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海編
おかしなリーシャ
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「えーっと、まずはー」
あれやこれに巻き込まれてお星さまを見た次の日。
僕は大人しく机に向かっていた。別に勉強をするつもりはないよ。だって明日から海に行くんだもん!
だからとりあえず、やりたいことを書き出していこうかなーって思い立ったのがついさっき。べ、別に興奮して眠れないとかじゃないんだからね!
なーんて言いながらこっそりと机に向かって『やりたいことリスト』を思い浮かべて書いていく。
まずはお刺身。これ絶対食べたい。生魚なんて殆ど…というか全然食べてないから滅茶苦茶食べたい。
それから、かつお節作り。これがなきゃお出汁作れない。それっぽい施設がないなら作ればいいじゃない。魔法あるし。ということでかつお節は最優先。
さらにいくらや数の子といった加工品。塩だけは豊富にあるから加工品は簡単にいけるはず。あとは醤油とかの調味料だね!
えーっと…あとはー? あ、あれだ! イカの塩から! たこわさ! ワサビは…なんとかしよう! うん!って言うか学園の側の…アンギーユさんのいた川でできないかなぁ…。一回学園長先生に聞いてみよう。
でもワサビはあるんだよ。不思議だよねぇ。週に一回くらい新しい食材がなぜか部屋にあるのは侍女さんがどこからか仕入れてるからかな? それとも他の国から仕入れてるのかな? この辺の不思議は恐らく解けそうにないけど僕にとってはただただありがたい。
こないだはラム酒が置いてあったし。日本酒も、ででどんと置いてあった時には「…飲めと?」と言っちゃって侍女さんが慌てて撤去する、という事態になった。その日本酒は今、みりんと少し分けて学園長先生にこっそりと渡している。学園長先生はお酒が好きみたいだし。それにモヒート。あれの材料も渡してある。足りなくなったらメトル君を使って伝言を貰ってる。
そう言えばあれからメトル君と学園長先生の夜のお弁当は続くみたい。夜のお弁当は変な意味じゃなくてそのままの意味だからね? メトル君がお弁当箱を取りに来るたびに侍女さんが戦闘態勢に入るけどやめたげて。あとはおやつとかも一緒に渡したりしてメトル君のご飯事情がこれで少し良くなるといいな…。
むふふと一人笑いながら、やりたいことリストを書いていく。うーん…あとは貝類だよねー。アヒージョとか食べたいし、エビフライとかのフライ類も食べたい。そうなるとタルタルソースも作らねばならんな。あれは魔のドレッシングだからいっぱい作らないと…。
そう言えば中濃ソースもすっかりとマスターした侍女さんがうきうきとお野菜を潰してたけどもう少し道具があると便利だよねー。僕たちは魔法でどっこいしょしてるけど。
それと氷魔法で作った冷蔵庫もどき。もう少し改造して安全に使えるようにしないと。
結構やることが多いなぁと思いながら羽ペンの羽根で顎の下をこちょこちょとくすぐる。ふはっ。
そういえばこの紙とペンにも慣れたなぁ。初めて使った時は大惨事になってたけど。この歳になるまで羊皮紙と羽ペンを使ったことがなかったからね。仕方ないといえば仕方ないんだけど。でも紙はどうにかしたいんだよねー。あっちの世界の紙は非常に優秀だったんだなー…。
そんなことを考えていたらコンコンと寝室のドアがノックされた。およ? こんな時間に誰だろう?
「はぁーい」
「あ、やっぱりレイジス様起きていらしたんですね!」
「ほわ?! リーシャ!」
ガチャッとドアを開けたのはリーシャだった。まだ寝ないつもりだったのか制服じゃないけどラフな格好をして、僕を半眼で見ている。うわわ…! そうだった! 明日の朝早いから早く寝てくださいってベッドに押し込められたんだった!
「あ、明日やることを書いておこうかなーなんて思ったり…?」
えへへーと笑ってみたけど、ずももという効果音が付きそうな黒い靄を纏ったリーシャに「あばばば」と震えれば、その靄がすうっと引いた。ほわ?
「そんなことだろうと思っておやつを準備してありますからリビングに行ってください」
「ふえ?」
はああああああ…とそれはそれは深いため息を吐くリーシャに首を傾げれば「おやつですよ。お・や・つ」と区切りながらそう言うと、ひょこっとフリードリヒが顔を出す。あれ? フリードリヒだ!
