の皆に守ってもらうことに。
僕の側にはソルゾ先生とエストラさん。両副団長さんに付いてもらっている。
魔石を握った二人からちょっと離れて「よろしくねー!」と手を振れば、小さく手を上げられる。
それから二人が集中し、属性武器を作っていく。二人同時でもやっぱりアルシュの方が早い。一度触れて作ってるから魔力の流れを掴むのが早いなー。ノアはちょっと苦戦してる。ノアは見ただけだからね。その辺りは頑張ってもらうしかない。
ゆっくりとアルシュの手に水でできた弓が形作られていくのを全員が固唾を飲んで見守っている。ザザザ、と水の流れる音が止むとアルシュの手には美しい青色の弓が握られていて、それを見た魔導士、そして騎士さん達が言葉を失っている。
それからノアの手にもアルシュとは違う弓が形作られていてこっちは黄色…というよりちょっと橙色っぽい。たぶん『金』のスキルが混ざってるんだろうなー。
なんて思ってたけどここからは僕の仕事。キンと『神の目』を発動させると、誰かが息を飲んだ。あ、初めて見るもんね。ごめんね。
「アルシュはもうちょっとそのままで。ノアは…矢、出せる?」
「矢…ですか?」
「うん。ちょびっとだけでいいんだ」
「ふむ。やってみます」
そう言って弓を引くノアに眉を寄せる陛下。何もないものを摘まんでるようにしか見えませんもんね。けど。
矢がはっきりと見えた瞬間、矢じりの先端が光る。うおぁ?! 眩しいー!と思いきや、全然眩しくない。あれれー? なんでー?
けどその時、アルシュから白いもやもやが大きくなった。
「アルシュ! 今なら光魔法使える! 弓に気持ち悪い感覚を流せば行けるよ!」
「はい!」
僕の声にアルシュが反応して、瞳を閉じる。そして水の弓が徐々に白が混ざっていく。アルシュすごーい!
アルシュが光魔法を使おうとしてる時に、ノアも黒いもやもやが膨らむ。
「ノア! ノアもいける!」
「っつ! 分かりました!」
その言葉だけで理解してくれるノアもやっぱりすごい!
ほわぁと二人を見てたんだけど、なんかノアの様子がおかしい。どうしたの?!
「ノア! どうしたの?! ノア!」
「――――…ッ! 魔力が…!」
「暴走し始めてる?!」
アルシュは安定してるけどノアの方は黒くなった弓を持つ手がぶるぶると震え、その手をアルシュが掴み奥歯を噛んで耐えている。
すると二人から強烈な光が発せられたかと思うと、それに飲み込まれた。でも僕はその光すら眩しく感じない。きっと他の人には見えないだろう光の中心にいる二人の姿が見える。何かに耐えてる二人にたまらず駆け出せば「レイジス様!」というエストラさんの声が聞こえる。ごめん!
「アルシュ! ノア!」
僕が二人の名前を叫ぶと、その光が何かに吸収されるように動いた。うえ?! 何?!
光と闇の魔力が混ざりあい、二人の左胸の辺りに吸収されるのを見て言葉を失うけど、まずは怪我ないか確認しないと!
「大丈夫?!」
光が治まり、肩で息をしてる二人に声をかければ「だいじょうぶ、です」とアルシュが小さく笑う。ノアは?! ばっとノアの方を見れば、眉を寄せて汗をかいてはいるけれど怪我はなさそう。でも一応治癒魔法をかけておく。
はぁはぁと荒い息を吐く二人にソルゾ先生とエストラさんが駆け寄ってくると「大丈夫です」と告げている。ふらつく様子もない。ただ肩で息をしているだけ。
「レイジス様」
「え?」
「闇魔法はありますか?」
エストラさんに支えられるようにそう告げるノアに、僕は泣きそうになる。
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「先程治癒魔法をかけていただいたので問題はありません。それよりも…」
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「レイジス様、落ち着いてください」
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ずびび、と鼻を鳴らしてお腹から離れると「ああ、そのままだと腫れますよ」と変な事を心配してくれる。
「ほら、レイジス」
フリードリヒから差し出されたハンカチで鼻をかみ、涙を指で拭われるとようやく僕も落ち着く。
あぁ…ノアの制服が大変なことに…。どうしよう、とノアを見れば「大丈夫ですか?」と僕のことを心配してくれる。違うんだよー! 制服がー!