「レイジス。ちょっと遅いおやつにしよう?」
「え? でも明日…」
「眠れないんだろう? ならお腹いっぱい食べて寝ようか」
にっこりと笑ってそう言うフリードリヒに、僕は椅子を蹴り倒して立ち上がると「わーい!」とドアに駆け寄る。それに「ちょっと! レイジス様!」とリーシャに怒られるけど「リーシャも行こ!」と言えば「…椅子と机の上のものを片付けてから行きます」と言われてしまった。
ええー! それは後でいいよー! それよりおやつ食べよ?
「椅子を蹴り倒したのか。怪我はないかい?」
「ないです! 大丈夫です!」
「ちょっと殿下! 甘やかさないでください! 椅子は戻しておきますけど机の上の物は…」
「んー、机の上の物もそのままでいいよ!」
「よくない!」
リーシャの強い言葉にびくりと肩を跳ねさせると「リーシャ」とフリードリヒが声をかけるけど、確かにさっきのは僕が悪い。椅子そのままだもんね。
それにインクの蓋もそのままだろうし。
「ごめん。机の上片付ける」
「…分かっていただければ助かります」
「うん。ごめんね」
リーシャは甘やかしてもくれるけどこうしてきちんと叱ってもくれる。アルシュもノアもダメな時はきちんと叱ってくれるんだけど、圧倒的に叱る率が高いのはリーシャだ。
だからリーシャに言われるとやらなきゃ、ってなるから不思議なものだ。
「僕も手伝いますから。一緒にやった方が早く終わります」
「いいの?」
「…今日だけですよ」
「ありがとう! リーシャ!」
わきゃーっとリーシャに抱き付けば「…っく」となぜか悔しそうなフリードリヒ。それに肩を竦めるのがアルシュとノア。あ、全員いた。
「じゃあ、片付けてからまた来ます」
「なるべく早くお返ししますのでお待ちください」
「…分かった。片付けが終わったらおやつにしよう」
どこかしょんぼりとしているフリードリヒにぎゅうと抱き付いて「早めに戻りますからね?」と言えば「待っている」と額にキスを落とされる。ふわー!
フリードリヒとほんの少しばいばいをして、机に向かう僕とリーシャ。倒れた椅子はリーシャが戻して、その間に僕はインクの蓋をして散らばった紙を集めてうさぎ型のガラスの文鎮を乗せる。
「終わったよ」
「なら戻りましょうか」
「うん。ありがとね。リーシャ」
「いえ。所で何を書いていらしたんですか?」
「ん? 明日のやりたいことリスト」
「何ですかそれ」
ちょっぴり呆れたようなリーシャに「だってやりたいこといっぱいあるんだもん」と言えば「そんなにですか?」とちょっと引かれる。ええー? 海に行ったらおいしいものいっぱい食べれるしいっぱい加工したいんだよー!
「えっとね…これ」
「そんな渡されても…」
「これだけやりたいことがあるんだ! リーシャも手伝ってね!」
「手伝えることはもちろん手伝いますけど…」
「ありがと!」
『やりたいことリスト』をリーシャに押し付けてどれが食べたいか後で聞いておこう。僕的にはたこ焼き辺りがいいんじゃないかな?と思ってる。
「レイジス様のやりたいことリストねぇ…」
そう言ってしぶしぶリストを見るリーシャ。それにうふふと笑えば「終わりましたか?」とアルシュが顔をのぞかせる。
「うん! リーシャにも手伝ってもらったから!」
「それはよろしゅうございましたね。リーシャ?」
「え?」
「どうかしたか?」
「あ、ううん。何でもない」
「リーシャには僕のやりたいことリスト渡してあるから何が食べたいか考えてるんだよ」
「…僕まで食いしん坊キャラにしないでくださいよ」
ムッとしたリーシャに「おやつ食べにいこ?」と笑えば何やら難しい顔をしてリストを読んでいる。いっぱいあるからねー! 迷っちゃうね!
「…リストを読んでから行く」
「そう? じゃあ待ってるね!」
「はい」
リーシャの返事に頷くと僕はほくほくとしながら寝室を出る。アルシュがドアを閉めようとしたけどリーシャがリスト読んでるから開けておいて、とお願いしておく。それにアルシュが頷くと、ドアを開けたまま寝室から離れ僕はおやつが用意されたテーブルに「ほわぁ!」と声を出すのだった。
■■■
「なに…これ」
レイジス様から押し付けられた『やりたいことリスト』それを見た瞬間、よく声を出さなかったと自分で自分を誉めてあげたいと思った。
そこに書かれているのはきっとレイジス様がやりたいことだろう。だけど。
「見たこともない文字…」
そう。そこに書かれていたのは僕が読めるような文字ではなくて、なんて書いてあるのかさっぱりわからない。
でもレイジス様は『何が食べたいか考えている』と言っていた。ならばここに書かれているのは何かのレシピ? でも…。
「分かんない」
レイジス様は『先祖返り』しているとフリードリヒ殿下に教えられたけどまさかそれの影響?
全く読めないそれに眉を寄せていると「リーシャ?」とノアが入ってきた。それに思わずリストを後ろ手に隠すと「なに?」と返す。
「何かあった?」
「…何でもない」
「レイジス様が心配されているよ」
「…分かった。すぐ行く」
ドアが開いていたけど暗い所にいてよかったとほっとする。たぶん、今の顔は見せられるようなものじゃないから。それに、ノアやアルシュには『何かがあった』なんてすぐにばれる。
その証拠にノアの瞳が細くなっている。でもまだこれは言えない。
「…リーシャ」
「何?」
「…言いたくなったら言ってくれ」
「…分かった」
それだけ言って引っ込むノア。それに後ろ手に隠した紙をぐしゃりと握りつぶすと僕は唇を噛んだ。
■■■
「ウェミだー!」
某キャラのように叫んでやっほー!と両腕を突きあげれば「すごいな」と後ろからフリードリヒの声がする。
ようやくやって来た港町。本当は馬車を飛ばして3日くらいかかる所を僕らはワイバーンで半日足らずでやって来た。なんてことはない。フリードリヒのお父さんが用意してくれたんだ!
「フリードリヒとレイジスがいたら護衛が大変だから、ワイバーンで行ってきなさい」
とのこと。ワイバーン便に便乗して連れてきてもらったんだ! 一週間ぶりのシンリックさんもグルキテスさんもモドロンさんも皆元気そう! 新しく増えた隊員さん達も初めまして。
僕が贈ったガラスがみんなの胸に誇らしそうに揺れてるのを見ると嬉しくなるね! そんなワイバーン隊の皆さんによって荷物も宿泊先のホテルに近い建物に運んでもらった。
本当は領主さんのお屋敷に泊まるのが普通なんだけど、僕がいつ体調を崩してもいいようにってフリードリヒのお父さんがお医者さんを隣に常駐させてくれることになったんだ。ありがとうございますー!
それにちょっとずつだけど暑くなってきてるから体調を崩しやすくなってる。今までは爽やかで過ごしやすかったけど、水の月の終わりあたりからじわじわと気温が上がってきた。
熱風の月。7月に入ったんだ!
こっちの夏は暑いのかな? あっちの世界じゃ40度とかあったけど。まぁ…クーラーがないと普通に耐えられない気温だよねー…。
当然こっちはクーラーなんてものはない。皆どうやって真夏を過ごしてるんだろう? ちょっと気になる。
「でも本当にいいんですか?」
「あちらにも話がいっているから大丈夫だよ」
潮の匂いが強い風を肺いっぱいに吸い込んで振り向けば、フリードリヒが笑う。
ううーん…ならいいんですけど。
ちなみに今の僕の格好は王都でもお世話になった平民風の服。でも僕は長袖。日焼けとかあるから半袖はダメって侍女さんに言われちゃった。
今回は3人の侍女さんが一緒。ジョセフィーヌは今回もお留守番。というより一週間休暇を出してる。前回の王都の時は2、3日で戻るつもりだったから休暇は出してなかったんだ。でも今回は一週間。まるっと休暇。だから僕たちも一週間は海にいられる。わほーい!
付いてきてもらった侍女さんは学園に戻ったら一週間の休暇が出るからね! そんな訳で、僕たちが泊まる階は貸し切り! ものすごーくお高そうな部屋を用意してもらったけどあんまりいないと思うから勿体ない。寝るだけなら普通の部屋でもよかったのに。なんて顔をしていたら「ダメですよ。王族と侯爵にそんな部屋を提供したら領主の首が身体とさよならしちゃいますからね」とノアが笑っていたけど笑い事じゃないよね。
とにもかくにもお医者さんには快適にくつろいでもらうために制限は一切なし。ただ部屋にいてもらうだけ。結構きついと思うんだけどそれが条件なんだって。
僕なら2日くらいで飽きるけどね!