「制服は後で浄化魔法で綺麗にしましょうね」
「ふぁい」
よしよし、と頭を撫でられながらそう答えればノアの背後から黒いもやもやが見て取れた。あ、そういえば『神の目』発動したままだった。そのままアルシュを見れば、しっかりと白いもやもやが背後にある。
すん、と鼻をすすってから「だいじょぶ。ちゃんと光魔法と闇魔法、使えるよ」と言えば、ほっとした表情を浮かべるアルシュとノア。
「しかし…あの光、ここに吸い込まれた気がするんだが…」
「アルシュもそうか。暴走した魔力がこれに吸い込まれたような気がしてな」
おん? どういうこと?
二人がいう場所には僕があげたクリスタルが揺れている。え? もしかしてこれが魔力を吸い取ったの?
「大丈夫か? 二人とも」
「はっ」
落ち着いた僕たちを見て陛下が側までくると、僕とフリードリヒ以外の全員が頭を下げる。それに「よい」という一言で頭を上げる皆に頷くと僕を見た。
「それが『神の目』か」
「あ、はい。すみません! すぐに切りますね!」
おっと! このままだったら陛下の属性を見てしまう所だった! 危ない危ない! 慌てて『神の目』を切ると「ほう」と感心したような声が漏れた。
「既に制御はできているのか」
「あ、はい」
「そうか。ならいい」
うっかり「学園長先生に教えてもらいました」って言わなくてよかったー! 学園長先生が神様だって知ってるの僕とメトル君だけだもんね。ふいー。焦ったー!
「怪我はないか?」
「はっ。レイジス様に治癒魔法をかけていただきました」
「そうか」
陛下の言葉に一番ほっとしたのはアルシュのお父さんだよね。ごめんなさい。ちょっと急ぎ過ぎちゃいました。
しょん、と反省して肩を落とせば「レイジス」とフリードリヒに肩を抱かれる。甘やかされてるなぁ…と思いながらも頭を倒せば、腕を撫でてくれた。
「それで、魔法の方は?」
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「なるほど。レイジスの仮説が実証されたわけか」
「こうなると全ての国に伝えなければなりませんね」
「そうだな。だがこれで教会の意味が変わってくるが」
やれやれ、と言った表情を浮かべる陛下に「陛下」とリーシャが前に出る。おお?
「なんだ? リーシャ・モグリワル」
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はうーと肩から力を抜くと「このことをすぐさま各国に報告するように」とリーシャのお父さんに命じてるからこれからちょっと忙しくなるのかな? うう…ごめんね。
「では一度戻ろうか」
陛下のその一言で全員が再び中庭に集まることになった。
その後はお昼ご飯のオムライスを皆で食べて僕たちは部屋に戻った。後のことは僕たちには分からないからね。偉い人たちに丸投げ。父様も泣く泣く仕事に戻っていった。
そして僕に与えられた部屋の中にはいつものメンバーがいたりする。先生たちはいないけどね。
「アルシュ、ノア。それちょっと見せて」
「はい」
暴走した魔力が吸収されたと思しきクリスタルを貸してもらうと魔力を流し込んでみると、ほんのりと温かくなる。
あ、本当に魔力を吸収してる。しかも…。
「これ、そのまま魔力として使えるみたい」
「はい?」
おお、珍しい。アルシュとノアが同時に「何言ってるんですか?」って声出した。
「つまりは?」
「アルシュとノアの魔力が融合されてこの二人の疑似魔力的な何かになって、魔石状態になってます」
フリードリヒの問いに答えれば、顎に指を乗せたまま僕を見つめまた口を開く。
「ふむ。と、なると属性は?」
「ないですね。光と闇で打ち消し合ってなくなっちゃってます」
「と、言うことは無属性。ホントに魔石みたいですね」
うんうんとリーシャが頷き、僕はクリスタルを摘まんで下から覗いてみる。属性付きならたぶん色が付くはずだけど色が付いてないからね。これならばれないかも。
「アルシュもノアもありがと。これを使えば素早く属性武器が作れるかもしれない」
「え?」
「これ、僕が属性魔石を作ったときと同じか、それ以上の魔力が吸収されてるからね。アルシュとノアが使う分には問題ないけど、他の人が使うと大問題だからね」
はい、とアルシュとノアにクリスタルを返すと、真剣な表情で「間違えないように気を付けねばなりませんね」と頷く。そうなんだよねー。みんな一緒だからまちが…あ! そうだ!