さてさて。そんなこんなでお魚さん料理を食べたいんだけど実を言うとフリードリヒが入らせてくれない。
僕らだけでうろうろするのも本当はよろしくないんだけどね。でもお魚料理が食べたい!
「お魚さんが売ってるお店があればいいんだけど…」
「それならもう少し街に近付かなければだめだろうな」
まぁそうだろうね。ここは貿易船の波止場だからね。
船で運ばれてきた荷物をみんなが忙しなく降ろしては運んでいく。それを見ながら固まってる僕らはだいぶ目立つ。
「そう言えばなんだかここは不思議な場所だね」
「不思議?」
「はい。えと…なんていうか…北から水の気配がして東には土の気配。ここからは強い火の気配がします」
「そうなのか?」
「はい」
そう。ここに来てから感じていた不思議な感覚。水と土と火の気配。それが集まっている感じ? でも今いるところは火がちょっと強い。
「私は何も感じませんが…リーシャは?」
「え?」
「リーシャ、話聞いてた?」
「あ、すみません。ちょっと考え事してて。で? 何ですか?」
「珍しいね。リーシャがぼーっとするなんて」
僕の言葉に「そうですね」と言ってからちらっと視線を向ける。
「レイジス様のが移ったかもしれませんね」
「僕そんなにぼーっとしてないもん!」
「あれれ? そうでしたっけ?」
にひひと笑うリーシャにむー!と頬を膨らませると「いい加減にしないか」とフリードリヒが肩を竦める。あわわ。そうだった。ここ外だった。
じろじろと好奇の目が集まっている事にどうしようと思っていると「まずは移動だな」とフリードリヒが言う。それに従ってノアの手を握って移動を開始。港はリーシャも来たことがないから皆でふらふらぞろぞろと移動。
でもちゃんと領主さんからどこに何があるのかっていう地図を貰ったからそれをアルシュが見てる。僕は背が低いから何も見えない。けどノアがちゃんと引っ張ってくれるから安心なのだ。えへん。
今回もちゃんとうさうさバッグを斜め掛けしてる。これは肌身離さず持ってなきゃいけないからね。
「ね。リーシャ」
「なんですか?」
「昨日見せたリストどうだった?」
そうそう。昨日見せたリストの中で食べたいものとか気になるものとかあると思うんだけど。
でもなんでかリーシャの瞳が逸らされて「そうですね」ってからかうこともなく何か考えてる。それは言っていいのか考えてるみたいで。
「リスト?」
「はい! 昨日『やりたいことリスト』を書いてリーシャに見せたんです!」
「ほう? それで? どうだった?」
「………………」
「リーシャ?」
フリードリヒの言葉にも何か言いかねているようなそんなリーシャに首を傾げると、真っ直ぐフリードリヒを見た。
「字が汚くてよく分りませんでした」
「酷い!」
「だいたい殴り書きすぎるんですよ! あんなの読めませんって!」
「うっ!」
痛い所を突かれて言葉に詰まれば「…なら今日はお魚を買ったら戻ろうか」ってフリードリヒに言われちゃった。うわああああん! 確かに昨日のは殴り書きしてたけど! 酷いー!
えぐえぐとノアに抱き付いて慰めてもらっていると「ほら! ノアじゃなくて私のところにおいで!」ってフリードリヒに言われる。でも道端なんで恥ずかしいですからノアがいい!
ぎゅうとノアにさらに抱き付くと、しょんぼりと肩を落とすフリードリヒにアルシュが肩をぽんと叩いてる。お部屋! お部屋だったらいいけど!
「そういえば先生たちは遅れてくるんでしたっけ?」
「領主のところにいるからな。明日の朝には解放されるだろう」
「なら本格的に動くのは明日からですね」
頭の上で交される会話を聞きながらちらっとリーシャを見れば、一人何かを考え込んでる様子。珍しい、とは口に出さずにノアを見ればにっこりと微笑んでいて。
「とりあえずはこの市場、とやらに行ってみましょうか」
「はーい!」
市場に行けばお魚さんがたくさんあるといいなぁ。そんなわくわくと、どこか様子がおかしいリーシャを気にかけながら僕は潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。
あれやこれに巻き込まれてお星さまを見た次の日。
僕は大人しく机に向かっていた。別に勉強をするつもりはないよ。だって明日から海に行くんだもん!
だからとりあえず、やりたいことを書き出していこうかなーって思い立ったのがついさっき。べ、別に興奮して眠れないとかじゃないんだからね!
なーんて言いながらこっそりと机に向かって『やりたいことリスト』を思い浮かべて書いていく。
まずはお刺身。これ絶対食べたい。生魚なんて殆ど…というか全然食べてないから滅茶苦茶食べたい。
それから、かつお節作り。これがなきゃお出汁作れない。それっぽい施設がないなら作ればいいじゃない。魔法あるし。ということでかつお節は最優先。
さらにいくらや数の子といった加工品。塩だけは豊富にあるから加工品は簡単にいけるはず。あとは醤油とかの調味料だね!
えーっと…あとはー? あ、あれだ! イカの塩から! たこわさ! ワサビは…なんとかしよう! うん!って言うか学園の側の…アンギーユさんのいた川でできないかなぁ…。一回学園長先生に聞いてみよう。
でもワサビはあるんだよ。不思議だよねぇ。週に一回くらい新しい食材がなぜか部屋にあるのは侍女さんがどこからか仕入れてるからかな? それとも他の国から仕入れてるのかな? この辺の不思議は恐らく解けそうにないけど僕にとってはただただありがたい。
こないだはラム酒が置いてあったし。日本酒も、ででどんと置いてあった時には「…飲めと?」と言っちゃって侍女さんが慌てて撤去する、という事態になった。その日本酒は今、みりんと少し分けて学園長先生にこっそりと渡している。学園長先生はお酒が好きみたいだし。それにモヒート。あれの材料も渡してある。足りなくなったらメトル君を使って伝言を貰ってる。
そう言えばあれからメトル君と学園長先生の夜のお弁当は続くみたい。夜のお弁当は変な意味じゃなくてそのままの意味だからね? メトル君がお弁当箱を取りに来るたびに侍女さんが戦闘態勢に入るけどやめたげて。あとはおやつとかも一緒に渡したりしてメトル君のご飯事情がこれで少し良くなるといいな…。
むふふと一人笑いながら、やりたいことリストを書いていく。うーん…あとは貝類だよねー。アヒージョとか食べたいし、エビフライとかのフライ類も食べたい。そうなるとタルタルソースも作らねばならんな。あれは魔のドレッシングだからいっぱい作らないと…。
そう言えば中濃ソースもすっかりとマスターした侍女さんがうきうきとお野菜を潰してたけどもう少し道具があると便利だよねー。僕たちは魔法でどっこいしょしてるけど。
それと氷魔法で作った冷蔵庫もどき。もう少し改造して安全に使えるようにしないと。
結構やることが多いなぁと思いながら羽ペンの羽根で顎の下をこちょこちょとくすぐる。ふはっ。
そういえばこの紙とペンにも慣れたなぁ。初めて使った時は大惨事になってたけど。この歳になるまで羊皮紙と羽ペンを使ったことがなかったからね。仕方ないといえば仕方ないんだけど。でも紙はどうにかしたいんだよねー。あっちの世界の紙は非常に優秀だったんだなー…。
そんなことを考えていたらコンコンと寝室のドアがノックされた。およ? こんな時間に誰だろう?
「はぁーい」
「あ、やっぱりレイジス様起きていらしたんですね!」
「ほわ?! リーシャ!」
ガチャッとドアを開けたのはリーシャだった。まだ寝ないつもりだったのか制服じゃないけどラフな格好をして、僕を半眼で見ている。うわわ…! そうだった! 明日の朝早いから早く寝てくださいってベッドに押し込められたんだった!
「あ、明日やることを書いておこうかなーなんて思ったり…?」
えへへーと笑ってみたけど、ずももという効果音が付きそうな黒い靄を纏ったリーシャに「あばばば」と震えれば、その靄がすうっと引いた。ほわ?
「そんなことだろうと思っておやつを準備してありますからリビングに行ってください」
「ふえ?」
はああああああ…とそれはそれは深いため息を吐くリーシャに首を傾げれば「おやつですよ。お・や・つ」と区切りながらそう言うと、ひょこっとフリードリヒが顔を出す。あれ? フリードリヒだ!