「ちょっと待ってね! えっと確か…」
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「あった!」
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「レイジス」
「はい?」
にこにこほわほわしてるとフリードリヒがなぜか膝をぽんぽんと軽く叩いている。ん? 何してるんですか?
「今朝、肉まんを作りに厨房へ行く途中、転んだそうだね」
「ふぉ?!」
なななななななぜそれをフリードリヒが知ってるの?!
あの時いた騎士さんに「内緒ね! 内緒!」と言っておいたはずなのに!
「え? 転んだんですか?! 怪我は?!」
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「ふむ。しかも転んで騎士に抱えられたそうじゃないか」
「み゜」
転んだことを知ってるなら当然知ってますよね! うわああああん! 恥ずかしいよー!
しゅばっと両手で顔を隠せば「謝るのはこちらだな」とフリードリヒが告げる、んえ? なんでですか?
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「すまない」
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「いえ…あの時は僕もよそ見してましたから殿下は悪くないです」
「それでも原因はそれだろう? すまなかった」
そう言って頭を下げるフリードリヒに僕はどうしたらいいのか分らない。あのスリッパなのかブーツなのか分からない代物は可愛いから好きだし、そもそも転ぶような構造はしていない。
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「フリードリヒ殿下」
「ああ」
「僕、あの履物可愛いから好きなんです」
「え?」
そう。なぜかふわふわもこもこのそれは僕の可愛いを刺激するもので。だからさ。
「転んだことを言わなかったのはごめんなさい。でも履物のせいじゃないですからフリードリヒ殿下も謝らないでください」
「………………」
「ね?」
眉を下げて僕を見つめるフリードリヒに、にこりと笑いながらそう言えば眉が寄ってから下を向く。大丈夫かな?と思いながら見つめていると、すっくと立ちあがり、両腕を広げられた。それにぱちりと瞬くとへらりと笑うとソファから立ち上がってその胸に飛び込む。わーい!
ぎゅうぎゅうとフリードリヒを抱きしめると、すりすりと頬摺りをする。んんー。久しぶりだなー。んふんふと笑っていると「じゃあ、転んだことを言わなかったレイジスには仕置きだね」と言われ、ピシリと固まる。ふえ?!
ばっと頬を胸から離しフリードリヒを見上げれば、にっこりとそれはそれは綺麗に微笑んでいて。
「ひにゃ…」
「今日一日、私の膝の上の刑だな」
「い、一日?!」
「ああ。夕飯もこのままだからね。レイジス」
「ふぉあ?!」
それってどうなの?! というかマナー的にどうなの?!
「心配しなくてもいい。夕飯はここで食べるように言ってあるからね」
「ふぎゅ」
思いの外怒ってたフリードリヒに、僕は逃げられないと悟る。引くつく笑顔を浮かべながら周りを見れば「言わなかったレイジス様が悪い」と頷いている。
すんっとしていた侍女さん達もどうやら同じようで。
「ああ、ご飯もちゃんと食べさせてあげるからね」
「みぎゃー!」
にっこりと楽しそうに微笑むフリードリヒに僕はただただ羞恥に耐えるしかないのだった。
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BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
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