「レイジス。ちょっと遅いおやつにしよう?」
「え? でも明日…」
「眠れないんだろう? ならお腹いっぱい食べて寝ようか」
にっこりと笑ってそう言うフリードリヒに、僕は椅子を蹴り倒して立ち上がると「わーい!」とドアに駆け寄る。それに「ちょっと! レイジス様!」とリーシャに怒られるけど「リーシャも行こ!」と言えば「…椅子と机の上のものを片付けてから行きます」と言われてしまった。
ええー! それは後でいいよー! それよりおやつ食べよ?
「椅子を蹴り倒したのか。怪我はないかい?」
「ないです! 大丈夫です!」
「ちょっと殿下! 甘やかさないでください! 椅子は戻しておきますけど机の上の物は…」
「んー、机の上の物もそのままでいいよ!」
「よくない!」
リーシャの強い言葉にびくりと肩を跳ねさせると「リーシャ」とフリードリヒが声をかけるけど、確かにさっきのは僕が悪い。椅子そのままだもんね。
それにインクの蓋もそのままだろうし。
「ごめん。机の上片付ける」
「…分かっていただければ助かります」
「うん。ごめんね」
リーシャは甘やかしてもくれるけどこうしてきちんと叱ってもくれる。アルシュもノアもダメな時はきちんと叱ってくれるんだけど、圧倒的に叱る率が高いのはリーシャだ。
だからリーシャに言われるとやらなきゃ、ってなるから不思議なものだ。
「僕も手伝いますから。一緒にやった方が早く終わります」
「いいの?」
「…今日だけですよ」
「ありがとう! リーシャ!」
わきゃーっとリーシャに抱き付けば「…っく」となぜか悔しそうなフリードリヒ。それに肩を竦めるのがアルシュとノア。あ、全員いた。
「じゃあ、片付けてからまた来ます」
「なるべく早くお返ししますのでお待ちください」
「…分かった。片付けが終わったらおやつにしよう」
どこかしょんぼりとしているフリードリヒにぎゅうと抱き付いて「早めに戻りますからね?」と言えば「待っている」と額にキスを落とされる。ふわー!
フリードリヒとほんの少しばいばいをして、机に向かう僕とリーシャ。倒れた椅子はリーシャが戻して、その間に僕はインクの蓋をして散らばった紙を集めてうさぎ型のガラスの文鎮を乗せる。
「終わったよ」
「なら戻りましょうか」
「うん。ありがとね。リーシャ」
「いえ。所で何を書いていらしたんですか?」
「ん? 明日のやりたいことリスト」
「何ですかそれ」
ちょっぴり呆れたようなリーシャに「だってやりたいこといっぱいあるんだもん」と言えば「そんなにですか?」とちょっと引かれる。ええー? 海に行ったらおいしいものいっぱい食べれるしいっぱい加工したいんだよー!
「えっとね…これ」
「そんな渡されても…」
「これだけやりたいことがあるんだ! リーシャも手伝ってね!」
「手伝えることはもちろん手伝いますけど…」
「ありがと!」
『やりたいことリスト』をリーシャに押し付けてどれが食べたいか後で聞いておこう。僕的にはたこ焼き辺りがいいんじゃないかな?と思ってる。
「レイジス様のやりたいことリストねぇ…」
そう言ってしぶしぶリストを見るリーシャ。それにうふふと笑えば「終わりましたか?」とアルシュが顔をのぞかせる。
「うん! リーシャにも手伝ってもらったから!」
「それはよろしゅうございましたね。リーシャ?」
「え?」
「どうかしたか?」
「あ、ううん。何でもない」
「リーシャには僕のやりたいことリスト渡してあるから何が食べたいか考えてるんだよ」
「…僕まで食いしん坊キャラにしないでくださいよ」
ムッとしたリーシャに「おやつ食べにいこ?」と笑えば何やら難しい顔をしてリストを読んでいる。いっぱいあるからねー! 迷っちゃうね!
「…リストを読んでから行く」
「そう? じゃあ待ってるね!」
「はい」
リーシャの返事に頷くと僕はほくほくとしながら寝室を出る。アルシュがドアを閉めようとしたけどリーシャがリスト読んでるから開けておいて、とお願いしておく。それにアルシュが頷くと、ドアを開けたまま寝室から離れ僕はおやつが用意されたテーブルに「ほわぁ!」と声を出すのだった。
■■■
「なに…これ」
レイジス様から押し付けられた『やりたいことリスト』それを見た瞬間、よく声を出さなかったと自分で自分を誉めてあげたいと思った。
そこに書かれているのはきっとレイジス様がやりたいことだろう。だけど。
「見たこともない文字…」
そう。そこに書かれていたのは僕が読めるような文字ではなくて、なんて書いてあるのかさっぱりわからない。
でもレイジス様は『何が食べたいか考えている』と言っていた。ならばここに書かれているのは何かのレシピ? でも…。
「分かんない」
レイジス様は『先祖返り』しているとフリードリヒ殿下に教えられたけどまさかそれの影響?
全く読めないそれに眉を寄せていると「リーシャ?」とノアが入ってきた。それに思わずリストを後ろ手に隠すと「なに?」と返す。
「何かあった?」
「…何でもない」
「レイジス様が心配されているよ」
「…分かった。すぐ行く」
ドアが開いていたけど暗い所にいてよかったとほっとする。たぶん、今の顔は見せられるようなものじゃないから。それに、ノアやアルシュには『何かがあった』なんてすぐにばれる。
その証拠にノアの瞳が細くなっている。でもまだこれは言えない。
「…リーシャ」
「何?」
「…言いたくなったら言ってくれ」
「…分かった」
それだけ言って引っ込むノア。それに後ろ手に隠した紙をぐしゃりと握りつぶすと僕は唇を噛んだ。
■■■
「ウェミだー!」
某キャラのように叫んでやっほー!と両腕を突きあげれば「すごいな」と後ろからフリードリヒの声がする。
ようやくやって来た港町。本当は馬車を飛ばして3日くらいかかる所を僕らはワイバーンで半日足らずでやって来た。なんてことはない。フリードリヒのお父さんが用意してくれたんだ!
「フリードリヒとレイジスがいたら護衛が大変だから、ワイバーンで行ってきなさい」
とのこと。ワイバーン便に便乗して連れてきてもらったんだ! 一週間ぶりのシンリックさんもグルキテスさんもモドロンさんも皆元気そう! 新しく増えた隊員さん達も初めまして。
僕が贈ったガラスがみんなの胸に誇らしそうに揺れてるのを見ると嬉しくなるね! そんなワイバーン隊の皆さんによって荷物も宿泊先のホテルに近い建物に運んでもらった。
本当は領主さんのお屋敷に泊まるのが普通なんだけど、僕がいつ体調を崩してもいいようにってフリードリヒのお父さんがお医者さんを隣に常駐させてくれることになったんだ。ありがとうございますー!
それにちょっとずつだけど暑くなってきてるから体調を崩しやすくなってる。今までは爽やかで過ごしやすかったけど、水の月の終わりあたりからじわじわと気温が上がってきた。
熱風の月。7月に入ったんだ!
こっちの夏は暑いのかな? あっちの世界じゃ40度とかあったけど。まぁ…クーラーがないと普通に耐えられない気温だよねー…。
当然こっちはクーラーなんてものはない。皆どうやって真夏を過ごしてるんだろう? ちょっと気になる。
「でも本当にいいんですか?」
「あちらにも話がいっているから大丈夫だよ」
潮の匂いが強い風を肺いっぱいに吸い込んで振り向けば、フリードリヒが笑う。
ううーん…ならいいんですけど。
ちなみに今の僕の格好は王都でもお世話になった平民風の服。でも僕は長袖。日焼けとかあるから半袖はダメって侍女さんに言われちゃった。
今回は3人の侍女さんが一緒。ジョセフィーヌは今回もお留守番。というより一週間休暇を出してる。前回の王都の時は2、3日で戻るつもりだったから休暇は出してなかったんだ。でも今回は一週間。まるっと休暇。だから僕たちも一週間は海にいられる。わほーい!
付いてきてもらった侍女さんは学園に戻ったら一週間の休暇が出るからね! そんな訳で、僕たちが泊まる階は貸し切り! ものすごーくお高そうな部屋を用意してもらったけどあんまりいないと思うから勿体ない。寝るだけなら普通の部屋でもよかったのに。なんて顔をしていたら「ダメですよ。王族と侯爵にそんな部屋を提供したら領主の首が身体とさよならしちゃいますからね」とノアが笑っていたけど笑い事じゃないよね。
とにもかくにもお医者さんには快適にくつろいでもらうために制限は一切なし。ただ部屋にいてもらうだけ。結構きついと思うんだけどそれが条件なんだって。
僕なら2日くらいで飽きるけどね!
さてさて。そんなこんなでお魚さん料理を食べたいんだけど実を言うとフリードリヒが入らせてくれない。
僕らだけでうろうろするのも本当はよろしくないんだけどね。でもお魚料理が食べたい!
「お魚さんが売ってるお店があればいいんだけど…」
「それならもう少し街に近付かなければだめだろうな」
まぁそうだろうね。ここは貿易船の波止場だからね。
船で運ばれてきた荷物をみんなが忙しなく降ろしては運んでいく。それを見ながら固まってる僕らはだいぶ目立つ。
「そう言えばなんだかここは不思議な場所だね」
「不思議?」
「はい。えと…なんていうか…北から水の気配がして東には土の気配。ここからは強い火の気配がします」
「そうなのか?」
「はい」
そう。ここに来てから感じていた不思議な感覚。水と土と火の気配。それが集まっている感じ? でも今いるところは火がちょっと強い。
「私は何も感じませんが…リーシャは?」
「え?」
「リーシャ、話聞いてた?」
「あ、すみません。ちょっと考え事してて。で? 何ですか?」
「珍しいね。リーシャがぼーっとするなんて」
僕の言葉に「そうですね」と言ってからちらっと視線を向ける。
「レイジス様のが移ったかもしれませんね」
「僕そんなにぼーっとしてないもん!」
「あれれ? そうでしたっけ?」
にひひと笑うリーシャにむー!と頬を膨らませると「いい加減にしないか」とフリードリヒが肩を竦める。あわわ。そうだった。ここ外だった。
じろじろと好奇の目が集まっている事にどうしようと思っていると「まずは移動だな」とフリードリヒが言う。それに従ってノアの手を握って移動を開始。港はリーシャも来たことがないから皆でふらふらぞろぞろと移動。
でもちゃんと領主さんからどこに何があるのかっていう地図を貰ったからそれをアルシュが見てる。僕は背が低いから何も見えない。けどノアがちゃんと引っ張ってくれるから安心なのだ。えへん。
今回もちゃんとうさうさバッグを斜め掛けしてる。これは肌身離さず持ってなきゃいけないからね。
「ね。リーシャ」
「なんですか?」
「昨日見せたリストどうだった?」
そうそう。昨日見せたリストの中で食べたいものとか気になるものとかあると思うんだけど。
でもなんでかリーシャの瞳が逸らされて「そうですね」ってからかうこともなく何か考えてる。それは言っていいのか考えてるみたいで。
「リスト?」
「はい! 昨日『やりたいことリスト』を書いてリーシャに見せたんです!」
「ほう? それで? どうだった?」
「………………」
「リーシャ?」
フリードリヒの言葉にも何か言いかねているようなそんなリーシャに首を傾げると、真っ直ぐフリードリヒを見た。
「字が汚くてよく分りませんでした」
「酷い!」
「だいたい殴り書きすぎるんですよ! あんなの読めませんって!」
「うっ!」
痛い所を突かれて言葉に詰まれば「…なら今日はお魚を買ったら戻ろうか」ってフリードリヒに言われちゃった。うわああああん! 確かに昨日のは殴り書きしてたけど! 酷いー!
えぐえぐとノアに抱き付いて慰めてもらっていると「ほら! ノアじゃなくて私のところにおいで!」ってフリードリヒに言われる。でも道端なんで恥ずかしいですからノアがいい!
ぎゅうとノアにさらに抱き付くと、しょんぼりと肩を落とすフリードリヒにアルシュが肩をぽんと叩いてる。お部屋! お部屋だったらいいけど!
「そういえば先生たちは遅れてくるんでしたっけ?」
「領主のところにいるからな。明日の朝には解放されるだろう」
「なら本格的に動くのは明日からですね」
頭の上で交される会話を聞きながらちらっとリーシャを見れば、一人何かを考え込んでる様子。珍しい、とは口に出さずにノアを見ればにっこりと微笑んでいて。
「とりあえずはこの市場、とやらに行ってみましょうか」
「はーい!」
市場に行けばお魚さんがたくさんあるといいなぁ。そんなわくわくと、どこか様子がおかしいリーシャを気にかけながら僕は潮風を胸いっぱいに吸い込んだ。
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